TS転生☆ドM悪役令嬢は、美事に破滅したい!   作:megajoy

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美摩視点でシリアスな語りが長く続きます……。
真理亜視点との差異でシリアスなのにお笑いが出るかな、と(^ω^;)


M一八 真渡園美摩 ~真理亜という姪子~

真理亜が真渡園(まどぞの)の屋敷にやってきて半年以上、美摩には、

なにもかもが好調に感じられていた。

 

当主である美摩の(もと)に報告されてくる、真渡園(まどぞの)傘下(さんか)の事業すべての業績が黒字。

本事業である〈退魔法師(たいまほうし)〉関連の成果報告でも、

深刻な損害と死傷者は出ていない。

 

美摩には、あたかも、〈聖女〉である真理亜が、真渡園(まどぞの)()に、

幸運を運んできてくれたようにさえ、思えている。

 

いや、厳密には、真理亜が〈聖女〉であると、確定したわけではない。

だが、美摩にとっては、今や真理亜は、〈聖女〉以上の存在であった。

 

最愛の姉の遺児であり、娘である兎萌を、

呪い同然の〈(かせ)〉から解き放ってくれた大恩人。

そしてその身に宿る、途方もない魔力量は、真渡園(まどぞの)一族の呪わしい闇を断ち切り、

新たな未来を築き上げていく希望そのものに見える。

 

兎萌に付けている女性の家庭教師に、真理亜の学力を(はか)らせたところ、

興奮を隠しきれぬ様子で、真理亜の優秀さを()(たた)えてきた。

 

世辞を嫌うこの家庭教師がそこまで言うのなら、真理亜の学力は、幼児なりに、

相当なものなのであろう。

亡き姉の教育の賜物(たまもの)を、誇らしく思う美摩だ。

 

真渡園(まどぞの)の令嬢としてふさわしく育てるため、華道や茶道といったものも、

(たしな)み程度のつもりで稽古(けいこ)を受けさせたが、これまた、どの教師たちも、

揃って真理亜を絶賛してくる。

 

『子供とは思えぬ落ち着きと、丁寧な所作が素晴らしい。

将来が楽しみでなりません』云々(うんぬん)

真理亜への賞賛(しょうさん)が多いことは、叔母として鼻が高く、嬉しくてならない。

 

しかし同時に、頭の片隅で、不安が鎌首をもたげてしまう。

 

〈聖女〉と呼ばれるに(あたい)するほど、完璧なまでに優秀─────────。

その命を()して、大偉業を成す〈運命(さだめ)〉にある存在…………………………………。

 

美摩は〈聖女〉の伝承と共に、

『アーサー王伝説』一大叙事詩(エピック)のひとつである“聖杯探求”のことを

思い出さずにはおれなかった。

 

─────聖遺物である〈聖杯〉を手に入れるため、一斉に探求の旅に出る、

アーサー王の円卓の騎士たち。

そのほとんどの騎士が挫折(ざせつ)したり、命を落としたりする中、唯一、

ひとりの騎士が、〈聖杯〉を見出すことに成功する。

 

その名は、ガラハド。

円卓の騎士において、〈最強の騎士(ファースト・ナイト)〉とされるランスロットの息子。

 

真騎士の剣(アルスニール)〉、〈白の盾(アブディエル)〉、〈光輝の鎧(アンゲロス)〉といった最強の聖武具を持ち、

アーサー王からも“世界最高の騎士”と(たた)えられるほど、高潔な騎士。

……………完全無欠と言うしかない、そのガラハドだけが、

〈聖杯〉を見出すことを、確かに()さしめた。

 

けれども、そこまで。

この地上に、奇跡と神秘の器である〈聖杯〉を顕現(けんげん)させるには、

代償が必要だったのである。

 

それは、純粋で善良なる人間の魂。

つまり、ガラハドの魂そのものであった。

 

なんという矛盾であろう。

〈聖杯〉を手に入れるには、〈聖杯〉を手にするにふさわしい人間の魂が

必要なのだ。

 

