黒幕系種族に転生した   作:野竜先輩

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第五話 遭遇

 解放軍の作戦は失敗した。一気呵成に王宮を目指した解放軍は、上空に陣取った飛空艇の砲撃により完全に失速。そのままガラムサイズ水路にまで追い落とされてしまった。

 

 ……とはいえ、こういった最悪の事態をウォースラが想定していなかった訳ではない。撤退路を設けない戦とは、それ即ち死戦だ。ここをダルマスカ解放軍全体の死に場所にするには早すぎる。ウォースラは万一に備え、ガラムサイズ水路を用いた郊外への退路を構築してあった。ただそれも、全てが計画通りとはいかない。

 

「やあっ!」

 

 アーシェがかけ声と共に剣を振るい、帝国兵を弾き飛ばした。

 

 不幸にも供回りだった者たちが破れてしまい、アーシェは単騎での戦いを強いられていた。帝国兵一人が相手なら遅れを取らないが、複数人で迫られると流石に経験値の差が出る。

 

「とにかく数で押せ! 殺すんじゃないぞ!」

 

 五人いるうちの一人が号令を出す。アーシェはじりじりと通路の際、行き止まりまで押し込まれる。彼女の背後が壁でなく、階下に繋がっているのは幸いだが、飛び降りるには少々コツが要る高さだ。階段もすぐそばにあり、例え一人で飛び降りたとしても帝国兵を振り切れないだろう。紛れもなくアーシェの窮地だ。こういうとき、破魔石を介さずに戦闘が出来ないこの身体を恨む。

 

 そんなとき。階下から声が上がった。

 

「飛び降りろ!」

 

 声の主は、少し幼さも残るが実直そうな金髪の少年だった。彼の背後には身なりの良い、少年よりは少し年上だろうマスケット銃を持つ男。そして兎耳を持つ亜人であるヴィエラ族の女がいた。

 

 当然ながら解放軍の一員ではない。こんな夜更けに、ガラムサイズ水路に複数人でやってくる必要性は微塵もない。考えられるのは火事場泥棒くらいだろう。解放軍の動きに乗じて王宮に乗り込もうとしたら、イフリートに睨まれて身動きが取れなくなり、やむを得なく水路に降りてきた。そんなところか。

 

「早く!」

 

 金髪の少年は催促する。確かに彼の提案は魅力的だが——

 

「……ザルヴァ。どうする?」

「悪い人じゃなさそうだ。行ってみてもいいかもしれない」

 

 僕が促すと、アーシェは帝国兵に背を向けて跳躍した。少年はそれをきっちりとお姫様抱っこで受け止め、優しく降ろしてみせる。やるじゃない。

 

「今日は仲間が増える日ね」

「面倒が……だろ」

 

 金髪の少年がアーシェを助けたタイミングで、身なりの良い青年とヴィエラ族の女がそんな会話を交わしていた。が、一応帝国兵と戦ってはくれるみたいだ。

 

 そしてそのまま階段を下りてきた兵士と、推定火事場泥棒が交戦を開始する。金髪の少年は剣を、身なりの良い青年は銃、ヴィエラ族の女は弓を使っていたが、それなりの手練れだ。数の優位のない帝国兵くらいは軽く相手できる程度の実力を持っていた。

 

 帝国兵たちを倒し、束の間の平穏が訪れる。

 

「助けていただいて、ありがとうございました」

 

 アーシェは頭を下げ、微笑んで見せる。

 

「あいにく、礼は受け取らない主義でね」

「なんだよバルフレア」

 

 金髪の少年に名前を晒され、身なりのいい青年——バルフレアが眉間にしわを寄せた。

 

「ありがとうございます。バルフレア。あと——」

「俺はヴァン。あの……えっと、ヴィエラだっけ。あの人はフラン」

 

 金髪の少年はヴァン、ヴィエラ族の女はフランというそうだ。ヴァン少年がすべて話してくれた。

 

