分身ハメ殺し忍者『うちはイタチ』 作:やめろイタチ、その技は俺に効く
おっす!今日はサスケ初めての外出日!ちなみに母ちゃんも、サスケを産んでから家の外に出るのは初めてだ!夏が過ぎて今は十月、気温も丁度良くてイイ感じだぜ。まぁ外回り営業に最適な季節ってやつさ!新人の頃……真夏に自転車漕いで外回りしたのはいい思い出だな。嘘だ。汗だくでスーツが肌に張り付き、コンビニの冷房に救われ、上司からは「件数足りてないぞ」と言われた。もう二度としたくねぇ。
「イタチ、準備はできた?」
外出用の服を着た母ちゃんが、サスケを抱きながら俺に言った。準備はできてます!もうバッチリです!朝飯食って歯も磨いて顔も洗ってうんこもしました!兵糧錠剤も服用済み!やってやんよ!今日は母ちゃんとサスケの護衛兼荷物持ち兼栄養管理担当だ。五歳児にしては役職が多い。前世なら兼務手当を要求しているところである。
「はい、できてます母さん」
「いい子ね、じゃあサスケをお願いできる?」
「はい」
母ちゃんからサスケを受け取る。ムニッとしてる。そんでムニャムニャしてる。三ヶ月になって表情とか動きとかがしっかりしてきた気がする。体重も順調に増えて、どんどん大きくなってる。お兄ちゃん嬉しい。首も少しずつ安定してきたが、油断は禁物だ。俺は片腕で背を支え、もう片方で頭の角度を確かめる。サスケは布の中で小さく息を吐き、俺の胸元に頬を寄せた。はい可愛い。任務達成。いやまだ家を出てすらいない。
「今日はお肉屋さんと八百屋さん、ミルクを買いに萬屋にも行こうね」
「はい!」
そうして家を出て木ノ葉を歩く。
これから行く場所はどこも一人で行ったことがある場所だ。兵糧錠剤の材料調達でな……肉屋では牛肉、八百屋では薬草と野菜、萬屋では調合用の道具とかを買った。五歳児が薬草の効能を聞きながら店主と値段交渉する姿は、今思うとかなり変だったはずだが、木ノ葉の店の人達はわりと受け入れてくれている。忍の里、懐が深い。いや、変人に慣れているだけかもしれない。
十月の風は柔らかかった。夏の熱気が抜け、陽射しも刺すような強さではない。サスケの布を少しだけ直し、風が直接顔に当たりすぎないようにする。母ちゃんは隣をゆっくり歩いていた。出産後の身体はまだ完全ではない。母ちゃんは笑っているけれど、俺は歩幅、呼吸、顔色、足元をちらちら確認する。やりすぎかもしれない。でも母ちゃんとサスケを連れている以上、ここは普通の通りではない。俺にとっては護衛任務の現場だ。
「イタチ、そんなに見なくても大丈夫よ」
「念のためです」
「ふふ、頼もしいわね」
褒められた。調子に乗りそう。危ない。落ち着け俺。ボーナス査定で最高評価をもらった営業マンみたいな顔をするな。ここはうちはイタチ外面モードで静かに頷くだけだ。
うちはの区画を出ると、里の人達の視線が少しずつ集まった。警戒ではない。母ちゃんが久しぶりに外に出たことと、腕の中の赤ん坊への興味だ。近所の女性が「ミコトさん、もう歩けるようになったのね」と声をかけ、母ちゃんは穏やかに礼を言った。俺がサスケを少し見せると、相手は目尻を下げる。
「あら、綺麗な顔。イタチ君に似てるわね」
「ありがとうございます」
俺は静かに答えたが、内心では盛大に頷いていた。そうでしょうそうでしょう。うちの弟、めちゃくちゃ整ってるんです。将来イケメン確定なんです。まだ三ヶ月なのに顔面偏差値が高い。兄の贔屓目?違う。これは客観的事実だ。たぶん。
