黒幕系種族に転生した   作:野竜先輩

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第一話 黒幕系種族に転生した

「ヴェーネス、本当に行ってしまうのか?」

 

 僕の問いかけに、ヴェーネスが振り返ることはなかった。

 

「私は人間と共に歩むことにした。歴史はオキューリアの偽善ではなく、人の足跡によって刻まれるべきだ」

 

 ヴェーネスはそう答える。

 

 オキューリア。それが僕やヴェーネスの種族名と言えるものだ。霊のような外見をしていて、無限の寿命を持つ。多くの異形の存在を創造したり、人間に多くの物を与えたりした。

 

 僕ことザルヴァは、7人いるオキューリアの中で一番最後に、この世界に生まれた。というより別世界から転生してきたんだ。転生してきたときには、オキューリアと異形の存在が戦争をしていて、そこから結局千年くらい戦ってたし、その後も滅茶苦茶に長い時間が経ったから、前世のこととかもあやふやなんだけど。

 

「……ザルヴァ。お前も来るか?」

「僕はいけないよ。ヴェーネス」

「そうか。なら、さらばだ」

 

 そう告げて、ヴェーネスはその姿を消した。

 

 ヴェーネスは僕の次に若いオキューリアだ。オキューリアの王様である、ゲルン王の掲げる方針に反対している。

 

 先の異形の者たちとの戦争のあと、ゲルン王はオキューリアの今後の方針を決めた。他の種族が入ってくることのない古代都市ギルヴェガンに隠遁し、オキューリアが直接人の世に介入することはないようにした。

 

 それから長い時間が経ったが、その間オキューリアが他の種族と関わったのは2回だけ。そのうちの1回が、戦乱のイヴァリースを一代で平定し、ガルテア連邦という国を打ち立てた覇王レイスウォールだ。その躍進を支えたのが、僕たちオキューリアが彼に授けた『破魔石』という強力な力を持つアイテムである。

 

 ヴェーネスはそれが気に食わなかった。自分たちは誰も来ないギルヴェガンに引き篭もりながら、自分たちが認めた相手に力を授ける。オキューリアが結果を決める出来レースでしかなく、イヴァリースを生きる人々が自ら掴み取るべきだと……そう語っていた。最年少の僕には話しやすかったんだろう。

 

 ヴェーネスが去って、しばらくが経ったある日。僕はゲルン王に呼び出された。

 

「あの異端者は神授の破魔石の秘密を人間に教え、人間たちはそれを暴走させるに至った。あの者を断じて許す訳にはいかん!」

 

 ゲルン王は声を荒げて激昂する。

 

「ザルヴァ。そなたが地上に降り、ヴェーネスを討て!」

「は、はい」

 

 いつかはそんな日が来るかもと思っていたが、今日がその日というわけだ。

 

「ただし地上で力を振るうことは許さぬ。オキューリアが地上の歴史に無闇に干渉してはならない。それが許されるのは、ヴェーネスと、奴が肩入れする存在を滅ぼすときのみだ」

 

 えぇと……。

 

「僕たちの体は霊体だから、破魔石を通じてでないと、地上に干渉できないのでは? そもそもオキューリアが直接地上の人たちを殺してまわったら大事ではないですか?」

「……」

 

 ゲルン王は沈黙を返した。いや考えてなかったんかい。ヴェーネスが誰に肩入れしてるのかは知らないけど、どう考えても大事になるでしょうが。

 

「……地上で情報を集めたり、協力者を募るために人と話をするくらいは許していただけますか?」

「……許そう。協力者に"力"を授ける必要があるのなら、連れてくるように」

「はい!」

 

 力とは当然、破魔石のことだ。ヴェーネスは破魔石の秘密を人間に漏らしたようだから、その者もそれに類する力を持っている可能性がある。破魔石に対抗する手段として、こっちも破魔石を授けるというのは筋が通っている。

 

「ではゲルン王、行ってまいります」

「必ずヴェーネスを滅ぼせ! 奴の協力者たちを滅亡に追いやるのだ!」

 

 こうして僕の、ヴェーネスを止める旅が始まるのだった。そうだなぁ、まずはヴェーネスの協力者が原因の、破魔石の暴走があったそうだから、まずはそこから当たろう。

 

 ……ところでゲルン王、間違いなくイヴァリースで一番強力な存在だと思うんだけど、なんでこんなに小物っぽく喋るんだろう? オキューリア的には威厳のある話し方なのかな……転生者で若輩の僕には分からないや。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 地上に降り立って最初に訪れた地は、地獄のような光景が広がっていた。

 

 黒雲が空を覆い尽くし、雨が降り続ける。かつては町を象っていただろう建造物の残骸が、湿原に飲まれるように転がっていた。不気味な雰囲気が漂う廃墟の内部を、アンデッドや、バクナムス族という、ガスマスクを被ったゴブリンみたいな亜人種の群れが我が物顔で闊歩している。

 

 透明化を解いたら絡まれるのかな……? 僕たちオキューリア族は霊体で、自分が認めた相手以外からは基本知覚されることはない。

 

 人間たちはこの地を、ナブラディア王国と呼んでいた。ナブラディアは、アルケイディア帝国という国に滅ぼされた。王都ナブディスは、帝国の新兵器かなにかで死の都と化した。そんなことを聞いていたけど……

 

「うーん、当たりっぽいなぁ」

 

 ゲルン王の言っていた破魔石の暴走があった場所は、ここで間違いない。となるとヴェーネスが手を貸していたのは、ナブラディア王国かアルケイディア帝国のどちらかだろう。とはいえ前者は見ての通り滅んでしまったから、疑ってもしょうがない。

