決して不幸なんかではない私が街角で拾った生意気な女の子は、魔法が封じられた大魔女様でした。 作:血肉で咲いた百合の花
魔女学院に入学するにあたって、幾つかの問題がある。
まず、魔女学院はこの町にはない。
なので、別の町へ移動しなければならない。
けれども、町から出るためには借金を何とかしなければならない。
二律背反状態だ。
「これは手紙を出せばいいわ。エカテリーチェ様の名前を出せば、無視できないはずよ」
「お金は……一応出せる分は用意できるね」
都市間の手紙輸送はそれなりのお金が必要だけれど、この問題は最近解決した。
だとしたら、次の問題だ。
「カテリーナさんが多分黙ってない、ってところだよね」
「それは間違いないわね」
もしも私が町の外に手紙を出そうものなら、何としてもその中身を確認しようとするはず。
だって、私に町の外の知り合いなんていないから。
いるとすれば、行方知れずのお父さん。
事情を知っているカテリーナさんからすれば、奇妙すぎる行動だ。
「どうやって目をかいくぐるか……」
正直、不可能だと思う。
なら、次はバレてもいい方法を考えるべきだ。
「エリちゃんの私信に偽装するのは?」
「うーん、私からの手紙だなんてあの変態は受け取らなさそうだけれど。魔法が使えない今、魔法的な暗号も使えないし」
魔女間でのみ通じる暗号があるらしいけれど、それは魔法を使わないといけないらしい。
代わりに私が使うのは? って提案したけれど、秘密保持の関係上一定の権利がないと教えちゃ駄目だとか。
エリちゃんって、意外とこういうところしっかりしてるよね。
魔法の事だけは、何というか、こう。
本気で好きなんだなって伝わってくる。
「でも、私が出すって言うのは選択肢としてありだと思うわ!」
「お金の使い方とかはわかる?」
「……流石に馬鹿にし過ぎよ!」
ちょっと間があったけれど、大丈夫かな。
因みに、教えたから何とかなっているけれど、エリちゃんは最初はお金の概念も詳しく知らなかった。
というよりも、これまで必要なものは全て魔法で作り出すか、他人に任せてたらしくて。
お嬢様だなぁ。という感想を抱いたのだけれど。
……最近になって、というか魔法を使えるようになって。
ひょっとすると、エリちゃんは本当に大魔女様なんじゃないかなって思う時が増えてきた。
魔法に対する理解度というか、何というか。
とにかく、知識量が凄いんだよね。こんな年齢なのに。
ただの学生がこんなに知識豊富なのかな? って思う。
それとも魔女学院の教育水準が凄い高いのかな。
だとすれば……ううん、考えないようにしようっと。
まだ入学すると決まったわけでもないのに、その後の心配をするのは気が早すぎるよね。
「それじゃあ、私がフレディーネに手紙を出すわ。とりあえず、私から話があるって手紙が来れば何かしらのリアクションはとるはずよ」
「わかった。任せるね」
「一緒だと疑われるかしら」
「うーん。エリちゃんが単独で町に出たこともないから、不思議がられるかもしれない」
結局のところ、リスクを完全にゼロにすることはできなさそうだ。
何をしてもこうされれば、もしこうならという択が出てきてしまう。
それなら、一番リスクが低い択を取るべきだ。
「一緒に行こう。エリちゃんだけが向かって、襲われるのが一番怖いから」
「ふ、ふん! 私は大魔女エカテリーチェ様よ。刺客なんて怖くないわ!」
エリちゃんは相変わらず強気だ。
でも、今は魔法も使えない、ただの女の子。本当に強がりでしかない。
「私が怖いんだよ。エリちゃんが怪我をするのが」
「……なら、せいぜいしっかり見張ってなさい!」
私の返しの言葉に照れてしまったのか、頬を赤くしてそっぽを向いてしまう。
その姿もまた可愛くて。つい笑ってしまう。
そうして、どうして笑うのかと怒られるのだ。
「――それじゃあ、出発しようか」
「そうね。紙は向こうで買えるかしら」
「うん、その手の代物は揃ってたはずだよ」
代筆人もいるぐらいだ。郵送屋には手紙を出すのに必要な要素は全て揃っている。
なら、用意するのはお金だけだ。
「お金はエリちゃんが持って」
「え、いいの?」
「うん。エリちゃんがお手紙を出してくれるんだから」
言いながら、計算して代筆してもらってもいいように少し多めにお金を渡す。
これなら、何かがあってもお金が足りなくて困ることはないはずだよね。
郵送屋までの道のりはそれなりにあるから、エリちゃんが歩き疲れないかだけが心配だ。
「それじゃあ、行こうか」
「そうね。このエカテリーチェ様についてきなさい!」
「ふふふ。はいはい。お気に召すままに」
エリちゃんはどこか楽しそうだ。
お金を任されたのが嬉しいのかもしれない。
そういう年相応な面を見ると嬉しくなる。
道中、エリちゃんはご機嫌だったけれど、私は周囲を注意しながら郵送局へ向かっていた。
ただ、私の心配は全て杞憂だとでも言わんばかりに、道中は何もない。
カテリーナさんが私たちの動向を把握してないはずがないと思うんだけれど……。
「ミスミ、どうしたの?」
「ううん? 久しぶりだから、道がこっちであってるかなって思ってただけだよ」
「ちょっと!? そこはちゃんとしてよね!」
ごめんごめんと笑いながら誤魔化して。
杞憂ならそれでもいいのだと自分に言い聞かせた。
そうして、郵送屋で無事に手紙の執筆と、郵送の手はずを整えて。
お金の支払いも終わり、契約も締結した。
本当に、すんなりと。
店から出て、ようやく終わったんだって実感するぐらいには。
本当に、現実味がないぐらいすんなりことが進んでいた。
「ミスミ、ぼーっとしてどうしたのよ」
「ううん。これで、終わったんだなって少し思っただけ」
何かが起こると気を張っていたから、何も起こらなくて気が抜けてる。
後は返るだけ。そして、家で結果を待つだけだ。
「ううん。何も起こらなくてよかった」
そうして、帰り道もエリちゃんと手を繋いで帰ろうと思って、手を差し出し――。
「あっ――」
「ミスミっ!」
その手は離れて、私の体は一瞬で宙に浮く。
そして、硬い地面に背中が叩きつけられて。
目の前に現れた扉は、静かに閉じる。
揺れている。ここは?
「随分と強気じゃないか」
「……カテリーナさん」
「流石にここまでのおいたは許せないねぇ」
理解した。
ここは馬車の中。
私は、カテリーナさんに誘拐された。