ガラハドは、〈聖杯〉を手にした直後、神の世界へと召され、

主を失った〈聖杯〉もまた、世界から消え失せる。

“聖杯探求”は、聖遺物の消失と、世界最高の騎士の死という、

悲劇で締めくくられるのだ。

 

美摩は、真理亜と、騎士ガラハドを重ねて見てしまう。

 

異常なほどの膨大な魔力量に、魔性の美貌、そして、幼児とは思えぬ、

精神の完熟性。

“完全無欠の存在”───────大偉業を成すためだけにある命…………………。

 

そんなことを思い浮かべてしまった自分に、寒気を覚える美摩。

そうはならない、いや、させてなるものか。

 

姉の(いと)()を、世界と〈運命〉のための消耗品になど、

させたりはしない。

姉に代って、自分が真理亜を守るのだ。

 

美摩はそう堅く決意し、おのれの〈退魔法師(たいまほうし)〉としての地力(じりき)の底上げを試みだす。

また、真渡園(まどぞの)()配下〈退魔法師(たいまほうし)〉の全実戦部隊に、

現状戦力の実態と現場での問題点等の報告を命令した。

 

真渡園(まどぞの)()が動かすことのできる〈退魔法師(たいまほうし)〉たちの戦力を、

さらに向上させるためである。

 

………〈聖女〉に頼りきりならぬ、精鋭〈退魔法師(たいまほうし)〉部隊を

作り上げねばならない──────────。

たとえ、阿鼻叫喚の地獄絵図がごとき大恐慌の最中(さなか)にあっても、

悠然と、人々を守り救う最強の軍団を………!

 

そうだ、〈聖女〉ひとりに、すべてを背負わせるような未来など、

あってはならないのだ。

 

真理亜は、おそらく、今代で世界最強の〈退魔法師(たいまほうし)〉になるに違いない。

その実力に比肩しうる者が、果たしてこの先、いるかどうか。

 

そんな真理亜を守るなどと、保護者の立場にある自分であっても、

おこがましい考えなのかもしれない。

けれども、もはや、理屈ではない。

 

守ることはできなくとも、真理亜を助け、支えなければならない。

 

自分ひとりだけでは、叶わぬであろう。

が、真渡園(まどぞの)()総力を(もっ)てすれば、できうるはずだ。

 

真理亜が邪悪な〈魔〉との戦いで命を落とすという、

最悪の〈運命〉に(あらが)うことが──────!

 

─────真理亜自身は、未来において、

強大な〈魔〉と戦う〈運命〉にあることを〈知って〉いる。

美摩は、真理亜の専属メイドになることを叶穂に命じたその日のうちに、

叶穂から、そう報告を受けていた。

 

本当は真理亜も、その〈運命〉に対して、年齢(とし)相応に、

恐怖と不安を覚えている、と。

 

真理亜はまだ五歳、当然のことだ、と、美摩は思う。

美摩は、真理亜が(ひそ)かに(おび)えているその胸の内を、

自分ではなく叶穂にだけ明かしたことに、叔母として、少なからず傷ついていた。

 

けれど、家族だからこそ言えなかったのだろう、と、真理亜の心情を(おもんばか)る。

 

真理亜の母親である真魅《まみ》は、美摩(自分)の姉だ。

その姉の娘が、

〈魔〉と戦い命を落とすかもしれない〈運命〉にある………………。

 

肉親を(うしな)ったばかりの美摩()に、心優しい真理亜が、

そんなことを告げられるだろうか?

