ドラゴンクエストⅤ 転生したらパパスだった件。 作:兎深みどり
本作は『ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁』の二次創作です。
現代人がパパスに転生し、原作の未来を知った上で、家族と大切な人たちを守るために行動していく物語になります。
原作への敬意を大切にしつつ、独自解釈・原作改変を含みます。
楽しんでいただければ幸いです。
第1話『目覚めたら、パパスだった件。』
俺……死んだのか。
最後の記憶だけは残っている。
駅のホームで、小さな子どもが足を滑らせた。
悲鳴が上がった。
誰も動けなかった。
俺も、動けないはずだった。
でも、身体が勝手に動いた。
考えるより先に、線路へ飛び降りていた。
子どもの腕を掴む。
ホームの上へ押し上げる。
助かった。
子どもは助かった。
けど、俺は戻れなかった。
警笛。
光。
轟音。
最後に思ったのは、怖いでも痛いでもなかった。
なんだ。
俺にも、動けたんじゃないか。
だったら。
もっと早く、そうして生きればよかった。
子供の頃からずっと好きなゲームの、あの主人公達のように。
◆
暗い。
どこまでも暗い。
身体があるのかどうかも分からない。
ただ、底の見えない闇へ落ちていく感覚だけが続いていた。
『おお○○よ……しんでしまうとはなさけない……』
……は?
聞き間違えるはずがない。
今の声。
いや、声というより、あの文字が頭に直接浮かんだような感じだ。
ドラクエじゃねぇか。
しかも全滅した時のアレじゃねぇか。
いやいやいや。
死んだ直後にそれはやめろ。
笑っていいのか、泣いていいのか分からんだろ。
そう考えたところで、視界が白く染まった。
ザァァァン……。
波が船体を叩く。
木が軋む音が耳に届く。
潮風が鼻をくすぐる。
身体がゆっくりと左右に揺れていた。
目を開ける。
木造の天井。
身体の下には硬めのベッド。
見慣れない船室。
……船?
身体を起こす。
すぐに違和感があった。
腕が太い。
手が大きい。
胸板も厚い。
軽く拳を握るだけで、今まで感じたことのない力が宿っているのが分かる。
なんだ、この身体。
俺、こんな筋肉の化け物じゃなかったぞ。
前世の俺なんて、階段を少し上がっただけで息が切れてたんだが。
部屋の隅に、金属の鏡が置かれていた。
足が勝手にそちらへ向かう。
揺れる船室の中で、鏡の前に立つ。
そこに映っていた男を見て、頭が真っ白になった。
黒髪。
あの目。
あの顔。
見間違えるはずがない。
「……パパス?」
いや。
違う。
違ってくれ。
頼むから違ってくれ。
もう一度鏡を見る。
「……マジかよ」
何度見ても同じだった。
鏡の中にいるのは、どう見てもパパスだった。
ドラゴンクエストⅤ。
何度も遊んだ。
何度もクリアした。
何度もあの場面で悔しい思いをした。
主人公の父親。
強くて、優しくて、頼もしくて。
それなのに、物語の序盤でゲマに殺される男。
そのパパスに、俺はなっていた。
叫びたい。
全力で叫びたい。
でも、口から声は出なかった。
いや、出すな。
ここで突然叫ぶパパスとか怖すぎる。
船員が来る。
息子が見たら泣く。
開始早々、威厳が死ぬ。
「…………」
よし。
黙れた。
外側だけは何とかパパスを保てている。
中身は今、完全に大惨事だけどな。
部屋を見渡す。
船室。
潮風。
波の音。
木の壁。
揺れるランプ。
この景色。
知ってる。
ゲーム開始直後だ。
サンタローズへ向かう船だ。
マーサは、もう魔界へ連れ去られている。
パパスは幼い息子を連れ、サンタローズの家へ行く途中。
つまり、物語はもう始まっている。
まずい。
かなりまずい。
俺がパパスになった時点で笑い話じゃない。
この先に何があるか、全部知っている。
ラインハット。
ヘンリー誘拐。
ゲマ。
パパスの死。
主人公の奴隷生活。
八年間。
サンタローズの崩壊。
石化。
長すぎる別れ。
知ってる。
全部知ってる。
画面の向こうで見ていた時でさえ、胸糞悪かった。
それを今度は、この身体で味わうのか。
嫌だ。
絶対に嫌だ。
あんな未来、認めるわけがない。
自然と拳に力が入った。
骨が鳴る。
俺の手は、骨が鳴るほど強く握られていた。
俺は前の人生で、ずっと何もできなかった。
見て見ぬふりをして、後悔して、それでも変わろうとしなかった。
最後の最後で、ようやく動けた。
でも、それだけだった。
だから今度こそ、最初から動く。
パパスとして、この物語を変えてやる。
そして、ゲマ。
お前だけは絶対に許さない。
息子は守る。
マーサも助ける。
サンタローズも守る。
全部だ。
全部、守り抜いてみせる。
そのためには、まず状況確認だ。
今がゲーム冒頭なら、まだ時間はある。
パパスの身体。
原作知識。
この二つがあるなら、やれることはいくらでもある。
むしろ、やるしかない。
原作通りに動いたら死ぬ。
原作を知っている俺が原作通りに死ぬとか、ただの間抜けだ。
そんなパパスは嫌すぎる。
……そういえば。
ベラたん。
もちろん会いに行く。
これは大事だ。
推しだからな。
そこは譲れない。
少しだけ肩の力が抜けた。
こういう時でも推しのことを考えられるあたり、前世の俺も大概だった。
でも、それくらいでいい。
重くなりすぎたら、たぶん心がもたない。
「……よし」
口から出たのは、それだけだった。
短い。
少ない。
でも、今のパパスにはそれでいい。
ここはもうゲームじゃない。
俺が生きる世界だ。
画面の向こうの物語じゃない。
これから俺が歩く人生だ。
今なら、まだ間に合う。
運命なんか知るか。
イベントなんか知るか。
俺が全部変えてやる。
波が船を揺らす。
潮風が船室に吹き込む。
遠くで誰かの足音が聞こえた。
サンタローズへ向かう船の上。
パパスとしての新しい人生が、ここから始まった。
本作を読んでいただきありがとうございます。
今回は、現代人がパパスとして目覚めるところから始まりました。
原作を知っているからこそ、変えたい未来がある。 そして、パパスだからこそ守りたいものがある。
そんな物語として書いていけたらと思っています。
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