あれから数日後の夜。
誰かがビデオ屋のドアをノックしてきた。
「誰だ?こんな時間に?」
「僕が出よう」
アキラはドアを開けた。
ドアをノックしていたのはプロキシの仲介業者の『羊飼い』だった。
「こんな時間にすまんな、我が友よ・・・寝てたか?」
「急に何の用だい?」
「何でもなかったら普通、夜中に人んちの戸口には立たないだろ。まぁ、ちょうどいい。全員揃っているからな」
前から協力関係にある『羊飼い』は、尾行されていないことを保証してから、ビデオ屋に入った。
「バタバタして悪いな。今回もデカいネタを仕入れたんだが、緊急の内容なんだ。なるべく手短に話すぞ」
そう言い、『羊飼い』は緊急の内容を話し始めた。
「言っちまえば単純だ・・・『零号ホロウ』の定期調査が、また始まるらしい」
「えっ?」
「フフン、これはガチのマジだぜ。しかも協会は長期戦の構えだ。調査は数回に分けてやるつもりらしいぞ。俺がこれを聞いて、真っ先に思い浮かんだのは・・・『パエトーン』だ!あんたらも一枚噛みたいだろうと踏んだ俺はあらゆるリソースを動員し調査チームの募集に『裏口』を開けといた。零号ホロウで『テスト』用の依頼をこなせば、派遣調査チームの一員として、合法的に零号ホロウを調べられるぞ!」
「・・・確かに、大きなネタだね・・・」
「状況は把握した。考える時間をくれないか?」
「もちろんだ。大事なことは夜に決めるなって言うしな、じっくり考えてくれ。そんで決心がついたら、『スコット前哨基地』ってとこに行け。そこでテストの依頼ができるん。んじゃ、失礼するぜ」
そう言って、『羊飼い』はビデオ屋を後にした。
そうして、『羊飼い』が仕入れてきたデカいネタは、明日に決めることになった。
翌日。
三人は零号ホロウの調査について話し合っていた。
「零号ホロウの調査、ね・・・お兄ちゃん、ゾロ、どう思う?」
『質問、零号ホロウの調査とは何でしょう?』
アキラとゾロが答える前に、Fairyが質問してきた。
「お前知らねぇのか?」
『挑発とみなし、受けて立ちます。直ちにホロウ調査協会のデータベースで、零号ホロウについて検索・・・』
「ま〜た変な闘争心を燃やしちゃって・・・」
『検索完了。零号ホロウとは、その存続期間・影響範囲・危険度において、新エリー都内でも随一を誇るホロウのコードネームです。新エリー都内の既知の大型ホロウはいずれも、零号ホロウから派生した共生ホロウに端を発します。また、零号ホロウは旧都、即ち『エリー都』を壊滅に導いた主な要因とされています。零号ホロウの定期調査とは、零号ホロウの現状を把握し、その拡大を抑制するため、新エリー都は定期的に有志を募り、当該ホロウに対する調査、鎮圧、研究を行っています。以上をもとに・・・推測、マスターが零号ホロウの調査に志願するのは、新エリー都を救うためです』
Fairyの長い零号ホロウの説明が終わり、最後にアキラが零号ホロウの調査に志願する理由を推測した。
「・・・」
「ハズレだな」
「零号ホロウの情報までは合ってたけど、動機がね・・・」
『リクエスト、今後のより的確なサポートのために、三人が調査に参加したい動機を教えてください」
Fairyは三人に参加したい動機を聞いてきた。
とは言っても、参加したいと思っているのはアキラとリンだけで、ゾロは別にどっちでも良いと思っているのだが・・・
「ふぅん、もうお手上げなのかい?先に君の『規約』と『動機』を教えてくれたら、考えてあげてもいいけれど」
『失礼ですがマスター。先ほどから、私を良いように使おうとしていませんか?』
「別にいいだろ、それぐらい」
「お兄ちゃんは、お互い正直になろうって言ってるだけだよ!」
『恐れ入りますが、私はその質問に答える権限を有しておりません。回答は『適切な』時期に、『適切な』場所でお知らせいたします』
Fairyは『適切な』を強調して言った。
「・・・恐れ入りますけど、そっちも『適切な』態度ってもんがあるでしょ!あんたなんかに教えられるのはね、零号ホロウは報酬が良いことと・・・私とお兄ちゃんが一緒に勉強して育った場所が、崩壊した旧都にあったことくらいなんだから・・・私たちは、あそこを調べる機会をずっと探ってる」
「・・・結局、全部言ってしまったね」
「はっ・・・!あっはは、ごめんごめん・・・つい余計なことまで言っちゃった!とにかく・・・決心がついたら、『羊飼い』が言ってた零号ホロウの前哨基地に行こっか!」
そうして、各々準備することになった・・・だが、ゾロはリンに部屋に連れ込まれた。
「ゾロ・・・まさか、いつもの格好で行こうとしてないよね?」
