TS転生☆ドM悪役令嬢は、美事に破滅したい!   作:megajoy

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子供の教育方針に悩む、世のお母様方……
がんばってや……(;∀;)


M二〇 真渡園美摩 ~真理亜の決意と覚悟~

真理亜と兎萌が、買い物で互いのカチューシャを選び合った日から、数日後。

美摩は、いまだ兎萌を、真理亜との学びの場から、引き離せずにいた。

 

我が子の真理亜を(した)う様子が、過去の自分と姉を見ているようでもあり、また、

これまで、親としてあってはならぬほどの冷遇(れいぐう)をしていた負い目もある。

 

以前の美摩ならば、そのようなことは一切考慮せず、効率を重視する決断だけ

下していたに違いない。

しかし、真理亜が示してくれた愛情に触れた今となっては、母親として、

無慈悲な振る舞いをするわけにはいかなかった。

 

─────兎萌本人が、真理亜との差に挫折を覚えるまで、

あえて一緒に学ばせ続けるべきか。

いや、そのほうが、残酷な選択なのではなかろうか。

 

早々に真理亜とは離れさせ、別の教育計画(カリキュラム)を用意し、

才能に見合った学習と訓練を施していったほうが良いのではないか。

少なくとも、兎萌の心理的負担は、軽減されるはず…………………。

 

ひとりの母親としての感情と、真渡園(まどぞの)()当主としての理性が、

美摩の心の中でせめぎ合う。

悩んだ末に、美摩は、メイド姉妹の母親でもある漱祗(すすぎ)に助言を求めた。

 

このような行動は、原作における美摩では、ありえない。

原作の美摩という人物は、常に苛立ちを抱えている神経質な性格で、

他人の意見などまるで求めず、何事も自分の思い通りにいかないと、

癇癪(かんしゃく)を起こす毒親キャラなのである。

 

子供の教育方針に苦心し、配下である女性に助言を請うなど、

原作の美摩ならば、その自尊心(プライド)が許さない。

この世界の美摩は、最早、別の存在と言っていいほどに、精神性が変わっていた。

 

美摩の相談を聞いてわずかに黙考したあと、漱祗は、口を開く。

 

「奥様のご憂慮は、ごもっともでございます。ですが、教育方針というものに、

正解はございません」

 

漱祗は、優しい目で、美摩の目を見つめ返した。

 

「我が囲碁留(いごどめ)一族は、真渡園(まどぞの)()に代々仕える身。……私は、娘たちに、

生きる選択肢を与えてやれぬ母親でございます。その点では、

奥様と同じかもしれません」

 

そう言った時だけ、わずかに目を伏せる漱祗。

だが、またすぐに、美摩の目に、相対する。

 

「真理亜お嬢様が次期ご当主となられるとしても、兎萌お嬢様も、

真渡園(まどぞの)()のご息女としてのお立場と責務から逃れられぬ御方。

いかなる手段をもってしてでも、強く、成長していただかねばなりません」

 

漱祗はそう言って、改めて訴えてきた。

兎萌もまた、真渡園(まどぞの)()おいて、他に生きる選択肢はないのだと。

 

「ただ────その道行きを、苦しくとも、真理亜お嬢様と共に進むのか、

それとも、別れて、自分なりに進んでいくのか。その決定だけは、兎萌お嬢様の

ご意志を、尊重していただきく思います」

 

言い終えると、漱祗は、深々と頭を下げてくる。

 

他に生きる選択肢がないからこそ、兎萌の気持ちを大事にしてほしい。

主の相談に対する答えは、漱祗の、真摯(しんし)な願いが込められていた。

 

昔の姉やであり、今は愛し合う女性の言葉で、すとん、と、美摩は、心の中で、

()き物が落ちたような気分になる。

ああ、自分はまだ、娘の気持ちを聞いていなかったではないか。

 

娘を信じる心に変わりはないが、肝心の娘の思いを知ろうとしていなかった。

美摩は、母親として未熟である自分に、またしても恥じ入るばかりである。

 

