ドラゴンクエストⅤ 転生したらパパスだった件。   作:兎深みどり

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第41話『遠征の支度』

 ベネットじいさんの家を出た俺は、ルーラでサンタローズへ戻った。

 身体の周囲へ魔力を巡らせると、まだ不安定ながらも薄い膜が全身を包む。

 

 バーハ。

 

 炎や吹雪を完全に防ぐことはできない。

 それでも、攻撃を受けたあとも立ち続けられる可能性は高くなる。

 

 次に必要なのは、武器と道具だ。

 

 ラインハットからの書簡は、まだ届いていない。

 このわずかな猶予を利用して、この時代で手に入る最高のものを集める。

 

 

          ◇

 

 

「サンチョ。少し話がある」

 

 夕食を終えたあと、俺はサンチョを居間へ呼んだ。

 リュカとボロンゴは、隣の部屋で遊んでいる。

 

「何でございましょう」

 

「しばらく村を離れる」

 

「どちらへ向かわれるので?」

 

「エルヘブンだ」

 

 サンチョの表情が固まった。

 

「マーサ様の故郷へ、でございますか」

 

「ああ」

 

 俺には、パパスとマーサの思い出がない。

 二人がエルヘブンで何を語り、どのように結ばれたのかも分からない。

 

 だが、あの町に《まほうのカギ》と《まほうのじゅうたん》があることは知っている。

 まほうのカギさえ手に入れば、今まで開けられなかった扉の先にある品を回収できる。

 

 ゲマとの戦いを変えるために、必要なものだ。

 

「海の神殿を通られるのでございますか?」

 

「いや。船を探している時間はない」

 

「では、どのようにして?」

 

 俺は机の上へ地図を広げた。

 まず、サンタローズの南西にあるオラクルベリーを指す。

 

「最初にここへ向かう」

 

 そこから指を南へ滑らせ、海辺の修道院を通って東側の大陸へ移した。

 

「修道院の南から海を渡る。そのあとは、西側から山を越えてエルヘブンへ入る」

 

「道があるのでございますか?」

 

「分からない」

 

「分からないのですか!?」

 

「道がなければ、登れる場所を探す」

 

 サンチョは額を押さえた。

 ゲームでは山の地形へ入れなかったが、現実の山なら越えられる可能性はある。

 

 楽な旅になるとは思っていない。

 だからこそ、リュカを連れていくことはできなかった。

 

「それで、頼みがある」

 

「何でございましょう」

 

「金を貸してくれ」

 

「お金、でございますか?」

 

「ああ。三万ゴールドほど必要だ」

 

「さ、三万ゴールド!?」

 

 隣の部屋から物音が消えた。

 リュカが聞き耳を立てているのだろう。

 

「オラクルベリーで山越えの道具をそろえる。それと、エルヘブンで新しい剣を買う」

 

「三万で足りますか?」

 

「足りるように使う」

 

 エルヘブンで買う予定の《ゆうわくのけん》は、九千八百ゴールド。

 その金だけは、何があっても使わずに残す。

 

「少々お待ちください」

 

 サンチョは奥の部屋へ入り、しばらくして革袋を抱えて戻ってきた。

 机へ置かれた袋から、硬貨の重い音が響く。

 

「三万五千ゴールドございます」

 

「多いぞ」

 

「山へ向かわれるのであれば、予定外の出費もあるでしょう」

 

「これは家の蓄えだろう」

 

「パパス様と坊っちゃんのために使わず、何のために貯めていたというのです」

 

 俺は革袋を受け取った。

 その重さは、サンチョが俺たちのために積み重ねてきた時間そのものだった。

 

「必ず返す」

 

「では、戻られてから受け取ります」

 

「ああ」

 

「おとうさん、また旅に行くの?」

 

 隣の部屋から、リュカが顔を出した。

 ボロンゴもその足元からこちらを見上げている。

 

「少し遠くへ行ってくる」

 

「ぼくも行きたい」

 

「今回は父さん一人だ」

 

「どうして?」

 

「海を渡って、道のない山を登るからだ」

 

「ぼくも山、登れるよ」

 

「今回は駄目だ」

 

 リュカは不満そうに頬を膨らませた。

 だが、ここで折れるわけにはいかない。

 

「父さんがいない間、サンチョを手伝ってやってくれ」

 

「サンチョを?」

 

「ああ。ボロンゴと一緒にな」

 

「ガウ!」

 

 ボロンゴが胸を張るように鳴いた。

 それを見たリュカも、真剣な顔でうなずく。

 

「わかった。ぼくたちが手伝う」

 

「頼んだぞ」

 

 俺は二人の頭を撫でた。

 

 

          ◇

 

 

 翌朝。

 

 俺は荷物を背負い、腰へパパスのつるぎを差した。

 山越えに必要な道具は、オラクルベリーでそろえる。

 

 丈夫なロープ。

 鉄杭。

 防寒具。

 保存食と水。

 薬草や毒消し草。

 

 オラクルベリーにはカジノもある。

 景品に何が並んでいるかは知っているが、今の資金で手に入れられるとは思っていなかった。

 

「おとうさん!」

 

 家の前で、リュカが大きく手を振った。

 

「おみやげ、忘れないでね!」

 

「旅の目的が増えたな」

 

「ガウガウ!」

 

「ボロンゴの分もか」

 

「ガウ!」

 

 何を買えば喜ぶのかは、戻るまでに考えておこう。

 

「行ってくる」

 

「いってらっしゃい、おとうさん!」

 

 リュカの声を背に、俺はサンタローズを出た。

 

 最初の目的地は、オラクルベリー。

 

 未来を変えるための遠征が、始まった。

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