分身ハメ殺し忍者『うちはイタチ』   作:やめろイタチ、その技は俺に効く

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強さとは、ただ敵を倒す力ではない。倒した後に残るものから、目を逸らさぬ力でもある

 

 

 

 

 どうも!イタチやで!

 

 もうすぐ四歳になります。

 

 ちなみに俺の誕生日は六月九日だ。次のお誕生日プレゼントは何が貰えるかな?多分クナイかなんかだと思う。去年は手裏剣だった。普通の子供なら木彫りの玩具とか絵本とか、せめて甘い菓子とかを期待する年齢だと思うんだけど、ここは木の葉隠れの里で、しかもうちは一族である。誕生日プレゼントの候補に刃物が自然に入ってくる時点で、人生の方向性がだいぶ忍者に寄っている。怖い。怖いけど、正直クナイはちょっと欲しい。今の俺、精神は三十路なのに、四歳目前の身体で武器を貰って喜ぶという、なかなか終わった情緒をしている。

 

 修行は順調だ。

 

 たまに戦場から帰ってきた父ちゃんに修行をつけてもらって、それ以外の日は木の葉の演習場とか、家の近くの森の中にこっそり作った修行場で身体を動かしている。飯を食って、筋トレして、自作の兵糧丸を食って、そんで一楽に行って、また修行して、帰って寝る。そんな毎日だ。前世の三十路サラリーマン時代は、会社に行って、働いて、コンビニ飯を食って、スマホを見ながら気絶するように寝るだけだったから、それに比べれば今の生活はかなり健康的である。命の危険は桁違いに増えたけど。

 

 三代目火影猿飛ヒルゼンとの修行も良い感じだ。三代目と会ってから、もう数ヶ月ってところだと思う。

 

 やっぱプロフェッサーの名は伊達じゃねぇ!教え方が素晴らしい!ブラボー!って感じだ。

 

 父ちゃんの修行は実戦的で、無駄がなく、怖いくらい真っ直ぐだ。対して三代目の修行は、こっちに考える余白を残してくれる。答えを全部渡すんじゃなくて、少し先に置いてくる。俺がそこまで手を伸ばして掴めたら次へ進む。掴めなかったら、何が足りないのかをさりげなく示してくれる。前世でこんな上司がいたら、俺の社会人人生ももう少しマシだったかもしれない。いや、火影が上司だったら責任が重すぎて胃が死ぬか。やっぱり遠慮しておこう。

 

 分身の術は無事に覚えられた。

 

 三代目に会った次の日には、ちゃんと形になっていた。やっぱ俺は天才だった……いや、イタチの身体がか。中身はどちらかと言えば、ゲームの強キャラ戦法を現実の忍術に落とし込もうとしているアホである。だけど、この身体が凄い。チャクラの流れを一度掴むと、指先の印、呼吸、立ち方、意識の置き場所まで、全部が勝手に繋がっていく。俺が「なんかこう、いい感じに分身出ろ!」と思うだけで、身体の方が「こうですね」と正解に寄せてくれる。

 

 怖いくらい便利だ。

 

 そして周囲は、それを俺の冷静な才能だと思っている。

 

 違うんです。俺は毎回、心の中でめちゃくちゃ騒いでます。分身が出た時なんか、内心では「うおおおお!俺が二人!いや片方は実体ないけど!」と祭り状態だった。なのに外側の俺は、出した分身をじっと見つめて黙っているだけだったから、三代目は「成功に驕らず、完成度を見ておるのか」とか言い出した。違います。感動しすぎて言葉が出なかっただけです。うちはイタチの顔面補正と沈黙補正、マジで強すぎる。

 

 それと写輪眼を開眼した。

 

 なんでか?多分俺の思考とイタチの身体が上手く噛み合ってないからだ。なんというか……本当に俺がイタチとして生きていけるのか?って夜な夜な考えていたら、ある朝起きて鏡を見た時、お目目に真っ赤になって勾玉が浮いていた。しかも勾玉は三つだった。

 

 写輪眼には種類がある。まずは一つ巴だ。勾玉が一つって事だな。

 

 そんで二つ巴、これは勾玉が二つ。

 

 そして三つ巴、これは勾玉が三つ浮かんでいる。これが通常写輪眼の最終形態だ。

 

 なんと俺はいきなりコレである。どんだけ悩んでたんだ俺……確かにずっと悩んでたけどさ!!

