ホロウの外・・・猫又は新エリー都の爆破解体本部で交渉をしていた。
「どういうことだ、小娘如きにパールマン長官を攫われただと?」
「詳しいことは知らないが・・・パールマン長官が人質に取られた以上、爆破エリアの兄弟たちも、小娘の要求通り撤退するしかなかったそうだ」
「小娘はさらに、ここの責任者を出せと言ったらしい。それに応じたサラ長官が、直々に交渉に出向いているとのことだ・・・」
猫又は、拘束したパールマンの隣に立ってサラと後ろにいる兵士たちと対面していた。
「あんたが今の責任者?私の要求は簡単・・・爆破を中止して、閉じ込められた住民たちの救出を約束すれば、こいつを返す」
「はっ、簡単に言ってくれるわね。あなたの言う通りにしたとして、我々ヴィジョンはこの件をどう世間に申し開きすれば?それ以前に、あなたは誰?一人で交渉の場に来た度胸は買うけど・・・狩る側が狩られる側になる可能性だってあるのよ?」
「おっと、自己紹介を忘れてた。あたしは猫宮又奈、猫又って呼んでもいいぞ。何を隠そうあたし、赤牙組の元組員なんだ」
「せ、赤牙組・・・!」
猫又が自己紹介をし、赤牙組の名前を出すと、後ろに控えている兵士たちは動揺を見せる。
「そうだ。こっちから持ちかけたからには、それなりの切り札がある。こんな筋書きはどう?赤牙組の残党、今は亡き『シルバーヘッド』ミゲルの爪。旧都の住民を人質にして、工事を妨害した張本人・・・猫宮又奈を、ヴィジョンは捕えた」
「自分を犠牲に幕を引くの?なかなか殊勝なことをするのね」
「殊勝?ははっ・・・あたしは帰る場所を失くした、ただの野良猫。どこにも属さないあたしには、これくらいがお似合いなんだ。・・・この取引でどう?今すぐメディアに連絡して、あたしが言った通りに・・・すべてを公表、すれば・・・」
サラは拳銃を取り出して、何の躊躇いもなく、パールマンの額に目掛けて撃った。
「・・・?」
「安心して、中身は実験中の麻酔薬よ。死にはしないわ。・・・親切で教えてあげる。次は交渉する前に、切り札の価値を確認しておくことね。残念ながら、パールマンさんは・・・あなたが思うほど役に立たないの」
一方その頃、ゾロはイアスに接続したアキラに『デッドエンドブッチャー』の元に案内されていた。
『ゾロ、こっちだ!』
「あぁ、気配を感じる」
そして、開けた場所に着き、ゾロは左上腕に巻いていた黒い手拭いを取り、頭に巻いて気合を入れ、『秋水』と『三代鬼徹』を鞘から抜いた。
「ちょっと下がってろ」
『えっ?何を言って・・・』
その瞬間、イアスに接続したアキラの目の前に『デッドエンドブッチャー』が降りてきて、手に持っていた斧を振り下ろした。
だが、ゾロは斧を『秋水』と『三代鬼徹』で受け止め、『デッドエンドブッチャー』を弾き返した。
「エンドロールが流れるとこだったな」
『あぁ、まったくだ・・・』
『ガアアアアアァァァァァァァ!』
『デッドエンドブッチャー』は咆哮を浴びせる。
大抵の者はこの咆哮を浴びれば恐怖で体が震えてしまうだろう。
だが、今から『デッドエンドブッチャー』と戦うのは・・・
『ゾロ、僕たちにも活躍の場は残しておいてくれよ?』
「そいつは分からねぇな」
ゾロがそう言うと、イアスに接続したアキラはニコたちのいる所へ戻っていく。
一人残されたゾロは、『和道一文字』を鞘から抜いて口に咥える。
「(残しておけとは言われたが、別に残す筋合いはねぇよな)」
『ガアアアアアァァァァァァァ!』
『デッドエンドブッチャー』は咆哮をしながらゾロに向かって突進し、斧を振り下ろす。
だが、ゾロは不敵な笑みを浮かべながら避け、『デッドエンドブッチャー』が斧を振り下ろしてできた隙を突くように『秋水』で斬って傷をつける。
『ガアアァァ!?』
『デッドエンドブッチャー』は悲鳴をあげて怯み、後ろへ後退する。
そして、再び咆哮をしながら突進をしてくる。
「ワンパターン野郎が・・・」
ゾロは振り下ろされた斧を避けて、傷をつけた部位を『三代鬼徹』で斬り裂く。
『ガアアアアアァァァ!?』
『デッドエンドブッチャー』はさっきよりも大きな悲鳴をあげて怯み、地面に片手をつく。
「(もう限界か・・・これじゃあ、あいつらの出番はなさそうだな)」
ゾロはアキラやニコたちの顔を思い浮かべながら、『デッドエンドブッチャー』を一瞥する。