まず肉屋に着いた。店先には干し肉と新鮮な肉が並び、香ばしい匂いが漂っている。俺は前に兵糧錠剤用として猪とか牛を買ったことがある。火を通して乾燥させ、粉末にして保存性を高める。タンパク質は大事だ。忍も筋肉も裏切らない。いや、鍛え方を間違えると普通に関節が裏切るから注意は必要だが。
「おう、ミコトさん、そんでイタチ坊。久しぶりだな。そっちが弟か?」
「ええ。サスケです」
「いい顔してるな。イタチ坊……お前兄貴になったんだな」
「はい」
俺はサスケを抱いたまま頷いた。兄貴。いい響きだ。肉屋のおっちゃん、分かってるじゃないか。母ちゃんは滋養のある肉を選び、俺は横から脂身の量と保存のしやすさを確認した。母ちゃんが少し笑う。
「イタチは相変わらず詳しいのね」
「家族の健康に関わりますので」
本当は、健康こそ最強への道です!と拳を握りたい。だが産後の母ちゃんと初外出のサスケの前で熱弁するのはやめておいた。肉屋を出る頃には、包みがひとつ俺の背負い袋に入った。荷物持ち任務、順調である。
次は八百屋だ。色の濃い葉物、根菜、乾燥させた薬草、香りの強い野菜。ここは俺にとって半分薬房のような場所でもある。母ちゃんは汁物に使う野菜を選び、俺はサスケを抱えたまま薬草の状態を目で確認した。葉の色、乾き具合、匂い。兵糧錠剤の改良にも使えるし、産後の母ちゃんの体調を整えるものにもなる。
「イタチ君、今日は赤ちゃん連れかい」
「はい。弟です」
「そりゃめでたい。いい薬草、少しおまけしとくよ」
「ありがとうございます」
ありがたい。人の情けが身に染みる。前世の外回りでお茶を出してもらった時くらい嬉しい。いや、あの時は成約に繋がらず帰り道で上司に詰められたから、今の方が圧倒的に幸せだ。
サスケが腕の中で小さく動いた。布の隙間から手が出て、俺の着物をぎゅっと掴む。
俺はその小さな指を見下ろし、胸の奥で静かに誓った。
この手が、憎しみなんて握らなくて済むように。
今日はただの買い物だ。けれど、こういう普通の日を積み重ねることが、きっと未来を変える。母ちゃんが笑い、サスケが外の風を浴び、俺が荷物を持つ。そんな何でもない一日を、絶対に守る。
「サスケ、外の空気はどうだ?」
俺はサスケの頬を指でそっと撫でながら言った。赤子の肌は、触れるのが怖いくらい柔らかい。少しでも力を入れたら跡が残りそうで、俺は忍刀を扱う時より慎重に指を動かす。するとサスケは「ウー」と小さく声を上げ、丸い瞳で俺を見つめてきた。
あぁ……尊い。
思わず空を見上げた。十月の空は高く、雲が薄く流れている。青い。めちゃくちゃ青い。涙が溢れそうだ。多分これ万華鏡写輪眼開眼してるわ。というかしててもいい!弟の可愛さで開く万華鏡があっても、忍界の歴史にひとつくらい許されるだろ!お兄ちゃん頑張るからな!
「イタチ、萬屋に行くわよ」
「はい、母さん」
「ウー!」
「うふふ、サスケも一緒にね」
俺の弟は天才だ。母さんや俺の言った事にもう反応してる。今なんてちっちゃな腕を突き上げてたぞ。完全に返事である。将来は火遁より先に相槌の才能が開花するかもしれん。いや、相槌の才能って何だ。だが可愛いから良し。
萬屋は八百屋から少し歩いた先にある。日用品、布、薬瓶、調合用の小道具、保存食、針や糸、赤子に使う柔らかい布まで置いてある便利な店だ。俺も薬剤精製用の小瓶や匙を買う時によく来る。前世で言うところのホームセンターとドラッグストアと雑貨屋が混ざったような場所だな。違うか?まぁ便利なら何でもいい。
