fallout -yukkuri edition- 作:ぱくちそん
荒廃した土地、どんよりと曇りがかった空。見渡す限り、私がいた世界の面影もない地で砂ぼこりの舞う風を受けながら、私は佇んでいた。着ている制服も朝セットした髪も、もうすでに埃まみれだ。話は聞いていた。覚悟の上だ、でも、もう今まで当たり前だったことが、当たり前じゃなくなる・・・。水も、住む場所も、命も。
でも、もう決めたことだ。大切なものを取り戻すために、命をかけるって。
「ふあ・・・」
朝の暖かい日差しが木々の隙間から差し込んで、ふわりと髪を舞い上げるまだ少し肌寒い風が通り過ぎていく。春だ。なんて陽気のいい日だろう。あくびが止まらない。
「こんな日は新作のクレープでアフタヌーンティーを決め込むしかないなぁ・・・」
今日の予定は決まった。駅前の人気クレープ店で新作のベリーベリースペシャルファンタジーをいただく。ベリーベリースペシャルファンタジーとは、クレープにたっぷり塗った生クリームの上にこれまたたっぷりのいちごときいちご、ブルーベリーなど考えうる限りのベリーを乗せ、アイスにチョコスプレー、キャラメルソースをトッピングした、まさにファンタジーな代物である。人気過ぎていつ行っても売り切れ、もう普通に行っても買えないのだ。戦うしかない。学校が終わり次第ダッシュで駅前に駆け込む。そう意気込みながら放課後の作戦を練っていると、ポンと肩を叩かれる。
「うっす市子。朝から何怖い顔してぶつぶつ言ってんの?」
幼馴染の悠が、怪訝な顔で私を見ていた。
「放課後の戦いに備えてるのよ」
「戦い??・・・まあ、大変そうだな」
悠はそんなことどうでもよさそうに聞き流すと、少し言いにくそうに口を開いた。
「ところでさ、特に深い意味はないっていうか、まあ、てきとーに聞いてほしいんだけどさー」
空を仰ぎながら途切れ途切れに話す悠に、私は適当に相槌を打つ。言い回しが何か気になるが、この幼馴染は晩御飯にハンバーグが出てきたことから、女の子に告白されたことまで何でもかんでも私に報告してしまうおしゃべりオバケなので、何か重要な告白か、とでも思わせる口ぶりに何度裏切られたことか。一応話だけ聞くが。
「あのさ、朝起きたらさ、部屋に、知らない人が・・・いたら、市子どうする?」
「とりあえず110番だよね」
間髪入れずに答えると、そりゃそうだ、とでも言いたげな呆れ顔が私を横目で見る。何か不満でも?
「そういう・・・まあ、いいんだけどさ」
「なに?いったい私にどんな答えを期待してたのよ」
またどうせ変な夢でも見たんだろう。心底どうでもいい。そんなことより、私には放課後のビックイベントが待ってるんだから。物憂げな幼馴染をよそに、私の頭はファンタジー一色だった。
そして放課後。私は終礼とともに目にも止まらぬ速さで教科書を片付け、教室を後にした。・・・しようとした。
「今日ちょっと付き合えよ」
悠が私の腕をつかんで引き留めた。勢い余った私は教室のドアに肩を強打し、盛大な音を立てて崩れ落ちた。言葉にならない。痛恥ずかしい。
「ちょ、何すんのよ」
「や、なんか超急いでたから」
そりゃ急ぐよ。そう言って立ち上がるが、離さない。
「離してよ、私は今日ベリーベリーでスペシャルファンタジーな世界をたしなむんだから」
「や、よくわかんねぇけど、急ぎだからさ、頼むよ」
む、珍しく困ったように頼まれたら断りづらいではないか。ま、そもそもスタートダッシュに出遅れた時点で私の口にクレープが入る望みは薄い。仕方がないから、今日は付き合ってやるか。しょうもない用事だったらぶっ飛ばそう。
