TS転生☆ドM悪役令嬢は、美事に破滅したい!   作:megajoy

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兎萌ちゃん視点です。
魔性の美幼女に幼女が狂わされていく……(^ω^;)


M二一 真渡園兎萌 ~わたしのおねえさま~

“どうか、幸せになってほしい。自分は、どんなことになってもいいから────”

 

真渡園(まどぞの)兎萌(ともい)は、心に流れ込んできたその願いの声を、

一生、忘れるまい、と誓った。

 

真渡園(まどぞの)真理亜(まりあ)────────兎萌の前に、突然、現れた従姉(いとこ)

紅玉石(ルビー)色の長い髪と、瞳を持った、お姫様のような女の子。

 

初めて出会ったその日に、その時に、その女の子は、命と引き換えに

なるかもしれない代償を払って、自分(兎萌)の苦しみを、

消し去ってくれたのである。

自分(兎萌)に辛く当たっていた母も、その日を(さかい)に、かつての優しさを

取り戻してくれたかのようだった。

 

 

 

 

 

おねえさまは、きっと、わたしをたすけにきてくれた、てんしさま………!

 

 

 

 

 

幼くも見目麗しく、年齢に似合わぬ落ち着いた物腰で、気品のあふれた言動。

勉学と習い事でも、並外れた素養を見せている。

 

真理亜は、まさに、“高貴な令嬢”そのものであった。

兎萌の幼心(おさなごころ)ゆえ、真理亜が“天使”であると、信じこんでしまったのも、

無理はない。

 

真理亜が現れてから、兎萌の世界は、急速に変化していく。

母と、真渡園(まどぞの)の屋敷にいる人間の笑顔が増え、以前に感じていた、

屋敷の中に満ちる重苦しい雰囲気は、もう、ない。

 

真理亜のおかげで、自分(兎萌)も、魔力を使えるようになった。

(ねえ)やの叶夜(かなや)の陰に隠れ、おどおどと、なにかに怯えて

暮らさねばならなかった日々の心的負荷(ストレス)は、もはや、消え失せている。

 

憂鬱で苦痛としか思えなかった勉学と習い事も、真理亜と共にいれば、

少しも(つら)くなかった。

なにかしら苦しいことがあっても、真理亜がそばにいてくれるだけで、頑張れる。

 

─────真理亜は、本当に、何事にも優秀であった。

 

勉学、習い事、魔力操作の訓練。

すべてにおいて、兎萌よりも優れた結果を出し続けている。

 

そんな真理亜に対して、兎萌は、(ねた)みや、悔しさといった、

負の感情を抱くことはない。

逆に、憧れや、尊敬の念が強まるばかりだった。

 

だが、真理亜と共に学んでいて、(かんば)しくない成果しか出せないことについては、

恥ずかしく、真理亜や母には、申し訳なくも思ってしまう。

 

「大丈夫よ、兎萌ちゃん。できないことが続くのは苦しいけれど、

その苦しさが、人間を良くしていくの。そう考えたら、できないことが

多いのは、とても楽しくて、嬉しいことだわ」

 

真理亜は、落ち込む兎萌に、そう励ましの言葉を掛けてきたことがあった。

 

『できないことが多いのは、楽しくて、嬉しい』

幼い子供には、理解しがたい考えである。

 

しかし、この真理亜の言葉は、兎萌の心を、強く揺さぶった。

 

 

 

 

 

おねえさまは、すごい………!

 

 

 

 

 

苦しさが、人間を良くする。

できないことが、楽しくて、嬉しい。

 

兎萌には、思いつきもしない考えであった。

 

〈努力〉というものの本質を、真理亜は、理解している。

兎萌は、そのことを、頭の中で言語化して(とら)えることはできなかったが、

直感でそう悟った。

 

兎萌も、真理亜の精神性に近づけるよう、万事(ばんじ)に対し、今まで以上に、

懸命に向き合い、努力しはじめる。

が、それでも、真理亜のように、優秀な成果を出すことはできない。

 

けれど、兎萌の目と心は、下を向くことはなかった。

兎萌には、目標ができたからである。

 

………………一生、真理亜のそばに居続ける、という目標が。

 

