ドラゴンクエストⅤ 転生したらパパスだった件。 作:兎深みどり
スライムレース場へ入ると、五匹のスライムが横一列に並んでいた。
受付の上には、組み合わせごとの倍率が表示されている。
前世で何度も見た光景だった。
だが、今の俺はコントローラーを握っているわけではない。
(本当に通用するのか?)
格闘場で魔物の戦いを見る。
決着がつく前に切り上げ、そのままスライムレースへ向かう。
そこで一番と二番の組み合わせへ賭ける。
SFC版で有名だった裏技だ。
俺は一番と二番へ、失っても問題のない枚数だけを賭けた。
「間もなく出走です!」
合図とともに、五匹のスライムが跳ねるように走り始めた。
一番が先頭へ飛び出し、二番がその後ろにつく。
三番が外側から追い上げてきた。
だが、ゴール直前でわずかに失速する。
「一着、一番! 二着、二番!」
(……当たった)
払い戻されたコインを受け取りながら、俺は結果を見つめた。
一度だけなら偶然で済ませられる。
俺はもう一度、格闘場へ戻った。
少額を賭け、魔物たちが戦い始めたところで席を立つ。
先ほどと同じ道を通り、スライムレース場へ向かった。
「一番と二番だ」
再びレースが始まる。
「一着、一番! 二着、二番!」
(また当たった)
今度は格闘場を出たあと、わざと通路の途中で足を止めた。
受付へ着くまでの時間を変え、一番と二番へ賭ける。
結果は一番と四番だった。
(やっぱり、何かが違う)
前世で読んだ検証では、格闘場を出てからスライムレースを始めるまで、同じ操作を同じタイミングで入力すれば、同じオッズと結果を再現できたという。
完全に同じ入力を繰り返すために、操作を記録して再生できる特殊なコントローラーを使った者までいた。
(だが、今の俺にはコントローラーなんてない)
ゲームのボタン入力を、この世界でどう再現すればいいのかなど分からない。
同じ道を通り、同じ手順で受付へ向かうことはできても、それだけで同じ結果になる保証はなかった。
それでも、先ほど成功した流れを可能な限り繰り返す。
格闘場で賭ける。
戦いが始まったところで席を立つ。
寄り道をせず、スライムレース場へ向かう。
そして、一番と二番へ賭ける。
「一着、一番! 二着、二番!」
三度目の成功だった。
(なんで使えるんだよ……)
最初の船で、俺は幼いフローラに会っている。
あの出会いは、PS2版以降で追加されたものだった。
だから、この世界はリメイク版を基準にしていると思っていた。
町の造りや細かな出来事には、DS版に近い部分まである。
それなのに、SFC版だけのはずの裏技まで残っている。
(SFC、PS2、DSがごちゃ混ぜなのか?)
理由は分からない。
同じ手順を踏んでも、時折違う結果になる。
それでも、一番と二番が勝つ確率は明らかに高かった。
(使えるなら使わせてもらう)
俺は増えたコインの一部だけを賭け、外れたときにも元手を失わないようにした。
成功するたびに賭ける枚数を増やし、失敗すれば再び少額からやり直す。
日が沈み始める頃には、手元のコインが五万枚を超えていた。
◆
「五万コイン、確かにお預かりしました」
交換所の女が奥へ入り、一本の剣を抱えて戻ってきた。
銀色に輝く刃。
柄には、王冠を戴いたスライムを思わせる装飾が施されている。
「《メタルキングのけん》でございます」
俺は差し出された剣を受け取った。
ずしりと重い。
だが、重心が安定しており、軽く振るだけで刃が素直に走る。
試しに魔力を流すと、その力は引っかかることなく剣先まで届いた。
(これが、攻撃力百三十……)
パパスのつるぎとは、比べものにならない。
山越えの道具はそろっている。
エルヘブンで使う金にも手をつけていない。
予定になかった、最高の成果だった。
俺はメタルキングのけんを背負い、夜のオラクルベリーへ出た。
次は海辺の修道院。
そこから再び海を渡り、エルヘブンを囲む山脈へ挑む。
俺は背中の剣へ手を触れた。
(待っていろ、ゲマ)
原作のパパスが持つことのなかった剣を手に、俺は次の目的地へ歩き始めた。