私の家の隣に悠の家がある。思えば、悠とは小さいころからずっと一緒だった。悠の親にも世話になっている。両親を早くに亡くした私にとって、悠と、その両親は家族同然だった。
玄関から階段を上がり、悠の部屋の前まで行くと悠が突然振り返った。
「いいか、驚かないでくれよ・・・いや、驚くと思うけど」
そう言って、私が何か言う前にドアを開け、ただいま、と一言。
「え?」
「おかえりー」
「お帰りなさい・・・って、その方は?」
悠の部屋にいたのは、見たこともない少し年上くらいの女の人と男の人。別にそれくらいだったら、親戚の人かな?とか思えたのだが、問題はふたりがどうやってそこまでにしたかわからないくらい年季の入った、もといぼろ雑巾のような服をまとっていたこと、そしてずっしりと存在感のある明らかな銃器を背負っていることである。銃器に関してはもはや本物とか偽物とかそういう話じゃない。今、パッと見た私が瞬時に判断できるくらいには、この二人は明らかに“ヤバい人達”だった。
「俺の幼馴染だよ。市子っていうんだ」
全身で危機感を感じている横で、平然と私の自己紹介をする幼馴染。え、どういうこと?状況が呑み込めず、視線を送ると、私を見てうなづく。
「今説明する。えっと、まず、俺が朝言ったこと覚えてる?」
「悠が朝言ったこと?・・・あの、部屋に知らない人がいたらって話?」
「うん、それが、この人たち」
「うん・・・ん?・・・・え、と・・・つまり?・・・この人たちは、知らない人?」
そう言うと悠は少し考えて、まあ、そういうことになるね、とだけ言った。知らない人?え、まずなんで知らない人がまだ部屋にいるの?この格好はなに?銃は?疑問は次々と私の中で浮かんで、―――そのうち私は、考えるのをやめた。
「市子、気持ちはわかるけどカーズになるな」
「私たちからも説明が必要ですよね」
「まあな、こっちも状況はさっぱりだが」
髭にサングラスをかけた男の人がそう申し出ると、ショートカットの女性もそう言った。
「まず、私は101のアイツと申します。こっちはゆっくりさん。正直まだはっきりわかっているわけではないのですが、私たちはどうやらまったく別の場所からとばされてきたらしいんです」
「朝、部屋にいたら、何もないところからこの二人が出てきたんだ。はっきり見てたから、俺も最初目を疑ったけど」
そう言って、悠は朝出会ってからのことを話した。最初びっくりしたけど困ってるようだったから事情を聴いたこと、学校があるから部屋で待たせていたこと、今のところ皆勤賞だから学校は休めなかったこと。こいつ、ふざけてやがる。
「・・・で、この人たちの持ってる、その、銃とかは?」
「ああ、それはユウさんに聞きましたが、ここでは持ってるだけで捕まるとか。私たちのところでは持っていることが当たり前なので、もちろん使う気なんてないので安心・・・は、できないと思いますけど」
それはそうだわ。全然頭の中が整理できない。わからないことはいっぱいある。怪しすぎるし、どこから来たのかも、どうやって帰るのかも・・・いくら疑問に思ってもこの二人もあんまりわかってないっぽいし、聞いても混乱するだけ・・・。そこまで思って、はあ、と大きなため息をついた。
「・・・で、なんで私に話したの?」
「ああ、俺だけじゃできないとことかもあるし。できたら助けてあげたいからさ。ちょうど両親が旅行中だし。それに、こんな格好でいられてもちょっと困るだろ?」
ああ、はいはい、着替えね。それにしても、お人よしだお人よしだとは思ってたけど、ここまでとは。なんてことに巻き込んでくれたんだ。そう思いながらも、明らかに行き場のないこのふたりを家から追い出す気にはなれず、私も同類か、と思いながら着替えの服をバッグに詰め込む私なのでした。