分身ハメ殺し忍者『うちはイタチ』   作:やめろイタチ、その技は俺に効く

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出産祝いに訪れた三代目が、庭で布を干すイタチ、台所へ薬草を運ぶイタチ、サスケの布を畳むイタチ、修行場で逆立ちするイタチ、工房で錠剤を丸めるイタチ、そして本体のイタチを見て愕然としたこともあった。

 

 

 

 俺はうちはイタチ!五歳!そして兄になった!

 

 そう、遂にサスケが産まれたのである。人生初めての弟だ。前世でも勿論、弟なんていなかった。一人っ子だった。兄弟喧嘩も、弟の面倒を見る苦労も、兄として尊敬される快感も知らないまま三十路まで生き、帰り道に車にドカンされ、気づけばうちはイタチである。人生とは分からんもんだな。いや、忍生か。

 

 産まれたてのサスケを見た瞬間、俺の脳内に電撃が走った。バチッとチチチーッ!まるで千鳥をぶち込まれたみたいにな!それぐらい衝撃だった。小さな顔を真っ赤にして泣き、頼りない手足をムニョムニョ動かしている。3800gのビッグベイビーで、母子共に超健康。健康、素晴らしい。俺がこの世界で最も大事にしている言葉のひとつだ。弟が健康に産まれた。もうそれだけで兄は泣く。泣いた。ごめんなサスケェ!外面クールなうちはイタチの中身は、涙腺ガバガバ三十路サラリーマンなんだ!

 

 小さいおてて、あんよ、新生児特有の匂い。サスケを初めて抱っこした時の感触は今でも忘れられないぜ。腕に乗った重みは軽いはずなのに、命の重さだけが妙にずしりと来た。前世では家族を持った事はなかったからなぁ……嬉しくて万華鏡写輪眼を開眼しそうだった。いや、もしかしたらしてるかも。兄バカ万華鏡。能力は弟の可愛さで精神を焼く。たぶん燃費が悪い。でも常時発動だ。

 

 そんなこんなで、これから父ちゃんと病院に行こうと思います。母ちゃんとサスケに面会だ!

 

 ちなみに、まだサスケとは名付けられてない。今日、母ちゃんが決めると昨日言ってた。もしサスケじゃなかったらどうしよう。いや、名前が違っても俺の弟であることに変わりはない。けれど原作知識的にはかなり大きな分岐だ。サスケじゃない弟。何だそれ。まぁそん時はそん時だな!

 

 父ちゃんと並んで歩く病院までの道は、いつもより少しだけ明るく見えた。父ちゃんは無口だ。いつもの凶眼フガクで、表情だけ見れば任務前のように厳しい。だが俺には分かる。歩幅が少し速い。赤ん坊に会いたい父である。可愛いな父ちゃん。口に出したら多分、無言で睨まれるから言わないけど。

 

 そうして病院に着き、受付で面会の話をし終え、部屋に向かおうとした時——後ろから声をかけられた。

 

「イタチ君?」

 

「見間違いじゃなかったか……」

 

 えっ誰だろう?と思い振り返ると。

 

 カカシとリンでした。

 

 あ、そういやオビトもここに転院しているんだっけ……というか、霧隠れの暗部と戦ったぶりに会う感じかも。寝ているオビトは前に見た。あの白い組織が癒着した身体も、治療室の重い空気も覚えている。けれどカカシとリンと正面から顔を合わせるのは、あの爆発の後では初めてだ。

 

「生きてたのか」

 

 はい?生きてた?ん?なんで?

 

 カカシは片目を隠したまま、俺をじっと見ていた。声は低いが、驚きと安堵が混ざっている。リンは口元を押さえ、今にも泣きそうな顔をしていた。

 

「良かった……あの爆発だったから」

 

 爆発?あぁ〜分身大爆破のこと?あれは影分身がやった事……って、待て。もしかして二人は、あの時の俺が影分身だった事を知らない?嘘だろ?三代目と父ちゃんと母ちゃんには全部バレて、火影邸でしこたま怒られたぞ。謹慎まで食らったぞ。分身無断使用、里外行動、兵糧錠剤の戦闘使用、分身大爆破、全部セットで怒られ済みだぞ。なのに現場にいた二人には伝わってないのか?木ノ葉の情報共有、妙なところで堅いのか緩いのか分からん。