店に入る前、俺はサスケの布を整えた。外より少し暗い店内に入るから、顔に風が当たらないようにする。母ちゃんは俺の手つきを見て、柔らかく笑った。
「本当に上手になったわね」
「影分身達の経験もありますから」
「無理はしていない?」
「今はしていません」
今は、だ。そこ大事。前にまとめて解除した時は脳内が大変なことになった。筋肉痛の記憶とサスケの泣き顔と薬草の匂いが同時に襲ってきて、正直ちょっと魂が抜けかけた。あれは便利だが危ない。健康のために使って不健康になったら意味がない。過労死経験者として、そこは身に染みている。いや俺は前世で過労死したわけじゃなく交通事故だけど、社会人疲労は十分味わった。
萬屋の暖簾をくぐると、店主の女性がこちらを見て目を細めた。
「あら、ミコトさん。久しぶりじゃないの」
「ええ。今日はこの子のものを少し」
「ああ、噂の弟くんね。イタチ君もすっかりお兄ちゃんだ」
「はい」
俺は静かに頷いた。内心では胸を張っている。すっかりお兄ちゃん。いい言葉だ。もっと言っていいぞ。いや、あまり言われると外面が崩れるから程々にしてほしい。五歳児の精神と三十路の自意識が同時に照れている。複雑だ。
母ちゃんは赤子用の布と、ミルク用の器、保管に使う小さな容器を選び始めた。俺はサスケを抱いたまま横に立ち、品物をひとつずつ確認する。布は柔らかいか。肌に当たっても荒れないか。器は洗いやすいか。匂いが移らないか。保存容器は蓋がしっかり閉まるか。目つきが真剣になりすぎたのか、店主が小さく笑った。
「イタチ君、店を始められそうだね」
「家族に使うものですので」
「立派だねぇ」
立派。そう言われるとくすぐったい。だが俺は知っている。俺の立派さは、半分以上が前世の生活苦と今世の生存本能でできている。安い物を買って失敗した時の後悔、健康を疎かにした時のツケ、家族がいる生活の尊さ。全部まとめて、今の俺を動かしている。
「アー」
サスケが小さく声を出した。
「どうした、サスケ」
顔を覗き込むと、サスケは俺の着物を握っていた。ちっちゃい指が布を掴んで離さない。俺はその手を見た瞬間、危うく膝から崩れそうになった。ここが萬屋で良かった。戦場だったら致命的な隙である。弟、恐るべし。
「サスケはイタチが好きなのね」
母ちゃんが嬉しそうに言った。
「俺もサスケが好きです」
「知っているわ」
即答された。バレている。いや、隠してない。隠せるわけがない。俺はサスケを少し抱き直し、店の外から入る柔らかい光を見た。普通の買い物。母ちゃんの笑顔。弟の声。店主の穏やかな視線。これが守りたい日常だ。血なまぐさい戦場でも、暗い地下でも、訳の分からん陰謀でもない。こういう何でもない日を、俺は増やしたい。
品物を買い終えると、母ちゃんは店主に礼を言い、俺は荷物を背負い直した。片腕にはサスケ、背には肉と野菜と布と容器。なかなかの装備だ。前世の外回り鞄よりずっと重いはずなのに、不思議と嫌ではなかった。というか筋トレしてるお陰で軽く感じるまである。
「少し休んでから帰りましょうか」
「はい、無理はしないでください」
「ふふ、イタチもね」
母ちゃんにそう言われ、俺は頷いた。
店先へ出ると、十月の風がまた頬を撫でた。サスケは俺の腕の中で眠りかけている。小さな口が少し開き、呼吸が規則正しくなっていく。
俺はその寝顔を見下ろし、静かに息を吐いた。
今日も平和だ。
だからこそ、この平和が続くようにしなければならない。俺は荷物を背負い、母ちゃんの歩幅に合わせてゆっくり歩き出した。
そういえば、オビトはどうなったんだろうか?