 

 いやでも普通、写輪眼ってもっとこう、親しい人が死んだとか、戦場で死にかけたとか、そういう分かりやすい精神的ショックで開眼するものじゃなかったっけ?俺の場合、布団の中で「病弱ルート嫌だな」「一族皆殺しルート嫌だな」「サスケ生まれたらどうしよう」「分身ハメって現実だと地味じゃね?」と悩み続けた結果、朝起きたら三つ巴である。うちはの血、繊細すぎる。メンタルが極限状態だったのは認めるけど、方向性がだいぶ転生者特有の不安である。

 

 でも写輪眼を開眼したお陰で、修行はめちゃくちゃ捗った。

 

 分身の術とか火遁の術とか、その他色んな忍術を上手く扱えるようになった。今までは、チャクラを何となく練って、何となく流して、何となく形にするという、かなり雰囲気頼りの忍術だった。三代目の教えとイタチの身体性能で誤魔化していた部分が大きかったのだと思う。ところが写輪眼を使うと、チャクラの流れが見える。自分の身体の中を細い光みたいなものが巡って、印を結ぶたびに指先から腕、胸、腹、足元へ動いていくのが分かる。分身を作る時も、どこで形が歪んでいるか、どこでチャクラが薄くなっているか、どの瞬間に像が崩れるかが見えた。

 

 反則である。

 

 前世の感覚で言えば、ゲーム画面に当たり判定とフレーム表とコンボルートが全部表示されたようなものだった。そりゃ強い。うちは強いわ。これは運営にナーフされるレベルの性能だ。

 

 ただし、写輪眼は疲れる。

 

 めちゃくちゃ疲れる。

 

 最初に調子に乗って、森の修行場で分身、手裏剣、火遁の練習を全部写輪眼込みでやった時、夕方には目の奥がじんじん痛み、頭がぼんやりして、足元までふらついた。病弱イタチを回避するために鍛えているのに、便利だからって目を酷使して寝込んだら本末転倒すぎる。超健康イタチ計画の敵は病気だけじゃなかった。俺自身の調子乗りも敵だった。

 

 だから写輪眼の使用にはルールを決めた。

 

 まず、人前では使わない。これは絶対だ。父ちゃんにも母ちゃんにも三代目にも言わない。四歳前に写輪眼三つ巴なんて知られたら、うちは一族の大人達がめちゃくちゃ面倒くさい顔をする未来が見える。父ちゃんは静かに「そうか」と言うだろうし、母ちゃんは心配するだろうし、三代目はニコニコしながら深読みするだろうし、ダンゾウとかいう名前の最悪寄りの爺さんに知られたら多分ロクな事にならない。俺は目立ちたくない。いや、もうだいぶ目立っている気もするけど、それでも追加燃料は投下したくない。

 

 次に、使うのは短時間だけ。

 

 写輪眼を開いて術の流れを見る。分かったらすぐ閉じる。後は普通の目で同じ動きを反復する。これなら疲労も少ないし、普通の感覚も鈍らない。便利な道具に頼りすぎると、道具が使えない時に詰む。前世でもカーナビに頼りすぎて、駅前なのに道に迷った事がある。写輪眼はカーナビより便利だが、依存したら多分もっとヤバい。

 

 強くなっている実感はある。

 

 でも、それと同じくらい怖さも増えている。見えるようになったという事は、知りたくないものまで見えてしまうという事だ。父ちゃんが戦場から帰ってきた時、身体の奥に沈むような濃いチャクラと、傷を庇うような動きが前より分かるようになった。里の通りで包帯を巻いた忍とすれ違えば、足取りの重さや呼吸の乱れまで目に入る。見えれば見えるほど、この世界が笑って済む場所ではないと分かってしまう。

 

 だから俺は、もっと強くなる。

 

 知っただけで終わるのは嫌だ。見えるだけで何もできないのは嫌だ。原作通りの悲しい天才になる気はない。俺は根明でアホで、ラーメンが好きで、ゲームのハメ技を本気で忍術に落とし込もうとしている最低寄りの幼児だ。けれど、だからこそ暗い未来にただ飲まれるつもりはなかった。

 

 とりあえず目標は決まっている。

 

 超健康分身ハメ殺しイタチ。

 

 うん。

 

 名前は終わってるけど、かなり強そうだろ?

 

 

 

 

 

 そうして、うちはイタチの修行は苛烈さを増していく事となる。

 

 一つ目、食事。

 

 一日の三食は勿論の事、三食の合間にも栄養補給をした。まだ四歳にも満たぬ幼子の食生活としては明らかに異様であり、朝餉を終えた後に木の葉の里を走り、修行場で汗を流し、昼に一楽で味薄めのラーメンを食べ、森へ戻ってまた身体を動かし、夕餉の前に自作の兵糧丸を噛み砕くという日々は、忍の子として見ても常軌を逸していた。

 

 自作の兵糧丸を作ったのだ。

 

 フガクの書斎にあった書物を読み漁り、薬草、野草、獣肉、乾物、滋養に関する知識を得たイタチは、家の近くの森で採れる草や木の実を集め、時には罠を仕掛けて小動物を捕らえ、更には野生の猪を狩り、その肉や内臓を火遁で燻して保存食へ変えていった。火の通し方は未熟で、最初は炭と肉の境界線が分からぬ黒い塊を作り出したが、写輪眼で火の回り方と水分の抜け方を見極めるようになってからは、幼児の手によるものとは思えぬ精度で燻製を作り、すり潰した野草や木の実、骨を砕いた粉、干した肉を混ぜ合わせて丸めた。

