ドラゴンクエストⅤ 転生したらパパスだった件。   作:兎深みどり

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第29話『ドワーフの洞窟』

 ドワーフの洞窟に入って、最初に現れたのはガップリンだった。

 

 丸い身体に、裂けた口。

 洞窟の暗がりから転がるように飛び出してくる。

 

 リュカはどうのつるぎを握りしめた。

 

 ひのきのぼうより重い。

 振れば、腕が持っていかれる。

 

 だが、ここで逃げるわけにはいかない。

 

「リュカ、正面だけを見るな」

 

「うん」

 

「ボロンゴの位置。ベラの位置。壁までの距離。それを見ろ」

 

 ガップリンが跳ねた。

 

 リュカは一歩下がり、どうのつるぎを振る。

 

 浅い。

 

 刃はガップリンの皮をかすめただけだった。

 

 その隙を、ボロンゴが埋める。

 

 横から飛びかかり、ガップリンの身体に噛みついた。

 

「今だ」

 

「うん!」

 

 リュカが踏み込む。

 

 今度は剣が入った。

 

 ガップリンが床を跳ね、動かなくなる。

 

 リュカは荒く息を吐いた。

 

「倒せた……」

 

「ああ」

 

 俺は短く答えた。

 

「だが、剣に振られている。もっと小さく振れ」

 

「小さく?」

 

「当てるために振るんだ。大きく振るのは、当たると分かっている時だけでいい」

 

 リュカはどうのつるぎを見つめ、真剣に頷いた。

 

「分かった」

 

 ドワーフの洞窟は、ただ暗いだけではなかった。

 

 壁には古い掘り跡。

 床には壊れた道具。

 あちこちに、ドワーフたちが作業した名残がある。

 

 リュカは足元を確かめながら進んだ。

 

 ベラが少し前を飛び、ボロンゴがリュカの横を歩く。

 

 俺は最後尾だ。

 

 前に出すぎない。

 だが、離れない。

 

 次に現れたのは、つちわらしが三体。

 

 小さな身体で、ちょこまかと動く。

 

「三体いる」

 

 リュカが言った。

 

「そうだ。一体だけ追うな」

 

「うん」

 

 つちわらしの一体がリュカの足元へ飛び込む。

 

 リュカは剣を下へ向けたが、振り遅れた。

 

 別のつちわらしが横へ回る。

 

 ボロンゴが唸り、そちらへ飛んだ。

 

 ベラが声を上げる。

 

「リュカ、右!」

 

 リュカは反射で剣を引き、右から来たつちわらしを受けた。

 

 硬い音がする。

 

 押される。

 

 だが、倒れない。

 

「押し返すな。ずらせ」

 

 リュカが半歩横へ動く。

 

 つちわらしの体勢が崩れた。

 

 そこへ、どうのつるぎを短く振る。

 

 一体目。

 

 ボロンゴが二体目を押さえる。

 

「マヌーサ!」

 

 ベラの呪文で、三体目の狙いがそれた。

 

「今!」

 

 ベラの声に合わせ、リュカがもう一歩前へ出た。

 

 二体目。

 三体目。

 

 つちわらしが倒れる。

 

 リュカは肩で息をしながら、ボロンゴとベラを見た。

 

「ありがとう」

 

「ちゃんと見てたじゃない」

 

 ベラが笑う。

 

 ボロンゴも得意げに鳴いた。

 

「ベラ、今のマヌーサは良かったぞ」

 

「え?」

 

 ベラが少し驚いた顔をする。

 

「三体目の狙いがそれた。あれがなければ、リュカの踏み込みが遅れていた」

 

「そ、そう? まあ、当然よ」

 

 ベラは胸を張った。

 

 俺はボロンゴにも目を向ける。

 

「ボロンゴもだ。よく横を押さえた」

 

「ガウ」

 

 ボロンゴが尻尾を揺らす。

 

 リュカが嬉しそうに笑った。

 

 悪くない。

 

 リュカは少しずつ、自分だけで戦う癖を抜いている。

 

 仲間を見る。

 位置を見る。

 数を見る。

 

 それができれば、生き残る確率は上がる。

 

 さらに奥へ進むと、赤い鱗の影が見えた。

 

 メラリザード。

 

 口の端に、小さな火が灯っている。

 

「来るぞ」

 

 俺が言うより早く、メラリザードが火の玉を吐いた。

 

 メラ。

 

 リュカの顔が強張る。

 

 避けるには近い。

 

 俺は動きかけたが、ベラが先に叫んだ。

 

「伏せて!」

 

 リュカが身を沈める。

 

 火の玉は頭上をかすめ、背後の石壁に当たって弾けた。

 

 熱が洞窟に広がる。

 

 ボロンゴが横からメラリザードへ飛びかかる。

 

 リュカも続いた。

 

 どうのつるぎがメラリザードの胴を斬る。

 

 メラリザードはもう一度火を吐こうとしたが、ベラのギラにひるみ、そのままボロンゴに押し倒された。

 

