生まれ変わっても、君と出会う   作:蠱毒は孤独

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書きたいことが多すぎる。内容がまとまらないので初投稿です。


4.小さき命、育まれるもの

 朝起きて身支度を済ませる。その間にこの三連休、予定していた予習と復習は脆くも予定表から消え去ったのだと理解した。

 代わりに割り込んできたのは子育て。夢だと思いたいが、昨日この腕に残った重さと藤原さんのメッセージがそれを否定する。

 

 この年で子育てか……

 

 【鍵は開けておくから、来たら入っておいで】

 

 メッセージに目を通す。

 

 防犯とか大丈夫なのだろうか。とはいえ、ノックをしてから入ろう。特大の迷惑を現在進行系でかけているのだ、失礼はしたくない。

 早朝の廊下に控えめに響くノックの音。すでに世間は回り出していて、人が外で活動し始めているのが見える。

 

 返事はすぐに来た。

 

 「入っておいで」

 「おじゃまします」

 

 中にいる赤ちゃんを刺激しないように、ゆっくりと扉を開ける。エアコンが効いていて涼しい。それに昨日は気付かなかったが、白と紺の色合いが海の深さと明るさを思わせる、すごく落ち着いた空間だ。

 玄関横には水槽があり、その周りにかわいいイルカやサンゴの小物も置いてある。普段の様子からは想像しにくい。

 

 「あうぅ……うあぁあ………」

 「おはよう、彩葉さん」

 「おはようございます」

 

 部屋の主はキッチンに立っていた。

 ミルクの入った哺乳瓶を冷まして、ぐずった赤ちゃんを抱き上げている。朝ご飯の時間なのだろう。

 

 ん?

 

 「藤原さん、その哺乳瓶と粉ミルクはどこから?」

 「24時間営業はすごいね、便利な時代になった」

 

 ……どこから突っ込めばいいんだ、この場合。

 

 あんたもおそらく仕事帰りで疲れてたんじゃないのかとか。人に休めと言っておきながらあの後買い出しに行ったことか。今時24時間営業なんて珍しくもないぞとか。

 

 いつもより少し眠れたためか、頭も口も回らない。

 

 今は、いいや……

 

 あとでレシート見せてもらおう。そう決めてつっこむことを諦めた。

 

 イツキ、今なら多分彩葉頭回ってないよ。起き抜けでネムネムだよ。ボーナスステージだ」

 「……それと、ご飯できてるから食べちゃってね」

 「ああ、それはどうも。……いただきます」

 

 リビングのソファに座って配膳されているお味噌汁をすする。生姜の風味が香って身体が温まっていく。

 

 「……はふぅ」

 

 「はい、ゆっくり……そうそう。ゆっくり飲んでね」

 「んく……んく……」

 

 小松菜のお浸しは醤油と出汁がしみていて、出汁巻きは綺麗に巻かれているからか口に入れると出汁が溢れてくる。その後に焼き鮭に大根おろしを添えて、ご飯と一緒に頬張る。最後は漬け物で口の中をリフレッシュ。そしてもう一度。

 これはもう最強の和食チームによる幸せの過剰演出だ。

 そして起き抜けの朝に配慮されているのか、それぞれ小鉢に入っていて量はそう多くはない。だが、満足感は十分。すぐ食べ終わってしまった。

 

 「ごちそうさまでした」

 「お粗末様でした」

 

 すごく手間のかかった朝食だったな。いつもはパンか賄いを小分けにして済ませている……、んだが?いつもは?

 

 んん??