 

「イタチ?」

 

 父ちゃんが俺と二人を交互に見ながら言った。

 

 父ちゃんは驚いていない。あの件は既に知っている。今の声には、余計なことを口走るな、相手に失礼のないよう説明しろ、そして後で話を聞くぞ、という複数の圧が含まれていた。父親の一言、情報量が多い。

 

「あの爆発を起こしたのは影分身です」

 

 俺は静かに言った。

 

「影分身……?」

 

 リンが瞬きをする。

 

「はい。本体は里にいました。心配をおかけして、申し訳ありません」

 

 頭を下げる。これは本当に申し訳ない。俺からすれば影分身が消えただけでも、あの場にいた二人からすれば、子供が目の前で爆発して死んだように見えたのだ。影分身だから大丈夫でした、なんて軽く済ませられる話じゃない。あの記憶は二人の中で本物なのだから。

 

「ん?なんか喋り方が」

 

 おいカカシやめろ。妙な事に気づくな。

 

 何故か影分身は俺の内面が濃いんだよ!不思議な事にな!里外で動いていた影分身一号は、たぶん今よりかなり雑でフランクだった。前世三十路のアホ?成分が濃縮されていたのだ。今ここにいる俺は、うちはイタチ外面モードである。そこを掘られると困る。非常に困る。

 

「気のせいです」

 

「いや、あの時はもっと——」

 

「気のせいです」

 

 少しだけ圧を込めた。

 

 カカシはなおも疑わしげだったが、リンが小さく笑ったことで空気が少し緩んだ。

 

「でも、本当に良かった。オビトも目を覚ましたの。まだリハビリ中だけど、相変わらずうるさいくらい元気よ」

 

「そうですか。安心しました」

 

 その言葉だけは、自然に出た。

 

 オビトが生きている。カカシもリンも生きている。俺の知る未来はもう形を変え始めている。だからこそ怖い。でも、今この瞬間だけは、サスケに会いに来た兄として、少しだけ素直に喜んでもいい気がした。

 

「じゃ、イタチ君またね。カカシ!行くよ!」

 

 リンがそう言って、まだ何か言いたげなカカシの手を引いて去っていった。カカシ……最後まで俺を見て怪しんでたな。あの片目、妙に鋭い。やめろ。俺の本体と影分身の喋り方の違いに気づくな。最後は無惨にもリンに連れて行かれたけど、去り際まで視線だけはこっちに残していた。将来の天才上忍、五歳児相手に観察眼を発揮しないでほしい。

 

「はたけカカシとのはらリンか。オビトと組んでいる二人だな」

 

 父ちゃんが腕を組み、去っていく二人の背を見据えながら言った。

 

「そうです。あの……父さん、分身大爆破の件は——」

 

「いい。その件はもう終わったことだ。今日はミコトの名付け、そうだろ?」

 

「はい!」

 

 俺は背筋を伸ばして返事をした。父ちゃんの声は短く、いつものように硬かったが、今日はそれ以上を掘り返さないという意思があった。ありがたい。病院の廊下で説教再上映は困る。今日は母ちゃんと赤ん坊に会いに来たのだ。兄としての初仕事、弟の正式な名前を聞く重要任務である。任務名、弟命名立会。難度は精神的にSランク。泣くな俺。まだ早い。

 

 そうして俺と父ちゃんは部屋に向かった。

 

 病院の廊下は、薬草と清潔な布の匂いがした。戦場の鉄臭さでも、修行場の土埃でもない。静かな足音、遠くで聞こえる赤子の泣き声、看護忍が小声で交わす会話。その全部が、ここでは命が生まれ、守られているのだと教えてくる。俺は無意識に歩幅を小さくした。父ちゃんも、扉の前でほんの少しだけ足を止めた。凶眼フガク、緊張している。二人目でもやっぱり緊張するんだな。可愛い。口には絶対出さないけど。

 

 スライド扉を開けて中に入ると、サスケを抱く母ちゃんがベッドにいた。

 

 サスケェ!兄ちゃんが来たぞぉ!

