ドラゴンクエストⅤ 転生したらパパスだった件。   作:兎深みどり

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第30話『カギの技法』

 ドワーフの洞窟の奥へ進むほど、壁の掘り跡は深くなった。

 

 古い支柱。

 錆びた工具。

 石床に残る小さな足跡。

 

 ここは、ドワーフたちが確かに使っていた場所だ。

 

 リュカはどうのつるぎを握り、前を見ている。

 

 もう、何度も同じ注意を言う必要はない。

 

 足元を見る。

 仲間を見る。

 敵の数を見る。

 

 それは、リュカ自身が覚え始めている。

 

 通路の先で、棘のある影が転がった。

 

 スピニー。

 

 丸まった身体が、石床を跳ねるように迫る。

 

「リュカ、どうする」

 

 俺は答えを言わなかった。

 

 リュカは一瞬だけ考えた。

 

「ベラ、目をくらませられる?」

 

「任せて。マヌーサね」

 

 ベラが前へ出る。

 

「マヌーサ!」

 

 薄い霧のような呪文が、スピニーの周囲に広がった。

 

 スピニーの動きが乱れる。

 

「ボロンゴ、横!」

 

 リュカの声に、ボロンゴが右から飛び込む。

 

 スピニーがそちらへ向いた瞬間、リュカが踏み込んだ。

 

 どうのつるぎを大きく振らない。

 

 短く、当てる。

 

 刃が入った。

 

 スピニーが壁にぶつかり、動かなくなる。

 

 リュカは剣を下ろした。

 

「できた」

 

「ああ。今の判断はよかった」

 

 それだけでいい。

 

 さらに奥へ進むと、広い縦穴に出た。

 

 古い梯子と石段が、下へ続いている。

 

 ベラが下を覗き込む。

 

「この奥よ。ドワーフたちが残した書があるはず」

 

「カギの技法の書?」

 

 リュカが聞く。

 

「ええ。氷の館の扉を開けるために必要なの」

 

 カギの技法。

 

 それを手に入れれば、次は氷の館だ。

 

 階段を降りた先で、重い足音が響いた。

 

 ラーバキング。

 

 大きな身体が、通路を塞いでいる。

 

 リュカの顔が強張った。

 

 正面から押し切れる相手ではない。

 

 だが、リュカは退かなかった。

 

「ベラ、守りを下げられる?」

 

「やってみるわ」

 

 ベラが手を向ける。

 

「ルカナン!」

 

 ラーバキングの身体が、わずかに沈む。

 

「ボロンゴ、足を止めて!」

 

 ボロンゴが低く走り、ラーバキングの足元へ飛びつく。

 

 リュカは正面に行かない。

 

 横へ回る。

 

 どうのつるぎが、ラーバキングの脇を斬った。

 

 浅い。

 

 だが、続けてもう一撃。

 

「ギラ!」

 

 ベラの呪文が走り、ラーバキングがひるむ。

 

 その隙に、リュカが三撃目を入れた。

 

 大きな身体が崩れる。

 

 リュカは肩で息をしながら、倒れたラーバキングを見ていた。

 

 俺はその背中を見る。

 

 まだ幼い。

 まだ危なっかしい。

 

 だが、もうただ守られるだけの子どもではない。

 

 自分で考え、仲間を使い、自分で踏み込んだ。

 

 奥の部屋に、古びた宝箱があった。

 

 その横の壁に、大きな羽が一枚、突き刺さっている。

 

 青い羽だ。

 

 ただの鳥の羽ではない。

 

 大人の腕ほどもある大きさで、羽軸の周りには白い霜が張りついていた。

 

 触れなくても分かる。

 

 冷気を帯びている。

 

 妖精の村の雪とも、ドワーフの洞窟の冷たさとも違う。

 

 もっと深い場所から来たような、嫌な冷たさ。

 

 そして、かすかに混じる魔界の気配。

 

 青い鳥。

 大きな羽。

 冷気。

 魔界。

 

 ここまで揃えば、前世の知識が勝手に名を引き出す。

 

 ホークブリザード。

 

 凍える吹雪を吐き、死を呼ぶ呪文を操る魔界の鳥。

 

 まだ実体を見たわけではない。

 

 だが、この羽の主がただの妖精界の魔物ではないことだけは、はっきりしていた。

 

「おとうさん?」

 

 リュカがこちらを見る。

 

「リュカは宝箱を開けなさい」

 

「この羽は?」

 

「父さんが見る」

 

 リュカは少し気にしていたが、すぐに宝箱へ向かった。

 

 俺は羽に近づく。

 

 青い羽の周囲で、霜がじわじわと広がっている。

 

 この洞窟のものではない。

 

 氷の館の方角から流れてきた気配とも違う。

 

 魔界のものが、妖精界の冬に紛れ込んでいる。

 

 そう考える方が自然だった。

 

 俺は羽に触れず、剣を抜いた。

 

 斬るのは羽ではない。

 

 羽に残った冷気の筋。

 

 それがどこへ繋がっているかを探る。

 

 手のひらから柄へ。

 柄から刃へ。

 刃の先へ。

 

 魔力を細く流す。

 

 青い羽の根元に、冷気の流れがある。

 

 俺はそこへ刃を入れた。

 

 一閃。

 

 霜が砕け、青い羽が床に落ちる。

 

 冷気は薄れた。

 

 だが、完全には消えていない。

 

 細い気配が、まだ洞窟の奥から外へ伸びている。

 

 氷の館の方角へ。

 

「本体は、そっちか」

 

 俺は剣を下ろした。

 

 リュカが宝箱を開ける。

 

 中には、古い書が入っていた。

 

「これ?」

 

 ベラが明るく頷く。

 

「カギの技法の書よ。これがあれば、氷の館の扉を開けられるわ」

 

 リュカは本を両手で抱えた。

 

「じゃあ、次は氷の館だね」

 

「ああ」

 

 俺は答えながら、床に落ちた青い羽を見る。

 

 リュカたちは、カギの技法を手に入れた。

 

 俺は、魔界の鳥の痕跡を見つけた。

 

 表の道も、裏の道も。

 

 どちらも、氷の館へ続いている。

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