分身ハメ殺し忍者『うちはイタチ』   作:やめろイタチ、その技は俺に効く

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ああ、ミコトのところの子!噂は聞いてるってばね。すごく大人しい子なんでしょ?

 

 

 

 

 おっす!俺イタチ!今日はブラブラと木の葉の里を散策しようかなと思う。

 

 今日は休息日だ。

 

 まぁ休息日でも筋トレとかはしてるけど……

 

 休息日とは何か。前世の三十路サラリーマン時代の俺なら、布団から出ず、スマホをいじり、昼過ぎにカップ麺を食べ、気づけば夕方になっている日を休息日と呼んでいた。だが今の俺は違う。うちはイタチである。病弱ルートを全力で回避し、将来の悲惨なイベントを可能な限り粉砕し、超健康分身ハメ殺しイタチとして生き延びるためには、休息日でも軽い鍛錬は必要なのだ。腕立て、腹筋、背筋、柔軟、呼吸法、軽い走り込み、あと兵糧丸の試食。うん、休息とは?

 

 シスイ?

 

 アイツはアカデミー生だから今は学校で勉強中なんよね。というか俺も六歳になったら忍者アカデミーに通う事になるんだよなぁ。めっちゃ楽しみ!どんな勉強すんのかな?三十路転生の特典使っていいかな?算数に国語に理科に社会に道徳に初等教育ならお手のもんよ。

 

 いや、この世界のアカデミーで道徳をどこまでやるのかは知らん。というか忍者育成機関で道徳って何を教えるんだ。仲間を大切にしましょう、任務は完遂しましょう、敵は必要なら殺しましょう、みたいな情緒ぐちゃぐちゃカリキュラムになるのでは?前世の小学校なら、朝顔を育てたり、給食当番したり、跳び箱で膝を擦りむいたりしていればよかった。こっちの子供はクナイを投げ、変化の術を練習し、卒業したら任務に出る。普通に考えておかしい。だが、そのおかしい世界で生きるには、俺もおかしくなるしかない。

 

 「ん?」

 

 懐から取り出した自作兵糧丸を口に放り込みながら歩いていると、正面から傷だらけの集団が歩いてきた。集団というか数人の忍。

 

 おいおいおいアレって……

 

 カカシさんとリンさんとミナトさんじゃないっすか!

 

 俺は兵糧丸を噛む顎を止めそうになった。いや止めたら口の中に激マズが滞在する時間が延びるので、必死に噛み砕いたまま目を見開く。前方から歩いてくる金髪の青年は、遠くからでも分かるくらい空気が違う。柔らかく笑っていそうな顔立ちなのに、傷だらけの装束と疲れの滲む肩が戦場帰りを物語っている。それでも足取りには乱れがなく、周囲を見る視線も自然だ。木の葉の黄色い閃光、波風ミナト。未来の四代目火影。ナルトの父ちゃん。ビッグネーム過ぎて心臓に悪い。

 

 その後ろに、白髪の少年がいる。片目を隠すように額当てを下ろし、口元まで布で覆っている。小さい。いや、俺からすれば十分年上だけど、前世の感覚だとまだ子供だ。それなのに目元が重い。疲れだけじゃない。何かを失った人間の沈み方をしている。はたけカカシ。若いカカシさんである。さらに隣には、焦茶色の髪の少女。のはらリン。彼女も怪我をしているようだが、それでもカカシを気遣うように歩いている。

 

 あれ……オビトがいない。

 

 そうか、神無毘橋の戦い!めちゃくちゃ重要イベント忘れてたわ!いやちょっと待て……あれオビトって死んだんだよな?やべぇ……まだ重要な事忘れてる気がするわ。ま、いっか!よくねぇか?