今は、真理亜のようにできなくても、きっと、できるようになるのだ。

できないことが、楽しくて、嬉しい。

 

苦しさが、人間を良くする。

真理亜の言ったとおり、兎萌は、努力するのが苦ではなくなっていた。

 

わずか半年で、自分でも、できることが増えていっているのを、

実感していたからである。

兎萌の目には、世界のすべてが、輝いて見えだしていた。

 

 

 

 

 

そんな、ある日のことである。

 

「もったいないわ────兎萌ちゃんは、可愛らしいお目々(めめ)をしているのだから。

こうやって、おでこが見えるくらい前髪を上げれば、お目々(めめ)がはっきり

見えて、もっと可愛らしくなると思うの」

 

朝食を済ませたあと、いつものごとくリビングで談笑していたら、

真理亜がやおら接近してきて、兎萌の顔を覗きこんでくるではないか。

兎萌が驚いて硬直するのにも構わず、真理亜は、そのまま兎萌の前髪を

両手で()き上げ、さらに顔を覗きこんできた。

 

「やっぱり! とっても可愛らしいわ! ね、叶穂(かなほ)叶夜(かなや)も、

そう思うでしょう?」

 

「はい。真理亜お嬢様のおっしゃる通りかと」

 

「ええ、とても可愛らしゅうございます」

 

そばに控える叶夜と叶穂のメイド姉妹が、真理亜の言葉に微笑ましそうな

顔をして、賛同の意を唱えてくる。

けれども、その声は、兎萌には、聞こえていなかった。

 

 

 

 

 

 

かわいらしい、って、おねえさまがおっしゃってくれた──────!

 

 

 

 

 

「こうやって、カチューシャを着ければ、きっと似合うわ」

 

兎萌の前髪を抑えたまま、真理亜がそう微笑んでくれば、兎萌は、

のぼせたようにひたすらうなずきを返すしかない。

 

「それなら、今日は、みんなでお買い物に行きましょう」

 

「おかあさま!?」

 

どこから話を聞いていたのか、母である美摩が、にこやかに笑って、

リビングにやってくる。

突然の母の登場に、兎萌は、わずかに身体を硬くした。

 

真理亜がやってきてから、母娘(おやこ)関係は劇的に改善されたとはいえ、

長い冷遇期の記憶が、なくなったわけではない。

 

「────兎萌。カチューシャ、欲しいのよね?」

 

「えっ……あっ、は、はい。ほしい……です」

 

美摩の確認の言葉に、兎萌は、慌ててうなずきを返してみせる。

 

「そう。それじゃあ、今日の訓練はお休みにして、お買い物に行くわ。

お外に、みんなでね」

 

母がそう言ってからは、夢のように、とんとん拍子(びょうし)

メイド長の漱祗(すすぎ)に、真理亜と兎萌のそれぞれの(ねえ)や、叶穂と叶夜も

伴って、高級デパートへと、買い物に繰り出した。

 

「カチューシャは、おねえさまがえらんでください!」

 

真理亜が選んでくれたものを、常に身に着けていたい。

そんな想いから、兎萌は、真理亜におねだりをする。

 

そうして真理亜が選んでみせたカチューシャは、黄玉(トパーズ)色の、飾り気のない

一品(ひとしな)であった。

母親である美摩が、手ずから兎萌の髪を()き、そのカチューシャを

兎萌の頭に着ける。

 

「────可愛いわ。うん、とても似合ってる……とっても」

 

「似合っているわ、兎萌ちゃん。本当に可愛いらしくてよ」

 

母と真理亜から褒められ、兎萌は喜びの絶頂だ。

そして、にわかに、兎萌の胸の内で、強い願望が沸き起こる。

 

今度は、自分の選んだカチューシャを、真理亜に身に着けてもらいたい、

という願望が。

 

「おねえさまは、カチューシャ、かわないのですか?」

 

おのれの幼い願望を隠して、兎萌は、そう尋ねてみた。

 

「そうね……私には、どれが似合うかしら。兎萌ちゃん、選んでくれる?」

 

兎萌はその言葉に、目を輝かせて、並べられた商品すべてに、目を走らせる。

それからすぐに、これしかない、と思う一品(ひとしな)を、手に取ってみせた。

 

「おねえさまには、これがにあうとおもいます!」

 

