ドラゴンクエストⅤ 転生したらパパスだった件。   作:兎深みどり

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ハーメルンでは初投稿になります。

本作は『ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁』の二次創作です。

現代人がパパスに転生し、原作の未来を知った上で、家族と大切な人たちを守るために行動していく物語になります。

原作への敬意を大切にしつつ、独自解釈・原作改変を含みます。

楽しんでいただければ幸いです。


第一章《転生したらパパスだった件。》
第1話『目覚めたら、パパスだった件。』


 俺……死んだのか。

 

 最後の記憶だけは残っている。

 駅のホームで、小さな子どもが足を滑らせた。

 悲鳴が上がった。

 誰も動けなかった。

 俺も、動けないはずだった。

 

 でも、身体が勝手に動いた。

 考えるより先に、線路へ飛び降りていた。

 子どもの腕を掴む。

 ホームの上へ押し上げる。

 

 助かった。

 

 子どもは助かった。

 

 けど、俺は戻れなかった。

 警笛。

 光。

 轟音。

 

 最後に思ったのは、怖いでも痛いでもなかった。

 

 なんだ。

 俺にも、動けたんじゃないか。

 

 だったら。

 もっと早く、そうして生きればよかった。

 

 子供の頃からずっと好きなゲームの、あの主人公達のように。

 

 

 暗い。

 

 どこまでも暗い。

 

 身体があるのかどうかも分からない。

 

 ただ、底の見えない闇へ落ちていく感覚だけが続いていた。

 

『おお○○よ……しんでしまうとはなさけない……』

 

 ……は?

 

 聞き間違えるはずがない。

 今の声。

 いや、声というより、あの文字が頭に直接浮かんだような感じだ。

 ドラクエじゃねぇか。

 しかも全滅した時のアレじゃねぇか。

 

 いやいやいや。

 死んだ直後にそれはやめろ。

 笑っていいのか、泣いていいのか分からんだろ。

 

 そう考えたところで、視界が白く染まった。

 

 ザァァァン……。

 

 波が船体を叩く。

 木が軋む音が耳に届く。

 潮風が鼻をくすぐる。

 身体がゆっくりと左右に揺れていた。

 

 目を開ける。

 木造の天井。

 身体の下には硬めのベッド。

 見慣れない船室。

 

 ……船?

 

 身体を起こす。

 すぐに違和感があった。

 腕が太い。

 手が大きい。

 胸板も厚い。

 

 軽く拳を握るだけで、今まで感じたことのない力が宿っているのが分かる。

 なんだ、この身体。

 俺、こんな筋肉の化け物じゃなかったぞ。

 前世の俺なんて、階段を少し上がっただけで息が切れてたんだが。

 

 部屋の隅に、金属の鏡が置かれていた。

 足が勝手にそちらへ向かう。

 揺れる船室の中で、鏡の前に立つ。

 そこに映っていた男を見て、頭が真っ白になった。

 

 黒髪。

 あの目。

 あの顔。

 見間違えるはずがない。

 

「……パパス?」

 

 いや。

 違う。

 違ってくれ。

 頼むから違ってくれ。

 

 もう一度鏡を見る。

 

「……マジかよ」

 

 何度見ても同じだった。

 鏡の中にいるのは、どう見てもパパスだった。

 

 ドラゴンクエストⅤ。

 何度も遊んだ。

 何度もクリアした。

 何度もあの場面で悔しい思いをした。

 

 主人公の父親。

 強くて、優しくて、頼もしくて。

 それなのに、物語の序盤でゲマに殺される男。

 

 そのパパスに、俺はなっていた。

 

 叫びたい。

 全力で叫びたい。

 でも、口から声は出なかった。

 

 いや、出すな。

 ここで突然叫ぶパパスとか怖すぎる。

 船員が来る。

 息子が見たら泣く。

 開始早々、威厳が死ぬ。

 

「…………」

 

 よし。

 黙れた。

 外側だけは何とかパパスを保てている。

 中身は今、完全に大惨事だけどな。

 

 部屋を見渡す。

 船室。

 潮風。

 波の音。

 木の壁。

 揺れるランプ。

 

 この景色。

 知ってる。

 ゲーム開始直後だ。

 サンタローズへ向かう船だ。

 

 マーサは、もう魔界へ連れ去られている。

 パパスは幼い息子を連れ、サンタローズの家へ行く途中。

 つまり、物語はもう始まっている。

 

 まずい。

 かなりまずい。

 俺がパパスになった時点で笑い話じゃない。

 この先に何があるか、全部知っている。

 

 ラインハット。

 ヘンリー誘拐。

 ゲマ。

 パパスの死。

 主人公の奴隷生活。

 八年間。

 サンタローズの崩壊。

 石化。

 長すぎる別れ。

 

 知ってる。

 全部知ってる。

 画面の向こうで見ていた時でさえ、胸糞悪かった。

 それを今度は、この身体で味わうのか。

 

 嫌だ。

 絶対に嫌だ。

 あんな未来、認めるわけがない。

 

 自然と拳に力が入った。

 骨が鳴る。

 俺の手は、骨が鳴るほど強く握られていた。

 

 俺は前の人生で、ずっと何もできなかった。

 見て見ぬふりをして、後悔して、それでも変わろうとしなかった。

 最後の最後で、ようやく動けた。

 でも、それだけだった。

 

 だから今度こそ、最初から動く。

 

 パパスとして、この物語を変えてやる。

 

 そして、ゲマ。

 お前だけは絶対に許さない。

 

 息子は守る。

 マーサも助ける。

 サンタローズも守る。

 全部だ。

 全部、守り抜いてみせる。

 

 そのためには、まず状況確認だ。

 今がゲーム冒頭なら、まだ時間はある。

 パパスの身体。

 原作知識。

 この二つがあるなら、やれることはいくらでもある。

 

 むしろ、やるしかない。

 原作通りに動いたら死ぬ。

 原作を知っている俺が原作通りに死ぬとか、ただの間抜けだ。

 そんなパパスは嫌すぎる。

 

 ……そういえば。

 

 ベラたん。

 もちろん会いに行く。

 これは大事だ。

 推しだからな。

 そこは譲れない。

 

 少しだけ肩の力が抜けた。

 こういう時でも推しのことを考えられるあたり、前世の俺も大概だった。

 でも、それくらいでいい。

 重くなりすぎたら、たぶん心がもたない。

 

「……よし」

 

 口から出たのは、それだけだった。

 短い。

 少ない。

 でも、今のパパスにはそれでいい。

 

 ここはもうゲームじゃない。

 俺が生きる世界だ。

 画面の向こうの物語じゃない。

 これから俺が歩く人生だ。

 

 今なら、まだ間に合う。

 運命なんか知るか。

 イベントなんか知るか。

 俺が全部変えてやる。

 

 波が船を揺らす。

 潮風が船室に吹き込む。

 遠くで誰かの足音が聞こえた。

 

 サンタローズへ向かう船の上。

 パパスとしての新しい人生が、ここから始まった。




本作を読んでいただきありがとうございます。
今回は、現代人がパパスとして目覚めるところから始まりました。
原作を知っているからこそ、変えたい未来がある。 そして、パパスだからこそ守りたいものがある。
そんな物語として書いていけたらと思っています。
感想・評価などいただけると、とても励みになります。
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