 

 よくねぇな。

 

 全然よくねぇ。

 

 神無毘橋。オビト。カカシの写輪眼。リン。ミナト班。俺のうろ覚え原作知識の中でも、かなり重要な単語が次々に浮かぶ。浮かぶのに、肝心な部分が霧みたいにぼやけている。オビトは死んだと思われた。でも確か死んでない。いや死んだ扱いで、誰かに拾われて、そこから世界規模で大変な事になる。リンも確か、とんでもなく悲惨なことに関わっていた。カカシの闇が深くなる。ミナトさんも後に九尾で……待て待て待て、情報量が多すぎる。四歳児の休日散歩にぶち込んでいいイベントじゃない。

 

 てか兵糧丸クソまずい。

 

 深刻な原作イベントを前にしても、舌は現実を訴えてくる。俺の自作兵糧丸は栄養だけを目指した結果、味という概念を置き去りにした。干し肉、薬草、木の実、骨粉、塩、蜂蜜、滋養に良さそうな草。健康には良い。たぶん良い。だが口の中では、土と苦味と獣臭さが団結して「うらああああ!!!」と一揆を起こしている。こんなものを噛みながら木の葉の英雄達と遭遇する俺の人生、何なんだ。

 

 「おや」

 

 木の葉の黄色い閃光が俺の前にやってきた。

 

 近い。

 

 近くで見ると、さらに眩しい。いや本当に光っているわけではないが、雰囲気が爽やかすぎる。傷だらけで疲れているはずなのに、俺を見る目は柔らかい。前世でこんな上司がいたら、多少の残業なら頑張れたかもしれない。いや、やっぱ残業は嫌だけど。

 

 「君は、うちはの子かな?」

 

 「はい。うちはイタチです」

 

 俺は背筋を伸ばして答えた。

 

 内心では大騒ぎである。ミナトさんだ。生ミナトさんだ。飛雷神の人だ。螺旋丸の人だ。ナルトの父ちゃんだ。原作開始時点では既に故人の人が、今こうして俺の目の前で普通に喋っている。すごい。すごいけど重い。原作で死ぬ人に会うたび、俺の中の何かが胃を掴まれる。シスイもそうだ。父ちゃんと母ちゃんもそうだ。未来を知っているというのは、チートというより精神攻撃ではないだろうか。

 

 「イタチ君か。フガクさんの息子さんだね。三代目から話は聞いているよ」

 

 また三代目ぇぇぇぇ!

 

 どこまで俺の話を流しているんですか火影様。シスイにも言っていたし、ミナトさんにも言っている。木の葉の有望株共有掲示板でもあるのか。俺は静かに健康管理と分身研究をしているだけの四歳児です。あまり大物に認知されると胃に悪いんです。特にこの里にはダンゾウとかいう絶対近づきたくないランキング一位の男がいる。情報流通は慎重にお願いしたい。

 

 「光栄です」

 

 「そんなに固くならなくていいよ」

 

 ミナトさんは笑った。

 

 その笑顔が優しすぎて、逆に胸が苦しくなる。いい人だ。この人は本当にいい人だと思う。疲れていて、仲間を欠いて、それでも四歳の俺に柔らかく話しかけてくれる。だからこそ、未来の死が重い。九尾の夜。まだ先のはずなのに、もうすぐでもある。俺はその時までに何ができる?四歳の今、ミナトさんに「九尾に気をつけてください」なんて言っても不審者幼児で終わる。いや不審者どころか、予言者か間者扱いされるかもしれない。

 

 カカシがこちらを一瞥した。

 

 片目しか見えないのに、視線が鋭い。だが、その鋭さの奥が空っぽに近い。オビトを失った直後だからか。俺はカカシの顔を見て、また記憶の断片を探る。あの片目の下に、うちはの写輪眼があるはずだ。オビトから託された眼。それが後のカカシさんの代名詞になる。だが今の彼は、そんな格好いい肩書きで済ませられる状態ではない。友達を失った子供だ。

 

 リンは俺に気づくと、少しだけ微笑んだ。

 

 優しい笑顔だった。

 

 やめてくれ。その笑顔は俺に効く。

 

 その笑顔もまた、未来の何かに繋がっている気がする。俺は思い出せない。思い出せないのが怖い。知っているはずなのに、肝心なところで抜けている。前世の俺、もっと真面目に読んでおけや!ゲームのイタチの分身ハメで友達を苦しめている場合じゃなかった!