 

 出来上がったのは、タンパク質と鉄分とカルシウムや必須アミノ酸がふんだんに含まれた激ブツだった。

 

 味は苦いを通り越して舌が痺れる程だった。口に入れた瞬間、草の渋み、肉の燻した臭み、骨粉の粉っぽさ、木の実の油分、そして何に由来するのか分からぬ猛烈な後味が舌と喉を襲い、普通の幼子なら泣き出すどころか二度と口にしない代物である。しかし、イタチは食べた。病弱になる未来を恐れ、血を吐く己の姿を想像するたび、まず健康だ、何より健康だ、と己に言い聞かせ、やがてその味に慣れていった。

 

 二つ目、筋力鍛錬。

 

 所謂筋トレである。自重トレーニングから始まり、木の葉の里を駆け回り、自作したダンベルやバーベル、木の枝を使った懸垂、石を背負っての走り込み、片足立ちでの姿勢維持、腕立て、腹筋、背筋、跳躍、着地、受け身、呼吸の制御まで、イタチは思いつく限りの鍛錬を日課へ組み込んだ。三十路の社会人だった記憶があるが故に、彼は健康診断の数値や筋肉の重要性を妙に現実的なものとして捉えており、忍として強くなる以前に、壊れぬ身体を作らねばならないと本気で考えていた。

 

 イタチの肉体のスペックをフルパワーで駆使した筋トレは常軌を逸しており、筋肉は食事に合わせてどんどん大きくなっていった。

 

 無論、幼い身体を壊さぬよう、本人なりに限界は測っていた。痛みが鋭ければ休み、関節に違和感があれば翌日は走り込みへ切り替え、疲労が深ければ一楽で炭水化物とスープを補給し、夜は素直に寝た。だが、それでも量が尋常ではない。周囲から見れば、幼子が己の身体を冷静に観察し、成長に合わせて負荷を調整しているように見えた。実際のところ、内心では「超健康イタチ計画、今日も継続中!」と妙な掛け声を上げていただけなのだが、その表情が静かなせいで、誰もそうは思わなかった。

 

 三つ目、忍術。

 

 木の葉の里の図書館やフガクの書斎、うちは一族所蔵の書物を読み漁り、イタチは忍術の知識や解釈を深めた。術とは印だけではない。チャクラの量、流れ、性質、形、呼吸、姿勢、視線、相手との距離、地形、光、音、風向き、その全てが結果に関わる。三歳ながら目覚めた三つ巴の写輪眼のお陰もあり、イタチは凄まじい練度で術式を理解し、習得していく。その中でも幻術は、写輪眼の特性上もあってか否応なく得意になってしまった。

 

 幻術とは、相手の五感と認識へ入り込む術である。イタチは最初、それを恐れた。人の意識に触れるという行為が、前世の感覚ではあまりにも気味悪かったのだ。だが、忍の世界ではそれもまた武器であり、防御であり、生存のための技術である。相手を殺さずに止められるなら、それは使い方次第で刃よりも優しい。そう納得してから、彼は幻術の訓練にも手を伸ばした。木の葉に舞う葉を一瞬だけ鳥に見せる。揺れる影を獣の足に見せる。相手の瞬きを誘う。呼吸を乱す。ほんの僅かな錯覚を積み重ね、現実の動きと噛み合わせる。

 

 そして、分身の術。

 

 まだまだ激闘忍者対戦4の友情破壊イタチには届かないが、凶悪な使い方をできるようになった。分身を相手の目の前に出現させたり、上から落としたり、背後で煙を弾けさせたり、あえて不完全な分身を作って視線だけを誘導したり、手裏剣の軌道に重ねて本体の動きを隠したりする。実体のない分身は殴れない。ならば、殴れると思わせればいい。避けねばならぬと思わせればいい。一瞬でも判断を奪えれば、その隙に本体が動く。

 

 幼いイタチは、それを真顔で行った。

 

 森の修行場で分身を出し、木の枝から飛び降り、地面に煙を散らし、手裏剣を投げ、火遁の小さな炎で退路を塞ぎ、再び分身を重ねる。その一連の動きは、まだ完成には遠い。チャクラは乱れ、分身は時に薄くなり、火遁は喉を焼きかけ、手裏剣は的の端に逸れる。それでも、構想そのものはあまりにも嫌らしかった。相手に考えさせない。相手に選ばせない。相手が選んだと思った道を、最初から潰しておく。

 

 猿飛ヒルゼンはそれを見て、幼子が既に敵の思考を奪う戦術を組み立て始めていると解釈した。

 

 うちはフガクはそれを見て、我が子が一撃の成否ではなく、次、また次、その先まで見据えていると解釈した。

 

 母ミコトは、泥だらけで帰ってきた息子が静かに飯を食べる姿を見て、何も言わずに味噌汁を一杯多くよそった。

 

 誰も知らなかった。

 

