分身ハメ殺し忍者『うちはイタチ』 作:やめろイタチ、その技は俺に効く
おざーっす。うちはイタチと申します。
いい朝だ。雀がちゅんちゅん鳴いて、遠くで鶏がコケコッコーと声を張り、十月の空気がひんやりと肺に入ってくる。涼しくて、静かで、気持ちのいい朝である。ムクドリの大群が毎日毎日、発情期か何か知らんが駅前の木でピギャピギャ騒いでいないだけで、世界はここまで美しい。前世で駅近の賃貸を借りていた時は最悪だった。俺が仕事に行っている時間だけ都合よく消え、朝と夕方に限って集まり、耳を破壊する勢いで大合唱する。糞も凄かった。下ろしたてのスーツにポトッと落とされた時、俺は空を見上げて「神よ」と呟いた。そこにいたのは神じゃなかった。鳥だったよ。
「イタチー!朝ごはんできたわよ〜」
「はい!母さん!」
ふぅ〜朝の体操、筋トレ、軽いチャクラ循環、関節の確認、全部終わりだ。病弱ルート回避のための健康習慣は、今日も完璧である。五歳児の身体は柔らかいが、成長期に無理をすれば将来に響くかもしれない。前世で腰を押さえながら「若い頃に無茶したツケだ」と言っていた上司を俺は見ている。忍界でも腰痛は嫌だ。強敵より先に腰で死ぬのはもっと嫌だ。
……あれ?
俺、なんか大事な事忘れてね?
昨日、母ちゃんとサスケの初外出で買い物に行って、帰りにクシナさんとビワコさんに会った。クシナさんのお腹の中にはナルトのチャクラがあって、その奥に九尾の赤黒いチャクラがじわっと滲んでいた。嫌な予感がした。かなりした。背中に冷たいものが走った。出産の日が近い。封印が弱まっている。原作の記憶はガバガバだけど、ここは危ない。そう思ったはずだ。
なのに俺、普通に寝ちゃってたわ。
いや、睡眠は大事だ。超健康分身ハメ殺しイタチの土台は睡眠と栄養である。徹夜は敵だ。社会人時代も徹夜明けの資料確認で誤字を見落とし、上司に詰められた経験がある。眠らない奴から判断力は死ぬ。だが、九尾案件かもしれない不安を抱えたままスヤァはどうなんだ。俺のメンタル、忍界に適応しすぎて図太くなってないか?
そんなことを考えながら井戸水で手を洗い、口をゆすいでから家に入る。廊下には味噌汁の匂いが漂っていた。ああ、味噌汁。魂が落ち着く匂いだ。俺はうちはに転生したが、前世日本人の胃袋は味噌に屈する。湯気と出汁の香りがあるだけで、人は少し優しくなれる気がする。たぶん。
居間へ向かうと、父ちゃんが新聞を読んでいた。背筋を伸ばし、眉間にいつもの皺を刻み、紙面へ目を落としている。母ちゃんは鍋の前で味噌汁をよそっていた。隣の部屋からは、サスケの小さな寝息が聞こえる。両手を上げて寝ているのだろう。あの赤ちゃん特有の万歳寝、反則である。可愛さで里を取れる。
「イタチ、調子はどうだ?」
「大丈夫です。問題ありません」
「そうか。朝の鍛錬は続けているようだが、やりすぎるな。お前はすぐ自分の身体を道具のように扱う。忍にとって身体は武器だが、同時に一生付き合う器でもある。壊してからでは遅いぞ」
父ちゃんの声は低く、厳しいけれど、心配が混じっていた。
「はい。筋肉と関節の負担は確認しています。疲労が残る日は量を減らします」
「ならよい……それと、四代目夫妻の間に子が産まれた。オビトの件で不穏な空気が流れていたが、何事もなく無事に出産を終えたそうだぞ」
え?
マジ?
九尾は?襲撃は?何もなかったん?