 

 「何か食べていたのかな?」

 

 ミナトさんが俺の口元を見て、少し首を傾げた。

 

 俺はごくりと兵糧丸を飲み込んだ。

 

 苦い。

 

 喉の奥に薬草の後味が残る。

 

 「自作の兵糧丸です」

 

 「へぇ、自作なんだ。すごいね」

 

 褒められた。

 

 嬉しい。

 

 しかし味は終わっている。

 

 「健康のために作っています」

 

 「健康のためか。それは大事なことだね」

 

 ミナトさんは真面目に頷いた。

 

 四歳児の健康発言を笑わない。さすが未来の火影。器が違う。俺は小さく頭を下げた。内心では、ミナト班の状況、オビトの不在、リンの未来、カカシの写輪眼、九尾の夜、兵糧丸の不味さが同時に渦巻いている。情報の交通事故である。

 

 休息日の散策は、始まって早々に、とんでもない人物達との遭遇イベントになってしまった。

 

 「疲れてたから僕にもくれるかな?」

 

 「先生……!」

 

 ミナトの後ろにいたカカシが咎めるような口調でミナトを呼んだ。

 

 俺の兵糧丸を食いたいだと!?父ちゃんも食ったことないのに!?ちなみにシスイはゲロってた。

 

 「不味いですよ?」

 

 「兵糧丸は飲むものだから関係ないでしょ?」

 

 !?

 

 マジで?

 

 嘘だろ?俺今まで普通に噛み砕いてたぞ。嫌でも味が直撃して毎回悶絶してるんだぞ。シスイも……

 

 「『なんかデカくねぇか?これじゃ飲めねぇじゃん』」

 

 少し前に言ったシスイの言葉が脳内で復唱された。

 

 俺の兵糧丸はデカい。飲み込むには確かにちょっとデカい。一回食えば腹がいっぱいになる量がこの大きさだったんだ。そうか……!もっと小さくすればよかったんだ!チクショウ!横着してた!小さくして錠剤みたいに一気に三粒飲むとかにすればよかったんだ!サプリみたいに!普通に団子作ってたわ!

 

 「こちらです」

 

 俺は懐から小袋を取り、中から兵糧丸を出してミナトに渡した。

 

 「サイズ感すごいね」

 

 「噛んで下さい」

 

 「匂いもすごいね」

 

 「噛んで下さい」

 

 「わ、分かったよ……」

 

 木の葉の黄色い閃光が、四歳児の自作兵糧丸を前に僅かに怯んだ。

 

 その事実だけで、俺の中の兵糧丸開発史に新しい一頁が刻まれた気がした。いや、誇っている場合ではない。これから未来の四代目火影に、俺の試作品を食わせるのである。食品衛生責任者として胃が痛い。ちなみに材料はちゃんと選んでいる。干し肉、木の実、薬草、骨粉、蜂蜜、塩、滋養に良いと書物にあった草。多分毒はない。多分。いや毒草は避けたはずだ。三つ巴で見ても毒は分からないけど、匂いと色と書物で確認した。大丈夫。大丈夫なはず。

 

 ミナトは兵糧丸を指先で持ち、しばらく眺めた。

 

 丸い。

 

 そしてデカい。

 

 改めて他人の手に渡った姿を見ると、これは兵糧丸というより携帯食料団子である。戦闘中に素早く飲む道具ではない。山歩きで小腹が空いた時に食うやつだ。いや味は山歩きの楽しみを破壊するけど。なぜ俺は今までこのサイズで正解だと思っていたのか。健康と栄養に気を取られ、兵糧丸本来の用途を完全に忘れていた。兵糧丸は食事ではなく補給。サプリ。非常食。そう考えると俺のは主食である。

 

 「先生、本当に食べるんですか」

 

 カカシがじっとミナトを見た。

 

 「イタチ君がくれたものだからね」

 

 「任務帰りに、正体不明の手作り兵糧丸を食べるのはどうかと思います」

 

 正論!

 

 カカシさん、若いのに正論!

