決して不幸なんかではない私が街角で拾った生意気な女の子は、魔法が封じられた大魔女様でした。   作:血肉で咲いた百合の花

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第13話

 ◇ ◇ ◇

 

 生活は、本当に格段に良くなった。

 エーチカさんが紹介してくれたお店の人は本当に良くしてくれた。

 店を出入りするための服だとかエチケットが書かれた本だとかを貸し出してくれて、大助かりだ。

 

 そこら辺のエチケットに関しては、エリちゃんが詳しかったのにびっくりしたけれど。

 やっぱり、貴族のお嬢さんなのかなぁ。

 一体いつになったら……迎えが来ちゃうんだろうね。

 

「ふんふんふ~ん」

「ご機嫌だね。エリちゃん」

 

 鼻歌なんて歌って。

 随分とご機嫌な様子。

 ここ最近で一番ご機嫌かな? いや、私が魔法を使えるようになったときの方がご機嫌だったかも。

 

「だって! 見なさいよこの食卓を!」

 

 エリちゃんが指差す先には、これまででは考えられない程豪華な食事が置いてある。

 ふかふかの白パンを代表に、ジャムまで。スープは具が入っていて、乾燥ではないお肉も入ってる。

 これまでのカチコチ黒パン質素スープを考えれば凄い発展具合だ。

 

「毎日これってわけにはいかないけれどね」

「それでも、前よりかは良くなるんでしょ?」

「うん」

 

 育ち具合のエリちゃんにあの食事はあんまりよくないかな。

 と思って、手に入れたお金は食事につぎ込むことにしたのだ。

 

 今回、エーチカさんから紹介してくれた人からは固定契約を貰えたので、見事に安定収入を手に入れられたわけだ。

 ……思った以上に高級志向なお店だったから、お金も相応にもらえた。

 ただ、荷が重いなぁとは思ったけれど。

 

 因みに、多額のお金を貰えたのは、あの加護付きの服を売り払ったお金もあるからだ。

 見た目は質素だとしても、ああいうのには付加価値があるのだとか。

 商人ぐらいでも買える値段で、かつそれなりに高く売れるらしい。

 

 そもそも、魔女がそんな裁縫仕事やることがないから希少みたいなのもあるみたい。

 まあ、魔女学院通ってまでそんな下仕事すること少ないよね……。

 錬金術とかそういう学問系に進む人が多いみたいだし。

 新しい雇い主の店主さんが言ってた。

 

「まあ、私の新しい雇われ先のお祝いってことで」

「つまり、私のおかげってわけね!」

「あはは、そうだね。エカテリーチェ様のおかげだよ」

 

 ふふん、と鼻高々にふんぞり返る様は、本当に愛嬌がある。

 拍手を送ってあげれば、今にも鼻が伸びていきそうなほど偉そうになる。

 可愛いなぁ。

 

「それじゃあ、食べましょ。冷めたらもったいないわ!」

「そうだね」

「美味しいものは美味しいうちに頂くべきよ! そうするべきよ!」

 

 エリちゃんは久しぶりの白パンに感動してかぶりついている。

 そして、感動のあまり涙まで見せているのだから、こちらも嬉しくなる。

 

「そうよ、パンと言えばこうなのよ!」

「美味しい?」

「今まで美味しいと思ったことはなかったけれど、不思議と今は美味しく感じるわ」

 

 それは、苦労した後の食事は美味しいみたいなものなのだろうか。

 まあ、喜んでくれているのなら何より。

 

「それじゃあ、私も頂こうかな。……あら、美味しい」

 

 これまで硬くて苦い黒パンしか食べたことなかったからだろうか。

 白パンが凄く甘く感じる。ふんわりと香ばしく口の中を包み込む甘味は、本当に別の食べ物のようだ。

 いや、別の食べ物なんだけれど。

 エリちゃんが最初黒パンをパンだと認めてくれなかった理由もわかるかも。

 食べてみれば、全くの別物だと分かる。

 