それはそれとして、まずは、兎萌の気持ちを確かめねばならない。

方針の第一歩をそう決めたものの、今度は、肝心の話を、

どう兎萌に切り出したものかと、頭を悩ませはじめた。

 

加えて、真理亜に関する別の問題も、合わせて浮上してくる。

………真理亜が〈聖女〉であるかぎり、()けえぬ〈運命〉の話であった。

 

“〈聖女〉は自分の命と引き換えに、邪悪な〈魔〉を()ち滅ぼす”

 

その伝承のことを、兎萌に話しておくべきか、否か────────────。

幼子(おさなご)が受け止めるには、(つら)く、重すぎる内容である。

 

人間の生死、しかも、姉と(した)いだしている存在の、命に関わる話だ。

 

─────以前まで自分が育児放棄同然だった影響もあり、兎萌の精神は、弱い。

その心が、真理亜の〈運命〉の話による精神負荷に、耐えられるはずはなかろう。

 

〈聖女〉の〈運命〉の話は、兎萌の精神が充分に成長するまで、

知らせぬほうがいい。

美摩は、そう結論づけた。

 

真理亜の〈聖女〉問題が、一旦、棚上げとなれば、

あとは兎萌の気持ちを聞くだけ。

とはいえ、今日、明日、と、(やぶ)から棒に、問い(ただ)すわけにもいくまい。

 

慎重を期して、良い頃合いを見計らったほうがよいだろう。

まだまだ先行きは不確定ながらも、そう方針が決まれば、

美摩の心は、軽くなった。

 

そう決めた日の夕食後に、美摩は、兎萌が真理亜におねだりしているのを、

耳にする。

 

「おねえさま。ともいは、おねえさまといっしょにおふろにはいりたいです!

 それできょうは、おねえさまのベッドで、いっしょにおやすみしたいです!」

 

見れば兎萌が、べったりと真理亜に抱きついて、

そんな懇願をしているではないか。

微笑(ほほえ)ましい光景ではあるが、その激しい抱きつき具合は、

少々、はしたなくも見えた。

 

真理亜に出会う前の美摩ならば、兎萌の振る舞いを、八つ当たり気味に、

容赦なく叱り飛ばしたであろう。

けれども、幼子(おさなご)ふたりの仲(むつ)まじい姿に、やはり、過去の自分と姉のやり取りを

重ねてしまい、怒るよりもむしろ、口元をほころばせてしまっていた。

 

そして、買い物に行った時と同様、ふたりの会話に入り込んでしまう。

それで気づけば、話の流れから、家族みんなで入浴することになっていた。

 

幼子(おさなご)ふたりと一緒にお風呂に入る、という段になって、美摩は、

心密かに、焦りを覚えてしまう。

思えば、兎萌と一緒にお風呂に入ったのは、随分と前の話であった。

 

兎萌だけならばまだしも、真理亜も一緒に、となると、自分ひとりで、面倒を

見ることができるだろうか……………。

 

日常スキルにまるで自信のない美摩は、無理をせずに、安全策を取ることにする。

囲碁留(いごどめ)母娘(おやこ)に、お風呂を共にしてもらうのだ。

 

幼子(おさなご)らの面倒は、普段通りにそれぞれの側仕え、叶夜(かなや)叶穂(かなほ)に、

見てもらおう、という魂胆である。

保護者として情けない話であるが、安全面を考慮すれば、正しい判断ではあった。

 

それに、漱祗は愛し合う女性なのだから、その娘らも、もはや家族同然で、

一緒にお風呂に入るのは自然なこと………。

─────などと、心の中で、詭弁(きべん)じみた考えを浮かべ、

ひとり納得する美摩である。

 

ともあれ、美摩含む六人での、賑やかな入浴となった。

真渡園(まどぞの)邸の大浴室ならば、この人数での同時入浴には、なんの問題もない。

 