俺は座ろうとしていた動きを、ほんの僅かに止めた。危ない。外面を保て、うちはイタチ。ここで「え、マジで?」とか言ったら終わる。本体会話は静かに、内心だけ大騒ぎしろ。心の中ではもう会議室がざわついている。議題、九尾襲撃未発生について。出席者、俺だけ。資料、ガバ原作知識。終わってる。
「……そうですか。無事に産まれたのなら、よかったです。昨日、母さんとサスケと一緒に外出した時にクシナさんとお会いしました。体調は良さそうでしたが、出産が近いようでしたので、少し気になっていました」
「そうね。クシナは明るく振る舞っていたけれど、やっぱり不安もあったと思うわ。初めての出産だもの……無事に済んだなら本当に良かった。今度、落ち着いた頃にお祝いを届けましょうね」
母ちゃんは椀を置きながら、ほっとしたように微笑んだ。
父ちゃんも新聞を畳み、少しだけ目を細める。
「男児だそうだ。名はナルト。四代目から三代目へ報告があり、警務部にも必要な範囲で伝達が来た。詳細は当然伏せられているが、里に異常はない。警備はしばらく強められるが、それは火影の子が産まれた以上、当然の処置だ」
ナルト。
産まれた。無事に。
九尾は暴れていない。里は壊れていない。父ちゃんは新聞を読んでいて、母ちゃんは味噌汁をよそっていて、サスケは隣で寝ている。つまり、俺がぼんやり覚えていた地獄みたいな夜は起きていない。起きなかった。多分、未来が変わった。
いや、本当に何もなかったのか?
極秘裏に何かあった可能性はある。九尾の封印が危なかったけど、ミナトさんとクシナさんが抑えたとか、三代目が兵糧錠剤をキメて頑張ったとか、ビワコさんが産婆力で全部ねじ伏せたとか。最後のはちょっとありそうで怖い。あの人、叱り声だけで忍を整列させられそうだし。
「イタチ、顔には出ていないけれど、考え込んでいるでしょう」
母ちゃんの声に、俺は少しだけ視線を上げた。
「すみません。昨日クシナさんのチャクラを見て、少し気がかりなものを感じました。けれど無事なら、それが一番です」
「心配してくれていたのね。でも、あなたが全部背負う必要はないのよ。四代目も、三代目も、ビワコ様もいる。クシナにもミナト様がいる。あなたはあなたで、まず朝ごはんを食べて、サスケの顔を見て、今日をちゃんと過ごしなさい」
「はい、母さん」
母ちゃんの言葉は柔らかいのに、逃げ道を塞ぐ力がある。すげぇ。前世のどんな上司より効く。母ちゃんに言われたら、ちゃんと飯を食うしかない。
父ちゃんは俺をじっと見た。
「イタチ、念のため言っておく。四代目の子の件で、勝手に調べるな。カラスを飛ばすな。影分身も使うな。気になることがあるなら、まず俺に話せ」
「……はい。必要があれば、父さんに相談します」
「それでいい。お前は賢い。だが、賢いからこそ一人で結論を出すな。忍は一人で動くこともあるが、里で生きる以上、背後には家族と仲間がいる。そのことを忘れるな」
ぐさっと来た。
父ちゃん、朝から説教力が高い。けれど正しい。俺は前に勝手に動いた。影分身で里外へ行き、分身大爆破までやった。結果的に助かった命はあるが、母ちゃんを泣かせ、父ちゃんに心配をかけ、三代目に大説教された。もう同じ失敗はしない。多分。いや、絶対。ここは断言しろ俺。
「忘れません」
俺はそう答え、席に着いた。
手を合わせる。
「いただきます」
「いただきます」
味噌汁を一口飲む。温かい。胃に染みる。焼き魚の塩気、白米の湯気、母ちゃんの気配、父ちゃんの低い声、サスケの寝息。全部がここにある。
ナルトが無事に産まれた。未来は変わったのかもしれない。