 

 俺もそう思います。だけど目の前で言われると胸が痛い。正体不明は否定できない。四歳児が懐から出した、匂いの強い、やたらデカい丸薬。怪しすぎる。前世なら絶対に食べない。たとえ取引先の部長に勧められても、笑顔で断る。いや部長相手なら断れずに食べるかもしれない。社会人の悲しさ。

 

 「大丈夫。変な悪意は感じないよ」

 

 ミナトはそう言って、俺を見て少し笑った。

 

 悪意はない。

 

 悪意はないが、味は悪意に満ちている。

 

 リンも横から心配そうに覗き込んでいる。彼女の顔には、戦場帰りの疲れと、それでも誰かを気遣う柔らかさが残っていた。やめてくれ。その優しい顔で俺の兵糧丸を見ないでくれ。これが原因でミナトさんが悶絶したら、俺はリンさんの前で土下座するしかない。

 

 ミナトは覚悟を決めたように、兵糧丸を口へ入れた。

 

 噛んだ。

 

 乾いた音がした。

 

 次の瞬間、ミナトの表情が止まった。

 

 うわ。

 

 止まった。

 

 黄色い閃光が止まった。

 

 「あ、あの……」

 

 「……うん」

 

 ミナトは静かに頷いた。

 

 だが目が笑っていない。いや笑おうとしている。優しい人だから、四歳児の前で露骨にまずい顔をしないようにしているのだ。だが無理だ。口の中で薬草の苦味、干し肉の燻臭、骨粉の粉っぽさ、木の実の油、蜂蜜の妙な甘さ、塩気が大乱闘しているはずだ。俺は知っている。毎日戦っているから分かる。

 

 「……これは、すごいね」

 

 「不味いですか?」

 

 「うん。かなり」

 

 正直!

 

 でも助かる!

 

 ミナトはしっかり噛み、どうにか飲み込んだ。喉が動く。さすが忍。さすが上忍。シスイは吐いたが、ミナトさんは飲み込んだ。格が違う。いやそこで格を測るな。

 

 「ただ、効きそうではある。身体が温まる感じがするし、材料も悪くない。持続力を狙っているのかな?」

 

 「はい。腹持ちと滋養を重視しました」

 

 「発想はいいと思う。でも、兵糧丸としては大きすぎるね。戦闘中や移動中に使うなら、もっと小さく、喉を通りやすく、味も強すぎない方がいい」

 

 普通に講評が始まった。

 

 木の葉の黄色い閃光による自作兵糧丸レビューである。ありがたい。めちゃくちゃありがたい。俺は心の中でメモを取った。小型化。喉通り。味の抑制。粉っぽさの改善。蜂蜜の配合見直し。薬草の種類変更。骨粉は細かくする。団子ではなく錠剤。サプリ型。これだ。俺の兵糧丸開発は、今日ここで次の段階へ進む。

 

 「でも、四歳でこれを考えるのはすごいよ」

 

 「健康のためです」

 

 「そうそう、健康は大事だね」

 

 ミナトが真面目な顔で頷いた。

 

 カカシは呆れたように目を細め、リンはくすりと笑った。

 

 その一瞬だけ、三人の周りの重い空気が少しだけ緩んだ気がした。オビトがいない。神無毘橋の戦いの帰り。きっとこの三人には、俺が知らない痛みがある。それでも、俺の激マズ兵糧丸で少しだけ会話が生まれたなら、まあ悪くないのかもしれない。味は最悪だけど。

 

 「次に会う時は、改良版をお願いします」

 

 カカシが淡々と言った。

 

 「カカシ、君も食べるの?」

 

 「先生がまた食べるなら、止めるために確認します」

 

 「厳しいなぁ」

 

 ミナトが苦笑する。

 

 俺は真剣に頷いた。

 

 「必ず改良します」

 

 待ってろ兵糧丸。いや待つのは俺か。次は飲めるサイズにしてやる。味も少しは何とかする。シスイが吐かず、ミナトさんが止まらず、カカシさんが警戒しない兵糧丸を作る。超健康分身ハメ殺しイタチ計画、栄養部門の新目標である。

 