いつもは漱祗と入る大浴室だが、子供らの声が響くと、美摩には、

別の空間のように思える。

湯舟に身を沈めながら、美摩は、囲碁留姉妹に体を洗われている

真理亜と兎萌の姿を眺めていた。

 

叶穂に世話をされるがままになっている真理亜は、口数少なく、

いつにも増して、おとなしいように見える。

みな同性とはいえ、多人数での裸の付き合いは気恥ずかしくて、

緊張しているのだろう、と、美摩は察した。

 

そのように、普段とは違う種類のおとなしさを見せていた真理亜だが、

もじもじと、頬を赤く染めて、たずねてくる。

 

「────わたくしも、お母様や美摩お姉様のように、

お胸が大きくなるでしょうか………?」

 

普段見たことのない不安げな顔で、真理亜は、心配そうに自分の幼い胸と、

美摩の豊満な胸を見比べているようだった。

美摩としては、またも微笑ましく思ってしまう。

 

〈聖女〉であろうと、まだまだ幼い子供なのだと。

 

「私も真理亜くらいの年齢(とし)の頃は、お胸の大きさは同じくらいだったわ。

だから、気にしなくても大丈夫よ。成長するにつれ、自然とお胸も大きく

なっていくものよ」

 

美摩は、安心させるように、真理亜にそう笑って見せた。

姉である真魅は、自分よりも胸とお尻が大きかったから、真理亜も

母親並の類稀(たぐいまれ)なプロポーションを持つ女性に育つかもしれないわね、

と、漠然とした予感も覚える美摩である。

 

「わたくし、今日は、美摩お姉様と、兎萌ちゃん、おふたりと一緒に

おやすみしたいです………」

 

入浴を済ませたあとに、真理亜が、おずおずと美摩にそう切り出してきた。

 

これに、美摩は、感激に近い喜びで、胸を震わせる。

この屋敷に来て、初めて、真理亜が発したおねだりだったからだ。

 

いつもは大人びた、落ち着いた物腰で、泣き言すらもらさず、

勉強に習い事、訓練に(いそ)しむ姿しか見せなかった真理亜。

その真理亜が、先ほどのお風呂場での質問と同じく、()の、子供らしい一面を

見せだしてくれたような思いがしたのである。

 

「それじゃあ三人で寝ましょうか」

 

にこやかに了承して、美摩は、真理亜と兎萌を、自分の寝室に招き入れた。

そして、ベッドの上で、左から真理亜、兎萌、美摩の配置で、川の字になり、

さあ寝ましょう、となった時、真理亜の目から、涙があふれ出ていることに

気づく。

 

「……っ! 真理亜? どうしたの?」

 

「──────申し訳ありません。こうやって、ふたりとベッドに入ったら、

亡くなったお母様のことを、思い出して、しまって……………………………」

 

真理亜の返答に、美摩は、胸を突かれた。

 

この半年のほとんど、微笑みを絶やさずに暮らしている真理亜の記憶しかない。

だが、そうだ、真理亜はまだ、五歳の幼子(おさなご)なのである。

 

愛する母を(うしな)った悲しみが、半年程度で()えたはずがないのだ。

いずれの〈聖女〉、優れた次期当主よ、と、持て(はや)し、期待してばかりで、

肝心の真理亜の心に、本当の意味で気を回せていなかったことに、

美摩は、今になって、ようやく気づかされる。

 

備え付けのハンドタオルで、真理亜の涙を(ぬぐ)いつつ、

自分の母親としての未熟さを、再度、自覚せざるをえない美摩だった。

 

「おねえさま、なかないで………」

 

兎萌が、泣きながら、真理亜の体にしがみつく。

美摩は、その兎萌ごと、真理亜を包みこむように、抱きしめた。

 

「大丈夫よ。これからはずっと、私たちがいるから」

 

“母親”として、この言葉が正しいのか、わからない。

それでも美摩は、幼い真理亜の悲しみと寂しさを、少しでも晴らしたい一心で、

そう声を掛ける。

 

