ドラゴンクエストⅤ 転生したらパパスだった件。   作:兎深みどり

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第7話『夜の先回り』

 家に戻ると、サンチョが玄関先で落ち着かない様子で待っていた。

 

「旦那様!」

 

 俺を見るなり、サンチョが駆け寄ってくる。

 

「坊っちゃまが、坊っちゃまが洞窟へ行かれていたのでございます!」

 

「ああ。聞いている」

 

「お聞きに……?」

 

「薬屋の男も戻ったのだろう」

 

「はい。それはもう、村中大騒ぎでございました。坊っちゃまが助けたのだと」

 

 サンチョは誇らしそうで、それ以上に心配そうだった。

 

 その気持ちは分かる。

 俺も同じだ。

 

 嬉しい。

 だが、怖い。

 よくやったと思う。

 だが、勝手に危ない場所へ行くなとも思う。

 

 父親というのは、なかなか忙しい。

 

 居間へ入ると、リュカが暖炉のそばに座っていた。

 疲れきった顔をしている。

 けれど、俺を見た瞬間、びくっと肩を揺らした。

 

「おとうさん……」

 

 怒られると思っている顔だ。

 

 実際、怒るべきところはある。

 

 俺はリュカの前に立った。

 

「洞窟へ行ったそうだな」

 

「……うん」

 

「ひとりで危ない場所へ行ってはいけない」

 

「……ごめんなさい」

 

 リュカは小さく頭を下げた。

 

 声が震えている。

 泣きそうなのをこらえている。

 

 ここで大声を出す必要はない。

 怖かったことは、本人が一番分かっている。

 

「次からは、父さんに言いなさい」

 

「……うん」

 

「約束できるか?」

 

「うん。約束する」

 

 俺は少しだけ息を吐いた。

 

 それから、リュカの頭に手を置く。

 

「よく帰ってきた」

 

 リュカが顔を上げた。

 

「え?」

 

「薬屋の男を助けたそうだな。よく考えた。よく動いた」

 

 リュカの目が丸くなる。

 叱られるだけだと思っていたのだろう。

 

「でも……勝手に行った」

 

「ああ。それはよくない」

 

「……うん」

 

「だが、困っている人を助けようとしたことまで、悪いとは言わん」

 

 リュカは何度か瞬きをした。

 それから、少しだけ笑った。

 

「……助かって、よかった」

 

「ああ。よかったな」

 

 それだけで十分だった。

 

 サンチョは横で鼻をすすっている。

 

「坊っちゃま……ご立派になられて……」

 

「サンチョ。泣くのは早い」

 

「ですが旦那様ぁ……!」

 

 リュカが小さく笑った。

 

 家の空気が少しだけ柔らかくなる。

 

 夜になる頃には、リュカは眠そうに目をこすっていた。

 長旅。

 初めての村。

 ビアンカとの出会い。

 洞窟での冒険。

 

 疲れないはずがない。

 

「今日はもう休みなさい」

 

「うん……」

 

 布団に入ると、リュカはすぐに目を閉じた。

 寝息が聞こえるまで、ほとんど時間はかからなかった。

 

 その寝顔を見ていると、少しだけ迷う。

 

 今日はこのまま、そばにいてやるべきかもしれない。

 

 だが、明日になればアルカパへ向かう。

 そこから流れは進む。

 こちらの準備を待ってくれるわけではない。

 

 俺は静かに立ち上がった。

 

 居間に戻ると、サンチョが待っていた。

 

「旦那様、どちらへ?」

 

「少し用がある」

 

「この夜にでございますか?」

 

「ああ。朝までには戻る」

 

 サンチョは不安そうに眉を下げた。

 

「坊っちゃまは、このサンチョが見ております。ですが、旦那様もどうかご無理はなさらず」

 

「分かっている」

 

 本当は分かっていない。

 かなり無理をしようとしている。

 

 だが、それを言う必要はない。

 

「キメラの翼はあるか?」

 

「旅の備えに、いくつかございます」

 

「一つ持っていく」

 

「ただちに」

 

 サンチョは棚から包みを取り出した。

 中には折りたたまれた翼が入っている。

 

 キメラの翼。

 

 道具として見ると、不思議な形をしていた。

 ゲームなら選んで使うだけのアイテム。

 だが今は、手の中に実物としてある。

 

 これで移動できる。

 

 問題は、行き先だ。

 

 キメラの翼だけでは足りない。

 ルラフェンを知っている人間がいる。

 

「サンチョ」

 

「はい」

 

「この村か港に、ルラフェンへ行ったことのある者はいないか」

 

「ルラフェン、でございますか?」

 

 サンチョは少し考え込んだ。

 

「確か、港に出入りしている商人の中に、あちら方面まで行った者がいたはずでございます。今夜も宿に泊まっているかもしれません」

 

「分かった」

 

「旦那様、まさか今から……」

 

「確認するだけだ」

 

 嘘ではない。

 確認はする。

 

 その後どうするかは、まだ言っていないだけだ。

 

 サンチョは何か言いたげだったが、最後には頭を下げた。

 

「どうか、お気をつけて」

 

「リュカを頼む」

 

「はい。命に代えても」

 

 それは重い。

 

 だが、サンチョなら本気で言っている。

 

 俺は家を出た。

 

 サンタローズの夜は静かだった。

 昼間の賑わいが嘘のように、村は寝息を立てている。

 

 荷には、布で包んだ天空の剣。

 懐には、キメラの翼。

 

 次はルラフェン。

 ベネットじいさん。

 ルラムーン草。

 そして、ルーラ。

 

 全部を今夜中に終わらせるのは無茶だ。

 

 分かっている。

 

 だが、無茶でも動くしかない。

 

 宿へ向かう途中、夜風が頬を撫でた。

 

 優しい風だった。

 

 その優しさに、少しだけ足を止めそうになる。

 

 でも、止まらない。

 

 俺は宿の扉の前に立ち、静かに息を整えた。

 

 ここに、ルラフェンを知る者がいるかもしれない。

 

 いなければ、港へ行く。

 港にもいなければ、別の手を探す。

 

 まだ夜は終わっていない。

 

 俺は扉を押した。

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