 ミナトはもう一度礼を言うと、カカシとリンを連れて火影邸の方へ歩き出した。

 

 俺はその背中を見送った。

 

 兵糧丸の改善点は大量に見つかった。だが、それ以上に胸の奥で、神無毘橋、オビト、リン、カカシ、ミナトという単語がぐるぐる回っている。

 

 やっぱり、何か大事なことを忘れている気がする。

 

 でも今は、とりあえず兵糧丸を小さくしよう。

 

 まずそこからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神無毘橋の戦いを終えて木の葉へ帰還したミナト班。波風ミナトはそこで、うちはイタチに初めて会う事になる。

 

 任務は成功した。橋は落ち、敵の補給線は断たれ、戦局に大きな影響を与える事ができた。だが、勝利という言葉だけで語るには、あまりにも重い帰還だった。土と血に汚れた装束、消耗した身体、そして一人足りない班。カカシは片目を隠し、リンはその横で静かに歩き、ミナトは二人の前を進みながらも、常に背後の気配を感じていた。木の葉へ戻った安堵はある。だが、置いてきたものが消えるわけではない。

 

 その道の途中で、幼い子供が一人立っていた。

 

 うちはの装束を纏った、四歳ほどの少年である。

 

 うちはイタチという存在は元々知っていた。自身も木の葉の上忍として戦争に出て、うちは一族とは何度か戦線を共にした事がある。

 

 写輪眼を持つ一族。木の葉の中でも屈指の戦闘力を誇る者達。警務部隊として里の治安を担いながら、戦時には前線で苛烈な戦いを見せる一族。その中には、戦場で名を聞く者も少なくなかった。

 

 その中でも凶眼フガクの異名で知られるうちはフガクとは、度々会話を交わした事があった。

 

 『息子が産まれた』

 

 珍しく柔らかな笑みを浮かべたフガクが、そう言った日の事をミナトは覚えている。普段のフガクは寡黙で、感情を表に出す事が少ない。戦場ではなおさらだ。敵の動きを読み、味方の配置を見定め、必要な言葉だけを口にする男である。そのフガクが、任務の合間にふと父親の顔を見せた。

 

 『天才かもしれん』

 

 その時の声には、誇りがあった。だが、単なる親馬鹿ではなかった。フガクは我が子を甘く見る男ではない。むしろ、うちはの長として、忍として、才の意味と危うさを誰よりも知っている。だからこそ、その言葉には慎重な響きが混じっていた。

 

 『静かな子だ』

 

 と、笑みを浮かべながら話していたのを思い出す。

 

 静かな子。

 

 その言葉を、ミナトは当時、幼いながら落ち着いた子供なのだろうと受け取った。戦時下に生まれた子は、時に大人が思うより早く周囲の空気を読む。親の疲れ、里の緊張、帰らぬ者の話。そうしたものを吸い込みながら育つ子供は、明るく騒がしいだけではいられない。だからフガクの息子も、うちはの子らしく早くから静けさを覚えたのだろうと考えていた。

 

 そして更に、三代目火影からも同様にうちはイタチの事を聞いていた。

 

 『聡明な子じゃ』

 

 火影執務室で三代目がそう言った時、老人の目はどこか楽しげであり、同時に深く思案する色を帯びていた。三代目火影は多くの子供を見てきた。木の葉の芽と呼ぶべき才能も、戦の時代に早く伸びすぎた枝も、数えきれないほど見てきた。その三代目が、ただ利発な子供を褒めるだけなら、あのような目はしない。

 

 『術式の理解が早くての……天才じゃよ』

 

 その言葉を聞いた時、ミナトは少しだけ興味を抱いた。三代目が天才と呼ぶ子供。フガクが誇りと危惧を滲ませる息子。ならば、いつか会う日が来るかもしれないと、漠然と思っていた。

 

 いざ、うちはイタチを目前にした時に、二人が言っていた事がよく理解できた。

 

 小さな身体だった。

 

 手足は鍛えられているようだが、それでも年相応に幼い。視線の高さも低く、握る手も小さい。普通なら、戦場帰りの上忍を前にすれば怯む。傷だらけの三人、血と土の臭い、疲労の滲む空気。幼い子供が接するには重すぎるはずだった。