でも、俺がやることは変わらない。食って、寝て、鍛えて、相談して、家族を守る。それが今の俺の精一杯の戦いだった。
四代目火影波風ミナトとうずまきクシナとの間に、男児が産まれた。
その報は、朝の木ノ葉を柔らかく揺らした。火影の子という立場ゆえ、広められる範囲は安全面を考慮し、当面は火の国の内側に限られていた。だが情報とは水や風に似ている。戸口の立ち話、任務帰りの忍の雑談、商人の荷車、宿場の噂、そうした隙間を伝い、静かに大陸へ流れていく。四代目の家に子が産まれた。母子共に無事。名はナルト。木ノ葉の里人はその知らせを喜び、戦の終わりに差した新しい光のように受け止めた。
ナルトと名付けられた赤子は、よく泣き、よく動き、よく眠った。金色の産毛、丸い頬、小さな拳。クシナはその小さな命を抱くたびに頬を緩め、ミナトは火影としての顔を少し忘れたように、柔らかく笑った。里の者達も、直接顔を見る機会は少なくとも、四代目の子が無事に産まれたというだけで表情を明るくした。長く続いた戦の後、誰もが命の誕生を欲していたのかもしれない。
その一方で、うちはイタチの胸中は穏やかではなかった。
喜ばしい。間違いなく喜ばしい事である。九尾は暴れず、木ノ葉は燃えず、ミナトもクシナも生きている。ナルトは人柱力にならず、両親の腕の中で泣いている。だが、それはイタチの知る未来が大きく外れたという事でもあった。うろ覚えだった前世の記憶は、もはや破れた地図より当てにならない。この先、何が起こるのか分からない。何が起きてもおかしくない。その恐怖が、イタチの健康と強さへの渇望をさらに燃やした。
だが、強さを求める前に、話すべき事があった。
朝食を終えた後、イタチは両親を居間に残して姿勢を正した。隣室ではサスケが眠っている。小さな寝息が襖越しに聞こえ、味噌汁の湯気がまだ薄く残っていた。
「父さん、母さん。これを見てください」
イタチの声は静かだった。
フガクは新聞を畳み、ミコトは器を片付ける手を止めた。二人とも、ただならぬ気配を察したのだろう。イタチはゆっくり瞼を上げ、瞳の奥へ力を込めた。三つ巴が赤く浮かび、回る。やがて、その巴の形がさらに奥へ沈み、歪み、見慣れぬ模様へ変わっていく。
万華鏡写輪眼。
「イタチ……」
フガクの低い声が掠れた。
「なんで……」
ミコトの唇から、かすかな言葉が落ちた。
万華鏡写輪眼なぞ、容易に開眼できるものではない。フガクは開眼している。だが、それは幾つもの戦場を歩き、仲間を失い、血と炎の中で心を削られた末に辿り着いたものだった。うちはの愛が深く、その愛が強く傷ついた時、瞳は呪いのように姿を変える。力であると同時に、痛みの証でもある。
それを、五歳の子が宿している。
フガクとミコトが畏れたのは、力そのものではなかった。何故、イタチがそこへ至ったのか。どれほどの悲しみを抱えたのか。親である自分達が気づかぬところで、この子は何を見て、何を失い、何を背負ったのか。答えは分からない。分からない事が、恐ろしかった。
「いつからだ」
フガクは努めて声を整えた。
「サスケが産まれて三ヶ月ほど経った頃です。影分身をまとめて解除した後、違和感がありました。すぐ報告できず、申し訳ありません」
「痛みはあるのか。視界の歪みや、頭痛は。お前が我慢して黙っているなら、今この場で言え。怒るためではない。守るために聞いている」
「少し重い感覚はあります。ですが、痛みはありません。勝手に試すつもりもありません。だから、父さんと母さんに先に話すべきだと思いました」
フガクは長く息を吐いた。厳しい目をしているのに、その奥には明らかな動揺があった。