三代目とも四代目とも、最近はまともに会えていない。戦争が終結したら少しは暇になるのかと思っていたが、現実は逆だったらしい。戦が終わった後には、終わった後の仕事がある。負傷者の手当、戦死者の整理、各国との調整、捕虜の扱い、任務の再編、里の防備、そして火影交代直後のあれこれ。前世の会社でも繁忙期が終わった後に報告書と反省会と次期計画が襲ってきたから分かる。終わりは始まり。社会はクソ。いや忍社会も大概だな。
兵糧錠剤も最近は手渡しではなく、カラスに持たせて発送している。
イタチといえばカラスだろ?攻撃が当たったと思ったら肉体が真っ黒になって、カラス達がパタパターって散るやつ。あれは幻術で原作イタチの十八番みたいな技だった。勿論、俺もカラスを使役している。庭に怪我をして落ちていたカラスを世話したのがきっかけで、そこから少しずつ慣らし、餌をやり、話しかけ、最終的には口寄せ契約まで結んだ。五歳児が庭でカラスに真顔で話しかけている光景を、母ちゃんは最初かなり心配そうに見ていたが、今では手紙と薬包を運ぶ便利な仲間として認めてくれている。父ちゃんは無言で頷いただけだった。多分、便利ならいいと思っている。
指をカリッとして血を出し、印を結んで口寄せ。小学生の時に初めてあのシーンを漫画で見た時は衝撃だったな。クラス中で真似した。みんな親指を噛む真似をして、机に手を叩きつけて「口寄せの術!」ってやっていた。螺旋丸と千鳥も人気だった。風が強い日はグラウンドの砂が舞って、我愛羅の真似をする奴もいた。今考えるとアホの集まりである。だが楽しかった。……話が逸れまくりだ。
父ちゃんによれば、オビトは記憶が抜けているらしい。
俺と全く同じだ。いや同じか?分からんけど。俺の場合は重要な場面だけ抜けていて、思い出そうとすると『激闘忍者対戦4』の思い出が何故か差し込まれる。ミナト班のあれこれ、仮面の男、九尾の夜、その辺りを掘ろうとすると、画面端で分身ハメしているイタチが脳内に出てくる。楽しかったけど今じゃない。お前は一旦引っ込んでくれ。こっちは人生、いや忍生が懸かってるんだよ。
オビトの場合は、神無毘橋で死にかけてから目覚めるまでの記憶が曖昧らしい。誰に拾われたのか、誰に白い身体をくっつけられたのか、どうやって動けるようになったのか。その辺りが抜けている。怪しすぎる。怪しさの塊だ。普通、死にかけた少年の半身に柱間細胞っぽいものがくっついて帰ってくるか?帰ってこない。荷物じゃないんだぞ。注文してないのに届くな、初代細胞。
俺はサスケを抱き直しながら、萬屋の包みを背負い直した。
サスケは眠りかけている。さっきまで「ウー」とか「アー」とか天才的な相槌を打っていたのに、今はもう瞼が落ちそうだ。赤ちゃんは忙しい。寝て、飲んで、出して、泣いて、笑って、また寝る。それだけで世界を回している。俺の腕の中にあるこの小さな温かさが、いつか復讐だの闇堕ちだの千鳥だのに向かう未来なんて、やっぱり絶対に嫌だ。
「イタチ、もう少し休む?」
母ちゃんが俺の顔を覗き込んだ。
「大丈夫です。母さんこそ疲れていませんか?」
「私は平気よ。あなた、考え事をしている顔だったから」
バレている。
母ちゃんの観察眼も侮れない。カカシとは別方向に鋭い。俺はサスケの背を軽く支えながら、少しだけ視線を逸らした。
「オビトさんのことを考えていました」
「……そう」
母ちゃんの声が少し静かになった。オビトはうちはの子だ。戦場で死んだと思われ、戻ってきて、今は病院で治療を受けている。詳しいことを母ちゃんがどこまで知っているかは分からないが、父ちゃんから何か聞いているのだろう。
「心配?」
「はい」
「イタチは優しいわね」
優しいのかは分からない。俺の心配には、未来を知っているかもしれない転生者としての打算もある。オビトがどうなるかで、木ノ葉の未来が大きく変わる気がしている。クシナさんの出産も近い。九尾のこともある。なのに、肝心なところが思い出せない。怖い。めちゃくちゃ怖い。俺は五歳児の身体で、抱えている情報だけ妙に重い。
「優しいだけでは、守れません」
気づけば、そう言っていた。
