ホロウ内部調査記録…   作:MEGATOON

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久しぶりーに筆(笑)が動いた!∠( ゚д゚)/
ネタが尽きたから朱鳶PERT2を書いてみたよ(´・ω・`)


気が向いたらシグリッドとかでもいいんだけど難しいんよなーあのおもしれー女…


〜几帳面な治安官 PERT.Ⅱ〜

 

新エリー都の治安維持局分署

午後の西日がブラインドの隙間から差し込み、執務室の床に規則正しい光と影の縞模様を描き出していた。

 

カタカタと軽快なキーボードの打鍵音が響く室内で、朱鳶はいつものように完璧な姿勢で端末に向かっていた。ポニーテールを揺らすことなく、手際よく本日のパトロール日誌を整理していく。その処理速度と正確さは、相変わらず「完璧な治安官」そのものだった。

 

だが、彼女の意識の数パーセントは、ほんの少し前から別の方向へと向けられていた。

 

(……また、です)

 

朱鳶は書類に視線を落としたまま、チラリと斜め向かいのデスクへと意識を集中させる。

 

そこに座っているのは、パートナーであり、大切な恋人でもあるヴァレンだ。

彼は手元の資料をめくる手を止め、ふっと窓の外……何もない空のどこか一点を見つめていた。その瞳には、いつもの穏やかな光ではなく、どこか遠くを思い描くような、果てしない静けさが宿っている。

 

時間にして、ほんの数秒。

だが、ここ最近のヴァレンは、朱鳶が話しかけようとした瞬間や、ふと作業の手を止めた隙に、こうして「一瞬だけ上の空になる」ことが増えていた。

 

「ヴァレン?」

 

朱鳶が小さく声をかけると、彼はハッと弾かれたように視線をこちらに戻した。

 

「ん? どうしたの、朱鳶」

 

次の瞬間には、いつもの優しく包み込むような笑みを浮かべるヴァレン。

何の変哲もない、大好きな彼の笑顔。けれど、その笑顔の奥にほんの少しだけ「何かを隠している」ような違和感を、朱鳶の鋭い観察眼は見逃せなかった。

 

「……いえ。少し疲れが見えるように思えましたので。無理はなさらないでくださいね」

 

「ありがとう。大丈夫だよ、ちょっと考え事をしていただけだから」

 

ヴァレンはそう言って朱鳶の頭をポンポンと軽く叩き、再び自分の作業へと戻っていった。

 

デスクに残された朱鳶は、そっと自分の手で胸のあたりを押さえる。

彼の温もりはいつも通り温かい。自分に向ける言葉も優しい。

それなのに、彼が一瞬だけ見せるあの「遠くを見つめる目」を見るたびに、胸の奥がチリチリと痛むような、説明のつかない不安が胸を掠めるのだ。

 

(考え事、ですか……。私には話せないような、何か悩みが……?)

 

昨夜の甘いひとときを思い返せば、二人の距離は確実に縮まっているはずだった。

それなのに、彼の手の届かないどこかへ行ってしまいそうな予感に、朱鳶はそっと唇を噛み締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朱鳶、すまぬがこれをヴァレンに届けてきてはくれんか?」

「……はい?」

 

 

夕方、引き出しから取り出した厚みのあるファイルを手に、青衣が声をかけてきた。

普段ならのんびりとお茶をすすっている先輩からの頼み事に、朱鳶はすさかず背筋を伸ばして「…承知いたしました」と返事をする。

 

 

「ちょうど私も本日の業務が一区切りついたところです。彼のデスクへ持っていきますね」

 

ファイルを受け取り、執務室の廊下を歩く。

胸に抱えた書類の重みを感じながら、朱鳶の心はどこか浮き立っていた。

先ほど感じた胸のモヤモヤを吹き飛ばすように、「何か手伝えることはありませんか?」と自然に声をかける口実ができたからだ。

 

(ヴァレン……まだ残務処理をしているでしょうか)

 

小さな期待を胸にヴァレンのデスクへと向かった朱鳶。

しかし、たどり着いた彼の席に彼の姿はなかった。

 

デスクの上は整然と片付けられており、いつも使っているマグカップもキレイに洗われて水切りラックに置かれている。パソコンの画面はスリープ状態になり、彼のジャケットも椅子にかけられていない。

 

「…… ヴァレン?」

 

周囲を見回すが、彼の姿も、あの特徴的な気配もない。

 

「あら、朱鳶ちゃん。ヴァレンを探してるの?」

 

通りかかった同僚の治安官が、資料を抱えながら足を止めた。

 

「ええ。青衣先輩から頼まれた書類を渡しに来たのですが……彼はどこへ行ったかご存じですか?」

 

「ああ、ヴァレンならさっき上官に呼ばれて部屋へ行ったわよ。なんだか真剣な顔をしてたから、大事な話なんじゃないかしら」

 

「上官の部屋に……ですか?」

「ええ、上の階の上官室よ」

 

同僚にお礼を言い、朱鳶は抱えたファイルにぎゅっと力を込めた。

 

上官に直接呼ばれること自体は、治安局ではそれほど珍しいことではない。重要な任務の打診や、実績に対する面談など理由は様々だ。

だが――昼間に見せた、あの「遠くを見つめるヴァレンの瞳」が、不吉な予感となって朱鳶の頭をよぎる。

 

(まさか……あの上の空な様子は、この件に関係して……?)