 

 お腹が満たされて回り始めた脳が違和感を検知する。なんだったら、違和感しかない。

 

 「何で普通に朝ごはんいただいてるんだ?!」

 「びぃゃ、びゃああああああああ」

 

 あぁ、しまった。泣かせてしまった。

 

 「……彩葉さん」

 「あ、すみません!て、そうじゃなくて!!何で私、朝ご飯いただいちゃってるんですか?」

 「……もう食べてましたか?」

 (ヾノ・∀・`)ないない」

 

 今朝は赤ちゃんをそのまま預けておけなくて、身支度を急いできたのだ。だから、そんな時間はなかったけど、朝ご飯を抜くことなんて珍しくもないから問題なかったのに。

 

 「食べてませんでしたけど!お腹すいてましたけど!!そうじゃないでしょう?!」

 「何かお口に合わないものが?」

 「滅茶苦茶美味しくいただきました!ありがとうございます!!」

 

 そう、素朴ながらも一つ一つ手の込んだ美味しい和食だったけど!

 

 「そうか。簡単なものだったんだけど、お口に合ったならよかったよ」

 「簡単な物!?そんなおにぎりと味噌汁だけ出しました、みたいな手間で作れるものじゃなかったですよ??」

 「さっきから小声で叫んで器用だね」

 「ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙ん」

 

 この!この!!

 

 処理落ちしちゃったね。いじめ過ぎちゃダメだよ」

 「……?」

 おんや? イツキの建前は迷子かい?」

 「簡単にできるんだけどな……」

 イツキにとっての簡単なことは、世間では手間をかけるっていうんだ。知ってたかな?」

 

 ……ダメだ、この人。ズレてて話が通じない。

 

 変な叫び方をして疲れた。そばに置いてあったお茶を飲み一度落ち着く。

 

 「……ふぅ」

 

 少し落ち着けば、冷えたそのお茶も、いつの間にか藤原さんが入れてくれたものだと気づいた。本当にこのお茶といい、朝ご飯といい、用意周到だ。

 

 ……世話焼きで気の利く人。ズレてるときはすっごい鈍感で変な人だけど。

 

 今も変わらず赤ちゃんの世話を焼いている。

 

 「よし、よし。ビックリしたね」

 「うぃい……」

 

 そんな藤原さんの仕草や言動はいつもと変わらない……けど……。

 

 なんだろう。

 

 「ぅぅ……」

 「お腹いっぱいで眠たくなってきたか。……じゃあ、寝ようか」

 

 ほんの少しだけ、赤ちゃんをあやしている姿は普段の世話焼きでお節介な藤原さんより。

 

 何というか、そう。

 

 「おやすみなさい」

 

 少し、幸せそうに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて、寝ている間にすることをしないとね」

 「あ、洗い物します。さすがに朝ご飯をいただくだけなのは」

 「じゃあお願いしようかな、ありがとうね」

 「こんなに良くしてもらってて、何もしないのはバチが当たりますよ」

 「それでも、助かってるよ。ありがとう」

 

 それはこっちのセリフだ。……お節介を受け入れたみたいになるから、言わないが。

 

 キッチンは私の部屋にあるものと変わらない。問題なく片付けられる。照れくさい顔を隠して赤ちゃんが起きないよう、静かに食器を片付ける。

 ……少し、気になったことでも聞いてみようか。

 

 「藤原さんって、部屋でもサングラスつけてるんですね」

 「目が疲れやすくてね」

 

 なるほど、体質の問題か。

 ……サングラスか。そういえば藤原さんは何時もスーツ姿にサングラスだな。

 今日はワイシャツにスラックス。藤原さんにしては、いつもよりラフな出で立ち。……自室で寛ぐ格好ではないが。

 まあ、私も殆ど制服なので、人のことを言えた義理ではないか。

 

 洗い物も終わり、藤原さんと赤ちゃんの様子をうかがう。藤原さんは片手でスマホを見ている。何か調べ物だろうか。それに赤ちゃん落ちないのか。

 

 「赤ちゃん、代わりますよ」

 「ん、ありがとう」

 「んぅ……?」

 

 少し心配になったので、赤ちゃんを受け取る。その時に起こしてしまって、またぐずってしまうと身構えたが意外にも静かだ。

 

 「大人しいですね」

 「一番大変なのは夕方からだな。理由もなく泣くことが増えるらしい」

 「んげ、マジか」

 