母ちゃんは少し驚いた顔をした後、柔らかく微笑んだ。
「でも、優しさがなければ守りたいと思えないでしょう?」
その言葉に、俺は何も返せなかった。
母ちゃんは強い。静かに強い。父ちゃんの強さが硬い刃なら、母ちゃんの強さは温かい布みたいだ。包まれると逃げ道がなくなる。俺はサスケの寝顔を見下ろし、小さく息を吐いた。
オビトの記憶。九尾。クシナさん。ナルト。サスケ。うちは。木ノ葉。
点は多い。線はまだ見えない。でも、準備はできる。カラスで情報を運ぶ。薬を作る。身体を鍛える。写輪眼の違和感も父ちゃんに話す。勝手に突っ走らない。相談する。そう決めたはずだ。
腕の中でサスケが、小さく鼻を鳴らした。
俺はその音に少し笑った。
「帰りましょう、母さん。サスケが眠りそうです」
「そうね」
母ちゃんと並んで歩き出す。十月の風が、荷物と赤ん坊を抱えた俺の頬を撫でた。
普通の日だ。
そうして家に向かって里の道を進んでいると、前から二人が歩いてきた。
あ、この気配……
「あ!クシナ!」
母ちゃんが先に気づいた。
赤髪で大きなお腹をしたクシナさんと、三代目の奥さんであるビワコさんが、こちらへ歩いてくる。クシナさんは相変わらず明るい顔で手を振ろうとしたが、すぐ横を歩くビワコさんに鋭く見られ、動きを少し小さくした。分かる。あれは逆らってはいけない目だ。三代目を支えてきた女性の圧、普通に強い。
「ミコト〜!もう外に出れるの?」
「こらクシナ!あまり動きなんし!」
ビワコさんの声がぴしゃりと飛んだ。強い。さすが三代目の奥さん。火影を支える人は、叱り方にも年季が入っている。クシナさんは「分かってるってばね」と笑いながらも、足取りを少しだけ緩めた。
「イタチ君、久しぶりってばね」
「はい、お久しぶりです。調子はいかがですか?」
「バッチリってばね!イタチ君のお薬がよく効いてる!」
「それは良かったです」
俺はミナトさんへ改良した兵糧錠剤を送る時、クシナさん用に栄養補助の丸薬も一緒に包んで入れていた。葉酸とか鉄分とか、前世知識で妊婦さんに必要だった気がする成分を、この世界の薬草や食材で何とか寄せた手作りサプリだ。勿論、衛生面は厳重に管理した。火入れ、乾燥、保管、量の調整、全部慎重にした。赤ちゃん関係で雑なことは絶対にしない。ここで手を抜く奴は、兄としても人としても失格である。
「あれ、女の子だったっけ?」
クシナさんが俺の抱くサスケの顔を覗き込んで言った。
確かに女の子に見える。めっちゃ整ってるからな。将来イケメン確定である。三ヶ月でこの顔面力。恐ろしい弟だ。兄として誇らしい。いや、別に俺の手柄ではないけど。
「ううん……男の子」
「名前は何にしたの?ミコト」
「サスケよ」
「三代目から聞いとったが、いい名じゃ。三代目の父上と同じじゃえ」
ビワコさんが柔らかく言った。
俺もいい名前だと思う!
サスケは俺の腕の中で眠たげに目を細めている。自分の名前が褒められていることなんて分かっていないだろうが、兄としては勝手に胸を張りたい。うちはサスケ。何度聞いてもいい響きだ。名前だけでご飯が食える。いや、ちゃんと米と肉も食うけどな。健康のために。
「はい……強く、立派な忍になるようにと。クシナのところも、もうすぐでしょ?名前は先に決めておいた方がいいわよ」
「もう決めてあるの。名前はナルト。サスケ君とは同期になるから、仲良くなるといいわね……ところで、やっぱり痛いの?」
ナルト!
やっぱりそうなるか!テウチさんも喜ぶだろうな〜。ミナトさんも一楽の常連だし、あれ、大蛇丸もなんか喜びそうな気がする……気のせいだ。多分。あいつがナルトを口にして「悪くないわね」とか言ってた夜の記憶が変なところで蘇る。駄目だ、今はそれどころじゃない。
クシナさんの声が、少し弱くなっていた。普段は太陽みたいに明るくて、声も大きくて、怖いものなしに見えるクシナさんでも、やっぱり出産は怖いのだ。そりゃそうだ。命懸けだ。母ちゃんがサスケを産んだ時だって、俺は病院で顔を見るまでずっと落ち着かなかった。
母ちゃんは少し笑って、クシナさんの手を取った。
「あなたなら大丈夫よ。イタチの作ったお薬を飲んでるんでしょ?私はサスケを産む時、すごく楽だったわ」