 

 内心では両手を突き上げて叫んだ。だが現実の俺は静かに部屋へ入り、母ちゃんの顔色と腕の中の赤ん坊を確認する。外面クールイタチ、今日も勤務中である。中身はすでに弟の可愛さで祭り状態だけどな。

 

「ミコト、変わりないか?」

 

「ええ、あなた。この子もよく乳を飲みます。ふふ……イタチそっくり」

 

 母ちゃんは柔らかく笑った。出産の疲れはまだ残っているはずなのに、その顔は穏やかで、俺の胸がじんわり温かくなる。父ちゃんは母ちゃんの顔を見て、次に赤ん坊を見て、最後に俺を見た。比較するな父ちゃん。いや、似ているなら嬉しい。弟が俺に似ている?つまり可愛い。結論、サスケは可愛い。

 

「可愛いです」

 

 俺はサスケの顔を覗きながら言った。

 

 小さな鼻、閉じた瞼、丸い頬。眠っているだけなのに、なんでこんなに尊いんだ。手は布の中に隠れているが、少しだけ指が見える。細い。小さい。これが将来、手裏剣を握ったり、印を結んだり、千鳥をぶっ放したりすんのか。いや、今はそんなこと考えなくていい。今は寝ろ。飲め。育て。兄ちゃんはもうそれだけで満足です。

 

「名は決まったか?」

 

 父ちゃんが椅子に座って言った。

 

 母ちゃんは腕の中の赤ん坊を優しく抱き直した。その動きひとつひとつが丁寧で、見ているこっちまで息を潜めてしまう。

 

「この子はサスケ……うちはサスケ」

 

 決まった。

 

 サスケだ。

 

 俺の弟は、うちはサスケになった。

 

「三代目様のお父上、猿飛サスケ様からいただいたの。とても強くて、立派な忍だったそうよ」

 

 猿飛サスケ。

 

 前世でも、その名前は聞いたことがある。NARUTOという作品だけでなく、色々な物語に出てくる忍者の名前だ。甲賀忍者の猿飛佐助が有名だったはずだが、この世界では三代目火影の父親として実在している。木ノ葉創設期から活躍し、強く、人望があり、猿飛一族だけでなく、多くの忍から慕われた人物だったらしい。

 

 それを、うちは一族に生まれた男児へ名付けた。

 

 俺はサスケの寝顔を見ながら、胸の奥に小さな火が灯るのを感じた。うちはと木ノ葉の関係は、俺のガバガバ原作知識では悪くなっていくはずだった。不信感、疎外感、疑心、孤立、そして最悪の未来。けれど今、母ちゃんは三代目の父の名を弟に授けた。そこには敵意も拒絶もない。尊敬がある。繋がろうとする思いがある。なら、まだ変えられるんじゃないか。俺が知る悲しい未来は、絶対ではないんじゃないか。

 

「そうか、サスケか……いい名だ」

 

 父ちゃんは短く言った。

 

 その声は低く硬かったが、いつもより少しだけ柔らかかった。父ちゃんにとっても、その名は軽くないはずだ。うちはの子に猿飛の名をいただく。それは、家の中だけで完結する話ではない。里との繋がり、一族の立ち位置、父ちゃん自身の覚悟。たぶん、そういうものが全部混ざっている。

 

「……サスケ」

 

 俺も小さく呟いた。

 

 母ちゃんがこちらを見て微笑む。

 

「イタチ、お兄ちゃんね」

 

「はい」

 

 その一言で、喉の奥が詰まった。

 

 兄。俺はサスケの兄になった。復讐の相手ではなく、憎しみの理由でもなく、ただ弟の隣にいる兄になりたい。飯を食わせ、鍛えすぎないよう見張り、泣いたら抱き、笑ったら一緒に笑う。そんな普通の兄に。

 

 サスケが小さく息を吐いた。

 

 俺はその寝息を聞きながら、静かに誓った。

 

 お前の名前が、悲劇の始まりになんてならないようにする。

 

 うちはサスケ。

 

 お兄ちゃんが、絶対に守るぞ!!

