翌日。
三人は手分けして返却期限の近いビデオを回収して周り、それが終わったら、依頼を受け、無事に達成した。
それから数日後。
アキラとゾロはリンに駐車場に呼び出された。
「やっと来た!ほら、こっちこっち」
「・・・まずは状況を説明してくれないか?」
アキラとゾロはリンの近くに置いてあるパンパンのゴミ袋を見た。
「あ、このゴミ袋?中は壊れたポンプの信号発信機でいっぱいだよ。これだけあったら、小型の信号遮断機数台分になるんじゃないかな!これでやっと、『千里眼』アンド『地獄耳』の人工知能・・・Fairyに内緒で話ができるよ。それと・・・三人で一回ちゃんと話し合おう。彼女について」
「うん、実は僕も、君たちとこの件について相談したかったんだ」
「おれもだ。あいつは使える奴みたいだが、こっちが油断してたら何をしでかすか分からねぇからな」
三人の意見が一致した。
そして、リンが話し始めた。
「Fairyが来てからしばらく経つけど・・・最近、お兄ちゃんのホロウ脱出ルートの演算は彼女に任せっきりなの。お兄ちゃんも気付いてるでしょ、彼女はローカルデータに一切頼らない。それで何のサポートもないのに、以前の私たちより二百七十倍も早くルートを算出してる。彼女はホロウのデータを一瞬で取得できるみたいなの」
「そういや前に言ってたな。『全都市80%以上の知能設備にアクセスできる権限を持っている』って。少なくとも、嘘ではなさそうだな」
「今までの私たちは、せいぜいホロウの一角しか見えてなかった。それが今や彼女のおかげで、ホロウの全貌まで掴めるようになったわけ。けど・・・」
「うまい話には裏がある、か・・・Fairyの存在は、確かに災いを呼ぶ可能性だってある」
「そうだよね。Fairyは、新エリートの上位勢力が夢にまでみた力を持ってる。私たち、悩みの種どころか、時限爆弾みたいなのを抱えちゃってるんだよ」
リンは不安そうな目をしながら、ため息混じりに言う。
「後、彼女が『その時』まで、『規約』に・・・何とかって言ってたけど・・・具体的な話は何もしなかったよね。これも引っかかってるんだ」
「だけど、ずっと調べてきた『あの件』の突破口が見つかるかもしれない。Fairyの力を上手く利用できれば、先生の悲願だって・・・」
「だな。・・・だが、おれたちはあいつのことを知らなさすぎる。まずはあいつの正体をハッキリさせねぇとな。ま、これに関しては急いでも仕方ねぇがな」
「そうそう。Fairyのことは、これからゆっくり調べよ」
「そうだね。Fairyとは一旦、平和に共存しよう」
そうして、三人の出した結論が一致した。
結論を出し終わると、ゾロがあることを思い出した。
「そういや、邪兎屋に頼んでたあいつの調査はどうなった?」
「それがね、特に進展ないみたい。ニコは匿名の下請け業者から金庫の依頼を受けたから、関係者とは一切会ってないんだって。この前、赤牙組を糸口に手がかりを探してみるって言ったきり・・・何の連絡も来てないの。何だか当てにならない気もするし、面倒事に巻き込まれてさえなきゃいいけど・・・」
「ま、あいつらのことだ。どうせおれたちに厄介な依頼を持ってくるのがオチだ」
「そうならないといいけど・・・とりあえず、色々話せたし、今日はここまでにしよ!」
そうして三人はビデオ屋に入り、気分転換にテレビを見始めた。
『市政選挙が近づくにつれ、待望の民生プロジェクト・・・旧都市地下鉄の改修が、本格的に動き出しました!工事を請け負ったヴィジョンコーポレーションの代表にインタビューする機会をいただき、光栄です。チャールズ・パールマンさん!』
アナウンサーが声を高らかに上げ、ヴィジョンコーポレーションの代表であるチャールズ・パールマンにマイクを向けた。
『本日中に旧都付近の工事エリア、通称『カンバス通り』で爆破解体が行われるそうですね。工事の全体的な流れを、簡単にご説明いただけますでしょうか?』
『若者よ、良い質問だ!』