────言えるはずがない。

 

真理亜はきっと、美摩(自分)に心配をかけぬよう、ひとり、

耐えるつもりでいたのだ。

しかし、これから側仕えになるという叶穂にだけは、つい、

本音をもらしてしまったのだろう。

 

思えば、幼い頃の自分も、当時は(ねえ)やであった漱祗(すすぎ)に、

姉の真魅には話せぬいろんな悩み事や不満を相談したものだ────。

 

美摩は、幼き日のことを、懐かしむ。

最愛の姉がいて、漱祗がいて────姉と共に、

立派な〈退魔法師(たいまほうし)〉になるのだと、無邪気に夢見ていた日々………。

 

だが、その日々、その夢は、突然、すべて奪われた。

 

真理亜から姉の手紙を渡された、今だからわかる。

真渡園(まどぞの)一族の〈闇〉に、姉の真魅が吞み込まれ姿を消し……次に、

自分が襲われ、おぞましい儀式でその身を(けが)された。

 

漱祗(すすぎ)の献身がなかったら、

母のように精神を壊してしまっていたかもしれない──────。

過去の記憶に体を震わせて、美摩は、真理亜と、娘である兎萌の未来を想う。

 

諸悪の根源であるあの老翁は、取り除いた。

子供たちには、姉と自分が望んで得られなかった未来を、

(つか)んでほしい………………。

 

そのためにも、ふたりを、超一流の〈退魔法師(たいまほうし)〉に鍛え上げねばならない。

 

そう思い、基礎訓練である魔力操作から、

ふたりを厳しく指導するつもりでいたのだが──────。

訓練の初日、美摩は、初めて真理亜と出会った日と同様、

再びその破格の才能に驚愕(きょうがく)させられる。

 

魔力を光に変換するのみならず、その光に様々な色を付与させ、

自在に操る技量まで、真理亜は、既に習得していたのだ。

 

「おねえさま、すごいですっ!」

 

魔力を操作できるようになり、一緒に訓練を始めた兎萌は、

無邪気に真理亜を賞賛している。

 

────凄い、なんてものではない。

真理亜の魔力操作技術は、現時点で、既に一流〈退魔法師(たいまほうし)〉並だ。

 

この鮮やかなまでの魔力光操作は、姉の教えが優秀だった、

ということだけでは片付けられない。

美摩は、真理亜の才能に、恐怖すら覚えてしまう。

 

魔力光が視認しやすいよう、薄闇の中で訓練は行われているのだが、

真理亜の魔力光がその虚空に描き出すのは、星々の舞踏会とでも言うべき、

もはや一種の芸術の域にあるものであった。

美摩ほどの〈退魔法師(たいまほうし)〉が、魔力操作における肉体への負担、

その危険性を忘れ、見惚れてしまうほどに。

 

「……っ! 真理亜っ! それ以上は危ないわっ!

 今すぐ操作を()めなさいっ!!!」

 

我に返った美摩は、慌てて制止の声を掛ける。

 

「────大丈夫です、お姉様。まだ────まだ、やれます……!」

 

真理亜はなおも、魔力光の操作を続けながら、苦しげな声でそう応えてきた。

普段は聞き分けの良い真理亜のその返答に、美摩は、違和感を覚え、

真理亜の顔を見る。

 

──────微笑(わら)っている……!

 

魔力光を生じさせるだけでも、幼児には大変な作業だ。

それを長時間持続させ、鮮やかな(いろど)りを加えながら自在に操作し続けるとなれば、

その疲労は、幼児にとっては苦役(くえき)に近い。

 

それなのに、口元に笑みとは─────!?

美摩は、はっと、ひとつの結論に達する。

 

真理亜は、精神集中のしすぎで、通常の意識が薄れた忘我(ぼうが)の状態─────

いわゆる、脱魂(トランス)状態に(おちい)っているに違いない………!

その考えに至るや否や、美摩は、真理亜の小さな両肩に、手を掛けた。

 

そして、真理亜の意識を呼び戻すべく、激しく揺さぶろうとした、その瞬間である。

真理亜の両膝が、カクン、と折れ、糸の切れた操り人形のように、

その体が崩れ落ちそうになった。

 

訓練場の床に倒れ伏す前に、美摩が、危うく真理亜を抱き止める。

 

「真理亜っっっ!!!」

 

「おねえさまっっっ!?」

 

美摩と兎萌の叫びが、訓練場内に、

重なり響き渡った………………………………………………。




ガラハドのエピは諸説あります()
美摩が言ってるガラハド装備は完全捏造です(^∀^;)
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