 勘弁してほしい。まだ、勉強時間の確保はできないか考えてたのに。

 ……一瞬甘えた考えが頭をよぎるが、直ぐに却下する。さすがにそこまで迷惑をかけるわけにもいかない。

 

 その後、ビニール袋に入れられていた赤ちゃん用品について説明を受けた。

 一つ一つ説明文の要点を話してくれるのでわかりやすい。しかも、要点をメモにまとめてあるようで、それももらってしまった。

 

 「これくらいかな」

 「すごくわかりやすかったです」

 「それならよかった」

 

 安心したように言って、藤原さんは財布とスマホを持って立ち上がった。

 

 「じゃあ、ごめんね。しばらくお留守番よろしく」

 「え、ちょ。何処に行くんですか?!」

 「買い物、すぐ戻るよ。あと、そのまま大人しかったらゆっくり寛いでて」

 

 そう言って、そのまま出ていってしまった。部屋の中に残されたのは、この部屋のお隣さんと赤ちゃんの二人。

 

 「ぶ、不用心過ぎる……」

 「あぃ?」

 

 あ、こら!髪引っ張んな!はぁ……鍵かけとこ。

 

 

 

 それからは思ったより平和な時間が過ぎた。

 見返していたヤチヨのアーカイブや他の動画に赤ちゃんが興味を持ったからだ。

 

 最初はヤチヨのアーカイブを見ていたのだが、雑談配信などはお気に召さないらしい。泣く泣く他の動画を観ることになった。特に派手な動画や騒がしいものを好むようだった。

 

 そうして、藤原さんが帰ってきてからも、赤ちゃんのお世話は続いた。

 

 どうやら赤ちゃんはハイハイが既にできたようで。それに気づいた藤原さん周りのものを片付け始めた。

 

 「これ!ヤチヨのペンダコペン立てじゃないですか!!」

 「あげないぞ?」

 「いやっ、……さすがに人から物を強請るわけにはっ!!」

 「だから、あげないぞ?」

 

 初めてのことに2人して苦戦した。

 

 「……何をしてほしいのかわからない」

 困り顔とは珍しいね」

 「ぃやあああぁぅ、うやぁ」

 「人のことよく見てる藤原さんでも、わからないことあるんですね」

 「いっぱいあるよ。オムツの替え方とかも全部調べたしね」

 「え?」

 「赤ちゃんも初めてだから」

 「そこだけ聞くとちょっと不気味ですよ……」

育児入門2名、先行きが不安ですなぁ」

 

 そして、気づけば3人で昼の食卓を囲んでいた。

 

 「……いつの間にかお昼を食べ終えていた。何を言っているのかわからねー(ry」

 「次はナポリタンにしようか」

 

 中々赤ちゃんが泣き止まなかった。

 

 「ふぇやあああぁ……やああああぁぁぁ」

 「何やってもダメか」

 「抱き方、ミルク、オムツ、温度に湿度、音も……あとは……」

 「工場のチェック項目じゃないんですから」

 「……出来ることは試したんだがな」

 

 逆にすぐ泣き止んだりもした。

 

 「藤原さん、代わります」

 「……ふぁあ……ぁぅ……」

 「……」

 彩葉が抱いたら泣き止んじゃったね。……そうゆうこともあるよ」

 

 寝たと思ったら、寝てなかったりした。

 

 「そぉっと、ゆっくりと」

 「……ふぁあ……ふああ!」

 「なんで!?」

 「ベッドではなく、彩葉さんをご要望らしい」

 

 指をつかんで離さなかった。

 

 「次は藤原さんの指が気に入ったみたい」

 「そうか」

 イツキ嬉しそうだね!」

 「……嬉しそう」

 

 うまくお世話できた瞬間があった。

 

 「そこのテープを伸ばして」

 「こう…か?できました!」

 「……上手だな。僕がやると暴れるから」

 「アハハ……」

 …………ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛」

 

 呼び方に悩んだりもした。

 

