黒幕系種族に転生した   作:野竜先輩

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第二話 イヴァリースの戦争

「え、なにこれは」

 

 その風景を見た最初の感想は、困惑だった。

 

 夜の漆黒が広がる空中には全長数百mはあろう巨大な戦艦が浮遊し、中世風の城塞に砲撃を放っている。しかしその砲は城塞を傷つけるよりも手前で、魔法障壁によって無力化されていた。

 

 ならば地上ではどんな戦争が繰り広げられているか。戦車や火砲が我が物顔で行き交っているのかといえばそんなこともなく。鎧を纏い剣や槍を振るう兵隊や、チョコボという巨大な鳥に跨るチョコボ騎兵なんかが乱戦を繰り広げている。

 

 上空と地表であまりにも文明レベルが違うのは、イヴァリースの地表を覆うミミック菌の存在が原因だ。汎用的な金属を腐食させるため、金属を用いた精密機器を地上で扱うことを許さない。地上にもマスケットのような銃を持つ兵士は小数いるが、機関銃のような複雑な機構のものは暴発が怖いのだろう。

 

 しかし僕が知らない間に、人間の技術力はあんな大きな船を空に飛ばすところまで来たんだなぁ。凄い技術力、執念だ。

 

 感心もそこそこに、戦場の様子を改めて観察する。魔法障壁と城塞を頼りとして守勢に回るダルマスカ勢と、上空に巨大な戦艦を据えつつ攻城戦を行うアルケイディア勢。攻勢側によって城塞に侵入され、城内で乱戦になっている時点で、ダルマスカ側の敗色は濃厚だ。

 

「——まだだっ! まだ魔法障壁がある!」

 

 戦場に似つかわしくない、若い青年の啖呵に振り向く。他の騎士とは違い、白い羽のチョコボに跨る青年。鎧も繊細な意匠が施されており、傍には貫禄のある金髪オールバックの騎士が護衛している。やんごとない身分の人物であることが窺えた。

 

 青年騎士と、彼に付き従う一騎は確かに周囲の帝国兵を寄せ付けない活躍を見せていた。青年騎士の突進を、お付きの騎士が弓を用いて上手くサポートしている。ただここまで軍勢に浸透されてしまうと、個の力では局地的な優位も作れない。

 

 そうこうしている内に、上空を覆っていた魔法障壁が音を立てて消滅を開始する。魔法障壁は僕らオキューリアも使える技術だが、人間が扱おうとすると、かなりの技量を持つ魔術師が数人必要だ。城塞のどこかにいたその数人が帝国兵にやられてしまったのだろう。

 

 後はもう、空の上の戦艦の艦砲射撃で逐次耕されるだけだ。ダルマスカの命運は決した。

 

「父の仇を……! 父の仇を!」

 

 青年騎士は怒りに打ち震えるが、もうそんな状況ではない。

 

「——ラスラ様ッ!」

 

 お付きのオールバック騎士が弓を番え、素早く放つ。その矢は敵の弓兵を捉えたが、放たれた矢まで止めることは出来なかった。矢は青年……ラスラの胸に突き刺さる。

 

「ぐっ……」

 

 力なく崩れ落ちかけたラスラを、お付きの騎士が担ぎ上げる。そしてチョコボを駆って、その場を去っていった。

 

 その後は戦場に取り残されたダルマスカの兵隊たちが、艦砲射撃や小型の艦載機に蹂躙されるばかりだった。その光景を眺めながらふと思う。ダルマスカ側の総大将って誰なんだろ。流石に撤退の指示があってもいい頃だと……何なら遅すぎるくらいだけど。どこの誰かは分からないけど、流石に兵隊さんたちが気の毒だった。

 

 ……ともかく戦闘の趨勢は決まった。僕もそろそろ移動しよう。次の行き先はダルマスカ王国の王都ラバナスタだ。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 辿り着いたラバナスタの町はまだ平静を保っていたが、ナルビナでの敗戦が伝わると一気に動揺が広がった。

 

 なんでも僕が見かけたラスラというのが、どうも数日前にナブラディア王国から嫁いできた王子様だったらしい。不幸中の幸いか、死体だけはラバナスタまで戻ってこれたので葬式だけは開くことができたのだった。

 

「……安らぎの時を迎えん。ファーラム」

 

 司祭風の人が棺の前で告げる。しかしファーラムってなんだろ。なんかこう、アーメン的なあれかな。アレは確か祈りの句に対する同意みたいな意味だったと思うけども、同じだと考えると今ひとつ意味が繋がらないよなぁ。単純に祈りの句なのかもしれない。