「イタチ、その眼は今は封印しろ。あまりにも早すぎる。お前の才を否定するつもりはない。だが、才は持てばよいものではない。扱うだけの肉体と心、そして周囲の備えが必要だ。その眼は、軽々しく使ってよいものではない」
「はい」
「三代目や四代目へ話すかは、俺が段取りを考える。シスイにもすぐには言うな。うちはの中でさえ、万華鏡は重すぎる名だ。誰に、いつ、どこまで伝えるかを間違えれば、お前自身を危険に晒す」
「分かりました。父さんの判断に従います」
ミコトはゆっくり立ち上がり、イタチを抱きしめた。強く、けれど痛くならぬように包み込む抱擁だった。
「ごめんね、イタチ……サスケが産まれてから、あなたに構えなかった。あなたは大丈夫だって、何でも自分でできる子だって、どこかで思ってしまっていたのかもしれない。でも、あなたもまだ子供なのよ。怖かったなら、もっと早く怖いと言ってよかったの」
「母さん……違います。母さんは悪くありません」
「それでも、そう思わせてしまったなら、母として謝らせて。あなたが強くても、賢くても、私にとっては大事な子なの。サスケと同じくらい、あなたも守りたいのよ」
イタチは内心で「違う違う、そうじゃない」と全力で吠えていた。違うんです母ちゃん。悲しみで開いたというより、多分サスケ可愛いと影分身酷使と守りたい気持ちが謎の化学反応を起こしただけなんです。いや、それはそれで意味が分からないけど。万華鏡写輪眼、弟の可愛さで開眼しましたとか言えるか。言えない。うちはの歴史に変な一ページを追加してしまう。
だが怒られなかった事に、イタチは内心で盛大に安堵していた。
フガクは腕を組み、深く考え込んだ。
「今日から、その眼の使用は禁止だ。必要がある場合は、必ず俺かミコトの前で行う。影分身の解除量も改めて調整する。お前は己の限界を軽く見る癖がある」
「はい。肝に銘じます」
「それと、イタチ」
「はい」
「よく話した。隠し続けなかった事は正しい……さすが俺の子だ」
父の手が、静かにイタチの頭へ置かれた。
その日から、イタチの鍛錬はさらに慎重に、そしてさらに深くなっていった。未来は読めない。だが家族と話し、守るために備える事はできる。
そして六年後——
「兄さん!また手裏剣術見せてよ!」
「おれもおれも!イタチ兄ちゃんの、ズババッってやつ見たいってばよ!」
うちはの家の修行場には、夕暮れ前の柔らかな光が差し込んでいた。木々の影が長く伸び、的として括り付けられた丸太や板が、風に揺れる葉音の中で静かに並んでいる。そこに立つのは、うちはイタチ、うちはサスケ、そして四代目火影の息子であるうずまきナルトだった。
サスケとナルトは、ミコトとクシナの親交によって幼い頃から顔を合わせていた。泣いて、笑って、取り合って、並んで眠り、やがて同じ庭で走り回るようになった二人は、血の繋がりこそなくとも、まるで兄弟のような距離で育っている。そして、その二人にとってイタチは、誰よりも近く、誰よりも遠い憧れだった。
「二人とも落ち着け。手裏剣術は見世物ではない。狙う位置、投げる前の足運び、手首の返し、全部に意味がある。……いいか?次で最後だぞ。終わったら夕飯だ」
「はやくはやく!兄さんが真面目な話すると長いんだもん!」
「分かってるってばよ!でも今日はみんなで一楽だろ?イタチ兄ちゃんのすごいの見てからラーメン食べたら、絶対もっと美味いってばよ!」
「ナルト、それは多分関係ない」
「あるって!すごい修行を見た後のラーメンは修行味がするんだってばよ!」
「修行味ってなんだよ」