「あぁ、そのつもりだが・・・ダメなのか?」
「ダメに決まってるでしょ!」
リンがそう言うのも無理はない。
『スコット前哨基地』とは、大雑把に言えば役人の縄張りだ。
そして、そんな所で身バレしてアンダーグラウンドなことをやっていることがバレれば、まずいことになるに決まっている。
「じゃ、ゾロはいつも仕事の時に着ているあれの上からこれを羽織ってね」
リンはタンスの中から丈の長い黒色のフードつきのローブを引っ張り出してゾロに渡した。
「それと、『秋水』は置いていってね」
「はぁ!?」
「仕方ないでしょ、『秋水』は刃が黒くて目立つんだから」
そう、『秋水』は半永久的に黒刀になっているのだ。
因みに、この世界で半永久的に黒刀になっているのは『秋水』含め、僅か二振りだけだ。
「最後に一つだけ」
「何だ、まだあんのかよ・・・」
「これで最後だから安心して。そこに座って、私がゾロの顔にお化粧するから」
「化粧?別にいいだろ。これについてるフードを被るんだから」
「それはそうだけど、戦闘の時に取れちゃうかもしれないでしょ?いいから座って!」
リンはゾロの背中を押して無理矢理椅子に座らせた。
それから数十分、ゾロはリンに多少の汗をかいても平気な化粧をされた。
因みに、ゾロの化粧をされた顔は、ぱっと見ではゾロと判断できないレベルだ。
そうしてゾロは、腰に『三代鬼徹』と『和道一文字』を差し、丈の長い黒色のフードつきのローブを羽織って一階に降りた。
「・・・」
「ぞ、ゾロ・・・その、だいぶ変わったね・・・」
「うるせぇ、ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさと行くぞ」
それから、ゾロとアキラは車に乗って『スコット前哨基地』に向かうのだった。
スコット前哨基地。
アキラとゾロは身分証明をして、基地に入った。
「特に、知ってる顔はいねぇな」
「だね。僕は奥に行って説明を聞いてくるから、待っていてくれ」
それから少し時間が経ち、アキラは零号ホロウの周辺地区にあるデータステーションがエーテリアスの群れに襲撃されたため、観測データを回収してくるという仕事を任されて、腰に護身用の刀を差している『試験官』を連れてゾロの元に戻ってきた。
「データの回収、か・・・やりがいのある仕事だな」
「ゾロ、皮肉を隠しきれてないよ」
それからゾロはイアスに接続したアキラについていって、『試験官』と共に零号ホロウに入った。
そして、『試験官』が説明を始めた。
「いいですか?同行中、規格から逸脱した武器の使用は禁止。指定されたルートもちゃんと守ってください。・・・まぁこのへんはもう、言わずともお分かりかも知れませんが」
『試験官』はゾロとイアスに接続したアキラを見てそう言う。
因みに、ゾロの腰に差している『三代鬼徹』と『和道一文字』は名刀中の名刀だが、そういう専門家が見ない限りは、そこらにある刀と遜色ないので問題ない。
「それでも、念を押しておきますよ。零号ホロウが特別とされているのは、その規模だけではありません。甘く見て『非常事態』に対する心構えを怠ると、痛い目に遭いますからね。何せ調査協会には、『臨時職員』の保険料を負担する義務はないんですから・・・」
「ふっ、面白れぇ・・・」
ゾロはフードを深く被って顔は見えないものの、『試験官』の忠告に不敵な笑みを浮かべていた。
「・・・この人、大丈夫ですか?」
『あぁ、いつもこんな感じさ』
「そ、そうですか・・・それでは出発しましょう。試験官として、君たちの働きをしっかり評価しますからね」
そうして試験を開始する。
試験とは言っても、ゾロにとっては言われた通りのルートを進んで、エーテリアスが出現したらぶった斬る。
やることは変わらない。
そうしてルート通りに進んで、エーテリアスと遭遇したらゾロがぶった斬ってを繰り返していると、試験官の表情はカチコチに固まっていて、手の中で測量機器をいじっていた。
『何かあったのかい?』
「心配無用です・・・あなたたちのパフォーマンスに問題はありません。『独立調査チーム』として、あなたたちの能力は『ずば抜けてる』と言っても過言ではないです。ただ、計器が故障してしまいまして。零号ホロウの異常なエーテル活動は、しょっちゅうデバイスを狂わせるとはいえ・・・こんな高い数値が出たんじゃ、やっぱりちょっと不安になりますね。もう一度、デバイスを調整してみましょう」
だが、エーテリアスが近づいてきた。
『ゾロ、出番だ!』
「了解」
ゾロは前に出て、イアスに接続したアキラは試験官の隣でデバイスの調整を手伝っている。