「美味しい、美味しいわ」

「少なくとも、パンは白パンを毎日買えるぐらいのお金はもらえてるからね」

「ああ、さようなら煉瓦パン。もう顔も見たくないわ」

 

 黒パンに顔はないよ。なんて笑いながら思う。

 エリちゃんが目の前の御馳走にかぶりつくさまは、見ていて元気になる。

 そうだよね、若いんだから、もっと食べないと。

 ……エーチカさんが私にご飯を恵んでくれた時にも、こんな気持ちだったのかなぁ。

 

「そんなに急いで食べなくても、食べ物は逃げないよ」

「いいえ、甘いわミスミ。美味しさは逃げていくのよ!」

「だからってそんなに焦って食べたら……」

 

 あっ、言わんこっちゃない。

 喉に詰まらせたのか、せき込むエリちゃん。

 立ち上がって、背中を叩いてあげる。

 喉のつまりは解消されたけれど、涙目になって恨めしそうにご飯を見始めた。

 

「このエカテリーチェ様に歯向かうだなんて……無礼な食事ね!」

「はいはい。言っても従わないから、落ち着いて食べようね」

 

 言いながら、私も食事を進めていく。

 ――本当に、少し前まではこんな食事ができるようになるだなんて思ってなかったなぁ。

 全部、エリちゃんのとの出会いがあったからだ。

 

 本当に、どこから来た子なんだろう?

 少しだけ調べてみようかな。

 魔女学院の子だと思うんだけれど……フレディーネ様について詳しそうだし。

 

 なんて考えていたら、家の戸が叩かれた。

 誰だろう?

 まさかカテリーナさんたち? いや、あの人たちならノックなんてしない。

 

「はーい、今出ます」

 

 いいながら、戸を開ける。

 

「……良かった、心配になって見に来たけれど、無事だったかい」

「エーチカさん!?」

 

 開けた先に立っていたのはエーチカさん。

 ただし、傷を負っている。

 

「どうしたんですかその怪我!」

「なあに、ちとあいつらに絡まれただけさ。衛兵が見てたから、すぐに何とかなったけれどね」

「と、とにかく中に入ってください。手当します!」

 

 そこまで深い傷ではなさそうだけれど、服が破れて出血している。

 手当をしないと。

 

「そんなに慌てなくても、ナイフが掠った程度だよ」

「掠った程度って! 実害加えられてるじゃないですか!」

 

 これまでは脅しこそすれ、実害を加えてくるようなことはなかったのに。

 急に方針転換してきた?

 なら、その基準は一体……。

 あっ。

 

「もしかして、私に店を紹介したからですか?」

「……」

 

 エーチカさんは黙ったまま。

 やっぱりそうだ。

 私が働く場所のグレードが上がって、借金を返せる可能性が上がったから。

 それで、紹介したエーチカさんが襲われたんだ。

 

「そんな、エーチカさんの身を危険にしてまで借金を――」

「それ以上は言うんじゃないよ!」

「――っ!?」

 

 鋭い一言。

 私だけでなく、こちらの様子を伺っていたエリちゃんも驚くほどに。

 

「私はね、わかってて紹介したんだ。その判断を、後悔させるような真似だけはしないでほしいね」

「じゃあ、元から……」

「圧力自体はかかってたさ。しかしなんだい、所詮は裏の連中、表じゃ公に動けないのさ」

 

 だからこの程度で済んだのだという。

 

「……とにかく、手当しますね」

「ありがとう。ごめんよ、無事だったか確かめに来ただけなのに」

「いいえ。ありがとうございます」

 

 今回は脅しとして襲われたとエーチカさんは分析する。

 最初っから殺す気はなかったと。

 ただ、店の方は荒らされているだろうね、とも。

 

 カテリーナさんたちがこんなことをしてくるだなんて。

 私は……今後どう立ち振る舞うべきなのだろうか?

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