 

 だがイタチは、静かに立っていた。

 

 礼儀正しく、背筋を伸ばし、必要な言葉だけを選んで返す。その態度は作法を教え込まれた子供のものにも見えた。けれど、ミナトにはそれだけではないと分かった。イタチは見ていた。ミナトだけではなく、カカシを、リンを、三人の傷を、足りない一人の空白を、まるで言葉にされていない何かまで感じ取るように見ていた。

 

 そしてその瞳……普通じゃない。ものすごく深い場所を覗き込んでいるような瞳。

 

 黒い瞳の奥に、年齢にそぐわない静けさがあった。恐怖を知らない目ではない。無邪気に何も知らない目でもない。むしろ、何かを知り、知った上で黙っている者の目だった。四歳の子供が持つには、あまりに深い。底の見えない井戸を覗き込んだ時のように、視線を合わせた者の方が、何かを問われている気にさせられる。

 

 ミナトは、思わず微笑みを浮かべた。

 

 「君は、うちはの子かな?」

 

 「はい。うちはイタチです」

 

 声も落ち着いている。

 

 カカシが僅かに反応した。リンも、どこか驚いたようにイタチを見た。無理もない。彼らもまた若い。戦場を知り、痛みを知り、年齢より早く大人びてしまった子供達である。だからこそ、イタチの異様さを感じ取ったのだろう。

 

 「イタチ君か。フガクさんの息子さんだね。三代目から話は聞いているよ」

 

 ミナトがそう言うと、イタチは静かに頭を下げた。

 

 「光栄です」

 

 言葉の選び方が、やはり幼くない。

 

 けれど、その直後にイタチが口元を僅かに動かしたのを、ミナトは見逃さなかった。何かを飲み込んだのだ。匂いからして兵糧丸に近い。だが、一般的な兵糧丸とは少し違う、薬草と干し肉と木の実が混じったような強い匂いがした。

 

 「何か食べていたのかな?」

 

 そう問うと、イタチは一瞬だけ目を瞬かせた。

 

 「自作の兵糧丸です」

 

 自作。

 

 四歳の子供が兵糧丸を作る。

 

 ミナトは内心で驚きながらも、表には柔らかな笑みを保った。フガクが天才かもしれないと言い、三代目が聡明な子だと言った理由が、また一つ形を取った。忍術だけではない。己の身体を作るために、食と補給を考えている。幼い子供の発想としては奇妙だが、忍としては極めて正しい。

 

 「健康のために作っています」

 

 イタチはそう言った。

 

 健康。

 

 その言葉が、戦場帰りのミナトには妙に沁みた。忍は強さを求める。術を磨き、速度を上げ、戦術を学ぶ。だが、最後に生き残るのは、動ける身体を保った者だ。疲労し、負傷し、飢え、眠れぬ時でも任務は続く。健康のために兵糧丸を作る四歳児など普通ではない。だがその普通ではなさは、戦の時代において確かに意味を持っていた。

 

 (すごい忍になりそうだ)

 

 ミナトはそう思った。

 

 それは単に才能を感じたからではない。イタチの瞳の奥にある深さ、言葉の重さ、身体への意識、そして周囲を見る静かな視線。どれもが、将来を予感させた。優秀な忍になるだろう。恐らく、それだけでは済まない。里や一族、戦や平和といった、大きなものの間に立つ者になるかもしれない。

 

 だからこそ、少しだけ不安にもなった。

 

 深すぎる瞳は、時に多くを背負いすぎる。

 

 ミナトはカカシを思った。つい先ほど、仲間を失い、それでも帰ってきた少年。リンを思った。痛みを抱えながら、隣の仲間を気遣う少女。そして目の前のイタチを見た。木の葉には、才ある子供が多い。だが戦争は、その才を伸ばす前に重荷を与える。

 

 「健康のためか。それは大事だね」

 

 ミナトはそう言った。

 

 イタチは小さく頷いた。

 