『ガアァァァァァァァ!』
近づいてきたエーテリアスは『アーマーハティ』だ。
しかも、通常の個体を凌駕する実力を持った個体だ。
「斬りがいがありそうだ」
ゾロは差していた『和道一文字』を腰から抜いた。
『ガアァァァァァァァ!』
「一刀流"居合"」
ゾロは飛びかかってくる『アーマーハティ』に神速のスピードで突っ込んだ。
『ー"死・獅子歌歌"ー』
『ガアァァァ・・・』
ゾロは『アーマーハティ』をすれ違いざまに一瞬でアーマーごと斬り裂いて『和道一文字』を鞘に戻す。
『アーマーハティ』は体が崩壊して消滅した。
『アーマーハティ』を倒し終えたゾロは、試験官の元に戻ると、イアスに接続したアキラの手にあるデバイスがピッピッピと音が鳴っていた。
「それは・・・!一回鳴ったら『反応あり』二回だったら『高活性』三回なら『強烈』4回は・・・」
「さっきから何を焦ってやがる?」
『何が起きているんだい?』
ゾロとアキラは試験官にそう聞くが、試験官は何かに焦っていて聞こえていない。
「ま、まさか!こ、これは・・・」
試験官が何かを悟ると、デバイスが壊れて大きな音が聞こえた。
『何の音だ?』
「と、とにかくこっちに来てください!」
ゾロとイアスに接続したアキラは試験官について行き、物陰に隠れる。
「この声・・・」
「・・・あいつか」
『ガアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!』
ゾロは物陰の隙間から覗くと、巨大なエーテリアスが浮遊し、咆哮していた。
「だめ・・・!」
試験官は浮遊した巨大なエーテリアスに気づかれないように、物陰の隙間から覗いているゾロの頭を掴んで無理矢理下げさせる。
「うそ、彼女が・・・!?」
『ガアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!』
浮遊した巨大なエーテリアスがイアスに接続したアキラとゾロと試験官の上空を通り過ぎる。
通り過ぎたのを見て、物陰から出た次の瞬間、浮遊した巨大はエーテリアスの子分であろうエーテリアスが現れる。
ゾロは素早く反応し、『三代鬼徹』を鞘から抜こうとした次の瞬間、目の前に『特』と背中に刻まれた羽織を着た黒髪に大きな狐の耳を持った少女がエーテリアスを刀で斬り刻んだ。
そして、そのまま浮遊した巨大なエーテリアスを追いに行った。
「あの女は確か・・・」
ゾロが少女の名を言いかけたが、彼女が来た方向から似たような制服を着た者たちがやって来た。
「あの制服は・・・H.A.N.D.の・・・しかも、特別行動部の執行官・・・!?」
「対ホロウ特別行動部第六課です。現在、緊急の鎮圧任務を執行しています」
対ホロウ特別行動部第六課とは、『虚狩り』である星見雅を筆頭に月城柳、浅羽悠真、蒼角をメンバーとしたH.A.N.Dの遊撃部隊だ。
「こちらのエリアで、情報にない『極超』級エーテリアスが確認されました。貴方がたの任務が何であれ・・・遊撃部隊として、本作戦の支援にあたるよう要請します。これは対ホロウ6課副課長による、正式な招集です」
『『極超』級エーテリアス!?さっきから様子が変なのは、そいつの仕業だね。エーテリアスにしてはおっきすぎない!?・・・早くみんなを連れて、離脱ポイントに向かおう!』
だが、試験官が下した決断はリンとは真逆だった。
「なにやら、やむを得ない事態のようですね・・・!本来の任務は中止です!これより、目標を『全力で対ホロウ行動部を支援する』に変更します!」
これにより、イアスに接続したアキラの同行は確定になった。
何故かと言うと、対ホロウ6課の副課長である月城柳の説明によれば、目標が予想ルートから外れて『キャロット』のデータを持つボンプのナビゲーションが必要で、緊急事態で物資として徴発されたからだ。
因みに、壊れたら弁償してくれるそうだ。
ただ、同意書に『ボンプが深刻な損傷を受ける危険あり』とは書いてあったかは試験官も覚えていない。
「そちらの調査員さん」
次に月城柳はゾロに声をかけた。
「貴方は同行しますか?こちらとしてはボンプさえ入ればいいのですが、戦力はいくらあってもいいので、よろしければぜひ同行をお願いします」
「(・・・あの女、さっきまでビビってたくせに、こいつらが来た瞬間に強がりやがって。せめて、おれたちの意見を聞いてから了承しやがれ・・・!)」
ゾロは心の中で試験官のことを愚痴っていた。
「・・・調査員さん?」
「あぁ、分かった。同行する」
そうして、イアスに接続したアキラとゾロは対ホロウ6課に同行するのだった。