 ……しかし森の外にいるヴィエラ族か。珍しいな。ヴィエラ族は長命かつ、ゴルモア大森林と呼ばれる森を終の棲家とする種族だ。森の外に出たヴィエラははぐれものとして扱われるそうで、故郷への出戻りは難しいらしい。

 

 ちなみに僕たちオキューリアの住まうギルヴェガンの入り口も、広義で言えばゴルモア大森林に存在するので、いわばお隣さんのような存在だ。向こうはオキューリアの存在なんて知らないだろうから、そんな意識ないと思うけど。

 

「はじめまして。あなたは?」

「……アマリア」

 

 フランに促されたアーシェは、解放軍の一員として名乗っていた偽名を名乗った。まぁ、賢明な判断だと思う。

 

「恐らく火事場泥棒だろうからね」

 

 僕の言葉を聞いたアーシェは、彼らに対する警戒を若干強めた。

 

「……王宮に盗みに入ったの?」

「俺たちは何も盗んでない」

 

 アーシェの問いにそう答えたバルフレアは、ちらりとヴァン少年を見た。

 

「な、何も盗んでない」

 

 明らかに動揺した様子のヴァン少年。アーシェの視線が険しくなる。

 

「十中八九嘘だろうけども。ただ、ここで追及するよりは、脱出に手を貸してもらおう」

「……それが賢明ね。ザルヴァ、あなたはこのまま——」

 

「……その虚空に向かってぴーちくぱーちく喋るのをやめろ!!!」

 

 バルフレアが突如怒りの声を上げた。びっくりしたヴァン少年が振り返る。とはいえ無理もない状況だ。今の僕は姿を隠したままだし、そうなるとアーシェはバルフレアの語った通りの狂人である。

 

 ……解放軍時代は事情を知るウォースラがいたから何とかなったけど、治していったほうがいいね!「周りの視線なんて関係ないわ」なんて、手放すにはちょっと惜しいロマンだけど。

 

 その後、一行はどうにか解散することなくガラムサイズ水路を進んでいく。

 

「……あなた、出口に当てはあるの?」

 

 アーシェにそう問いかけたのはフランだ。

 

「ラバナスタの郊外に出る出口は、何箇所か」

「とっくに抑えられてそうなもんだけどな。じゃなきゃ地上のイフリートの説明がつかんだろ」

 

 バルフレアの推察は正しい。解放軍の蜂起に軍用飛空艇をドンピシャで合わせられる情報精度は、それなりに高位の内通者がいなければ説明がつかない。そうなれば退路の情報が漏れていても、なんら不思議はない。

 

「事前に決めてた出口は避けたほうが無難だ。フラン、どうだ?」

「……ここからしばらく進むけど、ナルビナ城塞に抜ける出口がありそうね」

「ずいぶん遠いが仕方ない。やれやれ、空は遠いねぇ」

 

 アーシェは僕の方を見上げて、判断を仰いでいた。

 

「……バルフレアの言葉には一理ある。相乗りさせてもらおう」

 

 僕の判断に彼女は頷きを返した。バルフレアは面白くなさそうにその様子を見ていたが、すぐ見捨てない辺り、彼は相当なお人好しである。

 

 

 

 その後一行は水路を進み、僕は周囲の哨戒などをしてサポートしたが……結論から行くと、帝国の包囲網を突破するのは難しそうだった。

 

 帝国は出口を押さえるのではなく、まるで目的の人物が水路に残っていることを確信したかのように包囲を試みていた。中にはヴェインが自ら率いる部隊まである始末だ。

 

 ひとまずそのことをアーシェに説明し、少なくともヴェイン直属以外の部隊と鉢合わせるよう誘導した。とはいえヴァンたちに姿を見せても混乱を招くだけだろうか、アーシェ越しにそれとなくだが。

 

「そこで止まれ!」

 

 声を掛けられ、一行は足を止める。声を上げたのは二十人以上の帝国兵を伴ったジャッジだった。

 

「て、抵抗をしないのであれば、こちらから傷つけるようなことはしない!その方が身のためだぞ!」

 