「………………ありがとうございます、お姉様─────────────」

 

美摩の抱擁を受け、“母親”としての言葉を聞いたあと、真理亜は、

そう微笑を浮かべて、目を閉じた。

─────それからしばらくして、静かな寝息を立てはじめる。

 

真理亜の体にしがみついた兎萌も、眠ってしまったようであった。

ふたりが寝入った様子に、美摩は、密かに安堵(あんど)の息をもらす。

 

まったく、情けないかぎりだ。

退魔法師(たいまほうし)〉の御三家(ごさんけ)真渡園(まどぞの)()当主と言っても、

幼い子供の心にすら、満足に向き合えてない………………。

 

美摩は、反省の念と共に、亡き姉へと、思いを()せる。

………不甲斐(ふがい)ない妹で申し訳ございません、姉様────────────。

 

そうして、腕の中で眠る、ふたりの幼子のぬくもりを感じながら、

ぼやけはじめた意識の中で、これからの指針を、描こうとしていた。

そうだ─────ふたりの子らが、どのような道を行くにせよ、

不安を抱かせることがないよう、可能な限り、ふたりのそばに

いてあげなくては………………………………………………。

 

うとうととしながらも、美摩が、そんな決意を頭に浮かばせた時である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────わたくしが破滅しても…………美摩お姉様───兎萌ちゃん……

───女の子たち………守護(まも)らなくては──────────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眠れる真理亜の口から、そのような言葉が、途切(とぎ)途切(とぎ)れにもれ出た。

 

真理亜の言葉に、心臓をひと突きされたかのような衝撃を受け、

美摩の意識は、はっきりと覚醒させられる。

 

今─────真理亜は、なんと言った!?

〈破滅〉!? 女の子たち!? 『守護(まも)らなくては』!?

 

美摩は、叶穂の報告を思い出していた。

真理亜は、未来において、おのれが恐ろしく強大な〈魔〉と戦う運命にある

ということを“知って”いる──────────────。

 

おお、なんということ……………………!

〈破滅〉─────この幼い子は、自分の命と引き換えに〈魔〉を討つ未来を

知りつつ、叔母(美摩)従妹(兎萌)、他の女子(だれか)を、必ず守ろうと、

心に決めているのだ─────!

 

神がいるのならば、かくも残酷な運命を、

年端(としは)もゆかぬ子供に背負わせるものなのか。

実の母親を(うしな)ったばかりの、こんな幼い子に………!

 

美摩は、真理亜と兎萌、ふたりを(いだ)く腕に、柔らかく力を込め、

さらに深く抱きしめる。

 

いいや、と。

自分のすべてを()けて、この子を〈運命〉から守り抜いてみせる、と。

 

姉が、自分に託してくれたから、という理由だけではない。

この子は、自分に、“娘”を取り戻させてくれた。

 

自分の“心”を、取り戻させてくれたのである。

真理亜は、もはや、もうひとりの、自分の娘、“家族”なのだ。

 

〈運命〉に、この()の命を、奪わせたりはしない──────!

 

かつて、〈運命〉に姉を奪われた美摩は、そう決意を新たにする。

その決意と、胸に抱きしめる真理亜と兎萌のぬくもりが、

半年前には虚ろであった、美摩の胸の空洞を、ゆっくりと満たしていった。

 

その温かな充足感に、美摩は、眠りへと(いざな)われていく。

その眠りは、美摩にとって、久しく感じていなかった、心地よいもの

であった……………………。

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後。

 

美摩は、娘の兎萌から、幼いながら、意を決したような表情で

問いを投げかけられることになる。

 

「───おかあさま。おっ、おねえさまは……ごびょうき、なのですか……?」




視点変え同一シーンはもうちょっと続くんじゃ(・∀・)
次回からは兎萌ちゃん視点でもうちょっと長く……(^ω^;)
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