 

 

 

 

 

 

 うちはサスケ。そう名付けられた赤子は、一週間ほどの入院期間を経て、母ミコトと共にうちはの家へ帰った。

 

 その日、家の空気は目に見えないほど静かに変わった。廊下を渡る風の音も、台所で湯が沸く音も、畳を踏む足音も、すべてが赤子を起こさないよう少しだけ丸くなったようだった。フガクは二人目ということもあり、イタチの時と比べれば子の扱いに戸惑いが少ない。大きな手で首を支え、泣き出す前の息遣いを聞き分け、布の乱れを直す。その動きは相変わらず硬く、表情も厳しいままだったが、サスケを抱く腕だけは驚くほど慎重だった。

 

 イタチもまた、弟の世話を冷静にこなした。

 

 五歳児とは思えない手つきで湯の温度を確かめ、布を畳み、寝床の周りを整える。サスケが泣けばすぐに母を呼び、ミコトが眠っていれば、泣き声が大きくなる前に背を撫でてあやす。赤子の世話を自分だけで抱え込もうとはしない。何をしてよく、何をしてはいけないかを母に確認し、父の手が空いていれば遠慮なく頼る。かつて無茶ばかりして大人達を青ざめさせた少年は、弟の前では不思議なほど慎重だった。

 

 特にイタチは、サスケだけでなく、母ミコトへの気遣いを欠かさなかった。

 

 産後の身体は、外から見えるほど簡単なものではない。出産とは人間の神秘であり、同時に命懸けの現象でもある。肉体は出産の影響で、まるで交通事故にでも遭ったかのような負荷を受ける。それでも母は赤子に乳を与え、眠りの浅い夜を過ごし、痛みと疲労を抱えながら子の小さな変化に気を配らなければならない。忍であろうと、うちはの女であろうと、その重さは変わらない。

 

 イタチはそれを、妙に分かっていた。

 

 前世の三十路サラリーマンとしての記憶ゆえか、あるいは母を失う未来への恐れがそうさせるのか、それは誰にも分からない。ただミコトが起き上がろうとすれば先に水を差し出し、食事を軽く温め、部屋の空気を入れ替え、父がいる時間にはなるべく母の負担を減らすよう動いた。薬草を煎じる時も、ただ効能をなぞるのではなく、苦味が強すぎないよう量を調整し、身体を冷やさぬよう湯の温度まで見た。

 

「イタチ、ありがとう」

 

 ミコトがそう言うたび、イタチは静かに頷いた。

 

「母さんは休んでください」

 

 言葉だけを聞けば、出来すぎた長子だった。けれどその奥では、母ちゃん寝て!今はマジで寝て!と叫ぶ落ち着きのない魂が跳ね回っていた。外に漏れないだけで、内面の騒がしさは相変わらずだった。

 

 サスケが産まれたことで、家の中にあった謹慎の空気も薄れていった。禁じられた術や無断行動への戒めが消えたわけではない。だが、家から出ること、父の監督下で修行すること、買い出しや病院への往復を任されることは戻った。止められていた流れが少しずつ動き出し、イタチの一日は凄まじい密度を帯びるようになった。

 

 朝、夜明け前に起きる。

 

 まずは家の中の気配を確かめる。ミコトの眠り、サスケの呼吸、フガクの起床前の静けさ。それらを崩さぬよう身支度をし、庭へ出る。そこで行う筋力鍛錬は、もはや五歳児のそれではなかった。腕立て、屈伸、体幹、跳躍、片足での静止、壁面を利用した逆さの姿勢からの起き上がり。角度も回数も常軌を逸している。だが乱れはない。呼吸を崩さず、関節に余計な負荷を残さず、筋肉に必要な刺激だけを刻み込む。

 

 その後、座禅を組む。

 

 庭の片隅で、イタチは微動だにせず座り続けた。朝露が葉から落ち、遠くで鳥が鳴き、家の中からサスケの小さな声が聞こえても、瞼は開かない。心を無にし、チャクラを肉体の隅々へ巡らせる。筋肉、骨、血管、内臓、皮膚、そのすべてにゆっくりと熱を通すように流す。戦いのためだけではない。病に負けない身体を作るため、成長を阻害しないため、疲労を残さないため。イタチにとってチャクラ操作は、もはや術の前段階ではなく、健康管理そのものだった。

