決して不幸なんかではない私が街角で拾った生意気な女の子は、魔法が封じられた大魔女様でした。   作:血肉で咲いた百合の花

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第12話

 ◇ ◇ ◇

 

「最近、随分とミスミは羽振りが良いそうだねぇ」

「へ、へぇ」

 

 たく、これだから怠け者共は。

 言外に、お前らの締め付けが緩いんじゃないかい? なんて言ってやってもピクリともしない。

 このカテリーナ様を舐めているとしか思えないね。

 

 とはいえ、短気では組織のボスは務まらない。

 支配に必要なのは、恐怖と利益さね。

 この人について行けば利益がある、この人に逆らうと恐ろしい。

 この二つで縛ることこそが、人を従えるということなのさ。

 

「私の可愛いミスミに何があったんだろうねぇ」

「へ、へぇ。調べやす」

 

 何も知らないときた。

 無能もここまでくれば愛嬌になるんだから不思議なもんだよ。

 

「さっさとしな。このまま借金を返し切られたりしたら、お前らただじゃおかないからね」

「へ、へい!」

 

 発破をかけてようやく無能共は動き出す。

 まったく、本当に使えない連中だこと。

 人手不足は深刻だねぇ。

 

 その点、ミスミさえ手に入ればいろいろなことが解決する。

 あの子は才能に溢れている子だよ。一目見ればわかる。

 逆に、あの赤髪の娘は駄目だね。プライドばかりが高く、他人を使う事を知らない。

 

「……ただ、ミスミが変わったのはあの娘を招き入れてから」

 

 となると、私の見る目に間違いがあったと?

 そんなはずはない。私の人を見る目はいつだって正しい。

 それなら、私の知らない何かがあったってことなんだろうね。

 それこそ、魔法のような何かが。

 

「――はっ。馬鹿馬鹿しい」

 

 魔女ってのは、特別な生き物さ。

 魔力なんていう通常の人にとっては毒にもなるものを、まるで呼吸するかのように操って、奇怪な現象を巻き起こす。

 私はかつて、大魔女を見たことがある。

 

 山賊の一部隊を率いていた私を見て、あいつは――大あくびしやがった。

 しかも、私以外の連中を壊滅させた後でね。

 挙句の果てに言い放った一言が許せたものじゃない。

 

『寝起きの暇つぶしにはなったかな』

 

 寝起きの暇つぶし? 寝起きの暇つぶしだって!?

 私らだって生きてくための稼業だってのに、それを潰すのが暇つぶし。

 魔女ってのは傲慢で、理不尽で、人外だ。

 あれらを人の尺度で計ろうって方がおかしい。

 

 だから、大魔女を名乗っていたってことであの娘を見に行ったんだ。

 とんだ杞憂だったみたいだけれどね。あの娘からは大魔女としての威厳も、迫力も感じなかった。

 ただの泣きわめくだけの小娘さ。

 私の計画を狂わせるほどの人物には到底見えなかったね。

 

「ミスミは金の原石さ。あいつらにはわからんだろうけれどね」

 

 あの年であの勤勉さ、あの見た目の良さ。

 幾らでも使い道が思い浮かぶね。

 女ってのが何よりもいい。汚らしい男と違って、若く美しい。

 美しいものは大好きさ。

 

 そして、金があれば大抵の美しいものは手に入る。

 

「ミスミを手に入れたらどうしようかねぇ。やっぱり高級娼婦にでも仕立て上げようか」

 

 作法を叩きこめばそれだって可能だろうさ。

 何せ、そのために目をつけていた面もあるのだから。

 父親に多額の借金を負わせたのも、最初っからミスミ目的さ。

 

「もったいないけれど、私用の愛玩ペットにしたっていい」

 

 きっと反抗的な目で睨みつけてくるんだろうね。

 それを、丁寧に丁寧にしつけていくんだ。楽しみが止まらないね。

 

 ああ、本当に。

 ミスミの母親が体調を崩した原因も私にあるって知ったら、どんな憎悪の視線を向けてくれるだろうか。

 それでも逆らえないっていうのが、最高にそそるね。

 

 ああ、本当に一日でも早くあの子を手に入れたいよ。

 本当なら借金で少しずつ押しつぶして、心身ともに疲れ切ったところに手を差し伸べるつもりだったんだけどねぇ。

 

「……あの小娘、殺すか?」

 

 ミスミが元気を取り戻したのは、あの赤髪の小娘が原因だろうさね。

 私の見る目が狂ってるとは思わないけれど、ミスミがあの子を守るために強くなろうとしている可能性はある。

 あの子はそういう素養がある子だ。

 自分以外のために力を発揮するタイプの子。

 

「いや、殺して下手に疑惑を生むのは良くない」

 

 それに、どこから来たのかもわからない子だ。

 不気味な子だよ。見た目は貴族の子女だってのに、情報が欠片も出てこない。

 まるで、どこかの誰かが完全に隠匿しているかのように。

 

 私の直感はいつだって正しい。

 あの娘に直接手を出すのは、隠れ住んでいる竜の寝床を荒らすようなものだ。

 

「なら、やっぱりミスミ本人に圧をかけないとね」

 

 希望を見せるために色々を見逃して上げてたけれども。

 そろそろ、私たちの恐ろしさを思い出してもらおうか。

 そういえば、なんて言ったか、母親代わりをしていた奴がいたねぇ。

 名前を……エーチカと言ったか。

 

「あいつが怪我すれば、ミスミはどんな表情を見せてくれるだろうかねぇ」

 

 怒り? 悲しみ? それとも、憎しみ?

 どれだっていい。楽しみで楽しみで仕方がない。

 感情は鮮度が大事だからね。

 

「待ってておくれよ、愛しのミスミ。とびっきりのプレゼントを用意してあげるさ」

 

 幸せだなんて、お前には似合わない。

 どれだけ手を回しても、不幸がお似合いなんだよ。

 可哀そうなミスミ。不幸なミスミ。

 私は、そんなお前が愛おしくてたまらないよ。

 

「姉御、姉御!」

「なんだ、騒々しいね」

「ミスミが高級志向の店の針子に移ったことが、ギルドの奴らからわかりました!」

 

 なんだって?

 ミスミの針子の腕は決して悪くはないが、一流と呼ぶには程遠いはずさね。

 道具も古典的。作業量も手作業だから大したことがない。古着屋でも精一杯だったはずだよ。

 だとしたら、一体何が起きた?

 

「……これは、知ってそうな人間にじっくりと話を聞く必要がありそうだねぇ」

 

 ちょうどいい。

 エーチカという女に、じっくりと話を聞いてみようじゃないか。

 一体どんな魔法を使って、ミスミを栄転させたのか、ね。

 

「お前ら準備しな! 出るよ!」

「へい!」

「しばらく店じまいさせてやろうじゃあないか」

 

 私の邪魔をするものは、全てなぎ倒す。

 それでこそ、力があるって証明になるのだからね。

 力、力だよ。

 力こそがこの世で最も尊ばれるべきものさ。

 

 だから私は――この組織のトップに居座れているわけ。

 私が、最も賢く、美しく、強いからこそ。

 この、魔道具さえあれば、衛兵にだって負けやしない。

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