 その幼子の胸の内では、今日の分身はなかなかハメ性能が高かったな、いやでもまだ起き攻めが甘いな、などという、忍の天才とは少しばかり方向性の違う反省会が行われている事を。

 

 だが、理由がどうであれ、うちはイタチは強くなっていた。

 

 戦争の空気が里を覆い、父が血と鉄の匂いを纏って帰る夜が続く中で、その小さな身体は食べ、鍛え、眠り、術を覚え、静かに未来へ牙を研いでいた。

 

 そして、イタチが四歳になった頃——第三次忍界大戦は、ようやく終結の気配が見え始めていた。

 

 長く続いた戦は、里から活気を奪い、人々の声を低くし、子供達の笑い声さえどこか遠慮がちに変えていた。木の葉隠れの里は勝っているのか、負けているのか、幼いイタチには正確には分からない。ただ、戦場から帰ってくる忍の数が少しずつ変わり、任務に出る大人達の顔つきが、終わりを見据えた者のそれになっている事だけは感じ取っていた。

 

 その頃、うちはイタチは既に四歳とは思えぬ鍛錬を積んでいた。

 

 食べ、走り、鍛え、術を練り、分身を置き、手裏剣を投げ、火遁を制御し、写輪眼を隠しながら己の身体とチャクラを研ぎ続けていた。本人の胸の内では、超健康ハメ殺しイタチという最低極まりない目標が日々更新されていたが、周囲から見れば、寡黙な幼子が戦時の重さを受け止めながら己を律しているようにしか見えなかった。

 

 その誤解は、父であるうちはフガクの目にも届いていた。

 

 だからこそ、フガクはある日、イタチを連れて里の外へ出た。

 

 任務ではない。戦わせるためでもない。だが、忍として生きる以上、いずれ避けては通れぬものを見せるためであった。幼い子に背負わせるには早すぎる光景である。それでも戦は、人の年齢など待たない。フガクはそう判断した。

 

 イタチは父の背を追いながら、木の葉の門を越えた。

 

 森の匂いが変わった。里の中にある土と木の匂いではない。もっと湿り、重く、遠くで焦げたものと鉄のようなものが混じっていた。葉は風に揺れているのに、鳥の声は少なく、道の脇には踏み荒らされた草と、折れた枝と、乾きかけた泥が続いていた。イタチの足取りは乱れなかった。だが、胸の内では妙な警報が鳴っていた。

 

 それは、修行場へ向かう時の緊張ではなかった。

 

 一楽へ向かう時の浮つきでもなかった。

 

 前世の記憶が、事故の直前に聞いた車のブレーキ音を、どこか遠くから引きずり出すような嫌な気配であった。

 

 やがて、森が開けた。

 

 「……」

 

 そこに広がっていたのは、無数の忍の死体だった。

 

 木の葉の忍、岩隠れの忍、額当ての傷で所属すら判別しにくくなった忍、大陸中から集められ、命じられ、走り、斬り、焼き、倒れた者達の死体がひしめいていた。地面は踏み固められ、ところどころ黒く焦げ、乾いた血が土と混じって暗い斑を作っていた。折れたクナイ、半ば埋まった手裏剣、破れた忍装束、切れた包帯、割れた面具。その全てが、ここで何が行われたかを無言で語っていた。

 

 イタチは息を止めた。

 

 止めたつもりはなかった。ただ、吸う事ができなかった。鼻を刺す血の匂い、薬品の匂い、焦げた布と肉の匂いが、肺の手前で固まる。四歳の身体には濃すぎる空気だった。前世の彼は死体を見た事などない。ニュースや映画や漫画でなら幾度も見た。NARUTOという物語の中で、忍が死ぬ場面も知っていた。だが、それらは紙面の中であり、画面の向こうであり、ページを閉じれば遠ざけられるものだった。

 

 ここでは、閉じるページがない。

 

 顔を背けても匂いは消えず、耳を塞いでも蠅の羽音は残り、目を閉じても瞼の裏にさっき見た光景が焼きついた。イタチの中で、いつもの騒がしい声が消えていた。ハメ殺しだの、超健康だの、ラーメンだの、そういう言葉は一瞬で遠くへ吹き飛ばされ、代わりに残ったのは、ただ重い沈黙だった。

 

 フガクは隣に立ち、息子を見下ろした。

 

 「よく見ておけ、イタチ」

 

 その声は低かった。

 

 叱る声ではない。命じる声でもない。戦場を知る者が、戦場を知らぬ者に告げる声だった。

 

 「これが戦だ」

 

 イタチは答えなかった。

 

 答えられなかった。

 

 四歳の幼子として泣き出してもおかしくなかった。転生者として内心で逃げ出してもおかしくなかった。だが、うちはイタチの身体は静かに立っていた。顔色は悪い。唇も僅かに白い。それでも膝は折れず、目は逸らされなかった。その姿を、フガクは幼いながらも現実を直視する子として見た。

 

 しかし、その内側で起きていたものは、もっと歪で、もっと切実だった。

 