 ジャッジは続けて、怯えた声色でそう警告する。ある程度察しがついているだろうバルフレアやフランはともかく、ヴァン少年は状況を全く呑み込めていないのか、怪訝そうな表情を浮かべていた。

 

「なんだ……?あいつ、やけにビビってるけど」

「それだけ重要人物ってことだろ」

 

 ちらりとアーシェの方を見やるバルフレア。まぁ、これだけ露骨だと察するものはあるよね。

 

「……あなたはウォースラの下に行って。私は大丈夫」

「なるべく早く助けに来る」

 

 僕に離脱を命じたアーシェは、あくまで気丈に振舞っていた。帝国兵が近づいても抵抗することはない。

 

 ……敵の狙いは、ほぼ間違いなくアーシェその人であり、この包囲網はアーシェ一人を捉えるためのものだろう。目的は黄昏の破片の在処を知っているだろう王族の回収といったところか。だとすればあのジャッジが語った通り、この場で即座に殺される可能性は低い。

 

「へぇ、解放軍にも中々上玉がいるんだな……どれ」

 

 アーシェに手錠をかけようとした兵士が、そんな下卑た声を上げた瞬間だった。

 

「や、やめんかぁ!!!」

「ぶえっ」

 

 ……上官のジャッジが、帝国兵を殴り飛ばした。先ほどの慌てようと言い、どうもあのジャッジはヴェインから事情をある程度知らされているようだ。信用してもいいだろう。

 

 

◇◇◇

 

 

 ヴェインにとって、ダルマスカ執政官とは自身の野望を果たすための望ましい赴任だ。だがしかし、彼に付き従うこととなったジャッジや帝国兵にとってはそうではない。黒い鎧を身に纏いながら、周囲を砂漠に囲まれた熱帯の植民地に赴任しなければならない。周囲には薄着の外民や亜人が当然のように闊歩する地域で、スリのような小悪党から、反乱軍のような大事にまで対処することになる。一般常識に基づけば、実に"外れ"な転勤といえよう。

 

 そしてそんな転勤先に飛ばされてきたジャッジが一人。少なくない人数が反乱軍の蜂起の後始末に回される中、彼はその渦中に火事場泥棒を試みた空賊の一団を取り調べすることになった。しょうもない仕事だという愚痴は内心に留めた。彼には帝都アルケイディスに残した妻と、初等教育への就学を目前にした長男という"人質"がいたからだ。

 

「——中庭に乗り捨てられていたエアバイクは、空賊のもののようで間違いないそうです」

「そうか。ご苦労」

 

 ジャッジは空賊の処分において、務めて冷静で正しい処理を心掛けていた。一刻も早く帝都に帰るためだ。腐敗したジャッジであれば、ここでエアバイクを秘密裏に市場に流すことも有り得たかもしれないが……彼はそういったこともしなかった。

 

「もう一人の少年については、所持品を確認しましたが、妙な石ころ以外は特にこれといったものを持っていないようです」

「妙な石ころ? どれ……」

 

 兵士が差し出したのは、光り輝く黄金色の魔石だった。

 

「王宮の宝物庫で見つけたと」

「……王宮の宝物庫だと、管轄は帝国の所有物ということになるな。元の場所に戻しておけそうか?」

「それが、隠し扉の向こうにあったとかで……開けるのには太陽石がいるそうですが、宝物庫を開けたときに力を失ったそうでして」

「参ったな……」

 

 ジャッジは頭を抱えた。今から太陽石を探したところで、市場で物が見つかるかは不明だ。新たな太陽石を作るにはギーザ草原まで出張る必要があるが、それも時間がかかる。

 

「仕方あるまい。上に報告して沙汰を待とう。くれぐれも傷をつけたりしないように」

「はっ!」

 

 原作ではこの魔石——黄昏の破片は、ヴァンのその他の荷物と共に適当に放っておかれ、ヴァンたちが脱獄を図ったときに荷物共々彼らの手に戻った。原作はそうした筋書きだが、不幸にもマトモな取調べが行なわれたがために、黄昏の破片は帝国の手に落ちたのだった。

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