 リュカが最後の一撃を入れる。

 

 メラリザードが倒れた。

 

「今のは危なかった」

 

 リュカが小さく言う。

 

「ああ」

 

「火、こわいね」

 

「覚えておけ。火は見えてからでは遅い時がある。吐く前の動きを見るんだ」

 

「口のところ?」

 

「そうだ。火が集まる場所を見る」

 

 リュカは頷いた。

 

 俺は、石壁に残った焦げ跡を見る。

 

 小さなメラだ。

 

 ゲマのメラゾーマとは比べ物にならない。

 

 だが、炎は炎だ。

 

 俺は手のひらの感覚を確かめる。

 

 今は出ない。

 

 ここで俺が斬るべき火ではない。

 

 リュカが越えられる火は、リュカに越えさせる。

 

 その線引きを間違えるな。

 

 やがて、古い作業場のような広間に出た。

 

 壊れた木箱。

 錆びた工具。

 壁に打ち込まれた金具。

 

 ドワーフたちが使っていた場所なのだろう。

 

 ベラが壁の印を見つけて、声を上げる。

 

「あった。こっちで合ってるわ」

 

「ドワーフの印?」

 

「そう。古いけど、まだ読める。奥に保管庫があるみたい」

 

 リュカが頷く。

 

「そこに、カギの技法の書があるの?」

 

「たぶんね」

 

 その時、広間の奥で青白い火が揺れた。

 

 ナイトウイプス。

 

 レヌール城でも見た魔物だ。

 

 リュカが息を飲む。

 

「あれ、前にもいた」

 

「なら、覚えているな」

 

「うん。近づかれたら危ない」

 

 リュカはすぐに突っ込まなかった。

 

 ボロンゴを横に置く。

 ベラが上から位置を取る。

 

 ナイトウイプスが揺れながら近づく。

 

「ベラ、お願い」

 

「任せて」

 

「マヌーサ!」

 

 ベラの呪文で、ナイトウイプスの動きがわずかに乱れる。

 

 その隙に、リュカが踏み込んだ。

 

 どうのつるぎが青白い火を裂く。

 

 ナイトウイプスが揺らぎ、消えた。

 

 リュカは剣を下ろし、息を吐いた。

 

「できた」

 

「ああ。今のはよかった」

 

 それ以上は言わない。

 

 今の戦いで、ベラもボロンゴも役目を果たしていた。

 

 リュカも、それを分かっている。

 

 さらに奥へ進むと、嫌な臭いが漂ってきた。

 

 スカンカーだ。

 

 リュカは鼻を押さえる。

 

「くさい……」

 

「近づきすぎるな」

 

 スカンカーが尾を上げる。

 

 俺はすぐに言った。

 

「横へ」

 

 リュカ、ベラ、ボロンゴが一斉に散る。

 

 スカンカーの吐いた臭気が、さっきまでリュカのいた場所を覆った。

 

「無理に攻めるな。臭気が消えるのを待て」

 

「うん」

 

 リュカは焦らなかった。

 

 待つ。

 

 相手を見る。

 

 動きが止まった瞬間、ボロンゴが飛び、リュカが続く。

 

 スカンカーが倒れる。

 

 洞窟の奥に、さらに深い気配が流れていた。

 

 まだ先がある。

 

 ラーバキングのような大きな魔物がいてもおかしくない。

 

 だが、目的は戦い尽くすことではない。

 

 カギの技法だ。

 

「リュカ」

 

「なに?」

 

「次からは、今までより大きな相手も出る。正面から押し切るだけでは通らない」

 

「うん」

 

「どう倒すかを考えろ。ボロンゴとベラを見て、自分がどこへ入るか決めるんだ」

 

 リュカはどうのつるぎを握り直した。

 

「やってみる」

 

 その目は、レヌール城へ向かう前の目ではなかった。

 

 怖さを知っている。

 だから慎重になれる。

 

 仲間を見る。

 だから前へ進める。

 

 俺は頷いた。

 

「なら進もう」

 

 ベラが前を指す。

 

「こっちよ。もっと奥に、ドワーフたちが残したものがあるはず」

 

 ボロンゴが短く鳴き、先へ進む。

 

 俺は最後尾から三人を見る。

 

 ガップリン。

 つちわらし。

 メラリザード。

 ナイトウイプス。

 スカンカー。

 

 この洞窟の敵を相手に、リュカは一歩ずつ覚えている。

 

 ベラも、ボロンゴも同じだ。

 

 ただついてきているのではない。

 それぞれが考え、動き、リュカを支えている。

 

 俺がすべてを倒せば、早く進める。

 

 だが、それでは意味がない。

 

 リュカが越えられる敵は、リュカが越える。

 仲間が支えられる場面は、仲間が支える。

 

 俺にしか見えない異変があるなら、その時は俺が動く。

 

 それが、このドワーフの洞窟で守るべき線だった。

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