 冗談ではない。

 

 こんな場所にサスケを立たせたくない。

 

 母を、父を、一族を、誰かの命令と誰かの都合と誰かの正義で、こんな土の上に転がしたくない。

 

 そんな思いが、言葉になる前に胸を殴った。原作の流れをうろ覚えでしか知らぬ彼でも、分かる事があった。ここは終点ではない。戦場とは、ただ人が死ぬ場所ではない。死んだ者の恨みと、残された者の恐怖と、勝った者の責任と、負けた者の憎悪が積み上がり、次の火種になる場所なのだ。

 

 フガクは一歩前へ進み、倒れた木の葉の忍の傍らに膝をついた。まだ若い男だった。額当てには木の葉の印があり、手には折れたクナイが握られている。指は固まり、最後まで離さなかったのだと分かる。

 

 「この者にも家族がいただろう」

 

 フガクは静かに言った。

 

 「向こうに倒れている岩の忍にも、同じように家族がいたはずだ」

 

 イタチは視線を動かした。

 

 岩隠れの忍が倒れていた。顔は泥で汚れ、口元には乾いた血がこびりついている。敵。木の葉にとっては敵。父が殺してきた者達と同じ側の人間。だが、倒れてしまえば、敵も味方も同じように動かなかった。

 

 その事実が、イタチの胸に沈んだ。

 

 重く、冷たく、簡単には消えない形で。

 

 「忍とは、これを作る者だ。そして、これを背負う者だ」

 

 フガクの声は揺れなかった。

 

 「強さとは、ただ敵を倒す力ではない。倒した後に残るものから、目を逸らさぬ力でもある」

 

 イタチは小さく頷いた。

 

 その頷きは、周囲から見れば静かな覚悟に見えただろう。フガクにもそう見えた。戦場を前にして泣きもせず、叫びもせず、ただ目を伏せて受け止める幼子。凶眼フガクの子。うちはの才。いずれ里の中枢へ届くであろう器。

 

 だが、イタチの内側では、違う声が震えていた。

 

 無理だ。

 

 こんなの、普通に無理だ。

 

 けれど、無理だからといって目を閉じたら、きっと何も変わらない。

 

 彼はゆっくり息を吸った。吐き気がした。それでも吸った。血と土と焦げの匂いを肺に入れ、胃の奥が捻れるのを堪えながら、己の小さな拳を握った。

 

 その時、隠していた瞳の奥で、赤い熱が僅かに疼いた。

 

 三つの勾玉が開きかけ、イタチは咄嗟に目を伏せた。誰にも見られてはならない。今ここで写輪眼が露わになれば、父は必ず気づく。だから彼は、死者達の前で静かに瞼を下ろした。

 

 フガクは、それを黙祷と受け取った。

 

 幼い息子が、敵味方を問わず死者へ祈っているのだと。

 

 実際、その解釈は完全な間違いではなかった。イタチは確かに祈っていた。名前も知らぬ者達へ。自分の未来へ。まだ生まれていない弟へ。どうか、こんな場所へ辿り着かないでくれと。

 

 戦場の風が、黒い髪を揺らした。

 

 四歳のうちはイタチは、その日初めて、本当の意味で忍の世界を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 父ちゃんに連れ出され、戦場に行った。

 

 まぁ、地獄だ。

 

 地獄絵図ってやつである。漫画とか、映画とかでそういうシーンは見た事がある。某狂戦士のベルセルク漫画なんて、俺が今見ている光景よりも酷いものが普通に出てくる。ページをめくりながら「うわぁ、作者の精神力どうなってんだ」と思った記憶もある。けれど、それはあくまで漫画だった。紙の上の線で、インクで、画面の向こう側にある作り物で、どれだけ凄惨でも本を閉じれば終わるものだった。

 

 でも実際にこうやって人の死とかを目の当たりにすると、かなりくる。

 

 土の上に倒れた忍達は動かない。木の葉の忍も、岩隠れの忍も、額当てが割れて所属すら分からない忍も、同じように冷たくなっている。乾いた血が土に染み込み、焦げた布と肉の臭いが鼻に刺さる。折れたクナイ、欠けた手裏剣、握られたまま固まった指、開いたまま何も見ていない目。前世の俺なら、こういう場面を見たら即ブラウザバックだった。だが今は目を逸らしても臭いが残る。音が残る。死体がそこにあるという事実が残る。

 

 「強さとは、ただ敵を倒す力ではない。倒した後に残るものから、目を逸らさぬ力でもある」

 

 少し離れた場所に立っていた父ちゃんが俺に言った。

 

 重い。

 

 言葉が重い。場面も重い。空気も重い。俺の中のアホな部分が、完全に部屋の隅で体育座りしている。いつもなら「うわぁ、父ちゃん名言製造機じゃん」とか茶化すところなのに、今は無理だった。ふぅ〜深呼吸深呼吸〜臭い……鼻から入った血と焦げの臭いに、身体がギュッとなった。胃の奥が縮んで、喉の辺りが詰まる。

