決して不幸なんかではない私が街角で拾った生意気な女の子は、魔法が封じられた大魔女様でした。 作:血肉で咲いた百合の花
「エリちゃん、魔法で死人を蘇らせたりってできる?」
エーチカさんのところから戻ってきて、エリちゃんにさっそく聞いてみる。
「無理ね。魂についてが未だ解明できてないもの」
少しだけ考える素振りを見せて、それでも彼女は強い語気で断言した。
無理、だとは思っていたけれど。やっぱり無理なんだ。
だって、魔法で死者を蘇らせられるのなら、偉い人達はもっと長生きしているはずだ。
なのにそうじゃないってことは、そういうことなのだ。
「そうだよね。うん。答えてくれてありがとう」
「わかりきってるのに聞くだなんて、どうかしたの?」
「ううん。少し気になっただけだから、気にしないで」
誤魔化すように笑って話を終わらせる。
お母さんの遺言の真意を知りたい。
そのための手段として、蘇りがすぐに思いついただけ。
「話してみなさいよ。死人を蘇らせたりはできないけれど、似たようなことなら、可能かもしれないでしょ?」
――エリちゃんは、話を終わらせてはくれなかった。
彼女は至極真面目な表情だ。
冗談めかした笑いを見透かしたようで、真っすぐな瞳でこちらを見つめてくる。
少しだけ、ばつが悪い。
「……お母さんの遺言が、気になってて。あんなことを言う人じゃなかったなって」
「それについて聞きたいから、蘇らせたいってこと?」
「そうだね。うん、そういうことになるかな」
エリちゃんは少しだけ、再び考える素振りを見せる。
次に口を開いた時に発せられた声は、驚くほど真剣そのものだった。
「ねぇ、ミスミ。本気で魔法を練習してみない?」
「え?」
「これはいつもの勧誘じゃないわ。難しい魔法だけれど、ミスミの願いを叶えられるかもしれない魔法があるのよ」
純粋に、驚いた。
「それは、どんな魔法なの?」
「幾つか思いつく魔法はあるけれど、一番簡単なのは記憶を探る魔法。これは、ものにだって使えるわ」
だから、お母さんの形見があるならば。
それの記憶をたどれば、きっと真意にたどり着けると。
エリちゃんは言う。
「他にも、過去視なんかも方法としてはあるわ。魔法としてはとても高度だから、よほど頑張らないとだけれど――」
「エリちゃん」
話している最中に遮る形になってしまった。
けれども、口を挟まずにはいられない。
手が震えてる。可能性を目の前にして、黙っていられない。
「なあに、ミスミ」
挑戦的な微笑を湛えて、エリちゃんは私の言葉を待っている。
何を言うかは、わかりきっていると言わんばかりに。
「私が本気で魔法を学んで、それらができるようになると思う?」
「――愚問ね」
笑みが深まる。
まるで、悪役のように、歯を見せて笑うその様は。
それこそ、物語の中に出てくる魔女に相応しい姿だった。
「このエカテリーチェ様が教えるのよ? そのぐらい、できてもらわないと困るわ!」
堂々と、自信満々と。
ああ、これでダメなら諦められると思わされるほど。
エリちゃんの態度は見事なものだった。
これの日をきっかけに。
魔法は私の日常に入ってくるだけではなく。
魔法は、私の達成するべき目標となった。
「そうだ! ミスミ、日常の全てを魔法で賄ってみなさい」
「ええっ! それは……」
「魔法の上達には、魔法をとにかく使うのが手っ取り早いわ」
それは、そうなのかな?
だから日常のあれこれを全て魔法で? できるかなぁ。
「ほらほら、まずは洗濯よ! あれが一番重労働でしょ?」
「まあ、そうだね」
「想像もしやすいんじゃない? 水を出して、洗濯板で擦る! 簡単じゃない!」
実際に言語化されてみると、単純そうに思える。
そこまで簡単なものでもないんだけれどね。
服が破けないようにだとか、布地を必要以上に傷つけないように力加減が重要なんだから。
「ほらほら、まずは桶を持ってきたわよ! これに水を出してみるの!」
「行動が早い」
「ミスミの本格的な魔女デビューなのよ? 気分が上がらない方がおかしいわ!」
エリちゃんはワクワクを隠し切れない様子だ。
これまで魔法は何度か使ったことあるけれど、それはあくまでも補助的な使い方。
今回のように、本格的に日常の代替として魔法を使うの初めてだ。
「まずは水を作りだすの。水よ、水。イメージできる?」
「……桶を満たすだけの水、だよね」
「そう。薪に火をつけるのと同じ要領で。イメージしてみて」
薪に火をつけるのは何度もやっている。
だから、それを同じように、イメージをして……。
桶の上から、パシャリと水玉が落ちて桶を埋めるイメージで。
目を閉じて、じっくりと思い描く。
「きゃっ」
跳ねた水が、顔にまで飛んできた。
思った以上に勢いよく落としてしまったようだ。
目を開いてみると、桶の周りにまで水が飛び跳ねてしまっている。
あーあー。これは酷い。拭かないと。
「できたじゃない!」
「でも、室内でやるべきじゃなかったね」
「……確かに。外でやるべきだったかしら」
少しだけしょんぼりしてしまった。
大丈夫だよ、という意味を込めてエリちゃんの頭を優しくなでる。
すると、愛おしそうに頭を手のひらにこすりつけてくる。
こういうところが可愛いんだよなぁ。
「……それじゃあ! 外に出ましょうか!」
「でも、外で魔法を使ったら……あっ、この辺人いないから大丈夫か」
外だと魔法が使えることが他の人にバレるんじゃないか。って考えたけれど。
よくよく考えたらここら辺は滅多に人が通らない。
そもそも一般的な居住区から大きく離れているし、うちはカテリーナさんたちから睨まれているから厄介事に巻き込まれたくない人たちは離れていくのだ。
「そうね。不幸中の幸い、って言うのよねこういうのは!」
「ふふっ。そうだね」
エリちゃんはこんな時でも元気だ。
その元気さに、気持ちが落ち込みかけた時は救われる。
……ずっと、一緒にいられればいいのにな。
「ねぇ、エリちゃん」
「何かしら?」
「エリちゃんは元の場所に戻れるようになったら、戻るんだよね?」
何を当たり前のことを聞いているのだろう。
戻れるのなら、戻りたいに決まっているはずなのに。
「当然よ! この大魔女様がいないことでどれだけ世界に損失が起きていることか……」
「そうだよね。うん、そうだよね」
そうなったら、やっぱり私は一人だ。
……寂しいなぁ。
「なにをぼーっとしてるのよ! 早く! 早く外で魔法の練習をするわよ!」
「――うん、今行くよ」
胸の奥に駆け巡る
今は、エリちゃんが待っている外へと出るのだった。
……エリちゃん、桶を持ってふらつくと危ないよ。
うん、私が運ぶね。危ないからね。