ドラゴンクエストⅤ 転生したらパパスだった件。   作:兎深みどり

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第15話『剣に宿すもの』

 ベネットじいさんの家へ戻ると、部屋の中は相変わらず散らかっていた。

 

 本。

 紙。

 瓶。

 用途の分からない道具。

 

 その中を、じいさんは迷いなく歩いていく。

 

「座れ」

 

「ああ」

 

 俺は椅子に腰を下ろした。

 

 レヌール城のことは気になる。

 リュカとビアンカが、今どこまで進んでいるのかも分からない。

 

 だが、ここで聞くべき話がある。

 

 ベネットじいさんは、俺の腰の剣を指さした。

 

「おぬし、呪文は覚えが悪いわけではない」

 

「そうなのか?」

 

「ルーラもリレミトも、普通なら一晩で形になるものではないわい」

 

 それは、パパスの身体のおかげだろう。

 俺自身の才能かどうかは怪しい。

 

 だが、ベネットじいさんは首を横に振った。

 

「じゃが、おぬしは呪文使い向きではない」

 

「どういう意味だ?」

 

「魔力を外へ放つより、身体の中で回す方が向いておる。もっと言えば、剣へ通す方がよい」

 

 剣へ魔力を通す。

 

 俺は剣の柄に触れた。

 

「剣に呪文をかけるのか」

 

「少し違う。呪文を飛ばすのではない。魔力を刃に流し、剣そのものの力を底上げするんじゃ」

 

 魔法剣。

 

 頭の中に、その言葉が浮かんだ。

 

 炎をまとった剣。

 雷を宿した斬撃。

 ただの力では届かない敵へ、魔力を乗せて斬る技。

 

 もし、それが使えるなら。

 

 ゲマの炎。

 マホカンタ。

 ジャミとゴンズ。

 

 対処できるものが増える。

 

「できるのか?」

 

「仕組みだけなら教えられる」

 

「仕組みだけ?」

 

「わしは剣士ではない。実際に剣を振るのはおぬしじゃ。魔力をどう刃に乗せるか、どの瞬間に流すかは、戦いの中で掴むしかない」

 

 理論は教える。

 実践は自分で身につけろ。

 

 厳しいが、分かりやすい。

 

「まず、手のひらに魔力を集める」

 

 ベネットじいさんは、自分の手を開いて見せた。

 

「そこから剣の柄へ流す。柄から刃へ。刃の先まで通す。ただし、流しすぎるな。剣が耐えられん」

 

「剣が壊れるのか」

 

「壊れる。おぬしの腕もな」

 

「怖いことばかり言うな」

 

「本当のことじゃ」

 

 じいさんは笑う。

 

 俺は笑えなかった。

 

 だが、必要だ。

 

 剣に魔力を通す。

 ただ斬るだけではなく、魔力を乗せて斬る。

 

 それができれば、パパスの戦い方に合う。

 

 俺は魔法使いになりたいわけではない。

 父親として、戦士として、息子の前に立つための力が欲しい。

 

「覚えておく」

 

「覚えるだけでは足りん。振れ。何度もな。ただし、今夜ここで剣を振るなよ。家が壊れる」

 

「分かった」

 

「分かっておる顔ではないのう」

 

 失礼な話だ。

 だが、否定しきれない。

 

 ベネットじいさんは次に、机の上の紙を一枚手に取った。

 

「それと、もう一つじゃ」

 

「まだあるのか」

 

「おぬしの話を聞いて、少し思いついた」

 

「何を?」

 

「炎や吹雪を、まともに受けずに弱める呪文じゃ」

 

 俺は息を止めた。

 

 炎や吹雪を弱める呪文。

 

 その言葉だけで、頭の中に一つの名前が浮かぶ。

 

 フバーハ。

 

「……フバーハ、か」

 

「ふばーは?」

 

 ベネットじいさんが眉をひそめた。

 

「なんじゃ、それは」

 

 しまった。

 口に出していた。

 

 だが、ごまかすより使った方がいい。

 

「俺の知る限り、炎や吹雪の勢いを弱める呪文に、そういうものがある。仲間全員を包むように守る呪文だ」

 

「全員じゃと?」

 

 ベネットじいさんの目が鋭くなる。

 

「面白い。じゃが、いきなりそこまでは無理じゃな」

 

「無理か」

 

「無理じゃ。まずは一人を守る形からじゃ。範囲を広げるのは、それが形になってからでよい」

 

 一人を守る。

 

 バーハ。

 

 今度は、その名前が頭に浮かんだ。

 

「それでもいい」

 

「よかろう。一週間後に来い。それまでに形にしておく」

 

「一週間か」

 

「急かすな。炎や吹雪を弱める結界など、そう簡単に作れるものではないわい」

 

「分かった」

 

「ただし、期待しすぎるな。完全に消す呪文ではない。弱めるだけじゃ」

 

「十分だ」

 

 ゲマの炎。

 

 あれを完全に消せなくてもいい。

 少しでも弱められるなら、それだけで未来は変わる。

 

 俺は立ち上がった。

 

「ベネット殿」

 

「なんじゃ」

 

「助かる」

 

「礼は完成してから言え」

 

「ああ」

 

 家を出ると、夜の空気が肌を刺した。

 

 ルーラ。

 リレミト。

 剣に魔力を通す仕組み。

 そして、一週間後のバーハ。

 

 手札は少しずつ増えている。

 

 だが、まだ足りない。

 

 ゲマとの戦いまでに、やれることはまだある。

 

 俺はルラフェンの町の外へ出た。

 

 アルカパ。

 宿屋。

 眠っていることになっている俺の部屋。

 

 そして、レヌール城へ向かったリュカとビアンカ。

 

「ルーラ」

 

 風が巻く。

 

 次に足が地面を踏んだ時、俺はアルカパの町の外に立っていた。

 

 夜はまだ終わっていない。

 

 遠く、丘の上にレヌール城の影が見える。

 

 俺は城の方角を見つめ、剣の柄にそっと手を置いた。

 

 リュカ。

 ビアンカ。

 

 父さんは、ここにいる。

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