それは、金色の、意匠の()ったカチューシャ。

天使のようで、お姫様のようでもある真理亜には、この(ティアラ)のような

カチューシャがふさわしい。

 

兎萌は、純粋に、そう思ったのである。

 

「……どうかしら。兎萌ちゃん、似合ってる?」

 

兎萌の時と同じく、美摩に髪を梳かれ、カチューシャを着けた真理亜が、

兎萌に顔を向けてきた。

 

一瞬、兎萌は、息を呑む。

その真理亜の姿が、兎萌の思い描いたとおり、おとぎ話から抜け出てきた

お姫様のように見えたからだった。

 

「────! にあってます! おきれいです! おねえさま!」

 

すぐさま、兎萌は、真理亜に答えを返す。

心からの言葉であった。

 

「ええ。とても綺麗よ、真理亜」

 

「大変お似合いございます、真理亜お嬢様」

 

美摩と叶穂も、揃って真理亜を褒めてくる。

こちらも子供を甘やかす戯言(ざれごと)ではなく、本気で真理亜の美しさを

賛辞(さんじ)していた。

 

みなの言葉に、真理亜は、照れたように、だが、

喜びにあふれた笑顔を浮かべる。

その笑顔を引き出したのが、自分の選んだカチューシャだと思うと、

兎萌は、誇らしいような気持になった。

 

 

 

 

 

おねえさま、だいすき! ずっといっしょにいたい………………!

 

 

 

 

 

兎萌の中で、真理亜は、本当の姉以上の存在になっていく。

その感情は、溺愛(できあい)と言っていいほどの高まりで、ともすれば、

真理亜への依存となりかねない危ういものであった。

 

姉やである叶夜が、兎萌の、真理亜に対する思慕(しぼ)の強さに、いち早く

気づいたが、それを当主である美摩に指摘したものかどうか、

判断に迷う。

真理亜が現れる半年前まで、心を閉ざし、外界(がいかい)のすべてに(おび)えていた

兎萌の姿を、誰よりも知っているからであった。

 

真理亜と共にいる兎萌は、本当に幸せそうに笑う。

その有り(よう)こそ、幼子(おさなご)として健全な姿であろう、と、

真理亜と兎萌の間に水を差すような提言をするのは、叶夜には

ためらわれた。

 

「おねえさま。ともいは、おねえさまといっしょにおふろにはいりたいです!

 それできょうは、おねえさまのベッドで、いっしょにおやすみしたいです!」

 

家族で買い物に出掛けた、数日後、夕食のあと。

叶夜のためらいをよそに、兎萌が、真理亜にべったりと抱きつき、

そのように甘えだしてしまう。

 

専属メイドの叶夜は、その様子を微笑ましく思いながらも、困ってしまった。

兎萌の真理亜への甘えぶりは、やはり、度が過ぎているように見える。

 

やんわりと(たしな)めたほうがよいだろうか。

叶夜が、そう思案しだした時であった。

 

「あら、いいわね。それなら、今夜は私も一緒にお風呂に入ろうかしら」

 

どこから話を聞いていたのか、美摩が笑顔で、兎萌のおねだりに

乗っかってきたのではないか。

叶夜は、(つと)めて、驚きを顔に出さぬようにする。

 

────美摩の性格なら、兎萌の甘えた言動を、容赦なく叱り飛ばすに違いない。

そんな叶夜の予想が、大きく外れたからだ。

 

さらに事態は、思わぬ展開を見せる。

真渡園(まどぞの)母娘(おやこ)と真理亜だけでなく、漱祗と叶夜、叶穂の、囲碁留(いごどめ)母娘(おやこ)も、

一緒に入浴する運びとなったのだ。

 

母と、大好きな従姉(あね)と、一緒にお風呂に入る。

従姉(あね)と一緒というだけで嬉しいのに、母親までの参加は、

兎萌の心を踊らせるのには充分であった。

 

いつもは叶夜とふたりだけでの入浴が、今夜は、まるでパーティのよう。

 

一緒に広い湯舟(ゆぶね)()かっていると、従姉(あね)は、自分の胸が、

母や漱祗らのように大きくなるか、不安そうに()いていた。

これに対する母の返答は、成長するにつれちゃんと大きくなるから大丈夫、

というもの。

 

