ドラゴンクエストⅤ 転生したらパパスだった件。   作:兎深みどり

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第4話『金髪の少女』

 ビアンカ。

 

 幼い頃のビアンカだ。

 

 明るい金髪。

 勝ち気そうな目。

 こちらへ駆け寄ってくる足取りまで、妙に元気がいい。

 

 画面の中で何度も見た少女が、今は目の前にいる。

 

 フローラに続いて、ビアンカ。

 

 船を降りて、サンタローズに着いて、サンチョと再会して、家に入ったらビアンカがいた。

 

 情報量が多い。

 

 転生してから、まだ一日も経っていないはずなんだが。

 

「おじさま、お帰りなさい!」

 

 ビアンカは俺を見上げて、元気よくそう言った。

 

 返しかけて、止まる。

 

 違う。

 俺はビアンカを知っている。

 だが、パパスとしてはまだこの子を知らない。

 

 ここで普通に返せば、おかしい。

 

「……この女の子は?」

 

 口から出たのは、短い問いだった。

 

 よし。

 今のは自然だ。

 外側のパパスは、まだ崩れていない。

 

 中身はかなり危ない。

 

 だってビアンカだぞ。

 幼年期のビアンカだぞ。

 

 レヌール城。

 お化け退治。

 ベビーパンサー。

 アルカパ。

 

 そして、未来の花嫁候補。

 

 言えるわけがない。

 

 今のリュカに、この子が将来の花嫁候補の一人だなんて言ったら、父親以前にただの危ない男だ。

 あれ?これフローラの時にもやったな。

 

「あたしの娘だよ、パパス!」

 

 ビアンカのそばにいた女性が、からっとした声でそう言った。

 

 落ち着いてはいるが、遠慮しすぎる感じではない。

 宿屋のおかみらしい、人慣れした明るさがある。

 

 ビアンカの母親だ。

 

「やあ。となり町に住む、ダンカンのおかみさんじゃないか」

 

 口から出た言葉に、内心で少しだけ安心する。

 

 どうやらパパスの身体は、覚えている相手にはちゃんと反応してくれるらしい。

 

 俺はビアンカを知っている。

 パパスはビアンカを知らない。

 だが、ビアンカの母親は知っている。

 

 ややこしい。

 

 だが、ここは原作通りだ。

 

「久しぶりだねえ、パパス。あたしたちは、ちょいと薬をもらいに来てるんだよ」

 

 おかみさんはそう言って、困ったように息をついた。

 

「うちのダンカンが具合を悪くしてね。ここの薬が効くって聞いたんだけど、薬を取りに行った人が、まだ戻ってこないんだよ」

 

 来た。

 

 ダンカンの病気。

 サンタローズの薬。

 洞窟へ行ったまま戻らない男。

 

 原作の流れが、目の前で動いている。

 感動でしかない。

 

 あの男は、サンタローズの洞窟で岩に足を挟まれている。

 本来なら、リュカが助けに行く。

 

 リュカにとって最初の小さな冒険だ。

 

「そうか。心配だな」

 

 余計なことは言わない。

 

 場所を知っている。

 助け方も知っている。

 この後の流れも知っている。

 

 だが、ここで俺が全部先に動けば、リュカが踏み出すはずの一歩まで消えてしまう。

 

 父親なら、危ないからと全部取り上げればいいわけじゃない。

 

 危ない場所へ行かせたくない。

 それは本音だ。

 

 だが、あの子はこれから旅をする。

 泣いても、怖くても、自分で歩かなければならない時が来る。

 

 その最初の一歩を、俺が奪っていいのか。

 

 ビアンカはリュカの方へ向くと、当然のように話しかけた。

 

「ねえ、リュカ。大人のお話って長くなるから、上に行かない?」

 

「……上?」

 

「そう。わたしが案内してあげる!」

 

 リュカは少し困ったように、俺を見上げてきた。

 

 助けを求めている顔だ。

 

 だが、ここは行かせていい。

 

「行っておいで」

 

「……うん」

 

 ビアンカはリュカの手を取って、二階へ向かった。

 リュカは少し戸惑いながらも、素直についていく。

 

 小さな足音が階段を上がっていった。

 

 その背中を見送りながら、俺は思った。

 

 この出会いも、リュカのものだ。

 

 俺が決めることじゃない。

 俺が選ぶことでもない。

 

 この子がいつか、自分で選べるようにしておく。

 それでいい。

 

 二階から、ビアンカの明るい声が聞こえてくる。

 リュカの小さな返事も、かすかに混じっていた。

 

 居間では、おかみさんがまだ薬屋の男を心配している。

 サンチョは何度も頷きながら、茶を出したり、椅子をすすめたりしていた。

 

「まったく、どこで手間取ってるんだかねえ。あの人も人がいいから、困ってる誰かでも見つけたのかもしれないけど」

 

 おかみさんはそう言いながらも、目は落ち着かない。

 

 強い人だ。

 明るく振る舞っているが、不安を隠している。

 

 ビアンカがああいう性格になるのも、少し分かる気がした。

 

 やがて、ビアンカ親子は宿へ戻ることになった。

 

「それじゃあ、パパス。長旅のあとに悪かったね」

 

「気にしなくていい」

 

「リュカも、またあとでね!」

 

「……うん」

 

 ビアンカが手を振る。

 リュカは少し照れたように手を振り返した。

 

 親子が家を出ると、部屋の中が少し静かになった。

 

 リュカは落ち着かない様子で、何度も扉の方を見ている。

 

 分かりやすい。

 

 薬を取りに行った男のことが、気になっているのだろう。

 

「リュカ」

 

「なに、おとうさん?」

 

「今日は長旅で疲れただろう。無理はするな」

 

「……うん」

 

 返事はした。

 だが、目が泳いでいる。

 

 これは行く。

 

 怖くても。

 不安でも。

 誰かが困っていると知れば、この子は動く。

 

 なら、俺がすることは一つだ。

 

 止めるか。

 見届けるか。

 

 少しだけ迷う。

 

 俺が先に行けば、危険はなくなる。

 だが、それではリュカが自分で踏み出す一歩まで消えてしまう。

 

 危なくなれば、その時は手を伸ばせばいい。

 

 それまでは、見届ける。

 

 父親として。

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