 「この子、何て呼びましょう」

 「……ゆっくり決めればいい」

 「一生ものだもんね…。そうします」

 

 

 

 気づけば夜で、この一日がどれだけ濃いものだったのかを示している。そしてまた、いつの間にか夕食も用意されていた。

 

 「いただきます」

 「いただきます」

 

 宣言通りのナポリタン。ソースが濃厚でまろやかだ。月並みだが、お店で出せる味。あぐらの上にいる赤ちゃんにかからないようにすする。

 行儀が悪い?文句は私のあぐらで寝ている赤ちゃんに言ってほしい。

 

 「赤ちゃん、任せっきりになっちゃったね」

 「そんなこと言ったら、必要なもの用意したの全部藤原さんでしょ」

 「お世話する方が大変だろう」

 

 申し訳なさそうにしているが、これだけの育児用品を用意したのは藤原さんだ。私一人だったら節制癖が抜けずにこれだけ用意できたかどうか。

 

 「それに、これくらいならいくらでも」

 「……なんか、藤原さん。ダメな女に引っかかりそうですよね」

 

 無条件で相手に肯定的なところとか、世話好きでお節介焼きなところとかが。

 

 「そんな事ないよ」

 あるよ。これは彩葉が全面的に正しいとヤッチョは思うなぁ」

 

 怪しいものである。お金に余裕がありそうなところとか、かと言って扱いについては無沈着なところとか。ダメ人間製造機ランクS級ではないだろうか。

 しかも、昨晩や今朝のレシートを出してもらおうとしたが、本人はレシートは基本受け取っていないらしい。お金も現金以外の利用は殆ど無いと。

 

 「いつの時代の人間ですか。今、令和ですよ?」

 「紀元前とか」

 「貨幣どころか物々交換すらしてないですよ」

 

 どうやって稼いで生活してるんだ、この人?何時もお裾分けやお土産をくれるところから、ほんとうにお金に困ってないのはわかるが……、謎だ。

 

 「「ごちそうさまでした」」

 

 夕食の用意も片付けも、藤原さんがさっさと済ませてしまった。ほんとに、やることなすことそつがない。

 だけど、今日過ごしてわかった。藤原さんって結構抜けている所が多い。

 人とズレてるのもそうだけど、細やかに見えて大雑把な所。小さいのだと私にはお茶を出すのに、本人は水道水で済ましている所。大事な所だと、お金の扱いや防犯意識だってそう。

 他者に対してはその時々に必要な手回しが出来るのに、自分のこととなると途端に雑になる。

 

 そう考えると、ほんとにこの人よく一人で生きていけるな。

 

 片付けを済ませた藤原さんが戻ってくる。赤ちゃんに向けるその表情は、変わらず優しいものだ。

 

 そのまま、どれくらい時間が経ったのだろう。

 

 少し足がしびれてきた。それにこのままおじゃましてはいられない。明日もあるのだ。一旦この子を連れて帰らなければ。

 

 「今日は助かったよ」

 

 そんな時、不意に声がかかる。赤ちゃんに向けていた視線が合う。

 

 「それ、私のセリフです」

 「そう?」

 「そうですよ」

 

 そもそもが赤ちゃんを拾ってきたのは私だ。分かっているのだろうか。いや、この人は分かった上で言ってそうだ。

 

 まあ、この緊急事態は頼ると決めたのは私だ。そして、必ずこの恩は返させてもらう。じゃないと借りっぱなしになる。それが何より納得がいかない。

 

 だから、この子の行き先が見つかるまで。

 

 「とりあえず、明日もよろしくお願いします」

 「こちらこそよろしくね」

 

 気づけばまとめられていた育児用具を受け取って外へ出る。

 

 「赤ちゃん、置いていってくれてもいいよ?」

 「置いていきません!おやすみなさい!!」

 「はい、おやすみなさい」

 

 扉を閉めても、水槽の水音が静かに耳に残った。

 

 

 




あ、ちなみに転スラ要素はまだまだないです。
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