ドラゴンクエストⅤ 転生したらパパスだった件。 作:兎深みどり
ベネットじいさんの家を出た俺は、ルーラでサンタローズへ戻った。
身体の周囲へ魔力を巡らせると、まだ不安定ながらも薄い膜が全身を包む。
バーハ。
炎や吹雪を完全に防ぐことはできない。
それでも、攻撃を受けたあとも立ち続けられる可能性は高くなる。
次に必要なのは、武器と道具だ。
ラインハットからの書簡は、まだ届いていない。
このわずかな猶予を利用して、この時代で手に入る最高のものを集める。
◇
「サンチョ。少し話がある」
夕食を終えたあと、俺はサンチョを居間へ呼んだ。
リュカとボロンゴは、隣の部屋で遊んでいる。
「何でございましょう」
「しばらく村を離れる」
「どちらへ向かわれるので?」
「エルヘブンだ」
サンチョの表情が固まった。
「マーサ様の故郷へ、でございますか」
「ああ」
俺には、パパスとマーサの思い出がない。
二人がエルヘブンで何を語り、どのように結ばれたのかも分からない。
だが、あの町に《まほうのカギ》と《まほうのじゅうたん》があることは知っている。
まほうのカギさえ手に入れば、今まで開けられなかった扉の先にある品を回収できる。
ゲマとの戦いを変えるために、必要なものだ。
「海の神殿を通られるのでございますか?」
「いや。船を探している時間はない」
「では、どのようにして?」
俺は机の上へ地図を広げた。
まず、サンタローズの南西にあるオラクルベリーを指す。
「最初にここへ向かう」
そこから指を南へ滑らせ、海辺の修道院を通って東側の大陸へ移した。
「修道院の南から海を渡る。そのあとは、西側から山を越えてエルヘブンへ入る」
「道があるのでございますか?」
「分からない」
「分からないのですか!?」
「道がなければ、登れる場所を探す」
サンチョは額を押さえた。
ゲームでは山の地形へ入れなかったが、現実の山なら越えられる可能性はある。
楽な旅になるとは思っていない。
だからこそ、リュカを連れていくことはできなかった。
「それで、頼みがある」
「何でございましょう」
「金を貸してくれ」
「お金、でございますか?」
「ああ。三万ゴールドほど必要だ」
「さ、三万ゴールド!?」
隣の部屋から物音が消えた。
リュカが聞き耳を立てているのだろう。
「オラクルベリーで山越えの道具をそろえる。それと、エルヘブンで新しい剣を買う」
「三万で足りますか?」
「足りるように使う」
エルヘブンで買う予定の《ゆうわくのけん》は、九千八百ゴールド。
その金だけは、何があっても使わずに残す。
「少々お待ちください」
サンチョは奥の部屋へ入り、しばらくして革袋を抱えて戻ってきた。
机へ置かれた袋から、硬貨の重い音が響く。
「三万五千ゴールドございます」
「多いぞ」
「山へ向かわれるのであれば、予定外の出費もあるでしょう」
「これは家の蓄えだろう」
「パパス様と坊っちゃんのために使わず、何のために貯めていたというのです」
俺は革袋を受け取った。
その重さは、サンチョが俺たちのために積み重ねてきた時間そのものだった。
「必ず返す」
「では、戻られてから受け取ります」
「ああ」
「おとうさん、また旅に行くの?」
隣の部屋から、リュカが顔を出した。
ボロンゴもその足元からこちらを見上げている。
「少し遠くへ行ってくる」
「ぼくも行きたい」
「今回は父さん一人だ」
「どうして?」
「海を渡って、道のない山を登るからだ」
「ぼくも山、登れるよ」
「今回は駄目だ」
リュカは不満そうに頬を膨らませた。
だが、ここで折れるわけにはいかない。
「父さんがいない間、サンチョを手伝ってやってくれ」
「サンチョを?」
「ああ。ボロンゴと一緒にな」
「ガウ!」
ボロンゴが胸を張るように鳴いた。
それを見たリュカも、真剣な顔でうなずく。
「わかった。ぼくたちが手伝う」
「頼んだぞ」
俺は二人の頭を撫でた。
◇
翌朝。
俺は荷物を背負い、腰へパパスのつるぎを差した。
山越えに必要な道具は、オラクルベリーでそろえる。
丈夫なロープ。
鉄杭。
防寒具。
保存食と水。
薬草や毒消し草。
オラクルベリーにはカジノもある。
景品に何が並んでいるかは知っているが、今の資金で手に入れられるとは思っていなかった。
「おとうさん!」
家の前で、リュカが大きく手を振った。
「おみやげ、忘れないでね!」
「旅の目的が増えたな」
「ガウガウ!」
「ボロンゴの分もか」
「ガウ!」
何を買えば喜ぶのかは、戻るまでに考えておこう。
「行ってくる」
「いってらっしゃい、おとうさん!」
リュカの声を背に、俺はサンタローズを出た。
最初の目的地は、オラクルベリー。
未来を変えるための遠征が、始まった。