ドラゴンクエストⅤ 転生したらパパスだった件。 作:兎深みどり
家に戻ると、サンチョが玄関先で落ち着かない様子で待っていた。
「旦那様!」
俺を見るなり、サンチョが駆け寄ってくる。
「坊っちゃまが、坊っちゃまが洞窟へ行かれていたのでございます!」
「ああ。聞いている」
「お聞きに……?」
「薬屋の男も戻ったのだろう」
「はい。それはもう、村中大騒ぎでございました。坊っちゃまが助けたのだと」
サンチョは誇らしそうで、それ以上に心配そうだった。
その気持ちは分かる。
俺も同じだ。
嬉しい。
だが、怖い。
よくやったと思う。
だが、勝手に危ない場所へ行くなとも思う。
父親というのは、なかなか忙しい。
居間へ入ると、リュカが暖炉のそばに座っていた。
疲れきった顔をしている。
けれど、俺を見た瞬間、びくっと肩を揺らした。
「おとうさん……」
怒られると思っている顔だ。
実際、怒るべきところはある。
俺はリュカの前に立った。
「洞窟へ行ったそうだな」
「……うん」
「ひとりで危ない場所へ行ってはいけない」
「……ごめんなさい」
リュカは小さく頭を下げた。
声が震えている。
泣きそうなのをこらえている。
ここで大声を出す必要はない。
怖かったことは、本人が一番分かっている。
「次からは、父さんに言いなさい」
「……うん」
「約束できるか?」
「うん。約束する」
俺は少しだけ息を吐いた。
それから、リュカの頭に手を置く。
「よく帰ってきた」
リュカが顔を上げた。
「え?」
「薬屋の男を助けたそうだな。よく考えた。よく動いた」
リュカの目が丸くなる。
叱られるだけだと思っていたのだろう。
「でも……勝手に行った」
「ああ。それはよくない」
「……うん」
「だが、困っている人を助けようとしたことまで、悪いとは言わん」
リュカは何度か瞬きをした。
それから、少しだけ笑った。
「……助かって、よかった」
「ああ。よかったな」
それだけで十分だった。
サンチョは横で鼻をすすっている。
「坊っちゃま……ご立派になられて……」
「サンチョ。泣くのは早い」
「ですが旦那様ぁ……!」
リュカが小さく笑った。
家の空気が少しだけ柔らかくなる。
夜になる頃には、リュカは眠そうに目をこすっていた。
長旅。
初めての村。
ビアンカとの出会い。
洞窟での冒険。
疲れないはずがない。
「今日はもう休みなさい」
「うん……」
布団に入ると、リュカはすぐに目を閉じた。
寝息が聞こえるまで、ほとんど時間はかからなかった。
その寝顔を見ていると、少しだけ迷う。
今日はこのまま、そばにいてやるべきかもしれない。
だが、明日になればアルカパへ向かう。
そこから流れは進む。
こちらの準備を待ってくれるわけではない。
俺は静かに立ち上がった。
居間に戻ると、サンチョが待っていた。
「旦那様、どちらへ?」
「少し用がある」
「この夜にでございますか?」
「ああ。朝までには戻る」
サンチョは不安そうに眉を下げた。
「坊っちゃまは、このサンチョが見ております。ですが、旦那様もどうかご無理はなさらず」
「分かっている」
本当は分かっていない。
かなり無理をしようとしている。
だが、それを言う必要はない。
「キメラの翼はあるか?」
「旅の備えに、いくつかございます」
「一つ持っていく」
「ただちに」
サンチョは棚から包みを取り出した。
中には折りたたまれた翼が入っている。
キメラの翼。
道具として見ると、不思議な形をしていた。
ゲームなら選んで使うだけのアイテム。
だが今は、手の中に実物としてある。
これで移動できる。
問題は、行き先だ。
キメラの翼だけでは足りない。
ルラフェンを知っている人間がいる。
「サンチョ」
「はい」
「この村か港に、ルラフェンへ行ったことのある者はいないか」
「ルラフェン、でございますか?」
サンチョは少し考え込んだ。
「確か、港に出入りしている商人の中に、あちら方面まで行った者がいたはずでございます。今夜も宿に泊まっているかもしれません」
「分かった」
「旦那様、まさか今から……」
「確認するだけだ」
嘘ではない。
確認はする。
その後どうするかは、まだ言っていないだけだ。
サンチョは何か言いたげだったが、最後には頭を下げた。
「どうか、お気をつけて」
「リュカを頼む」
「はい。命に代えても」
それは重い。
だが、サンチョなら本気で言っている。
俺は家を出た。
サンタローズの夜は静かだった。
昼間の賑わいが嘘のように、村は寝息を立てている。
荷には、布で包んだ天空の剣。
懐には、キメラの翼。
次はルラフェン。
ベネットじいさん。
ルラムーン草。
そして、ルーラ。
全部を今夜中に終わらせるのは無茶だ。
分かっている。
だが、無茶でも動くしかない。
宿へ向かう途中、夜風が頬を撫でた。
優しい風だった。
その優しさに、少しだけ足を止めそうになる。
でも、止まらない。
俺は宿の扉の前に立ち、静かに息を整えた。
ここに、ルラフェンを知る者がいるかもしれない。
いなければ、港へ行く。
港にもいなければ、別の手を探す。
まだ夜は終わっていない。
俺は扉を押した。