サスケが呆れたように言いながらも、口元には笑みがあった。ナルトは胸を張り、当然だと言わんばかりに頷いている。イタチは二人のやり取りを見て、薄く笑った。
「では、よく見ていろ。手元だけ追うな。足、肩、視線、呼吸。手裏剣は手だけで投げるものではない」
そう言うと、イタチの纏う空気が一変した。
穏やかな兄の顔が消え、忍としての静かな気配が立つ。赤い瞳に三つ巴が浮かび、夕暮れの光を受けて鋭く輝いた。次の瞬間、イタチは地面を踏み込む。土が僅かに沈み、風が遅れて揺れた。
姿が掻き消える。
サスケとナルトの目が見開かれた時には、イタチは既に上空にいた。音もなく跳び、身体を軸にして回転する。袖の内側から手裏剣が滑り出し、両手の指の間に収まった。刃が夕日を弾く。回転の勢いを殺さず、肩、肘、手首が流れるように連動し、手裏剣が放たれた。
ヒュン、と空気が裂ける。
一枚目は正面の的へ。二枚目は右の木へ。三枚目は低く地面すれすれを走り、石に当たって跳ね、岩の裏に隠れた小さな的へ吸い込まれる。四枚目と五枚目は互いにぶつかり、軌道を変えて別々の丸太へ突き刺さった。すべての音が、ほとんど同時に重なる。
トン、トン、トン、トン、トン。
イタチは着地した。衣の裾が遅れて揺れ、三つ巴が静かに収まっていく。
「やっぱ兄さんすげぇ……!岩の後ろにある的にも当たってる!どうやったの?一回石に当てた?いや、でも角度が変だったし……兄さん、もう一回だけ見せて!」
「全然見えなかったってばよー!ズババッどころじゃなかった!ヒュッてなって、トントントンってなって、気づいたら全部刺さってた!イタチ兄ちゃん、今の絶対忍術も混ぜただろ!」
「混ぜていない。体術と投擲だけだ。もっとも、写輪眼で角度は読んだ。目で見ているのは的だけではない。空気の流れ、木の揺れ、自分の回転、手裏剣同士の距離。それを全部合わせる」
「それが難しいってばよ!」
「だから練習するんだ」
イタチは写輪眼を戻しながら、二人の前へ歩いた。
「よし、これで終わりだぞ。帰ろう、二人とも。母さん達を待たせると、俺が怒られる」
「えー!でも今日、新しい分身の使い方教えてくれるって言ったじゃん!」
「たしかに!そうだってばよ!ズババッの凄さに忘れてたけど、分身のやつも約束してた!イタチ兄ちゃん、忍は約束を守るんだろ?」
「明日は大事な任務があるんだ。その準備……がある」
イタチは一瞬だけ目を逸らした。
「嘘つきー!兄さん、今ちょっと間があった!」
「嘘ついたらハリセンボンだぞ!じっちゃんが言ってた!約束破るのはよくないってばよ!」
「ナルト、お前のじっちゃんは三代目様だろ。なんでそんな物騒なこと教えてるんだよ」
「分かんねぇけど言ってた!」
サスケとナルトが揃って頬を膨らませる。二人とも幼い顔に不満を浮かべているが、瞳は期待できらきらしていた。イタチはその視線を受け、わずかに肩を落とした。任務の準備があるのは本当だった。だが、二人に術を教える約束をしたのもまた本当である。
「分かった分かった……ただし、今から新しい術を教えるわけではない。今日は確認だけだ。分身は数を増やせばいいものではない。見せ方、立たせ方、消すタイミングが大事になる。明日以降、少しずつ教える」
「ほんと?」
「約束する。だから今日はここまでだ。帰って飯を食い、しっかり寝ろ。強くなりたいなら、休むことも修行だ」
「兄さん、それ母さんみたい」
「いいこと言うじゃん、イタチ兄ちゃん!でもラーメンは修行に入る?」
「量を考えればな……」
「やったってばよ!」
ナルトが跳び上がり、サスケも嬉しそうに笑った。その表情を見て、イタチの顔から忍としての硬さが少し抜ける。
「ほら、こい。二人とも」