そして、三刀に『武装色の覇気』を纏わせて、一時的に黒刀にし、両腕を交差させて剣先を上に向けるような構えをした。
「三刀流」
『ー"煉獄鬼斬り"ー』
ゾロは地面が砕ける程の力を両足に込め、『デッドエンドブッチャー』に向かって一直線に跳んだ。
そして、すれ違いざまに交差していた両腕を振り抜いて斜め十字に斬り裂いた。
『ガアアアアアァァァァァァァ!』
『デッドエンドブッチャー』は悲鳴をあげて倒れた。
だが、体の崩壊が始まらない。
それどころか、背中から巨大な両腕が生えて起き上がった。
「・・・ま、これぐらいできなきゃデッドエンドホロウの主なんてやってられねぇよな」
『ガアアアアアァァァァァァァ!』
『デッドエンドブッチャー』背中から生えた巨大な両腕を縦横無尽に振り回しながらゾロに突進してくる。
「さっきより速ぇな」
ゾロは避けるが、さっきみたいに反撃できる隙はない。
それどころか、『デッドエンドブッチャー』は次の突進の構えをしている。
『ガアアアアアァァァァァァァ!』
『デッドエンドブッチャー』は再び背中から生えた巨大な両腕を縦横無尽に振り回しながらゾロに突進してくる。
一方、ゾロは避けるのをやめて『デッドエンドブッチャー』の攻撃を受け止めて弾き返す。
弾き返したことで、『デッドエンドブッチャー』の体はよろめいた。
「二刀流」
『ー"鷹波"ー』
ゾロは二刀を振り抜いた影響で発生した波状の衝撃波を発生させて、『デッドエンドブッチャー』を大きく怯ませた。
そして、ゾロは体制を僅かに低くしながら三刀を構えた。
「三刀流」
『ー"牛鬼勇爪"ー』
『ガアアアアアァァァァァ!』
ゾロは渾身の突きを放ち、『デッドエンドブッチャー』を壁に叩きつけた。
だが、それでも『デッドエンドブッチャー』は立ち上がった。
「(しぶてぇ奴だ。・・・だが、迎えが来たみてぇだな)」
『まもなく、列車が到着いたします!線の内側までお下がりください』
アナウンスが聞こえた。
その列車に乗っているのはイアスに接続したアキラとニコたち。
そして、ヴィジョンが運んできたエーテル爆弾だ。
イアスに接続したアキラとニコたちは、『デッドエンドブッチャー』に列車が直撃する前に降りた。
『ゾロ、お疲れ様。・・・Fairy!仕事だ!』
『はい、空気中の電荷を測定します・・・』
「ビリー!アンビー!」
「任せろ!」
「ラジャー」
ビリーはエーテル爆弾を積んだ列車の車両に銃弾を放って穴を開け、アンビーは電磁ナタを投擲して車両に刺した。
『臨界電位差到達まで残り4秒・・・3・・・』
イアスに接続したアキラとニコたちとゾロは雷が列車に刺さっているアンビーの電磁ナタに落ちる前に物陰に隠れた。
『2・・・1・・・0!』
だが、アンビーの電磁ナタに雷は落ちない。
『ん?何も起きない?』
『ガアアアアアァァァァァァァ!』
『デッドエンドブッチャー』は直撃した列車の車両を持ち上げた。
「何とかしなさいよ!」
『やり直します。4、3、2、1、0!』
Fairyが計算をやり直し、0と言った瞬間にアンビーの電磁ナタに雷が落ち、『デッドエンドブッチャー』は爆発によって跡形もなく消滅した。
数分後、デッドエンドホロウの外、ヴィジョンの爆破解体本部。
「そうか・・・パールマンはただの操り人形。陰で糸を引いて爆破解体を企てたのは、あんただったんだ!どうして・・・ヴィジョンにとってこのプロジェクトは、人の命より大事なものだったの?」
「大事かどうか?あなたみたいな小物に尋ねる資格はないわ。無駄話をしすぎたわね。そろそろ本題に入りましょう」
サラは拳銃を捨て、爆薬の起爆スイッチを取り出す。
「それはなんだ!?」
「この小さな『おもちゃ』?もちろん、爆薬の起爆スイッチに決まってるじゃない」
「そんな、待っ・・・!だめだ!」
「私からも・・・『存在しない住民』たちに、お悔やみを申し上げるわ・・・さようなら。すべては『私たち』のヴィジョンのため」
そう言い、サラは起爆スイッチを起動させた。
「サラ長官、爆破の完了を確認しました」
「えぇ、ご苦労さま」
「ま、待てよ・・・ホロウに繋がるトンネルから、誰か出てきたぞ!」
近くにいた兵士がトンネルを指差すと、そこからはイアスに接続したアキラ、ニコたち、ゾロ。
それから、爆破エリアに取り残された住民たちだ。