 

 食事にも気を配った。

 

 ただ腹を満たすだけではない。米、魚、卵、野菜、豆、味噌、薬草。身体を作るもの、筋肉を育てるもの、血を巡らせるもの、胃腸に負担をかけないもの。それらを年齢と修行量に合わせて組み合わせる。ミコトには滋養のある汁物を、フガクには任務と稽古に耐える食事を、サスケのためには母乳に影響しそうなものを慎重に避ける。五歳児が台所で真剣に献立を考える姿は、見ようによっては異様だったが、家族はもう驚きすぎないことに慣れていた。

 

 そして兵糧錠剤も、さらに改良された。

 

 以前のように無茶な戦闘用途へ傾けるのではない。肉体強度を底上げし、疲労回復を助け、日々の鍛錬で壊した筋繊維をより良く治すためのものだ。苦味を抑え、胃への負担を減らし、効きすぎる成分は削る。強くなるため。だがそれ以上に、より健康であるため。イタチは小さな薬包を並べながら、かつてのような焦りではなく、静かな執念で配合を確かめていた。

 

 守りたいものが増えた。

 

 母、父、そしてサスケ。

 

 ならば弱いままではいられない。強さとは敵を倒す力だけではなく、家族の日常を壊させないための備えでもある。赤子の寝息が聞こえる家で、イタチは今日も鍛え続けた。未来の悲劇を遠ざけるために。弟がただ弟として笑える朝を、当たり前に迎えさせるために。

 

 

 

 そして三ヶ月後——十月になった頃。

 

 

 

 イタチは工房に立っていた。家の修行場の近くに建てた小屋は、この三ヶ月で別物のように姿を変えている。最初は木材をただ組んだだけの、子供の秘密基地に毛が生えたような場所だった。雨風を凌げればよく、薬草を乾かし、兵糧錠剤の材料を置き、修行道具を隠す程度のものだったはずが、今では棚が壁一面に並び、薬研、鍋、乾燥台、巻物、重石、手製の器具まで整えられている。床板は何度も踏み込まれ、柱には手裏剣の跡と打撃の跡が残り、隅には赤子用品を洗うための布まで畳まれていた。修行場であり、薬房であり、家事の補助部屋でもある。五歳児の工房としては、どう考えてもやりすぎだった。

 

「集まったな」

 

 イタチが工房に集まった影分身達に言った。

 

「おう」

 

「マジで疲れたっすね」

 

「あっという間だったな」

 

「やりすぎた感あるけどな」

 

「ホントに大丈夫なん?」

 

 返事は五つ。姿は同じうちはイタチでありながら、声色と態度に微妙な差がある。本体が外向きの静かな顔で立っているのに対し、影分身達はどこか緩く、内面の騒がしさが漏れていた。腕を回す者、腰に手を当てる者、床に積まれた巻物を足で避ける者、干してある薬草を眺める者、そして最後の一人は明らかに眠そうな顔をしている。だが全員、目の奥には同じ熱があった。

 

 三ヶ月の時を経て、イタチの肉体強度とチャクラ量は増大していた。無理な爆発や危険な術のためではない。日々の鍛錬、食事、睡眠、薬の調整、チャクラ循環、そして家族の世話。それらを積み重ねた結果、影分身は合計で五人まで出せるようになっていた。本体を含めれば六人。うちはイタチが六人。普通の家なら混乱するどころではない。

 

 実際、最初に六人のイタチが廊下を歩いているのを見たミコトは、しばらく言葉を失った。フガクは眉間を押さえ、長い沈黙の後で「説明しろ」とだけ言った。イタチは真顔で、家事補助、薬の調合、修行の分担、サスケの世話における効率化、そして本体の負担管理について淡々と述べた。理屈は通っていた。通っているのが余計に厄介だった。洗濯物は早く乾き、買い出しは滞らず、ミコトの休息時間は増え、サスケが泣けば誰かしらのイタチがすぐ駆けつける。結果、両親は根負けした。無茶をしないこと、家の外で勝手に使わないこと、疲労が限界を越える前に解除すること。その条件をつけて、見て見ぬふりをしたのである。