ふたりの問答を横で聞いていて、兎萌は考える。

従姉(あね)は、ひょっとして、胸の大きい女の子が好きなのだろうか、と。

 

「おねえさま! ともいも、きっとおむねのおおきいおんなのこになります!」

 

知らず兎萌は、ふんすと息を荒くして、そんなことを口走ってしまっていた。

真理亜はそれに少し目を丸くしたあと、口元をほころばせる。

 

「そうね。一緒に大きくなりましょうね、兎萌ちゃん」

 

「はい!」

 

幼女ふたりのやりとりに、(なご)やかな笑いで包まれる浴場。

それから入浴を済ませたあと、真理亜が、美摩へ、控えめに切り出してきた。

 

「わたくし、今日は、美摩お姉様と、兎萌ちゃん、おふたりと一緒に

おやすみしたいです………」

 

この真理亜の願いを聞いて、美摩は、いたく喜んだ様子である。

 

「それじゃあ三人で寝ましょうか」

 

そう笑顔で快諾(かいだく)され、兎萌は、真理亜と共に、母の寝室へと(いざな)われた。

 

家族一緒でお風呂に入り、そのまま一緒に眠りつく。

 

一般家庭の母娘(おやこ)ならば、なんということもない、ありふれたこと。

だが、それは、兎萌にとって、半年前では考えられぬ、幸せな出来事であった。

 

一日の終わりを、こんな幸せな形で締めくくれることに、

兎萌の心は、歓喜一色で満ちあふれる。

ベッドの真ん中に兎萌が身を落ち着かせると、その右手側に真理亜、

左手側に美摩が体を横たえてきた。

 

大好きな従姉(あね)と、今は優しさを取り戻した母に挟まれる形での就寝(しゅうしん)

兎萌は、夢までも、素敵なものを見れるのではないかと思えるほど、

幸せな気持ちに満たされる。

 

けれども──────────────────。

 

「……っ! 真理亜? どうしたの?」

 

先に真理亜の異変に気付いたのは、母、美摩であった。

その母の声音に、不穏な気配を感じたあと、兎萌も、ようやく気づく。

 

真理亜の目から、涙があふれ、流れ落ちているではないか………!

 

「──────申し訳ありません。こうやって、ふたりとベッドに入ったら、

亡くなったお母様のことを、思い出して、しまって……………………………」

 

真理亜の言葉に、兎萌は、頭を殴られたような衝撃を受けた。

 

なんということだろう。

真理亜が、この屋敷にやってきたのは、実母を(うしな)ったから。

 

兎萌は、そのことを、頭の中で忘れかけていた。

その事実が罪悪感となって、幼い兎萌の心を、大きく揺さぶる。

 

いつも熱心に学び、習い事と訓練に励む従姉(あね)

いつも微笑を浮かべ、自分を気にかけてくれる従姉(あね)

 

この半年、いつも従姉(あね)のそばにいたというのに────────────

自分は、従姉(あね)が悲しみを抱えたままでいることに、まったく気づけなかった。

 

「おねえさま、なかないで………」

 

幼い兎萌は、真理亜に掛ける言葉を、他に思いつくことができない。

ただ、従姉(あね)の悲しみを減らしたいと願う一心で、その体にしがみつく。

 

「大丈夫よ。これからはずっと、私たちがいるから」

 

美摩は、そんな兎萌と一緒に、真理亜を優しく抱きしめた。

 

「………………ありがとうございます、お姉様─────────────」

 

美摩に感謝の言葉を返したあと、しばらくして、真理亜は安らかな寝息を

立てはじめる。

 

よかった、従姉(あね)が、泣きやんでくれた。

真理亜にしがみついていた兎萌はそう安心し、自身も、うつらうつらと、

微睡(まどろ)みはじめる。

 

しかし、兎萌は、おぼろげになりだしたその意識でも、真理亜の口から

もれ出た言葉を、はっきりと耳にしてしまった。

 

「─────わたくしが破滅しても…………美摩お姉様───兎萌ちゃん……

───女の子たち………守護(まも)らなくては──────────」




純粋な幼女が曇ってしまう……。
ココロが痛いぜ……。(←白々しくに)
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