 その表情は変わらない。だが、どこか真剣に受け止めているように見えた。

 

 木の葉へ帰還したばかりの道で、波風ミナトはうちはイタチという幼い才能に出会った。

 

 その時はまだ、彼の瞳がやがて何を見るのか、ミナトには分からなかった。

 

 そうしてイタチの自作兵糧丸を食べたミナトは、カカシとリンと共に任務達成の報告をした後、久々に自宅へと帰った。

 

 神無毘橋の戦いは、任務としては成功であった。橋は落ち、敵の補給線は断たれ、木の葉にとって大きな戦果となる。だが、報告書に記される成功という二文字と、実際に帰ってきた者達の胸に残るものは別である。ミナトは火影の前で必要な報告を終え、カカシとリンの状態を確認し、彼らを休ませる手配を済ませた後、ようやく自宅へ向かった。足取りは普段通り軽く見えたが、心の底には戻らなかった一人の重みが沈んでいた。

 

 「ミナト!おかえり!」

 

 赤い髪を爆発させながらミナトに抱きついたのは、妻のクシナだ。

 

 「はは、ただいま。クシナ」

 

 クシナをギュッと抱きしめて、再会を喜んだ。

 

 任務から帰るたび、この腕の中の温かさに救われる。戦場では一瞬の判断で命が消え、昨日まで話していた者が今日は戻らない。土と血の匂い、爆薬の煙、仲間の声、敵の殺意。その全てを背負って帰ってきても、クシナの腕は迷いなく自分を包む。ミナトはその強さを知っていた。彼女の明るさは軽さではない。誰よりも深い孤独を知ってなお、燃えるように生きている強さだった。

 

 「怪我は?ちゃんと見せるってばね!」

 

 「大丈夫だよ。擦り傷と、少し疲れただけ」

 

 「少しって言う時ほど怪しいってばね。ミナトはすぐ誤魔化すんだから」

 

 クシナはミナトの肩や腕を遠慮なく確認し、装束の汚れや包帯の有無に目を走らせた。ミナトは苦笑しながらされるがままになっていた。黄色い閃光と恐れられる男も、家の中では妻の前で少しだけ肩の力を抜く。クシナの指が腕の傷に触れた時、僅かに眉が寄った。

 

 「ほんとに無理してない?」

 

 「してないよ。ちゃんと帰ってきた」

 

 その言葉に、クシナの動きが一瞬だけ止まった。

 

 ちゃんと帰ってきた。

 

 戦の時代において、それは何より大きな答えだった。クシナは何かを言いかけ、けれど飲み込み、代わりにもう一度ミナトを強く抱きしめた。ミナトもまた、その背中へ腕を回す。赤い髪が頬に触れ、家の匂いがした。戦場では決して嗅げない、味噌と木と布団とクシナの匂いだった。

 

 (それにしても……)

 

 ミナトは自身の身体に、少しだが違和感を感じていた。

 

 (なんかめちゃくちゃ力が漲ってくる気がする。気のせいかな?)

 

 任務明けで疲れているはずだった。チャクラもそれなりに消耗している。神無毘橋の戦いで飛雷神を何度も使い、敵を討ち、仲間を守り、帰還後には報告まで済ませた。身体は重くなっていて当然である。だが、腹の奥に妙な熱があった。疲労が消えたわけではない。傷が治ったわけでもない。ただ、底の方からじわじわと力が湧いてくるような、妙な感覚がある。

 

 原因は一つしか思い当たらなかった。

 

 うちはイタチの自作兵糧丸。

 

 ミナトは道端で出会った幼い少年を思い出した。うちはフガクの息子。三代目が聡明だと言い、フガクが天才かもしれないと言った子供。四歳とは思えぬ落ち着きと、深い瞳を持った少年。その小さな手から渡された兵糧丸は、正直に言えば凄まじい味だった。薬草の苦味、干し肉の癖、木の実の油、骨粉の粉っぽさ、蜂蜜の甘さが喧嘩をしていた。飲むものだと思っていた兵糧丸を、あの大きさでは噛むしかなかった。噛んだ瞬間、ミナトの精神は一瞬、戦場とは別方向に試された。