イタチが手招きすると、サスケとナルトは同時に走り出した。小さな足が土を蹴り、夕暮れの修行場に笑い声が響く。イタチは笑みを浮かべたまま、向かってきた二人の額へ、人差し指と中指をそっと当てた。
「許せ、二人とも。術の修行はまた今度だ」
「またそれー!」
「絶対だからな、イタチ兄ちゃん!」
額を押さえる二人の声を背に、イタチは夕日に染まる修行場を見渡した。六年前には想像できなかった景色が、今ここにある。
未来は変わった。
だからこそ、この笑い声を守らねばならなかった。
あっという間に六年も経っちまって、俺は十一歳になった。サスケは六歳、ナルトも六歳。もう、あんよで俺の足元へよちよち寄ってきた小さな二人はいない。抱き上げたら片腕にすっぽり収まっていた弟と金髪ベビーは、今では木製のクナイを握り、俺に修行をせがみ、汗だくで走り回るまでに育ってしまった。成長とは素晴らしい。素晴らしいが早すぎる。頼む、もう一度だけ抱かせてくれ。オムツ替えもしたいし、ミルクも飲ませたい。赤ちゃんの匂いをもう一回だけ吸わせてくれ。兄としての俺の心が、過去のサスケとナルトを求めて泣いている。
修行場を片付けた俺は、サスケとナルトを連れて家へ戻った。とはいえ、家に入る前にやるべきことがある。どんなに忍が強かろうと、菌は目に見えない。見えない敵を侮る奴から倒れる。これは忍界でも前世の会社でも同じだ。体調不良で休めないサラリーマンの基本、手洗いうがいである。
「手洗いうがいだ。二人とも。手の甲、指の間、爪の周りまで洗え。喉は強くやりすぎなくていい。水を含んで、奥まで響かせるようにしてから吐き出すんだ」
「うん!兄さん、ここまで洗えばいい?爪のところもちゃんと擦ったよ」
「ガラガラ〜ッぺ!イタチ兄ちゃん見て!おれ、手ェきれいだってばよ!ほら、ぴかぴか!」
「よしよし。サスケは丁寧で偉い。ナルトは勢いが良いが、服の袖が濡れている。次からは少し捲ってから洗え」
「えーそこまで見るのかよー」
「兄さんはそういうところ、すごく細かいんだ。だけど風邪引いたら修行できないから聞いた方がいいぞ」
サスケが得意げに言う。よし、教育は順調だ。兄さん嬉しい。ナルトも頬を膨らませながら、濡れた袖をぱたぱた振っている。お前はそういうところがクシナさんに似てるな。勢いと明るさで大体押し切ろうとする。可愛いから許す。だが衛生面では許さない。病は気から、バイ菌は手と喉から。健康管理は忍の基礎だ。
家へ入ると、居間では母ちゃんとクシナさんがお茶を飲んでいた。二人とも穏やかに笑っているが、こちらを見る目は母親そのものだ。汗、怪我、顔色、服の乱れ、全部一瞬で確認される。怖い。うちはの写輪眼とは別方向の観察眼である。
「三人ともお疲れ様。怪我はない?イタチ、二人に無理をさせていないでしょうね」
「問題ありません、母さん。今日は手裏剣術を見せただけで、二人には基礎の構えと足運びを軽く確認させました。疲れすぎないところで切り上げています」
「ナルト〜?あんた、イタチ君やサスケ君に迷惑かけてないってばね?勢いだけで突っ込んだり、勝手に変な術を真似したりしてないでしょうね?」
「かけてないってばよ……母ちゃん。おれ、ちゃんとイタチ兄ちゃんの話聞いてたし、サスケともケンカしてないし、手も洗ったってばよ」
「ナルトは良い子ですよ、クシナさん。動きに勢いはありますが、人の話は聞いています。分からないことをすぐ聞けるのは、修行では大切です」
「ほら聞いた!?イタチ兄ちゃんが良い子って言った!」
ナルトが胸を張る。クシナさんは一瞬目を細め、それからにかっと笑った。
