ドラゴンクエストⅤ 転生したらパパスだった件。   作:兎深みどり

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第44話『海辺の修道院』

 翌朝、俺はオラクルベリーを発った。

 背中には山越え用の荷物と、交換所で手に入れたメタルキングのけんがある。

 

 剣は専用の鞘へ収め、その上から厚い布を巻いていた。

 五万コインもの価値がある品を、むき出しのまま持ち歩く気にはなれない。

 

 町から十分に離れたところで、俺は一度だけ剣を抜いた。

 朝日を受けた白銀の刃へ、ゆっくりと魔力を流していく。

 

 魔力は途中で滞ることなく、柄から刃先まで滑らかに届いた。

 パパスのつるぎより重いはずなのに、構えたときの負担はむしろ小さい。

 

(これなら、しんくう斬りへ流せる魔力も増やせる)

 

 だが、強い武器を手に入れただけでゲマに勝てるとは思っていない。

 どれほど強力な剣でも、人質を取られて振るえなければ意味がなかった。

 

 俺は剣を鞘へ戻し、海辺の修道院がある南東へ向かった。

 

 

 街道を外れて草原を進んでいると、前方の茂みが大きく揺れた。

 姿を現したのは、一体のブラウニーと二体のプリズニャンだった。

 

 ブラウニーが両手で大きな槌を振り上げる。

 二体のプリズニャンは左右へ分かれ、俺を挟み込むように駆け出した。

 

 俺は背中のメタルキングのけんを抜いた。

 右から飛びかかってきたプリズニャンの爪を刃の腹で受け流し、その勢いを利用して身体を回転させる。

 

 白銀の刃が、反対側から迫っていた一体を斬り払った。

 直後、ブラウニーの槌が頭上から振り下ろされる。

 

 半歩だけ身を引くと、槌は目の前の地面を砕いた。

 がら空きになった胴へ剣を振るい、一撃でブラウニーを倒す。

 

 残ったプリズニャンが毛を逆立てた。

 それでも逃げず、鋭い爪を突き出して飛びかかってくる。

 

 俺は踏み込みと同時に剣を斜めへ振り上げた。

 プリズニャンの身体が草の上へ落ち、そのまま動かなくなる。

 

「……まるで違うな」

 

 剣へ流した力が、ほとんど失われずに相手へ伝わっていた。

 パパスのつるぎなら魔力を抑えていた場面でも、この剣にはまだ余裕がある。

 

 刃の汚れを拭おうとして、俺は倒れたプリズニャンへ目を向けた。

 

(プリズニャン……)

 

 こいつが登場したのは、確かDS版からだった。

 SFC版にもPS2版にもいなかったはずだ。

 

 最初の船では、PS2版以降で追加された幼いフローラと出会った。

 オラクルベリーでは、SFC版の裏技が通用した。

 

 そして今度は、DS版で追加されたプリズニャン。

 

(やっぱり、この世界にはDS版も混ざっているのか)

 

 そうなると、もう一人の存在も無視できない。

 

(ということは……デボラもいるのか?)

 

 フローラの姉にして、DS版で追加された三人目の花嫁候補。

 今の俺に直接関係する人物ではないが、この世界のどこかに存在している可能性は高い。

 

(本当に、何でもごちゃ混ぜだな)

 

 どの作品の知識が通用し、どの作品の流れが優先されるのか。

 判断を誤れば、知っているはずの出来事に足をすくわれるかもしれない。

 

 俺はメタルキングのけんを鞘へ収め、再び歩き始めた。

 

 

 日が傾き始めた頃、海辺の修道院が見えてきた。

 白い建物の向こうには海が広がり、絶え間なく波の音が聞こえている。

 

 門へ近づくと、庭を掃いていた修道女が手を止めた。

 

「旅の方ですか?」

 

「ああ。一晩、休ませてもらいたい」

 

「どうぞお入りください。ですが、随分と大きなお荷物ですね」

 

「山を越えるための道具だ」

 

「山、ですか?」

 

「海の向こうにある山脈へ向かう」

 

 修道女は、俺の背後に広がる海へ目を向けた。

 

「船を待たれるのですか?」

 

「いや。泳いで渡る」

 

「……泳いで?」

 

「ああ」

 

 修道女は俺の顔を見たあと、荷物と海を交互に見比べた。

 冗談だと思いたかったのかもしれない。

 

「この辺りの潮は速くなります。小舟でも流されることがあるのですよ」

 

「波が穏やかになる時間を教えてほしい」

 

「お止めしても、渡るおつもりなのですね」

 

「ああ」

 

 しばらく黙っていた修道女は、小さく息を吐いた。

 

「明日の夜明け頃なら、今よりは穏やかになります。ただし、沖へ出れば流れは変わります」

 

「助かる」

 

 修道院へ荷物を置いたあと、俺は一人で海岸へ向かった。

 海の向こうには目的の大陸が見え、その奥にはエルヘブンを囲む山脈が壁のように連なっている。

 

 ゲームの中では、一歩も入れなかった山だ。

 だが、目の前には岩肌があり、谷があり、頂へ続いているように見える斜面もある。

 

 明日の朝、まずはこの海を渡る。

 その先で、登れる場所を探す。

 

「問題は、あの荷物をどう運ぶかだな」

 

 メタルキングのけんを手に入れた直後に、海の底へ沈めるわけにはいかない。

 俺は波打ち際に立ち、対岸までの距離と潮の流れを見つめた。

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