 

 だが、効いている。

 

 「ミナト?」

 

 クシナが顔を覗き込んだ。

 

 「どうしたってばね。なんか変な顔してる」

 

 「いや……今日、里に戻る途中で面白い子に会ってね」

 

 「面白い子?」

 

 「うちはイタチ君。フガクさんの息子さんだよ」

 

 「ああ、ミコトのところの子!噂は聞いてるってばね。すごく大人しい子なんでしょ?」

 

 ミナトは少し考えた。

 

 大人しい。

 

 確かに表面だけ見ればそうだ。だが、あの瞳はただ大人しい子供のものではなかった。深く見て、考え、言葉を選び、何かを隠すような静けさ。四歳の子供にしては、あまりに底が見えない。それでいて、健康のために兵糧丸を作るという妙な方向への真面目さもある。

 

 「うん。大人しいというか、すごく不思議な子だった」

 

 「ミナトが不思議って言うなんて珍しいってばね」

 

 「それで、その子が自作した兵糧丸をもらったんだけど」

 

 クシナの眉が跳ねた。

 

 「食べたの?」

 

 「食べた」

 

 「なんで食べるのよ!」

 

 クシナの声が家の中に響いた。

 

 ミナトは思わず苦笑した。カカシにも似たような反応をされた。どうやら、自分が道端で四歳児の自作兵糧丸を食べた事は、周囲から見るとかなり不用心らしい。いや、冷静に考えればその通りである。だが、あの子に悪意はなかった。むしろ、真剣に身体を作ろうとしていた。ミナトにはそれが分かった。

 

 「悪いものじゃなかったよ。味はすごかったけど」

 

 「すごかったって、どういう意味?」

 

 「兵糧丸というより、修行だったかな」

 

 クシナは一瞬黙り、それから吹き出した。

 

 「あはは!何それ!ミコトの子、そんなの作ってるの?」

 

 「健康のためだって言っていたよ」

 

 「四歳で健康のためって、すごいってばね……」

 

 笑いながらも、クシナの声には少しだけ感心が混じっていた。幼い子供が自分の身体を作るために食を考える。その発想は変わっている。だが、忍として生きるなら間違ってはいない。クシナもまた、身体の内に九尾を宿す者として、肉体とチャクラの状態がどれほど大切かを知っていた。

 

 ミナトは手を握り、開いた。

 

 やはり、力がある。

 

 疲れているはずなのに、身体の芯が温かい。即効性というより、火が長く燃えるような持続感。荒削りで、味も形も改善の余地だらけだが、材料の選び方には確かな意図があった。あの子は、ただ思いつきで作っているのではない。

 

 「次に会ったら、改良版を食べさせてくれるって」

 

 「また食べる気なの!?」

 

 「少し楽しみなんだ」

 

 「ミナトってば、たまに変なところで挑戦者だよね」

 

 クシナは呆れたように笑いながら、台所へ向かった。温かい食事を用意するつもりなのだろう。ミナトはその背中を見つめながら、もう一度イタチの瞳を思い出した。

 

 すごい忍になりそうだ。

 

 だが同時に、あの深さが少し怖い。

 

 才ある子供達は、戦の時代に早く見つかり、早く使われる。カカシもそうだった。シスイも噂に聞く。イタチもまた、いずれ大きな流れの中に立つのかもしれない。

 

 ミナトは静かに息を吐いた。

 

 せめてその時、あの子が自分のために作った兵糧丸を、笑って改良できる余白が残っていればいい。

 

 そして確かに思った。

 

 あの子は、いつか大きなものを背負う。

 

 そして願わくば、その背負うものが、彼自身を押し潰さぬようにと。

 

 そんな事を思いながら、ミナトはクシナの待つ食卓へ向かった。




リン「泥団子……?」



サスケェが産まれるのが七月、ナルトが産まれるのが十月。オビトがマ◯ラに拾われて、九尾襲撃まで数ヶ月?オビト身長伸びすぎじゃね?柱間細胞ヤバすぎ。
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