「イタチ君がそう言うなら信じるってばね。でもナルト、褒められた時ほど調子に乗らない。これから一楽に行くなら、テウチさんに挨拶とお礼を言うのよ。食べ終わった丼を雑に置いたら承知しないからね」
「は〜い!ちゃんとするってばよ」
「サスケも良い子でね。ナルト君と一緒にいると楽しいのは分かるけれど、はしゃぎすぎて転んだりしないようにね」
「うん!母さん。兄さんの言うこと聞くし、ナルトも見てる」
「なんでサスケがおれを見るんだってばよ!」
「ナルトはすぐ走るから」
「走らねぇし!」
「さっき修行場から家まで走ろうとしてた」
「それは一楽が楽しみだったからだってばよ!」
母ちゃんとクシナさんが笑う。俺も薄く笑った。いい光景だ。六年前、ナルトが無事に産まれた朝から、こういう日常が続いている。もちろん問題がないわけじゃない。うちはと里の溝、オビトの記憶、黒い何かよく分からん影。だが、今ここには母ちゃんとクシナさんがいて、サスケとナルトが言い合っている。これを守るためなら、俺は何だって鍛える。
「では、行ってきます。あまり遅くならないようにします」
「お願いね、イタチ。二人とも、イタチの手を煩わせすぎないのよ」
「うん!」
「分かったってばよ!」
そうして俺は、サスケとナルトを連れて一楽へ向かった。夕方の木ノ葉は、任務帰りの忍や買い物帰りの人で程よく賑わっている。ナルトは道端の犬に手を振り、サスケは俺の隣を歩きながら、さっきの手裏剣の軌道について質問してくる。弟の学習意欲が尊い。ナルトの好奇心も眩しい。俺の両側に未来が歩いている。そんな感じだ。
一楽の暖簾が見えてきた時、鼻先を醤油と出汁の匂いがくすぐった。ああ、これだ。木ノ葉の平和はこの匂いでできている。だが、暖簾の向こうから漂う気配に、俺は少し足を止めた。
先客がいる。
なんか、この感じ、思い出すな。
まさか大蛇丸じゃねぇよな?そういや大蛇丸さん、何やってんだろう。あの夜、一楽で一緒にラーメンを食ってから六年、姿を見ていない。戻るでもなく、完全に消えるでもなく、どこかで蛇みたいに生きているんだろう。たまに思い出す。怖いけど、ラーメンを「悪くない」と言った顔だけは妙に忘れられない。
「兄さん?どうしたの?」
「イタチ兄ちゃん、早く入ろうってばよ。おれ、味噌チャーシュー大盛りにする!」
「食べ過ぎるなよナルト。いざという時に動けなくなる」
「ラーメンは別腹だってばよ!」
「別腹を信用しすぎるな」
暖簾を潜る。
そこにいたのは、大蛇丸ではなかった。
「おお、イタチよ。それにサスケとナルトも一緒か」
湯気の向こうで、三代目が座っていた。平服姿で、いつものように客として椅子に腰かけ、目の前には醤油ラーメンが置かれている。隠居したはずの老人は、相変わらず妙に背筋が伸びていて、こちらを見て楽しそうに目を細めた。
「三代目様。
「じっちゃん!先に食べてるなんてずるいってばよ!」
「三代目様にずるいは失礼だぞ、ナルト」
「今のわしはただのラーメン好きの爺じゃ。構わん構わん。ほれ、三人とも座るとよい。今日はわしが少しだけ奢ってやろう」
サスケとナルトの顔が同時に輝いた。
俺は内心で思った。
この爺ちゃん、相変わらず一楽にいるな。
黒ゼツ「オソロシイ小僧ダ」
うちはイタチ、お前は預言者か?
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ガバ原作知識で突っ走れ!!!
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報連相は社会人の基本だろうが!!!