そんな褒めないで欲しいっすね!調子乗っちゃう!前世社会人感覚で言うなら、上司に来期から給与上がるぞって言われるぐらい嬉しい!上がらない時もあったけどな!!むしろ期待だけさせて据え置きだった時の虚無、今でも忘れられない。いや今は忘れろ。母ちゃんが褒めてくれたんだから素直に喜べ。
「良かった〜……」
「ほら行くえ!クシナ」
ビワコさんに促され、クシナさんは名残惜しそうに手を振りながら歩いていった。ミコトも微笑んで手を振り返す。サスケは俺の腕の中で小さく身じろぎし、布の端を握った。
このタイミングで、クシナさんとビワコさんに会うなんて……なんか嫌な予感がする。
俺は思わずクシナさんの背中を追った。
背筋は真っ直ぐ伸びている。顔色もいい。歩き方にも大きな乱れはない。俺の薬も多少は役に立っているのだろう。だが……違和感で反射的に変わった俺の写輪眼には、別のものが見えていた。クシナさんの身体を巡る強く温かなチャクラ。その腹の内に灯る、まだ小さなナルトのチャクラ。そして、その奥からじわりと滲み出る、禍々しい色のチャクラ。
九尾。
やっぱり封印が弱まっている。
出産と同時に九尾の封印が揺らぐ。それは知っていた。前世の知識でも、この世界の記録でも、人柱力の出産は危険だと分かっている。盗み見たうずまきミトの記録にもそうあった。だからこそ、ミナトさんも三代目も、絶対に警戒しているはずだ。ビワコさんが一緒にいるのも、その一環だろう。表には見えない護衛もいるかもしれない。
でも……九尾の襲撃が本当に起こるかどうかは分からない。
オビトは木ノ葉にいる。仮面の男が誰だったのか、俺のガバガバ原作知識は肝心なところで役に立たない。思い出そうとすると、また『激闘忍者対戦4』の画面が脳内に割り込んでくる。分身ハメしてる場合じゃねぇんだよ、前世の俺。もっとちゃんと読んどけ。もっとちゃんと覚えとけ。
けれど、準備はしてきた。
身体は鍛えた。薬も作った。カラスも飛ばせる。影分身の扱いも前より慎重になった。家の避難経路も、母ちゃんとサスケを抱えて動く方法も、何度も頭の中で確認した。父ちゃんにも相談すべきことはある。勝手に飛び出さない。無茶をしない。俺はもう、同じ失敗を繰り返さない。
きっと大丈夫なはずだ。
そう思いたいのに、クシナさんの背から滲む赤黒い色が、いつまでも目の奥に残っていた。
少し前——地下の闇は、外の時間から切り離されたように沈んでいた。
洞穴の奥には巨大な人型の像が沈黙していた。閉じられた口、縛られた瞳、枯れ木の根にも似た無数の管。それらは天井へ、壁へ、床へと這い回り、この空間そのものを得体の知れぬ化け物の腹の内に変えている。その下に据えられた玉座には、ひとりの老人が座していた。骨と皮ばかりに痩せ細り、長い白髪を垂らし、背には像へ繋がる管が深く食い込んでいる。生きているのか、死に損なっているのか、その境目さえ曖昧な姿。だが、瞳だけは違った。老いにも敗北にも腐らず、赤い光を奥底に宿している。
うちはマダラ。
かつて千手柱間と終末の谷で戦い、敗れ、死んだとされていた男は、ゆっくりと瞼を開いた。
「ゼツ、状況はどうなっている」
低い声が、石の底へ落ちる。
すぐ傍の地面がぬめるように盛り上がった。泥ではない。草木でもない。白い肉にも似たものが床から生え、ゆっくり人の形を取る。半分だけ笑っているような顔をした白い人型が、マダラの横に現れた。
「あまり良くないね。オビトは木ノ葉に取られてるし、あの爆発でグルグルの反応も無くなっちゃってる」
白ゼツの口調は軽かったが、報告の中身は軽くない。霧隠れでの仕込みは崩れた。死に瀕した少年は絶望へ落ちる前に木ノ葉へ戻り、死ぬはずだった少女も、憎しみの楔となるはずだった少年も生きている。白い外皮は焼かれ、繋がりは断たれ、仕込んだはずの導線は途中で引き千切られていた。
「そうか……オビトの心臓に埋め込んだ呪印も反応がない。現段階で奴はもう使えん」
マダラは痩せた指を玉座の肘掛けに置き、わずかに力を込めた。洞穴の奥で、外道魔像の管がきしりと鳴る。
「どうするの?」
