三人は列車を追い、トンネル内に入った。
『マスター、間もなく列車が予定地点を通過します。依頼人共々、行動できるよう準備してください』
「あぁ、分かった」
「プロキシ、今だ!」
猫又はイアスを列車の上に投げた。
そして、イアスはドスンッっと音を立てて着地する。
『気を付けてください、マスター。お尻を列車のルーフにしたたかに打ちました』
『この体、思ってたより不便だな・・・手が短いよ』
『落ち込まないでください。マスターの血縁者と仲間は、この姿のマスターを称賛していました。曰く『小さくてとても可愛く、頼りになる』」
『普段はかわいくなくて悪かったね・・・』
Fairyとイアスに接続したアキラは軽口を叩く。
そして、イアスに接続したアキラはメンテナンスハッチに身を捩らせる。
『この列車のメンテナンスハッチは液体のような猫又でさえ通れないほど小さいですが・・・今や、熟練の侍が鉄を斬るくらい簡単なはずです。貴方様は世界の王ですから。さて王よ、運転室に向かい、戴冠式を終えてください』
『はいはい。緊急停止ボタンを押せば、任務は完了だ!』
イアスに接続したアキラはスポンッっと音を立て、潜入した。
だが・・・
『なっ・・・!?』
治安局の武装をした者が何人も乗っていた。
「ん?」
『この列車に積まれているのは爆薬だけじゃない・・・ニュースではそんなこと言ってなかったのに!』
「あー、隊長。上から喋るボンプが落ちてきたのですが、パールマン長官に引き渡しますか?・・・はっ!今すぐ処理します!」
四方八方からイアスに銃口が向く。
すると、猫又が窓ガラスを割って入ってきた。
「せやっ!」
「ぐわぁ!」
「何事だ!?」
猫又はイアスを取り囲んでいた人間を制圧し、割って入った窓からイアスを投げる。
「受け取れ!ロロノア!」
猫又によって投げられたイアスをゾロはキャッチする。
「ここはあたしに任せて、先に戻って!あたしはキャロットがあるから大丈夫、後でお店に行く!」
猫又はそう言い残すと、列車に乗ったまま行ってしまった。
「大丈夫か?」
『何とか・・・でも、何かがおかしい・・・ゾロ、今から店に戻るから着いてきてくれ!』
ゾロはイアスに接続したアキラに着いて行くのだった。
数十分後、ゾロはイアスと共に店に戻った。
「戻ったぞ」
「ゾロ、おかえり」
リンがそう言うと、アキラはH.D.Dシステムの接続を切った。
「ふぅ・・・」
「お兄ちゃんは休んでて。後で私がイアスの状態をチェックしとくから」
「ありがとう。それより、猫又から連絡は?」
アキラはリンに聞くが、リンは首を横に振った。
「ううん。多分まだホロウの中にいると思う。『キャロット』があるって言ってたけど、彼女は出口から離れたとこにいたし。でも、悪い知らせばかりじゃないよ。さっきニュースで言ってたの。ヴィジョンは『技術的な要因』で、爆破解体を明日の夜まで遅らせるって」
「おれたちがやったのに、『技術的な要因』か・・・」
「やっぱり、ヴィジョンには何か裏がありそうだ」
「そうだね。ヴィジョンは列車がルートを外れたことに気が付いていたのに、メディアにそれを口外しなかった。それに、一番怪しいのは、爆薬を積んだ『無人列車って言ってたのに、中は武装した兵士でいっぱいだったことだよ!装備は治安局のものみたいだったけど、『任務でこんな格好を』『靴が合わない』とか聞こえたし、明らかに偽物じゃん!」
「となると、あいつは何か隠してるな」
「そうだね。戻ってきたら、徹底的に問い詰めてやるんだから!」
リンはそう意気込んだ。
そして翌日、猫又が店に来た。
「ただいま!はぁ、はぁ・・・ごめん、予想以上に時間が掛かっちゃった。あたしが持ってたキャロットだと遠い方の出口しか分からなくって・・・そうだ、爆破が遅れるってニュースをスマホで見たぞ!でも、いずれ発車しちゃうことに変わりはないから、ニコたちはまだ安全ってわけじゃないけど・・・これからどうする?・・・って・・・」
猫又はゾロとリンが睨んでることに気が付いた。
「おい、まずはおれたちに話さねぇといけねぇことがあるんじゃねぇか?」
「わぁ・・・どうしたの?なんか空気が怖いぞ・・・?耳の毛が逆立っちゃった・・・」
「猫又、これは大事な話なの。茶化さないで全部話して。あんたと邪兎屋は、一体どんな面倒事に巻き込まれてるの?あれは爆薬の輸送列車だと報道されてたよね?なのに、どうして治安局の偽装をした奴らが乗ってるの?それに、あんたは連中を前にしても全然驚かなかったし、それどころか素早く対応できてた」
「・・・」
「まさかとは思うが、おれたちを嵌めようとしてんのか?」
「違う!そういうわけじゃない!」
「猫又、何か事情があるなら、ちゃんと説明してくれ。僕たちは、君の話をちゃんと聞く」
アキラは、ゾロとリンの尋問に割り込み、猫又を優しく諭す。
「あたしが説明したところで・・・ホントに・・・信じてくれる?」
「『パエトーン』のサポートがまだ欲しいなら、お兄ちゃんの質問に答えて。隠してることを全部教えて」
「隠すつもりなんてない!」
そう言い、猫又は黙っていたことを全て話し始めた。