 

 というか思わず写輪眼が疼いた。

 

 隠してたもんが出そうになった。瞼の裏に赤い熱が滲み、三つの勾玉が勝手に回り出しそうになる。危ねぇ危ねぇ。ここで三つ巴が父ちゃんにバレたら、戦場見学どころではなくなる。絶対に重い顔で見られる。家に帰った後も、母ちゃんが心配し、父ちゃんが黙り、俺の逃げ場がなくなる。今はそれどころじゃない。目の奥の熱を押し込めるように、俺は少し俯いた。

 

 「イタチ、帰るぞ」

 

 「はい」

 

 そんなこんなで帰る事になった。

 

 助かった。いや、戦場を見た時点で何も助かっていない気もするが、とにかくこの臭いと死体の真ん中から離れられるだけでありがたい。俺は父ちゃんの背中を追いながら、足元の土を踏んだ。ぬかるみではないのに、やけに重く感じる。さっき見た忍達の顔が頭の中に残り、歩くたびに胃の奥へ沈んでいく。超健康ハメ殺しイタチとか言っていた自分が、急にとんでもなく軽く思えた。

 

 暫く歩いていると、前方に気配を感じた。

 

 木の葉の忍じゃない。

 

 敵意マシマシ気配だ。

 

 「止まれ、イタチ」

 

 父ちゃんが俺を庇うように前に出る。

 

 その背中を見た瞬間、空気が変わった。家で飯を食う父ちゃんでも、修行で俺を見てくれる父ちゃんでもない。凶眼フガク。うちはの忍。戦場で敵を殺し、生きて帰ってくる男の背中だった。俺は思わず息を止めた。

 

 そして前方に三人の忍がスッと現れた。

 

 あの額当て、岩隠れの忍だ。

 

 三人とも汚れた装束を着ていた。正面の男は体格がよく、肩に厚みがある。右の男は細く、指先が落ち着きなく動いている。左の男は一歩引いた位置から、俺と父ちゃんの逃げ道を見るように立っていた。三代目との修行で相手の配置を見る癖がついたせいか、嫌でも分かる。こいつらは偶然出てきたんじゃない。俺達を狙って出てきた。

 

 「その家紋、木の葉のうちは一族だな」

 

 三人の内一人が言った。

 

 「死んでもらうぞ」

 

 「……面倒な奴らだ」

 

 父ちゃんが声を漏らした。

 

 というかコレ……もしかして戦う感じか?

 

 マジか〜!初戦闘が四歳!?いけるのか!?俺!!前世喧嘩もした事ない三十路サラリーマンの俺が忍者として戦えるのか!?取引先との電話で胃を痛め、上司の機嫌を読んで昼休みをずらし、満員電車で鞄を抱えていたあの俺が、今から岩隠れの忍と命懸けバトル?難易度の上がり方がバグっている。チュートリアル終わってすぐ裏ボスに会ったみたいなもんだろ、これ。

 

 いや、戦える!

 

 どんだけ修行したと思ってんだ!

 

 食育もやった。赤ちゃんの頃から母乳とミルクを全力で飲み、三食の飯を大事にし、自作の激マズ兵糧丸まで噛み砕いてきた。筋トレもした。腕立て、腹筋、走り込み、懸垂、木登り、石を背負った移動、四歳児のやる量じゃないくらいやった。忍術もやった。分身、火遁、手裏剣、幻術の触り、写輪眼は隠しているけど三つ巴まである。/漫画《原作》のイタチには並べねぇかもしれねぇけど、今の俺だって何もしてこなかったわけじゃない。

 

 やってやるぜ!

 

 俺は心の中で拳を握った。

 

 父ちゃんの背中越しに岩隠れの忍を見る。怖い。怖いけど、目は逸らさない。相手の立ち位置、足運び、指の動き、チャクラの気配。写輪眼を開かなくても、これまでの修行で多少は見える。たぶん正面からは無理だ。だったら分身で視線を散らして、足元に手裏剣を投げて、火遁で牽制して、逃げ道を作る。勝つんじゃない。まずは死なない。相手を倒すより、生き残る。俺の戦闘方針、非常に堅実。

 

 「イタチ、下がっていろ」

 

 「はい」

 

 俺は即答した。

 

 やっぱ怖い!父ちゃんに任せる!

