ドラゴンクエストⅤ 転生したらパパスだった件。   作:兎深みどり

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第13話『子ネコとお化け城』

 ダンカンの見舞いを終える頃には、アルカパの町はすっかり昼の顔になっていた。

 

 宿屋の外から、人の声が聞こえる。

 馬車の車輪。

 商人の呼び込み。

 子どもたちの走る足音。

 

 リュカは、窓の外を何度も見ていた。

 

 初めての町。

 初めての景色。

 気にならないはずがない。

 

 ビアンカも同じだ。

 

「ねえ、リュカ。町を案内してあげようか?」

 

「いいの?」

 

「もちろん!わたしの町だもん」

 

 ビアンカは胸を張る。

 

 リュカは俺の方を見た。

 

 行っていいのか。

 そう聞いている目だ。

 

 俺は小さく頷く。

 

「遠くへは行くな。町の中だけだ」

 

「うん」

 

「ビアンカ、リュカを頼む」

 

「まかせて、おじさま!」

 

 頼もしい返事だ。

 年上らしく振る舞おうとしているのが分かる。

 

 リュカは布を外しかけて、俺を見た。

 

「もう、これ取っていい?」

 

「ああ。外ではいい」

 

「うん」

 

 リュカは少しほっとした顔で布を外した。

 

 あれをつけたまま町を歩けば、子どもには窮屈だろう。

 必要な場面で使えばいい。

 

 二人は宿屋を出ていく。

 

 俺は窓から、少しだけその背中を見送った。

 

 ビアンカが前を歩き、リュカが少し遅れてついていく。

 時々ビアンカが振り返り、何かを教えている。

 リュカは真剣に聞いている。

 

 いい光景だ。

 

 だが、ここから先も知っている。

 

 町の中で、子どもたちが子ネコをいじめている。

 ビアンカは怒る。

 そして、レヌール城のお化け退治という話になる。

 

 原作の流れ。

 

 リュカとビアンカにとって、大切な最初の冒険。

 

 俺が止めるべきか。

 

 少しだけ考える。

 

 危険なのは間違いない。

 夜の城。

 魔物。

 幼い二人。

 

 普通の父親なら、絶対に止める。

 

 だが、あの冒険はリュカを育てる。

 ビアンカとの絆も作る。

 そして、未来に繋がる。

 

 俺が全部を奪ってはいけない。

 

 もちろん、見殺しにするつもりもない。

 

 行かせる。

 ただし、見えないところで備える。

 

 そのためには、まず原作通りの形を作る必要がある。

 

 俺はわざと一度、喉に手を当てた。

 

「……少し、だるいな」

 

 おかみさんが振り向く。

 

「パパス、大丈夫かい?」

 

「ああ。たいしたことはない」

 

「いやだねえ、ダンカンの風邪がうつったんじゃないだろうね」

 

 来た。

 

 俺は内心で息を整える。

 

 実際には、今のところ熱はない。

 布で防いだ効果か、パパスの身体が頑丈なのかは分からない。

 

 だが、ここは乗る。

 

「少し休ませてもらってもいいか」

 

「もちろんだよ。無理しちゃいけないよ」

 

「すまない」

 

 俺は客間へ案内され、寝台に腰を下ろした。

 

 横になる。

 

 目を閉じる。

 

 眠いのは本当だ。

 昨日の夜からほとんど動きっぱなしだった。

 

 だから仮病と言っても、半分は本当に休息だ。

 

 少しだけ眠る。

 そして夜になったら動く。

 

 リュカとビアンカがレヌール城へ向かう時間を作る。

 その間に、俺は俺の準備を進める。

 

 ゲマとの戦いまでにやれることは、まだある。

 

 しばらくして、宿屋の外から子どもたちの声が聞こえた。

 

 楽しそうな声ではない。

 

 はやし立てるような声。

 小さな獣の鳴き声。

 それから、ビアンカの怒った声。

 

「やめなさいよ!」

 

 始まったか。

 

 俺は寝台の上で目を開けた。

 

 すぐに飛び出すこともできる。

 だが、ここは二人の場面だ。

 

 リュカ。

 自分で見て、自分で決めろ。

 

 しばらくして、足音が宿へ戻ってきた。

 

 ビアンカの声がする。

 

「リュカ、約束だからね」

 

「うん……でも、夜に行くの?」

 

「当たり前でしょ。お化けは夜に出るんだから」

 

 リュカの返事は少し小さい。

 

 怖いのだろう。

 

 それでいい。

 怖くない冒険なんて、冒険ではない。

 

 部屋の扉が少しだけ開いた。

 

 リュカが中を覗く。

 

「おとうさん?」

 

 俺は目を閉じたまま、少し遅れて返事をした。

 

「……リュカか」

 

「だいじょうぶ?」

 

「ああ。少し休めばいい」

 

「風邪?」

 

「たぶんな」

 

 リュカの顔が曇る。

 

 胸が痛む。

 

 だが、ここで元気に起き上がれば、夜の冒険は消える。

 それはリュカのためにならない。

 

「心配しなくていい。今日は早く休みなさい」

 

「うん」

 

 リュカはまだ何か言いたそうだった。

 

 だが、結局小さく頷いて、扉を閉めた。

 

 足音が遠ざかる。

 

 俺は天井を見上げた。

 

 ここからは時間との勝負だ。

 

 リュカとビアンカは、夜になれば動く。

 俺はその少し後に動く。

 

 見守る父親として。

 そして、未来を変える男として。

 

 眠ったふりをしながら、俺は次に向かう場所を頭の中で思い浮かべた。

 

 ルラフェン。

 

 煙突の曲がった家。

 

 ベネットじいさんの研究室。

 

 次は、リレミトだ。

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