そう言い、チャールズ・パールマンは説明をする前に、軽い前置きを言い始めた。
『旧都陥落後、崩壊した地下鉄路線は、新エリー都の交通と発展を阻む大きな問題となった。この問題を解決するには、壊れた古い地下鉄の残骸を完全に除去した上で、新しい地下鉄を造らねばならん』
軽い前置きを言い終わり、チャールズ・パールマンは本題である爆破解体について説明し始めた。
『そこで、我が社は採算を度外視し、高純度の工業用エーテル爆薬を大量に発注した』
『なるほど。ですが現在、カンバス通りと都市部の間は通行不能となっています。どのように爆薬を輸送するおつもりでしょうか?』
『ははははっ、ごもっとも!我が社には文字通りヴィジョンがあるのだ。その点についても織り込み済みである。このデジタルマップを見たまえ!』
チャールズ・パールマンはホワイトボードに貼られていた自分たちがいる現在地を指差した。
『我々は現在、デッドエンドホロウ入り口に設けられた爆破解体本部にいる。マップ上の赤い箇所が工事における爆破エリアだ。新エリー都と爆破エリアを繋ぐトンネルは、共生ホロウである『デッドエンドホロウ』の存在により、完全にホロウに呑み込まれている。幸い、一部ではあるが『デッドエンドホロウ』内にはまだ使える路線が残っている。よって我が社は爆薬を特製の列車で積み、ホロウ経由で輸送することにした。そして、エーテリアスを回避するために細心の注意と工夫を重ね、爆薬の大部分を爆破エリアへ輸送することに成功したのである!』
チャールズ・パールマンは興奮気味に説明する。
一方、アナウンサーはチャールズ・パールマンが用意した爆薬の量を見てビビる素振りを見せた。
『ははははっ、安心したまえ。特別な起爆装置や外部からの強力な干渉がない限り、決して爆発はせんよ!現場をお見せしたいところだが、あいにく爆破エリア全体で民間の信号を遮断していてな。干渉による誤爆を防ぐためには、やむを得ん。今もなお、通信が可能なのは我々の専用の周波数帯を使う設備のみだ』
『爆破エリアから住民を避難させただけでなく、さらに保険として信号の遮断まで行うとは!御社の深謀遠慮ぶりには、感心するばかりです!』
『そうだろうとも!我々ヴィジョンが目指すのは、新エリー都全ての住民の幸福なのだからな!』
チャールズ・パールマンは、ありきたりな締めくくりをし、爆破解体についての説明をし終えた。
『なるほど。では次に、プロジェクトにおけるコスト削減の秘訣をお聞かせください』
アナウンサーがそう聞くと、チャールズ・パールマンは明らかな動揺を見せた。
『そ、それは、その・・・』
チャールズ・パールマンの目が泳いでいると、隣に立っていた秘書がフォローを入れた。
『パールマンが申し上げたいのは、ヴィジョンがこのプロジェクトにおいて決して不正なコスト削減を行なっていないということです。今回の爆破解体にはパールマン直々に現場に向かい、市民の皆様の代わりに最後の瞬間まで立ち会う予定でございます』
『あ・・・あぁ、そうとも!これから技術スタッフと共に、列車で爆破エリアの監視拠点に向かうつもりだ』
そう言い、チャールズ・パールマンへのインタビューが終わった。
「工事が行われる場所はホロウの近くで、しかも大勢の人員を移動させる必要がある・・・」
「やっぱり、TOPS財政ユニオン入りを目指す企業はやることが違うね」
『警報。街道カメラにて、何者かが本店へ急速に接近しているのを確認。推測・・・トイレを借りたい・レンタルしたビデオの期限が迫っている・本店に対し悪さを企んでいる』
Fairyが三人に報告し、いくつかの推測を言う。
「お客さんが来ただけだろ、僕が出よう」
「なによ、変な言い方しちゃって」
リンはFairyの変な言い方に呆れ、ツッコミを入れる。
そして、アキラはドアを開けた瞬間
「ふみゃー!」
小柄な猫のシリオンが飛び出してきた。
「・・・ん?」
「えっ・・・?」
「何だ・・・?」
三人は目の前の出来事に呆気を取られていた。