「記憶を覗かれても、こちらへ辿り着くことはない。幻術で深部を閉ざしてある。触れれば迷い、進めば戻る。無理に破れば、あの小僧の心の方が先に壊れる。山中一族の術でさえ、破れる心配はない。俺と同じほどの
「じゃあ心配なし?」
「そこだけはな。だが——」
「だが?」
マダラは頬杖をつき、闇の奥を見据えた。赤い瞳が薄く光る。その視線は白ゼツではなく、まだ形を持たぬ未来の盤面を見ていた。
「計画は、大きく修正せねばならん」
オビトは駒になるはずだった。仲間を失い、世界を呪い、やがて月の眼へ辿り着く器として育てるつもりだった。だが、その器は木ノ葉の中で息をしている。半身にはまだこちらの痕跡が残っているが、医療と封印に囲われ、手は届きにくくなった。心に植えた闇も、光の下で薄れていくだろう。利用できぬ駒に固執するほど、マダラは若くも甘くもなかった。
だが、全てが失われたわけではない。
木ノ葉には九尾がいる。うずまきの女が器となり、近く出産を迎える。出産は封印を緩める。かつてうずまきミトもそうだった。命が生まれる瞬間、器は揺らぐ。どれほど守りを固めようと、そこには必ず隙が生じる。そして木ノ葉には、もうひとつ目を引く存在がいた。
うちはイタチ。
幼くして三つ巴を宿し、影分身を用いて戦場へ干渉し、白ゼツの外皮ごと焼いた子供。あれは異物だった。予定を崩し、死をずらし、絶望の落下点を変えた。五歳にも満たぬ器にしては、あまりに厄介で、あまりに目が良い。
「うちはの小僧は?」
「元気だよ。妙に鍛えてる。薬も作ってる。五歳にしては頭が良すぎる気がするけどね」
「才は才だ。監視を緩めるな」
「はーい」
白ゼツの返事は間延びしていたが、マダラは気にしなかった。
やがてマダラは、ゆっくりと右手を持ち上げた。掌を地面へ向ける。そこから闇よりなお黒い棒が伸び、床へ突き刺さった。黒い杭のようなそれは湿った音もなく形を変え、枝分かれするように広がり、やがて半身だけの黒い人型となる。白ゼツとは違う。軽さも、笑みもない。地の底に染み込んだ悪意が、そのまま人の形を取ったような存在だった。
「黒ゼツ」
マダラが呼ぶ。
「ドウスルキダ?」
黒い半身が、低い声で問うた。
「お前は木ノ葉へ潜れ。白ゼツだけでは足りん。九尾の器、四代目、三代目、うちは、そしてあのイタチを見張れ」
「九尾ヲ奪ウノカ」
「機を見てな。だが焦る必要はない。こちらの手が直接届かぬなら、届く形を作ればいい。守りが厚いなら、守りの内側に歪みを作る。人は外からの刃には備えるが、己の中に育つ影には鈍い」
黒ゼツは黙ってマダラを見た。
「オビトの代わりを急造する必要はない。木ノ葉は勝手に火種を抱えている。戦後の疲弊、火影交代、柱間細胞の痕跡、尾獣の封印、うちはへの疑念。そこへ少し息を吹きかければ、火は勝手に大きくなる」
マダラの声は冷たかった。
「月はまだ遠い。だが、遠いからこそ道を作る」
白ゼツが肩を揺らすように笑った。
「じゃあ、また木ノ葉の観察だね〜」
「ただ見るだけではない」
マダラの赤い瞳が、闇の中で細く光った。
「必要ならば誘導しろ。疑わせ、恐れさせ、孤立させろ。うちはは愛が深い。深い愛は、奪われれば深い憎しみに変わる。その理だけは………どれほど盤面が乱れようと変わらん」
「マダラハドウスル」
「俺はもう死ぬ。だが種は蒔いた。長門、暁、霧隠れ、木ノ葉、そしてお前」
「随分ト自信ガアル」
「闇は育ち、いずれ開く。準備ができたら俺を生き返らせろ。分かったな」
黒ゼツは答えず、ただ地の底のような沈黙を返した。やがてその半身が床へ沈み、白ゼツもまた闇へ溶ける。玉座に残ったマダラは、外道魔像の下で静かに瞼を伏せた。
黒ゼツ「ハタラキタクネェ」
投稿が遅れてしまい、申し訳ございません。
うちはイタチ、お前は預言者か?
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ガバ原作知識で突っ走れ!!!
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報連相は社会人の基本だろうが!!!