「列車に人がいるなんて知らなかった、あたしはただ、他の場所で同じ格好の奴らを見たことがあるだけ!あんたたちの言った通り、あたしと邪兎屋はとんでもない面倒事に巻き込まれた!でも、それは人助けなんだ!」
「人助け?つまり・・・君はニコたちと一緒に、人助けをしていたと?」
「そんなこと、おれたちは聞いてねぇぞ」
猫又は必死に弁明をするが、特にゾロからの疑いが中々晴れない。
ゾロは意外と優しいが、自分が認めた相手以外はあまり信用しない部分があるからだ。
「だって、だって・・・信じられないことの連続で、ちゃんと説明できる自信がなかったんだ!それにこの前は列車を止めなきゃって必死で、ボンプの資格記録を途中までしか見られなかったし・・・そうだ、ニコのボンプ!あれがすべてを記録してる!あの一部始終を見れば、あんたたちもきっと分かってくれる!」
「・・・どうする?」
「真相を知るにはボンプの資格記録を見るしかない。Fairy、残りの映像を再生してくれ」
アキラがFairyにそう言うと、残りの資格記録の映像が流れ始めた。
資格記録から流れた映像では、デッドエンドホロウに入った邪兎屋に猫又が子供がいたと主張し、猫又に着いて行って子供を見つけて確保したが、デッドエンドブッチャーが壁をぶち破ってきた。
絶体絶命の状況になったが、偶然にも足元に裂け目が出現し、デッドエンドブッチャーとの戦闘は回避でき、デッドエンドホロウを出ることに成功した。
だが、デッドエンドホロウを出た先には、少なくとも百人近くの人間がいた。
それも、爆破エリアであるカンバス通りにだ。
ニコは不祥事を暴くために邪兎屋が訴訟代理人になり、ビリーとアンビーに住民に委任状を書かせて回収するように指示を出した。
猫又は依頼人だがニコに任務を与えられ、ニコのボンプを持って店に来たというわけだ。
これで、ニコのボンプの資格記録の映像を観終わった。
「これが真相・・・ニコたちはひとまず工事エリアで委任状を集めて、ヴィジョンの動向を探るを探るって言ってた。そしてあたしの任務は『パエトーン』とロロノア・ゾロという男に助けを求めることだった。ニコたちと別れた後、あたしはデッドエンドホロウを抜けて、あんたたちの店に来たんだ」
「・・・」
三人と一緒に映像を見ていたゾロは、猫又に鋭い視線を向ける。
「嘘はついてない!ニコも、爆破エリアの住民たちも、絶体絶命の状況に置かれてるんだ!お願い『パエトーン』、ロロノア!あたしと一緒にみんなを助けに行って!」
猫又は必死に説得する。
一方、アキラとリンは冷静に現実的なことを猫又に告げる。
「猫又、あんたの言う事は信じるよ。ただ、プロキシのエキスパートとして、私たちはその件に首を突っ込むリスクを警告する義務があるの」
「あぁ。住民たちを全員救い出すとなれば、ヴィジョンとの正面衝突は避けられない・・・」
だが、猫又の心情は変わらない。
「今更あたしを試さなくてもいい。出発した時、心に決めたんだ!何としてでも、みんなを爆破エリアから救い出す!今のあたしには、それしか考えられない!」
「ふぅ・・・分かったよ。依頼人がそう決心したなら、私たちもこれ以上は言わない」
「それなら早速、救助計画を考えよう」
アキラはそう言い、パソコンにマップを写す。
「邪兎屋と住民たちは現在、カンバス通り駅に閉じ込められている。こことパールマンのいる監視拠点とは、数キロも離れているんだ」
「だけどパールマンは、住民たちを閉じ込めるために、治安局の武装部隊に偽装した連中を列車で送り込んだ・・・そういえば、私たちが遅らせた列車がそろそろ目的地に着く頃だよね?ってことは、住民たちを見張る人がまた増えちゃう」
「全員やっちまうか?」
「ゾロの提案も出来なくはないけど、治安局の武装部隊に偽装した連中の近くには住民がいる。あそこで戦闘になるのはあまりにもリスクが高過ぎる」
ゾロの出した案は、アキラによって却下された。
「だけど、防御の穴を突くことはできる」
「え?それってどういう意味?」
猫又は首を傾げると、アキラはマップを指差した。
「閉じ込められた住民はエーテル適応体質じゃない。だから武装部隊は、正面を集中して警戒していると思うんだ。監視拠点の兵士も無限じゃない。大勢を正面の警備に割いているのなら・・・」
「そっか!ホロウを通って背後に回れば、不意を突けるね!」
「にゃイスアイデア!それで、それで!?」
「監視拠点の列車を速やかに奪い、ホロウ内の路線を使って、カンバス通り駅まで向かうんだ。住民たちは、予め駅のホームで待機してもらう。そうすれば、ほんの数分で全員を爆破エリアから運び出すことができる」
「あったまいい!きっと、列車自体にも侵蝕耐性があるはず。なる早でホロウを出られれば、住民たちも侵蝕に晒されずに済むぞ!」
「Fairy、列車をホロウから新エリー都まで、最短で運転できる?」
『可能。既に最短ルートを計算済みです』
「よし、準備が整ったら、すぐに行動を開始しよう」
「猫又、ゾロ、ボンプを連れてって。まずはニコと合流して、計画を説明しよ。後は・・・」
「決着をつける。だろ?」
ゾロはそう言い、壁に立ててあった刀を腰に差す。
そして、猫又と共に決戦の場である『デッドエンドホロウ』へと向かうのだった。