ドラゴンクエストⅤ 転生したらパパスだった件。   作:兎深みどり

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第四章《いざ、エルヘヴンへ!》
第40話『バーハ』


 ラインハットからの書簡は、まだ届いていなかった。

 

 未来のリュカとの戦いから数日。

 次の流れが始まる前に、できることはすべて済ませておく必要がある。

 

 未来のリュカは正面から戦ってくれた。

 だが、ゲマは人質も罠も平然と使う。

 

 奴が仕掛ける前に動く力。

 呪文や炎を受けても立ち続ける力。

 そして、リュカとヘンリーを守りながら戦い抜く力。

 

 足りないものは、まだ多かった。

 

「おとうさん、どこか行くの?」

 

 家を出ようとすると、木剣を抱えたリュカが駆け寄ってきた。

 その後ろにはボロンゴもいる。

 

「ああ。少し用事がある」

 

「ぼくも行きたい」

 

「今日は父さん一人で行く」

 

「どうして?」

 

「父さんの修行だからだ」

 

 リュカは少し残念そうにしたが、すぐに木剣を握り直した。

 

「じゃあ、ぼくもしゅぎょーしてる!」

 

「ああ。帰ったら見せてくれ」

 

「うん!」

 

「ガウ!」

 

 元気な声に見送られ、俺はルラフェンへ向かった。

 

 

 

 

「きっちり一週間か」

 

 扉を開けたベネットじいさんは、俺を見るなりそう言った。

 

「一週間後に来いと言ったのは、そっちだろう」

 

「おぬしのことじゃ。三日ほどで押しかけてくるかと思っておった」

 

「その場合は?」

 

「追い返しておった」

 

「待って正解だったな」

 

 ベネットじいさんは鼻を鳴らし、俺を家の中へ招き入れた。

 

 机の上には、一週間前にはなかった赤い石が置かれている。

 近づくだけで、露出した腕へ熱気がまとわりついた。

 

「おぬしが話しておった《フバーハ》じゃがな」

 

「ああ」

 

「仲間全員を守るところまでは無理じゃった。じゃが、一人だけなら守れる形にした」

 

「完成したのか?」

 

「形にはなった。実際に使えるか、おぬしの身体で試す」

 

「俺が実験台か」

 

「欲しがったのはおぬしじゃろう」

 

 案内された地下室で、ベネットじいさんは赤い石を台へ置いた。

 

「炎や吹雪を消す呪文ではない。身体の周囲へ魔力を巡らせ、ブレスの勢いを受け流す」

 

「魔力の壁を作るんじゃないのか?」

 

「壁は強い力で壊される。受け止めるな。流せ」

 

 杖が振られ、赤い石から熱風が噴き出した。

 

「熱っ!」

 

 とっさに腕で顔を庇う。

 

「今のは何もしておらん。次は魔力を身体の外へ広げてみよ」

 

 俺は魔力を薄い膜にして全身へ広げた。

 だが、右腕へ偏った瞬間、二度目の熱風が左側へ直撃した。

 

「ぐっ……!」

 

「左半分は焼け死んだな」

 

「勝手に殺すな」

 

「実戦なら死んでおる」

 

 腹立たしいが、正しい。

 

 力で押し返そうとするから偏る。

 未来のリュカのバギクロスを斬ったときも、暴風そのものへ力をぶつけたわけではない。

 

(流れを作るんだ)

 

 頭から肩へ。

 肩から両腕へ。

 胸から腹へ。

 腰から両脚へ。

 

 薄く広げた魔力を止めず、身体の表面へ沿わせて循環させる。

 正面から来た力を左右へ逃がすための道を作る。

 

「もう一度だ」

 

「まだ早いぞ」

 

「形になった」

 

 ベネットじいさんが杖を振り上げた。

 

 先ほどより強い熱風が押し寄せる。

 俺は両足を踏みしめ、全身を覆う魔力を流し続けた。

 

 熱風が身体へぶつかり、そのまま左右へ分かれる。

 

 熱い。

 腕には痛みが走る。

 

 それでも、立っていられる。

 剣を握ることもできる。

 

 熱風が止むまで、俺は一歩も退かなかった。

 

「……よし。まだ無駄は多いが、呪文としては完成じゃ」

 

「これで使えるのか?」

 

「何度も繰り返せ。考えずとも身体を包めるようにならねば、奇襲には間に合わん」

 

「ああ」

 

 これだけでゲマの炎を防ぎ切れるとは思わない。

 それでも、原作のパパスにはなかった手札だ。

 

「ところで、この呪文にはまだ名前がない」

 

「決めていなかったのか?」

 

「形にする方が先じゃろう」

 

 ベネットじいさんは髭を撫でた。

 

「おぬしから聞いた、仲間全員を守る呪文は《フバーハ》だったな」

 

「ああ」

 

「これは一人しか守れん。ならば、《フバーハ》から頭の《フ》を取って――」

 

 ベネットじいさんが杖の先を俺へ向けた。

 

「《バーハ》と名づける!」

 

「バーハ……」

 

 一週間前、単体用のフバーハと聞いたとき、俺の頭にも同じ名前が浮かんでいた。

 だが、その名前を口にした覚えはない。

 

(本当にバーハになったのかよ)

 

「なんじゃ。不満か?」

 

「いや。分かりやすくていい」

 

「当然じゃ。名づけたのはわしじゃからな」

 

「フバーハを教えたのは俺だぞ」

 

「名前と大まかな効果だけじゃろう。形にしたのはわしじゃ」

 

「なら、共同開発だな」

 

「仕方ない。おぬしの名も隅の方へ残しておいてやろう」

 

「随分と偉そうな共同開発者だな」

 

 ベネットじいさんは満足そうに笑った。

 

 俺は右手を開き、もう一度、身体の周囲へ魔力を巡らせる。

 

 バーハ。

 

 未来を変えるための新しい手札が、また一つ増えた。

 

 だが、準備はこれで終わりではない。

 

 次は、武器と道具。

 

 ゲマへ挑むために、この時代で手に入る最強のものを集める。

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