 

 いや、今の流れで戦う気満々だったじゃん、と思うだろう。俺も思う。でも無理。父ちゃんが下がれと言ったなら下がる。これは逃げではない。戦術的後退である。前世の社会人経験から言っても、任せられる上司がいる案件に新人が突っ込むのは愚策だ。しかも今回の上司はうちはフガクである。頼もしさの桁が違う。

 

 俺は素直に数歩下がった。

 

 その瞬間、岩隠れの忍達が動いた。

 

 正面の男が踏み込み、右の男が印を結び、左の男が斜めに散る。父ちゃんの肩が沈んだ。次の瞬間、金属音が鳴った。父ちゃんのクナイが正面の刃を弾き、火花が散る。同時に地面が盛り上がり、土の棘が父ちゃんの足元を狙う。父ちゃんは半歩だけ下がり、俺のいる位置を庇うように体をずらした。

 

 速い。

 

 全部速い。

 

 修行で見た父ちゃんの動きより、ずっと鋭い。無駄がないなんて言葉では足りない。相手の攻撃が来る前に、父ちゃんはもうそこにいない。刃を受けるのではなく、相手の手首の角度を変えて軌道をずらす。土遁を避けるのではなく、盛り上がる前の地面を踏んで崩す。三人を相手にしているのに、父ちゃんは囲まれていなかった。むしろ岩隠れの三人の方が、父ちゃんの位置取りに引きずられて、少しずつ互いの邪魔になっている。

 

 これが本物の忍の戦いか。

 

 俺の分身ハメ計画、まだまだ可愛いもんだな。

 

 そう思った瞬間、左へ散った忍の視線が俺へ向いた。

 

 あ。

 

 嫌な予感がした。

 

 父ちゃんを崩すために、俺を狙う気だ。身体が冷えた。逃げるか。下がるか。分身を出すか。写輪眼は使うな。隠せ。いや、でも死んだら隠す意味もない。思考が一瞬でぐちゃぐちゃになる。

 

 父ちゃんが低く叫んだ。

 

 「イタチ、動くな」

 

 はい、動きません。

 

 動きませんけど、相手がこっち来そうなんですけど?

 

 俺は喉の奥で息を止め、袖の中の手裏剣に指をかけた。怖い。めちゃくちゃ怖い。やっぱり戦いたくない。でも、もし来るならやるしかない。修行はしてきた。食って、鍛えて、術を覚えてきた。全部、この瞬間に死なないためだ。

 

 岩隠れの忍が、俺へ向かって地面を蹴った。

 

 どうするどうする俺!

 

 「土遁——拳岩の術」

 

 俺に向かって踏み込んできた岩隠れの忍が術を発動した。

 

 土遁『拳岩の術』

 

 拳というか腕全体を岩に変えて相手をぶん殴る単純な術だ。サイズもかなり大きくなって範囲も広くなる。知識だけはある。だけど実際に生で見るのは初めてだ。

 

 怖い。めっちゃ怖い。

 

 でも……イケる。

 

 「無駄だ」

 

 俺は静かに呟きながら、高速で印を結び分身を射出する。出現場所は相手の頭上——

 

 「な!?」

 

 瞬間移動かと見紛うスピードで突如として相手の頭上に現れた俺の分身が、流れのまま踵落としを相手に振り下ろす。

 

 だが相手もただではやられなかった。驚きながらも岩の腕を振り上げて、俺の分身を消し飛ばした。

 

 ふっふっふ……無駄だと言っただろう。

 

 俺は既に次の動作に移っている。

 

 俺は踏み込んで瞬時に相手の後ろに回りながら、隙だらけの背中に掌底を叩き込んだ。

 

 「グハァ!!」

 

 岩隠れの忍の身体が前へ折れた。掌に伝わった感触は、人間の背中を叩いたというより、厚い革袋の下に硬い筋肉と骨が詰まっているものを無理やり押し込んだような、妙に生々しいものだった。うわ、手応えがある。めちゃくちゃある。ゲームだったらヒット音が鳴って相手の体力ゲージが減るだけなのに、現実だと相手の息が詰まる音とか、服越しに伝わる体温とか、肺から漏れた空気の湿った感じまで全部来る。正直きつい。だが今は気持ち悪がっている暇はない。

 

 相手は膝をつかなかった。

 

 大人の忍、しぶとすぎる。

 

 「この、ガキがぁ!」

 

 岩隠れの忍が振り返りながら、岩の腕を横薙ぎに振るってきた。でかい。速い。しかも範囲が広い。俺の身体なんか、まともに食らえば一発で布団みたいに吹っ飛ぶ。いや布団ならまだいい。中身が入ったまま畳まれる。怖い怖い怖い。さっきまで「無駄だ」とか言って格好つけた俺、出てこい。お前のせいで相手がキレたぞ。

 

 俺は低く沈んだ。

 

 岩の腕が頭上を通り抜け、風圧で髪が揺れた。ほんの少し遅れていたら頭が消えていた。俺の心臓が、四歳児の胸の中でバカみたいに暴れている。だが写輪眼を開いた視界は、そんな内心とは関係なく冷静だった。相手の肩が開いている。重い岩腕を振ったせいで体勢が流れている。右足に体重が乗りすぎて、左の膝が遅れている。

 

 そこだ。

 

 俺は袖から手裏剣を抜き、相手の足元へ投げた。

 

 当てる必要はない。踏ませる必要もない。ただ、そこに刃が飛んできたと思わせればいい。岩隠れの忍の視線が一瞬だけ下がる。その瞬間、俺は二体目の分身を相手の正面に置いた。白煙が弾け、俺そっくりの姿が無表情で立つ。