「ヴィジョンは命を軽んじたわ!ヴィジョンを倒すのよ!」
「ヴィジョンの手は血まみれだ!その体の隅々まで、罪なき一般市民の血に塗れているんだ!」
「いつまでも私たちの口を封じられると思うな!」
「・・・ニコ!それにみんな!」
カンバス通りの住民たちが現れたことにサラは、僅かに動揺を見せるも、すぐにポーカーフェイスを装った。
「あら、爆破エリアから抜け出してくるなんて・・・中々やるじゃない。でも、それで全てが公になるなんて思ってないわよね?ふふっ、忘れないで・・・ここにはうちの人間しかいないの」
そう言い、サラは兵士たちに命令を下す。
「命令よ。撃たなさい・・・」
兵士たちは銃口を向ける。
だが、複数のパトカーのサイレン音がこちらに迫ってきた。
それだけではない。
たくさんのメディアやヴィジョンの競合他社である白祇重工も来ていた。
因みに、白祇重工に連絡したのはニコである。
それを見たゾロはアンビーに一声かけてから、イアスに接続したアキラと一緒にデッドエンドホロウに戻った。
デッドエンドホロウに入って数分後
『ゾロ、ニコたちから食事の誘いが来てるけど、君は行くかい?』
「酒が出るならな」
『じゃあ決まりだね。一応割り勘みたいだから、財布は準備しておくんだよ』
「・・・あぁ、分かった」
ゾロは一瞬苦い顔をしたが、酒が飲めるため了承した。
それからデッドエンドホロウを出て、治安局の事情聴取を終えたニコたちと合流し、食事に行くのだった。
数日後、夜にニコがビデオ屋を訪ねてきた。
「・・・とにかく、猫又と赤牙組の間柄のおかげで、もう赤牙組がちょっかいを出してくることはないわ。それと、あんたたちに頼まれた調査に進展があるの。組員から聞いた話だと、彼らは金庫争奪の件に関わったとはいえ、その出所については誰も知らないそうよ。『シルバーヘッド』は、研究所で金庫を手に入れる依頼を謎の依頼人から受けただけらしいの。でも、それ以外は組員たちにも詳しく話していないみたい。奪った後にどう処理して、誰に渡すつもりだったのかも、みんな分からないって」
「ちょい待ち。私の聞き間違いじゃないよね、ニコ?『出所については誰も知らない』『謎の依頼人』『みんな分からない』・・・」
「おい、真面目にやってんのか?」
「ニコ、これ以上僕たちからの依頼をぞんざいにするようなら、調査費用を考え直す必要があるよ」
「ちょ、ちょっとやめてよ!確かに・・・最近はヴィジョン相手の代理訴訟が忙しかったから、あんたたちの依頼はあんまりやれなかったけど・・・そもそもあの金庫は手がかりが無さすぎて、調査が難航してるの!慰謝料を勝ち取ってあげたい気持ちもあるし・・・あの人たちを救ったのは、他でもないあたしたちでしょ?」
ニコは道徳を盾にしてきた。
それを見た三人は呆れた。
「はぁ・・・こういう時だけそういうことを言いやがって・・・」
「そういえば、猫又はどうなったの?あの日以来、見かけてないけど」
「あ、あの子猫ちゃんのこと?あの子は・・・その・・・うぅっ・・・」
「やっぱり行っちゃったんだ・・・」
すると、ドアが開き、猫又が入ってきた。
「にゃにゃ〜ん・・・子猫ちゃん、参上だにゃ!みんなの集合写真をプリントしてきたんだ〜!ん〜、よく撮れてる!」
猫又は三人にプリントした写真を渡した。
「はいど〜ぞ!こっちがアキラの分で、こっちがリンちゃんの。それからこれがロロノアの!・・・ん、三人とも、どうかした?大事にしまってたおやつを誰かに食べられた!って顔だぞ」
「プッ・・・!」
ニコは三人の反応を見て、笑っていた。
「てめぇ・・・!」
「もうニコったら、私たちの心を弄ぶなんて酷いじゃん!それならこっちにだって考えがあるよ!これまでのツケを一割、今すぐ払ってもらおうかな!」
「リン、よく言った」
ツケを払えと言われたニコは、慌て始める。
「そ、それは勘弁して!何よ、ちょーっとサプライズしてあげよって思っただけじゃない!・・・コホン、改めて紹介するわ。邪兎屋の新しい従業員」
「猫宮又奈、猫又って呼んでいいぞ!今は邪兎屋で働いてるんだ。二人とも、これからもよろしくだにゃ〜!」
そう言い、ニコと猫又は帰って行った。
それからアキラとリンは自分の部屋に戻って眠り、ゾロは朝の四時まで見張りをするのだった。