 

 それはさておき。ダルマスカ王家に嫁いできた王子様の葬儀とあって、ダルマスカ王家の人間が複数出席している。王家に協力者が出来れば心強いので、伝手を作りたい。候補は国王のラミナス陛下と、ラスラ王子の妻だったアーシェ王女だ。

 

 ここでの目的は、破魔石の場所を正確に把握することではなく、破魔石を目指している帝国側の人間が誰かを絞ること。ただしあんまり政治で矢面に立つ人の傍にいくと、ヴェーネスとばったり出くわすリスクが増す。

 

 ゲルン王は、ヴェーネスが力を貸した奴は皆滅ぼせとお怒りだ。ヴェーネスの関わった範囲が分からないままヴェーネスと対決したら、「分からないなら全部」滅ぼせと言われかねない。

 

 となると直接政に関わりそうなラミナス王より、アーシェ王女に接触したほうがいいかな。ラミナス王にも会いに行くかは、時勢を見計らいつつだ。

 

「——ラスラ」

 

 葬儀のあと、自室に戻ったのちもアーシェ王女は亡き夫の名を呟いた。虚ろな眼差しが、力なく絨毯へと落ちている。お付きの人もいない、接触を試みるなら絶好の好機だ。

 

 ……タイミングを見計らう。なるべく荘厳で、それでいて怖すぎないエフェクトを心掛けて……行くぞ!

 

 「……!?」

 

 アーシェの前に姿を現す。アーシェは突然姿を現した僕に対し、目をぱちくりと瞬かせていた。数秒の沈黙を挟んで、彼女の唇が震える。

 

「ラ、スラ……?」

 

 どうも彼女は僕を、夫の亡霊と勘違いをしたようだ。警戒心は薄れている。とはいえ今後ずっと話を合わせるのも面倒だし、ちゃんと名乗ろう。

 

「僕は幽霊じゃないよ。僕はオキューリア族のザルヴァ。ギルヴェガンからやってきたんだ」

「……ザルヴァ?」

「うん。僕たちオキューリアは、君たちの父祖レイスウォールに破魔石を授けたんだ」

「……?」

 

 うーん、彼女は破魔石について知らないか。変な鎧の人が人間界でのネーミングまで知ってたり、かと思えば王家の人が知らなかったりで振れ幅が大きいな。

 

 そんなことを考えていると、アーシェ王女のすらりとした手が伸びる。高価そうな指輪を付けた指先が、僕の体に触れ——ることは、霊体であるため当然なく。抵抗なく空を切った。

 

「なら、夜光の砕片は知っている?」

「!」

「お、こっちは通じるんだ。僕は人間界での呼び名は分からないんだけど、あと2つも含めて3つ」

「……黄昏の破片、暁の断片のこと?」

「……うん。そう、たぶんそう」

 

 朝、夜ときて昼じゃなくて夕方なんだ……。名づけの時、力を放つときの光の方に重点を置いたのかもしれないね。

 

「……僕はナブラディアを滅ぼした存在をやっつけるために、地上に降りてきたんだ。今はちょっと戦う力がないんだけど、君の味方だ」

 

 僕がそう言うと、彼女は得心がいったのか、優しく頷いた。ちょうどそのタイミングで、部屋の扉がノックされる。

 

「……失礼します。お食事をお持ちしました」

「あ、えっと……!」

「大丈夫。今の僕は、君以外には見えないようになっているから」

「そうなの……?」

 

 その後は侍女相手に先ほどの言葉が本当であることを証明し、晴れてアーシェ王女の傍を定位置として確立することができたのだった。

 

 ……なお、アーシェ王女は時折僕に話しかけるシーンをたびたび目撃され、「夫に先立たれたショックで狂った疑惑」を城内で噂されてしまったのだが。当人はそんなことどうでもいいといった具合なので、ご厚意に甘えておくことにした。

 

 

 その後はアーシェ王女に人間界の常識を教わりつつ、僕もレイスウォール時代の昔話をしたりしながら過ごしたのだが、その間も戦況は刻一刻と悪くなっていた。

 

 ナルビナ城塞を制圧したアルケイディア帝国軍はその後、ラバナスタに総攻撃を仕掛けなかった。2ヶ月にもわたってナルビナ城塞に軍を駐留させ、消耗戦を持ちかけたのだ。えげつないことをする。