 

 相手の顔が歪む。

 

 「また分身か!」

 

 そうです。また分身です。友達の友情を破壊したあの嫌らしさ、今ここで命を救うために使わせてもらいます。恨むなら小学生時代の俺と激闘忍者対戦4を恨んでくれ。

 

 分身を殴ろうと岩の腕が動く。

 

 その前に、俺はさらに印を結んだ。

 

 今度は相手の背後ではなく、真横。視界の端にだけ引っかかる位置。三代目が言っていた。人は真正面の大きな動きより、視界の端の違和感に弱い。父ちゃんが言っていた。敵の足を止めたければ、敵の目ではなく、判断を止めろ。俺はその二つを繋げる。いや、実際にはゲームの起き攻めを現実化しているだけなんだけど、理屈をつけると何か凄そうなので今はそれでいく。

 

 白煙が三度弾けた。

 

 岩隠れの忍の動きが乱れる。

 

 俺はその乱れに滑り込んだ。低く、短く、地面を舐めるように踏み込み、相手の膝裏に蹴りを入れる。小さな足では威力が足りない。だからチャクラを足裏へ集め、当たる瞬間だけ叩き込む。鈍い感触。相手の膝が僅かに崩れる。

 

 「ぐっ」

 

 よし、効いた。

 

 いや、効いたけど倒れない。大人の忍、耐久力おかしい。こちとら四歳児の全力コンボだぞ。普通もうちょっとリアクションしてくれ。せめてよろめけ。いやよろめいてるか。十分か。俺の基準がゲームに寄りすぎている。

 

 岩隠れの忍が歯を剥いた。

 

 その顔を見た瞬間、身体の芯が冷えた。

 

 殺される。

 

 この人は本当に俺を殺すつもりだ。子供とか関係ない。うちはだから。敵だから。戦場だから。それだけで十分なのだ。さっき見た死体の中に、俺も加わるかもしれない。そう思った瞬間、吐き気と一緒に、目の奥の勾玉が強く回った。

 

 写輪眼ッ!!

 

 世界がさらに細かくなる。

 

 相手の呼吸が見える。喉の動き、歯の噛み締め、岩腕に流れるチャクラのムラ、次に踏み込む足の角度。全部見える。怖い。怖いのに、分かる。分かるなら、まだ生きられる。

 

 俺は火遁の印を結んだ。

 

 「火遁——鳳仙火の術」

 

 小さな火の玉が幾つも飛ぶ。威力は低い。燃やすためじゃない。目を塞ぐためだ。岩隠れの忍が腕で顔を庇う。岩の表面で火が弾け、赤い光が散る。その一瞬、俺は本体の気配を薄め、分身の気配を濃く見せるようにチャクラを流した。成功しているかどうかなんて分からない。だが相手の視線は分身へ吸われた。

 

 今だ。

 

 俺は背後へ回る。

 

 今度は掌底ではない。クナイを抜く。手が震える。人を斬る感触は嫌だ。さっき少し当てただけでも気持ち悪かった。でも、やらなきゃ死ぬ。俺が死んだら、父ちゃんも崩れる。母ちゃんも泣く。まだ生まれていないサスケにも会えない。そんなのは嫌だ。

 

 俺は相手の利き腕の付け根、岩で覆われていない部分へクナイを突き立てた。

 

 「があああっ!」

 

 血が飛んだ。

 

 熱いものが頬にかかった。俺は呼吸を止めた。やった。やってしまった。でも止まるな。ここで止まったら全部無駄だ。俺はクナイを抜きながら後ろへ跳ぶ。岩隠れの忍の岩腕が地面を叩き、土が爆ぜる。石の破片が頬を切った。痛い。けれど生きている。

 

 「イタチ!」

 

 父ちゃんの声が近い。

 

 直後、黒い影が俺の横を抜けた。

 

 父ちゃんだった。

 

 父ちゃんは岩隠れの忍の懐へ入り、顎を跳ね上げるように掌底を打ち込んだ。首が不自然に揺れ、男の身体がぐらりと傾く。さらに父ちゃんの膝が腹へ入り、最後に首筋へ手刀が落ちた。鈍い音がして、岩隠れの忍は土の上へ崩れた。

 

 動かない。

 

 死んだのか、気絶したのかは分からない。

 

 分かりたくなかった。

 

 俺は荒く息を吐いた。肩が上下する。手が震えている。クナイには血がついている。頬にも、服にも、土と血がついている。さっきまで心の中で格好つけていた自分が嘘みたいに、今は足元がぐらぐらしていた。

 

 父ちゃんが俺の前に立った。

 

 その視線が、俺の顔に止まる。

 

 あ。

 

 やばい。

 

 写輪眼、開きっぱなしだ。




うちはフガク「!?」



ルーキーランキング1位!
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作者にわかでちょくちょくガバがありますが、今後ともよろしくお願いします。
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