 

 ふわふわと浮きながら周囲を散策していると、たまに生存者と思われる人と出会うことがあった。事を察知したゲルン王が、マジギレしながら僕に命令をしたのが数日前のことだから、まだ生存者が残っていてもギリギリ不思議じゃない。ただ出くわす人族は皆、目の前の惨劇に茫然自失といった状態で、声をかけても反応が返ってこなかった。

 

 魔物に追いかけられている火事場泥棒っぽい人もいたけど、たぶん僕が欲しい情報は持っていなさそうなので放っておいた。10秒後には曲がり角から断末魔と、肉の裂かれる音が響いた。過酷な大地だ、イヴァリース。

 

 そんな風に付近を探索していると、新しい生存者を見つけた。意匠がドロドロに溶けた黒い甲冑を身につける、禿頭と立派なもみあげが特徴的な男の人だ。足取りは覚束ないが、その足は確かに街の出口に向かっている。

 

 生きることを諦めてはいなさそうだと思い、声をかけることにした。なるべく威圧感を与えないように、フランクに声をかけよう。

 

「お兄さん大丈夫?」

「……」

 

 僕の姿を彼に見せると、彼は驚いた様子もなく、自嘲めいた笑みを零した。

 

「……は。死神の、出迎えという訳か」

「あいにく死は司ってないよ。僕はオキューリア族のザルヴァ。ギルヴェガンからやってきたんだ」

「……?」 

「お兄さんのお名前は?」

「……ゼクト」

 

 この人はゼクトというらしい。ちゃんと受け答えが成立して、しかも僕の姿に怯えて逃げられなかったのは初めてだ。なんとか情報を聞き出せないだろうか。

 

「僕の同族のヴェーネスが、人間に破魔石の秘密を教えたからこんなことが起こったって聞いたんだけど。ゼクトさん、何か知らない?」

「……破魔石……?」

「なにか心当たりでもあるのかな?」

 

 ゼクトは思いつめたような表情で、問いかけてきた。

 

「……夜光の砕片……その名に、覚えはあるか……?」

「え、なにそれ。知らないなぁ」

「……覇王レイスウォールの、遺産だ……ナブラディア王家に伝わっていたものを……今回、帝国が奪って……この有様だ……」

「あぁ!あれのどれかね。あと2つあるはずだけど」

 

 そこまで聞いてようやくピンときた。僕たちオキューリアはレイスウォールに破魔石を授けた……といってもそのやり方は、まず彼に破魔石を切り出す剣を渡して、大元である『天陽の繭』の下まで旅をさせる。無事に天陽の繭まで辿り着いた彼は、渡された剣を使って繭から欠片を切り出す……という手順を踏んだ。そこで彼が切り出した欠片の数は、確か3つだったはずだ。

 

 つまりこの爆発を起こしたのは、そのうちの1個ということだ。しかしレイスウォールが後世に伝える中で、夜光の砕片なんて名前が付けられていたなんて知らなかった。"天"から切り出した"夜"ってことだよね。あと2つは朝と昼に関する名前なのかな?

 

「……そうか。知っているか……」

 

 こちらの反応を見たゼクトは、その場で目を伏せた。

 

「……なにが『死は司っていない』、だ……」

「あ、あとあと。色々聞きたいことがあって」

「……あいにく、死神にこれ以上、何かを語るつもりはない……放っておいてくれ……」

 

 そうして彼は、本当に何も語らずに歩き出してしまった。警戒させてしまっただろうか。せっかくの第一村人だったのに……

 

「残念だけどしょうがないか」

 

 うーん。鎧の見た目的に、それなりに偉い人なのかなと思ったんだけどな。このナブラディアでこれ以上の情報収集をするのは難しい気がしてきた。場所を移そうか。

 

 とりあえずここまでの情報で分かっていることは、ヴェーネスはアルケイディア帝国に力を貸していた可能性が高いことだ。このまま帝国に向かうのも一手だけど、少し煩雑だな。帝国の一兵卒から貧民に至るまでにヴェーネスが語り掛けてるなんていうのは現実的じゃない。きっと帝国の中でも、特に優れた一派閥の背後に潜むくらいが限界じゃないだろうか。帝都に直接乗り込んだところで、それを探し当てる手間がかかる。

 

 探すのが面倒なら、先回りして待つという一手がある。人間界に伝わる残り2つの破魔石を探してみるのだ。僕がそれを探している間に、帝国がそこに向かって一直線に向かってきたら、帝国の狙いは破魔石だと確定させることが出来るし、その命令をした人が誰かを探ることもできる。

 

 破魔石の場所の当てはある。ゼクトが、夜光の砕片はナブラディア王家に伝わっていたと語っていた。だったら残り2つ、あるいはどちらか片方でも、他の王家に伝わっている可能性が高い。ちょうどそんな条件に当てはまりそうな国について、ここに来るより前に人々の噂で聞いていた。

 

「……ダルマスカ王国かぁ」

 

 ダルマスカ王国。覇王レイスウォールの次男が興した国で、3つの大陸に挟まれたガルテア半島一帯を治める小国。建国以来交通の要衝として栄えていて、現在は東にアルケイディア帝国、西にロザリア帝国という2つの大国を抱えている。

 

 そして今現在、ダルマスカはアルケイディアの侵攻を、ナルビナ城塞なる場所で迎え撃とうとしているらしい。ひとまずそこに行ってみようかな。この世界の人たちは、どんな風に戦争をしているのか気になる。さっきの鎧の人を見る感じ、剣と魔法のファンタジーな感じなのかな?

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