 

 出産祝いに訪れた三代目が、庭で布を干すイタチ、台所へ薬草を運ぶイタチ、サスケの布を畳むイタチ、修行場で逆立ちするイタチ、工房で錠剤を丸めるイタチ、そして本体のイタチを見て愕然としたこともあった。老人はしばらく煙管を落としかけた顔をしていたが、ミコトがよく休めていると聞くと、咳払いをして「くれぐれも無理はせぬように」とだけ言った。説教が始まるかと思ったイタチ達は、六人揃って静かに頭を下げた。三代目は帰り際「やはり解禁は早かったか?」と言っていたのは誰にも聞こえていない。

 

 そしてその五人には、あらゆる鍛錬をさせていた。

 

 一人は基礎体力。腕立て、屈伸、跳躍、体幹、重石を使った持久鍛錬を延々と続けた。一人はチャクラ操作。壁面歩行、水面歩行の応用、細い糸にチャクラを流す制御訓練、内臓へ負担をかけない循環を研究した。一人は薬学と兵糧錠剤の改良。効きすぎる成分を削り、疲労回復と身体強化の均衡を探った。一人は忍具と体術。手裏剣の軌道、忍刀の振り、足運び、間合いの取り方を確認した。そして最後の一人は、サスケと母の補助を中心に動いた。赤子の抱き方、泣き声の違い、布の替え時、湯の温度、ミコトが疲れた時の声のかけ方。戦場ではない鍛錬もまた、イタチには必要だった。

 

 そして、何故今日集まったか。

 

「これから影分身を解除する」

 

 工房の空気が少しだけ重くなった。

 

 イタチは影分身の禁断の手法——経験値倍増修行を、この三ヶ月行っていた。一ヶ月目に影分身は一人、二ヶ月目に更に三人増やし、三ヶ月目に最後の一人を増やした。合計で五人の影分身。本体と合わせて六人。それぞれが別々に鍛え、学び、考え、家族を支えてきた。解除すれば、その記憶と経験が本体へ戻る。便利だが、疲労も戻る。痛みの記憶も戻る。精神の負荷も戻る。扱いを誤れば、ただの自爆である。

 

「本体、気絶すんなよ」

 

「サスケ抱くの、結構大変っすよ〜」

 

「薬の配合、順番間違えんなよ」

 

「筋肉痛、たぶん来るぞ」

 

「いや、たぶんじゃなく来るぜ」

 

 影分身達が好き勝手に言う。

 

 イタチは小さく息を吐いた。外面は静かだが、内側では覚悟を決めている。十月。近づいているものがある。正体も、形も、今の未来で本当に起きるのかすら分からない。だからこそ、集められるものは集める。鍛えられるだけ鍛える。休む時は休む。そのための三ヶ月だった。

 

 イタチは十字の印を結んだ。

 

「解除」

 

 ボンッと影分身が消え、白煙が弾ける。

 

 次の瞬間、五人分の経験がイタチの中へ流れ込んだ。腕立てで焼ける筋肉、座禅で研がれた感覚、薬草の苦味、忍刀の重み、赤子を抱く腕の角度、サスケが泣く前に漏らす小さな息、ミコトの疲れた笑み、フガクの厳しい指摘。全てが一度に重なり、頭蓋の奥で鐘のように鳴った。

 

「ふぅ〜……」

 

 イタチは両膝に手をつき、長く息を吐いた。倒れはしない。だが額には汗が滲んでいた。

 

 成功だった。

 

 そして、ここからが本番だった。




ヒルゼン「その歳にして五人の影分身……やはり天才じゃったか」


今更なんですが、たくさんの感想評価お気に入りここすき誤字報告など、本当にありがとうございます。めちゃくちゃ励みになります。

それと、イタチに預言者の如く覚えているガバ原作知識を三代目とかミナトに話し、本当の意味で原作破壊をしようか迷っています。ただそうすると目指していた超健康分身ハメ殺しイタチができなくなる可能性が……

うちはイタチ、お前は預言者か?

  • ガバ原作知識で突っ走れ!!!
  • 報連相は社会人の基本だろうが!!!
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