「いたたた・・・は、鼻が・・・はっ!このだるまみたいなオッサンを信じちゃダメだ!こいつは嘘をついてる!」
「嘘・・・?」
「はいはい。それでお客さん、どんなビデオをお求めですか?新しく『7710と彼の猫』が入荷しましたよ」
「それってどんな映画?面白いの?・・・って、違う!そんなことしてる場合じゃないぞ!分かってる・・・あんたたちは『パエトーン』!プロキシのあんたたちに、依頼がしたいんだ!」
小柄な猫のシリオンはアキラとリンの正体を知っていた。
それを聞いたゾロは、壁に立てていた刀の三本のうちの一本である『和道一文字』に手に持った。
一方、アキラとリンは僅かに動揺は見せたものの、全力でしらを切り始めた。
「ぷろきし、って何?プロ仕様のきしめん?あっ、食べ物だったら雑貨店『141』がオススメだよ!」
「待って!警戒しなくていい、あたしは猫又!ニコに言われて、あんたたちを探しに来た。悪いやつじゃないぞ!」
「ニコって?どのニコのこと?その人がここの会員なの?」
「邪兎屋のニコだって!何でも屋の邪兎屋の社長!ほら、あの子のボンプだ!これで信じてくれたか?」
猫又は邪兎屋のボンプであるアミリオンを見せた。
「うーん・・・偽物ってわけじゃなさそう・・・確かに、ニコが使ってるあのボンプだね。本当にニコのお友達?彼女たちは今、どこにいるの?」
「さっきのニュースで言ってたとこ・・・ヴィジョンの爆破エリアにいる!あのオッサンは全員を避難させたって言ったけど、本当はそうじゃないんだ!」
「「「・・・」」」
三人は邪兎屋の現在地を聞いてもあまり驚かなかった。
それどころか、呆れていた。
「何故だろう、あまり驚きではない・・・」
「まぁ、あいつらの事だからな」
「よりにもよってこんな時に、ヴィジョンの工事現場でいったい何をしてたの?」
「探し物だ!・・・えっと、依頼したのはあたし!それに赤牙組がケチをつけてきて、もみくちゃになって・・・とにかく人がぎゅうぎゅうで、魚の缶詰みたいだった!」
「待って、ゆっくり話してよ。ニコたちと魚の缶詰に・・・何か関係があるの?」
「えっと・・・その・・・ぐう、うまく説明できないぞ!・・・そうだ!ニコのボンプ!あの中に、ここ数日の視覚データがあるはずだ!それを見ればきっと分かる!」
猫又はニコのボンプを手に持ち、差し出して来た。
だが、アキラとリンは何かを考え込むような顔をしている。
「それは難しいと思うな。所有者のニコにしか視覚データのエクスポートはできないから。どうしても取り出すなら、マルセルグループに問い合わせないといけないしね」
すると、どこからかピーーーーーっという機械音が聞こえてくる。
「おい、何か変な音が聞こえなかったか・・・?」
「Fairyってば、一体・・・待って、ひょっとして何か思い付いた?」
「何か言ったか?ファーリー・・・?」
「いやいや、何のことかなぁ!」
リンは必死に誤魔化す。
そして、小声でFairyに小声でお願いした。
「その・・・Fairy、ちょっと手伝ってくれない?ボンプの中のデータって取り出せる?」
『確認。指示の内容ですが、『ボンプの内部の視覚記録を出力する』ことで間違いありませんか?』
「にゃ?今、誰か喋ったような・・・他にも誰かいるの?」
「あっはは、新しくインストールしたPCアシスタントの声かな・・・どうFairy、データは取り出せそう?」
『ボンプの内部で直近数日間の視覚データを検索中。『自分がバカだった、もっと早くFairyを頼るべきだった』と仰ってください』
Fairyは拗ねているのか、意地悪なことを提示してくる。
高性能なことは間違いないが、性格に難ありのようだ。
「私がバカだった・・・ってちょっと!調子に乗らないで!」
リンはFairyに提示された言葉を言い掛けた後、Fairyが提示した内容にツッコミを入れる。
それから、Fairyがボンプと接続し、視覚データを取得した。
そして、ボンプの視覚データがパソコンで再生されるのだった。