ドラゴンクエストⅤ 転生したらパパスだった件。 作:兎深みどり
翌朝、俺はオラクルベリーを発った。
背中には山越え用の荷物と、交換所で手に入れたメタルキングのけんがある。
剣は専用の鞘へ収め、その上から厚い布を巻いていた。
五万コインもの価値がある品を、むき出しのまま持ち歩く気にはなれない。
町から十分に離れたところで、俺は一度だけ剣を抜いた。
朝日を受けた白銀の刃へ、ゆっくりと魔力を流していく。
魔力は途中で滞ることなく、柄から刃先まで滑らかに届いた。
パパスのつるぎより重いはずなのに、構えたときの負担はむしろ小さい。
(これなら、しんくう斬りへ流せる魔力も増やせる)
だが、強い武器を手に入れただけでゲマに勝てるとは思っていない。
どれほど強力な剣でも、人質を取られて振るえなければ意味がなかった。
俺は剣を鞘へ戻し、海辺の修道院がある南東へ向かった。
◆
街道を外れて草原を進んでいると、前方の茂みが大きく揺れた。
姿を現したのは、一体のブラウニーと二体のプリズニャンだった。
ブラウニーが両手で大きな槌を振り上げる。
二体のプリズニャンは左右へ分かれ、俺を挟み込むように駆け出した。
俺は背中のメタルキングのけんを抜いた。
右から飛びかかってきたプリズニャンの爪を刃の腹で受け流し、その勢いを利用して身体を回転させる。
白銀の刃が、反対側から迫っていた一体を斬り払った。
直後、ブラウニーの槌が頭上から振り下ろされる。
半歩だけ身を引くと、槌は目の前の地面を砕いた。
がら空きになった胴へ剣を振るい、一撃でブラウニーを倒す。
残ったプリズニャンが毛を逆立てた。
それでも逃げず、鋭い爪を突き出して飛びかかってくる。
俺は踏み込みと同時に剣を斜めへ振り上げた。
プリズニャンの身体が草の上へ落ち、そのまま動かなくなる。
「……まるで違うな」
剣へ流した力が、ほとんど失われずに相手へ伝わっていた。
パパスのつるぎなら魔力を抑えていた場面でも、この剣にはまだ余裕がある。
刃の汚れを拭おうとして、俺は倒れたプリズニャンへ目を向けた。
(プリズニャン……)
こいつが登場したのは、確かDS版からだった。
SFC版にもPS2版にもいなかったはずだ。
最初の船では、PS2版以降で追加された幼いフローラと出会った。
オラクルベリーでは、SFC版の裏技が通用した。
そして今度は、DS版で追加されたプリズニャン。
(やっぱり、この世界にはDS版も混ざっているのか)
そうなると、もう一人の存在も無視できない。
(ということは……デボラもいるのか?)
フローラの姉にして、DS版で追加された三人目の花嫁候補。
今の俺に直接関係する人物ではないが、この世界のどこかに存在している可能性は高い。
(本当に、何でもごちゃ混ぜだな)
どの作品の知識が通用し、どの作品の流れが優先されるのか。
判断を誤れば、知っているはずの出来事に足をすくわれるかもしれない。
俺はメタルキングのけんを鞘へ収め、再び歩き始めた。
◆
日が傾き始めた頃、海辺の修道院が見えてきた。
白い建物の向こうには海が広がり、絶え間なく波の音が聞こえている。
門へ近づくと、庭を掃いていた修道女が手を止めた。
「旅の方ですか?」
「ああ。一晩、休ませてもらいたい」
「どうぞお入りください。ですが、随分と大きなお荷物ですね」
「山を越えるための道具だ」
「山、ですか?」
「海の向こうにある山脈へ向かう」
修道女は、俺の背後に広がる海へ目を向けた。
「船を待たれるのですか?」
「いや。泳いで渡る」
「……泳いで?」
「ああ」
修道女は俺の顔を見たあと、荷物と海を交互に見比べた。
冗談だと思いたかったのかもしれない。
「この辺りの潮は速くなります。小舟でも流されることがあるのですよ」
「波が穏やかになる時間を教えてほしい」
「お止めしても、渡るおつもりなのですね」
「ああ」
しばらく黙っていた修道女は、小さく息を吐いた。
「明日の夜明け頃なら、今よりは穏やかになります。ただし、沖へ出れば流れは変わります」
「助かる」
修道院へ荷物を置いたあと、俺は一人で海岸へ向かった。
海の向こうには目的の大陸が見え、その奥にはエルヘブンを囲む山脈が壁のように連なっている。
ゲームの中では、一歩も入れなかった山だ。
だが、目の前には岩肌があり、谷があり、頂へ続いているように見える斜面もある。
明日の朝、まずはこの海を渡る。
その先で、登れる場所を探す。
「問題は、あの荷物をどう運ぶかだな」
メタルキングのけんを手に入れた直後に、海の底へ沈めるわけにはいかない。
俺は波打ち際に立ち、対岸までの距離と潮の流れを見つめた。