 

 国力差を見せつけ士気を折る。支配下に置く王都を荒らさないため。様々な理由が考えられるが、僕は王都の破魔石が目当てだと見ている。そしてこの期間に、少しずつヴェーネスの協力者の目星も付いてきた。

 

 帝国側のこの作戦を指揮している男、ヴェイン=ソリドール。彼は恐らく黒だろう。軍事の天才で、現皇帝グラミスの息子。地上でもっとも覇王に近い人間だ。人が歴史を作ることを望むヴェーネスが取り入るには絶好の人物に思える。

 

 ……ただ一つ引っかかるのは、ヴェーネスがギルヴェガンを飛び出したときの経緯だ。彼はギルヴェガンに迷い込んだヒュム族——地球で言うところの人間のような外見をした人族だ——と意気投合したという。

 

 単純に、次期皇帝がギルヴェガンに迷い込むような危険な旅をするか?という話だ。ヴェインの他に誰かいるんじゃないか、そういう読みが出来る。

 

 そんなヴェインから先日講和の申し出があり、ダルマスカ国王ラミナスはナルビナ城塞にて行われる調印式に出席するため、数日前にラバナスタを発った。

 

 ここでヴェインと会うために表舞台に出ていくのは、あまり得策じゃない。その点で言うとアーシェ王女の傍についたのは良かったと言えるかもだけど……

 

 アーシェは、自室の窓の外に浮かぶ月に向かって、父王の無事を祈っていた。しかしそんな祈りは、ノックもなしに突然開かれた扉の音によって遮られた。

 

 現れたのは、無骨な鎧を纏った、もみあげの濃い武人だった。

 

「ウォースラ!?」

 

 アーシェの言葉から、彼女にとって想定外の客人であることが窺えた。ウォースラと呼ばれた男は、深刻な面持ちでアーシェに話しかける。

 

「……殿下。今すぐここを離れます」

「ウォースラ、一体どういうこと……? 父上は……」

「……ラミナス王は暗殺されました」

 

 和平会談……なんて言っても、彼我の軍事力の差は歴然で、結局は無条件降伏だ。そんな状況でなぜ王を暗殺しなければならないか。

 

 戦後統治を考えれば、例え無条件降伏だからといって王族を処刑するのは簡単な決断ではないが、出来なくもない。恐らく本国の政治家たちから、ダルマスカ王族を殺すなという要請があったのだろう。

 

 で、ヴェインの目的がダルマスカ王家の隠し持つ破魔石だとすると、本国の要請は邪魔になる。だからヴェインが手元の兵隊を使って暗殺したとすれば、国の判断として一貫性のないこの暗殺劇にも、説明がつけられる。

 

 ……まぁ僕の推理は、ヴェインが怪しいの一点に重点を置きすぎだが。いずれにせよ暗殺なら、この後に表向きの筋書きが帝国から示されるはずだ。それを確認してからでも遅くない。

 

「そんな……父上が……」

「ここも危険です。一度ラバナスタの地下に隠れ、折を見てオンドール候を頼りましょう」

 

 ウォースラはアーシェを連れ出すようだ。彼が今後アーシェを守護するというのなら、彼にも僕の存在については知っておいて貰ったほうがいいか。

 

 そう判断し、ウォースラにも姿を現す。

 

「な、なんだコイツは!?」

 

 こちらの姿を視界に捉えたウォースラは、驚愕しつつも背負った大剣を構えた。

 

「待ってウォースラ、この人は……!」

「離れていてください、殿下!」

「……僕はオキューリア族のザルヴァ。覇王レイスウォールに石を授けた存在の一人だ」

「な、なに……?」

 

 動揺しながら、ウォースラは大剣を振り下ろす。剣はそのまま、霊体の僕の身体をすり抜けた。

 

「僕もついていこう」

「……信用できん。ご遠慮願おう」

「拒否する方法がない自覚はあるだろう?……安心してほしい。覇王の血族の敵に回るようなことはしない」

「ウォースラ。お願い、ザルヴァも連れていきましょう。彼、彼自身が認めた相手以外には姿が見えないの」

「この見るからに怪しい図体が目立って見つかる……なんて事は起こらないよ」

 

 これは半分嘘だ。まずないだろうが、ヴェーネスと直接かち合ったら普通にバレる。

 

 ウォースラはこちらの姿を見ながら、少しばかり考え……結論を出す。

 

「……問答をしている時間はない。ついてきてくれ」

 




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