決して不幸なんかではない私が街角で拾った生意気な女の子は、魔法が封じられた大魔女様でした。   作:血肉で咲いた百合の花

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第11話

 魔法で針子仕事をするようになって、劇的に効率は改善された。

 ただ、幾つか問題は残っている。

 そもそもの作業速度と、作業量。そして質が明らかに以前と変わってしまったことだ。

 つまり、エーチカさんには隠すことはできない。

 

「……なるほどねぇ」

 

 私が魔女になったという話を受けて、エーチカさんは最初深く考え込んでいた様子だった。

 数十秒――ひょっとしたら数分経っていたかもしれない――経って、呟かれた一言がこれだ。

 その後、再びだまり込んでしまった。

 

 気まずい時間が流れる。

 私たちの間には、魔法で縫った古着たちと、一着だけ明らかに気配が違う衣服が一つ、机の上に置いてある。

 エリちゃん曰く、魔法的な加護が宿ってしまった服だ。

 

 エーチカさんは古着の出来をチェックしたり、加護が付与された服を眺めたりしている。

 

「ミスミが、魔女様、ねぇ」

 

 ぽつり、と漏らした。

 この雰囲気は、まずいかもしれない。

 

「あ、あの」

「ん、なんだい?」

「私、ここで仕事続けられますか……?」

 

 今、何とか生活できているのはエーチカさんのおかげだ。

 魔法を使って作業をしたということで、怒られるのかも。

 楽するべきではなく、自分の手でやらなかったことに怒っている。いや呆れているのかもしれない。

 

 事実、大きなため息を吐かれた。

 

「――正直なところ言うと、難しいね」

「そんなっ!?」

 

 ここで働けなくなったら、働ける当ては他にはない。

 今から必死に探して、何とかなるだろうか。

 エリちゃんの分を賄えるだけの貯蓄はあっただろうか。あるはずもない。

 

 慌てて色々な計算をしていると、お叱りの声が降ってきた。

 

「早とちりするんじゃないよ。うちではこれの分の賃金を払いきれない、って意味だよ」

 

 エーチカさんはそう言いながら、積まれた服の山を指差す。

 特にこれ、と言いながら加護が付与された服を困ってそうに扱っている。

 

「うちはただの古着屋。それもあまり裕福でない層へ向けた店だ。質が良すぎると困るんだよ」

「なら結局は――」

「早とちりするなって言ったばかりだよ。ミスミ」

 

 ずいと指先を鼻先へ近づけられる。

 私は反射的に、少しのけぞる。

 その様子を見て、エーチカさんは口元を緩めた。

 

「うちでは雇えない。ただ、別の店を紹介することはできる」

「それって……」

「ああ。魔女様でも雇えるような賃金を出せる、うちより上等な店さ」

 

 おめでとう。栄転だよ。

 そう、エーチカさんは笑いながら言ってくれた。

 

「暮らしも大分マシになるだろうさ。何せ、客層ががらりと変わるんだからね」

「で、でも――」

「うぬぼれるんじゃないよ」

 

 それだと、この店の針子が減るんじゃ。

 エーチカさんの負担が増えるんじゃないか。そう言おうとして、言葉を被せられた。

 

「あんたが来る前から、この店は回してるんだ。あんた一人が抜けたところで致命傷にならないさ」

「……でも」

「ギルドでの互助会だってあるんだ。むしろ、紹介料で幾らか儲かるかもしれんね」

 

 だから、心配するなと。

 エーチカさんは私の頭を優しく撫でる。

 

「それより、あんたが魔女だってことは、今後は細心の注意を払いなよ」

「それは、どうしてですか?」

「カテリーナの連中だよ。あいつらが、あんたに執着してるのは知ってるだろう」

 

 言われて、そこにようやく意識が及んだ。

 もしも私が魔女だとバレれば、そしてエリちゃんが魔法の知識があるとバレれば。

 カテリーナさんたちがどう出てくるかわからない。

 それこそ、酷いことに利用されるかもしれない。借金があることを盾にして。

 

「カテリーナにバレる前にさっさと借金返しちまいな。それができるぐらいの店に紹介するさ」

「……本当に、ありがとうございます」

 

 私は深々と頭を下げる。

 もう、お礼を言う事しかできない。

 何から何までお世話になりっぱなしだ。

 

「……私からすれば、あんたも私の娘みたいなもんだよ」

「それでも、やっぱり、ありがとうございます」

「寂しくなるね。たまには顔を出すぐらいはしておくれよ」

「はい、もちろんです」

 

 エーチカさんは、雇い主でなくなっても私にとって大切な人だ。

 どれだけ良くしてもらったことか。

 どれだけの恩があるか。

 数え切れるはずもない。

 

「ミスミ。これまでよく負けずに頑張ってきたね」

「……はい」

「ここから先も頑張り時だよ。それを抜ければ、きっとよくなるさ」

「……はい」

 

 目からは自然と涙がこぼれ落ちてくる。

 ぽろぽろと零れ落ちる雫は、意識してもなかなか止められない。

 ありゃりゃ、こんなんじゃ、エリちゃんの事泣き虫だなんてからかえないな……。

 

「しばらくは忙しくてあえなくなるかもしれないが、ミスミ、元気にやっていくんだよ」

「はい。本当に、本当にありがとうございました」

「裕福になって、幸せになって、元気な姿をまた見せてくれることを祈っているよ」

 

 今生の別れというわけでもないのに、悲しくて仕方がない。

 嬉しいはずなのに、喜ばしいはずなのに。

 どうしてだろう?

 

「さあ、今からギルドへ行こう。信頼できる相手を通して、あんたの新しい働き先に挨拶に行かないとね」

「……はい」

「泣きすぎて美人が台無しだよ。まったく。そんな顔じゃあ、雇われるもんも雇われないさ」

 

 いいながら、私の涙をぬぐってくれる。

 エーチカさん。

 私は本当に感謝してるんです。

 

 一人だった私を見捨てないでくれた人。

 生きていくための糧を教えてくれた人。

 お母さんのように面倒を見てくれた人。

 

 あなたがいなければ、私は今頃死んでたかもしれない。

 お母さんと同じように。

 

「おめでとう。頑張りが報われる時が来たのさ」

「――はいっ」

 

 その後、私たちは服飾ギルドへ行き。

 無事に、私は新しい店との契約が決まった。

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