ドラゴンクエストⅤ 転生したらパパスだった件。   作:兎深みどり

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第33話『魔界の鳥』

 先に動いたのは、ホークブリザードだった。

 

 青い翼が氷柱を砕く。

 砕けた氷が、リュカたちの頭上へ降り注いだ。

 

「リュカ、下がれ!」

 

 リュカはザイルの腕を掴み、横へ転がる。

 ボロンゴが二人の前に飛び出し、ベラが両手を突き出した。

 

「ギラ!」

 

 炎が走り、落ちてくる氷をいくつか溶かす。

 だが、全部ではない。残った氷がリュカの肩をかすめた。

 

「っ……!」

 

「リュカ!」

 

「大丈夫!」

 

 リュカはすぐに立ち上がった。

 ザイルは床に座り込んだまま、呆然と天井を見ている。

 

「なんで……ぼくを……」

 

「後で考えろ!」

 

 俺は氷の柱を蹴り、上へ跳んだ。

 

 ホークブリザードがくちばしを開く。冷気が渦を巻いた。

 

 こごえるふぶき。

 

 前世の知識が、反射のように名前を告げる。

 だが、今は名前を思い出している場合ではない。

 あれを下へ通せば、リュカたちは動けなくなる。

 

 俺は剣に魔力を流した。

 

 炎をぶつけるのではない。

 吹雪の流れを見る。

 どこから吐き出され、どこで広がり、どこへ落ちるのか。

 その筋へ刃を入れる。

 

 一閃。

 

 吐き出された吹雪が、空中で左右に裂けた。

 白い冷気が壁と天井を凍らせる。

 

 ホークブリザードの目が、こちらを向いた。

 

 冷たい目だ。

 獲物を見る目ではない。

 邪魔者を見る目。

 

「こっちを見ろ」

 

 俺は剣を構えた。

 

「下には行かせん」

 

 下では、雪の女王が笑っていた。

 

「人間の子が、妖精を守るの?」

 

 雪の女王の指先から冷気が伸びる。

 狙いはザイル。

 

 リュカが前に出た。

 

「ザイル、後ろ!」

 

「え……?」

 

 ザイルの反応が遅い。

 ボロンゴが体当たりするようにザイルを押し倒した。

 冷気が二人のいた場所を通り過ぎ、床を白く凍らせる。

 

「ボロンゴ!」

 

「ガウッ!」

 

 ボロンゴはすぐに起き上がった。

 リュカは剣を構える。

 

「ベラ、足元!」

 

「分かった!」

 

 ベラのギラが床を走る。

 凍った床の一部が溶け、白い水気を帯びた。

 

 リュカはそこへ足を置く。

 

 滑らない。

 

 雪の女王が眉をひそめた。

 

「小賢しいわね」

 

「小さく歩く。滑る床は使う」

 

 リュカが呟いた。

 

 ドワーフの洞窟から、ここまでの戦いが繋がっている。

 リュカは学んでいる。

 

 雪の女王が冷気を集める。

 リュカは真正面から突っ込まない。

 

「ボロンゴ、右!」

 

 ボロンゴが右へ走る。

 雪の女王の視線がそちらへ向いた。

 

「ベラ!」

 

「ギラ!」

 

 炎が雪の女王の足元を焼く。

 その一瞬、リュカが低く踏み込んだ。

 

 どうのつるぎが、雪の女王の腕をかすめる。

 

「人間の子が……!」

 

 雪の女王の顔から余裕が消えた。

 

 よし。

 

 表は動いている。

 

 なら、俺は裏を止める。

 

 ホークブリザードが翼をたたみ、急降下してきた。

 爪が氷の光を帯びる。

 

 速い。

 

 俺は空中で身体をひねり、剣を合わせた。

 金属音ではない。

 氷を叩き割るような音が響き、腕に重さが来る。

 

 この身体でなければ、受けきれなかった。

 

 ホークブリザードはすぐに離れ、もう一度くちばしを開いた。

 

 今度は冷気ではない。

 

 空気が沈む。音が遠くなる。肌が粟立つ。

 

 ザラキ。

 

 まずい。

 

 俺は床へ着地する前に、柱を蹴った。

 間に合うか。

 

 ホークブリザードのくちばしから、黒い言葉のような魔力が漏れる。

 呪文は刃物ではない。

 炎でも氷でもない。

 

 だが、魔力には流れがある。音にも、向きがある。

 

 なら、断てる。

 

「させるか!」

 

 俺は剣を振り抜いた。

 

 黒い魔力の筋が、空中で裂ける。

 耳の奥で、嫌な音が弾けた。

 膝が一瞬だけ重くなる。

 

 完全には斬りきれていない。

 

 だが、下には届かせなかった。

 

「おとうさん!」

 

「前を見ろ!」

 

 リュカが叫びかけた瞬間、雪の女王の冷気が迫っていた。

 

 ベラがリュカの前に飛ぶ。

 

「マヌーサ!」

 

 白い霧が広がり、雪の女王の狙いがわずかにそれる。

 その隙にリュカが横へ滑った。

 

 ボロンゴが雪の女王の足元へ飛びかかる。

 

 ザイルが震えながら叫んだ。

 

「そこ、右の床は滑る!」

 

 リュカが一瞬だけ目を見開く。

 

「ありがとう!」

 

 リュカは右へ行かず、左へ踏み込んだ。

 雪の女王の冷気が空を切る。

 

 ザイルは自分の口を押さえた。

 

 助けた。

 

 今、自分の意思で。

 

 雪の女王がザイルを睨む。

 

「あなたまで、私に逆らうの?」

 

 ザイルは震えた。

 けれど、もう目を逸らさなかった。

 

「ぼくは……冬のままがいいなんて、本当は思ってない」

 

 ベラが息を呑む。リュカが剣を握り直した。

 

「ザイル」

 

「フルートは……奥だ」

 

 ザイルは雪の女王を見たまま言った。

 

「あいつが、奥に隠してる」

 

 雪の女王の顔が歪む。

 

「役立たずが!」

 

 冷気がザイルへ伸びる。

 リュカがその前へ出た。

 

 だが、上からも動く。

 

 ホークブリザードが、再びザラキの気配をまとった。

 

 下は雪の女王。

 

 上はホークブリザード。

 

 同時に来る。

 

 俺は息を吸った。

 

 守るだけでは押し切られる。

 

 なら、先に片方を崩す。

 

 俺はホークブリザードへ向けて跳んだ。

 

 青い翼が広がる。

 

 死の呪文が形になる前に。

 

 その喉元へ、刃を届かせる。

 

「落ちろ」

 

 剣が、青い羽を裂いた。

 

 ホークブリザードの身体が大きく傾く。

 翼が氷柱にぶつかり、青い羽が散った。

 

 そのまま、魔界の鳥は氷の床へ叩きつけられる。

 

 くちばしが開く。

 

 だが、もう呪文は形にならなかった。

 

 冷気だけが白く漏れ、薄れていく。

 

 俺は剣を下ろした。

 

 終わった。

 

 上は片づけた。

 

 だが、館の冷気はまだ消えていない。

 

 雪の女王は、まだリュカたちの前にいる。

 

 あとは、リュカたちの戦いだ。

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