決して不幸なんかではない私が街角で拾った生意気な女の子は、魔法が封じられた大魔女様でした。   作:血肉で咲いた百合の花

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第8話

 それからの日々というもの、常に魔法と向き合う時間となった。

 仕事で仕立て直しを請け負ったのもあって、これまでとは比にならないぐらい目まぐるしく日々は巡っていく。

 

「ほら、そっちが手すきよ!」

「水の量が足りてないわ!」

「速度が足りてないわよ!」

 

 ぐるぐると忙しく指示が飛び交う。

 こと魔法に関して妥協という言葉はないのか、エリちゃんの指示は非常に厳しい。

 しかも、想像力だの魔力の流れを意識するだの、抽象的な指示が多いものだから再現性がない。

 

 その中でも収穫はあった。

 エリちゃんは魔法を使おうとすると制限がかかるだけで、魔力を操作するだけならば何の制約もないってことだ。

 最初のエリちゃんと出会ったもめ事の時にも見た光こそが魔力で、エリちゃんは魔力の動かし方の手本を見せたり教えてくれている。

 

 おかげで、魔法の実力自体は着実に上がってきている、と言っても過言ではないと思う。

 ……その傍らでやっている、エリちゃんの家事力向上活動は一向に実を結ぶ気配がないけれど。

 

「ふへぇ。疲れたぁ」

「ふん、この程度で疲れてちゃいつまでも大魔女にはなれないわよ!」

「いや、大魔女様になる予定はないから」

 

 なんとか最低限の家事は魔法で何とかできるようになるまでは成長した。

 掃除、洗濯、炊事。このぐらいはきちんとこなすことができる。

 でも、まだまだ魔法の練度は低いという自覚がある。

 物の記憶を読み取る魔法だなんて、想像もできないのだから。

 

 エリちゃんは想像できない魔法は使えないと言っていた。

 だから、想像力が魔女にとっては非常に重要なのだと。

 そういう意味だと私は思考が凝り固まってしまっているから、魔女の適正は低いと思う。

 

「でも、簡単な動作なら魔法で再現できるようになってきたじゃない! この調子なら色んな魔法を使えるようになるのもすぐよすぐ!」

「そうかなぁ。そうだといいけれど」

 

 言いながら、針子としての仕事を進める。

 仕事は仕事だ。疲れていてもやらないといけない。

 これも魔法でできれば楽なのかもしれないけれど、いまいちイメージができないんだよね。

 やっぱり、針を動かすのは手で動かした方が慣れてしまっているから。

 魔法で針を細かく動かすのは、集中力が要求されてあまりにも大変だった。

 

「……お針子仕事も魔法でできたら楽なのにねぇ」

 

 正直、魔法の便利さは身に染みた。

 なにせ、人力では遥かに時間がかかることを瞬く間に終わらせてしまうのだから。

 イメージがしやすいから始まった洗濯は、今では汚れを落とすイメージをすることで洗濯の手間すら短縮できている。

 炊事はそのままだけれど、掃除も同様だ。

 綺麗に整頓された――元々の物品が少ないとはいえ――部屋を想像して魔法を使うだけで、その通りのものに仕上がってくれる。

 

 魔女が重宝されるのも納得だ。

 これだけの事をできるのなら、一人で何人分も働けてしまう。

 大魔女様ともなれば、それこそ一人で数百数千人分をまかなえてしまうのではないだろうか。

 

「むう。ミスミは頭が固いのよ」

「それは自覚してるけどさぁ」

 

 ちくちくと地道にやるのが性に合ってると言えば性に合っているのだ。

 特に、仕立て直しは結構な手間がかかる。

 まだ使える古着を、さらに改造するのだ。針子としての腕が試される。

 繕いは破れたりして使えなくなった古着を使えるように修繕するだけだったから、考えることが少なくて楽だった。

 

「そういうところこそ、魔法の使いどころなのよ!」

「と、いうと?」

 

 そういえば、エリちゃんはひたすらに魔法で針子作業をやらせようとしてたっけな。

 何かいい方法があるんだろうか?

 

「洗濯の時を思い出して!」

「ああ、綺麗になった服を想像して、魔法で実現するってやつね」

「そうそう! それと同じことを針子作業でやればいいのよ!」

「同じことを……?」

 

 ピンとこない。

 ここまでくると私が鈍すぎるのかもしれない。

 

「ううん、つまり、完成品を想像して、その通りになる様に魔法を使うってこと?」

「そうよ! それができればどんな服でも自由自在に作れるようになるわ!」

 

 もちろん、素材は魔法ではなくて実際に用意する必要があるらしい。

 魔法で作った素材――洗濯では水など――は魔力がなくなると消えてしまうからだ。

 つまり、魔法だけで作った服は魔力がなくなった瞬間に消えてしまう。

 いきなり全裸にされるのは中々嫌な体験だ。想像もしたくない。

 

「結局糸や布は使うんだし、手作業と何がどう違うの?」

「針が必要ないわ」

「針が?」

 

 言われて、少し考えて、ようやく理解した。

 糸を通す作業を、魔法なら自動化できるのでは?

 針を使ってやるから、細かい作業が必要になるわけで。

 針を無くしてしまえば、糸は自由自在に動かせる。

 

「ちょっと、試してみるね」

「さあ、やってみなさい!」

 

 手に持っている服は、ちょうど仕立て直しようの服だ。

 これを手直しするイメージ。完成図の想像をする。

 そうして、魔力を練って。

 

「おっ、おっ、おっ?」

 

 なんか、凄い魔力を吸われてる感じがする?

 糸の隅々にまで魔力が行き渡って、布の隙間を縫い付けていく。

 

「そうよ! その調子よ!」

 

 エリちゃんが応援してくれている。

 そんな最中にも、魔法は自動的に服を仕立て直していく。

 私が想像した、できたらいいなという完成図の通りに。

 

「これは、すごい……」

 

 魔法は想像を実現する力、とでもいえばいいのだろうか。

 きっとそういうものなのだと思う。

 だからエリちゃんは言うのだ。魔法は想像力が大事なのだと。

 

 今回、私は魔法で服を仕上げるイメージを作った。

 だから、魔法はそのまま服を仕上げている。

 手作業ならミスするところも、寸分たがわず理想の通りに。

 

「これだから、魔法のすばらしいのよ」

 

 私の魔法を見て、エリちゃんはご満悦だ。

 ただ、ちょっと、何というか。

 目の前が、くらくらしてきたような……。

 

「あれ、ミスミ?」

 

 あっ、これは駄目かもしれない。というか駄目だ。

 倒れる――と思った時には、椅子から転げ落ちるようにして地面に倒れ込んでいた。

 

「ミスミっ! ミスミ、どうしたの、ミスミ!」

 

 目の前の光景がちかちかと明滅する。

 あっ、これは、やばい奴だ。

 間違いない、前にもこういう経験をしたことがある。

 あの時は発熱だったっけ。

 

 だなんて、昔を思い出しながら、ひょっとしたら死ぬかもななんて予想をしつつ。

 私の意識は、漆黒の闇へと深く深く沈んでいった。

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