 

胸の奥で嫌なざわめきが大きくなっていくのを感じながら、朱鳶はエレベーターへと向かって歩き出す。何か大きなことに巻き込まれていないかと心配しながら…

 

上官室が存在する最上階の廊下は、執務室のにぎやかな喧騒が嘘のように静まり返っていた。

重厚な絨毯が朱鳶の靴音を吸収し、壁に飾られた治安局の歴代長官たちの肖像画が、まるで静かな圧迫感を放っているかのようだ。

 

朱鳶は腕の中に抱えたファイルを静かに抱え直し、上官室の重厚な木枠のドアの前で足を止めた。

 

(コンコン、と叩いて「失礼します、青衣先輩からの書類です」とお渡しすれば済む話です……)

 

そう自分に言い聞かせ、手をノックの形にして扉へ伸ばしかけた。だが、その指先が木肌に触れる直前、中で交わされている会話の断片が、防音ドアのわずかな隙間から漏れ聞こえてきた。

 

 

「……だからこそ、この案件は君に任せたいのだ」

(……??)

 

上官の厳格で重みのある声だった。

朱鳶の動きが、ピタリと止まる。

 

 

 

「……僕で、本当によろしいのですか」

 

引き続いて聞こえてきたのは、紛れもなくヴァレンの声だった。

いつもの軽やかで穏やかなトーンとは異なり、どこか緊張を含んだ、真摯で重々しい響き。

 

(ヴァレン……? 一体、何のお話を……)

 

治安官として、他人のプライベートや公務上の極秘面談を盗み聞きするなど、言語道断の規律違反だ。

自分の中の

「完璧な治安官」

が、今すぐノックをするか、あるいはこの場を立ち去るべきだと強く警告を発している。

 

しかし、足が地面に貼り付いたように動かない。

ここ数日、彼が見せていたあの儚げな横顔。どこか遠くを思い描くような、すれ違いの視線。

それら全てのパズルのピースが、この部屋の中で繋がろうとしている――そんな直感が、朱鳶の胸を強く締め付けた。

 

朱鳶は固唾をのんで、息を殺した。

ポニーテールの毛先すら揺らさぬよう全身の神経を研ぎ澄まし、ゆっくりと、吸い寄せられるように扉へ耳を近づける。

 

「君のこれまでの実績、そして状況への適応能力は高く評価されている。この決定は治安局の上層部にとっても――」

 

上官の声が続く。

ヴァレンが何かを呟くような短い返答をし、室内に一瞬の沈黙が落とされた。

 

胸の鼓動が、うるさいほどに耳の奥で脈打っている。

手に汗が滲み、抱えていたファイルの紙端が、朱鳶の力込められた指先によってわずかに皺を寄せていた。

 

扉の向こうで、重大な「何か」が動こうとしている。

そしてそれは自分の知らないヴァレンの未来に関する決定であることは、朱鳶は疑いようもなかった。

尚も静寂に包まれた廊下で、朱鳶の心臓は破裂しそうなほど速く打っている。

ドアの隙間から漏れ出てくる上官の声は一語一語が氷の針のように彼女の鼓動を刺し穿つ。

 

 

「――というわけで、だ。君の活躍を見込んで、長期遠征に行ってほしい! 期間は1年だ!」

 

 

ドクン、と心臓が跳ね上がった。

 

 

(ちょう……き……えんせい……?)

 

 

上官の口から発せられたその言葉の意味を、朱鳶の脳は即座に理解することを拒んだ。

1年。即ち365日。

朝、執務室で交わす「おはよう」の挨拶も。

夕方、二人で分け合った温かい缶ジュースの甘さも。

休日、照れながら手を繋いで歩いた六分街の街並みも。

そのすべてが、一瞬にして遠い過去の出来事に塗り替えられていくような錯覚に襲われる。

 

 

「……期間は1年、ですか」

 

 

ヴァレンの静かな声が聞こえる。彼がどんな表情でその言葉を受け止めているのか、ドア一枚を隔てたこちら側からは伺い知ることはできない。しかし、最近彼が見せていたあの「遠くを見つめる瞳」の理由が、あまりにも鮮明に、残酷なまでに繋がってしまった。

 

(だから……あんな目で……私を見ていたのですか……?)

 

彼は最初から知っていたのだ。自分のもとを去らなければならない未来を。

自分に心配をかけまいと、一人でその重圧を抱え込み、あんなにも儚く、悲しげに笑っていたのだと。

 

理由を理解した瞬間、朱鳶の全身からすっと血の気が引いていった。

指先から感覚が消え、膝がガクガクと震え出す。視界が急速に歪み、息の吸い方が分からなくなる。

 

 

「あ……」

 

 

喉の奥から漏れた小さな掠れ声と同時に、彼女の腕から力が完全に抜け落ちた。

 

――バサバサバサッ!!

 

静まり返っていた最上階の廊下に、けたたましい音が響き渡った。

青衣から託された厚みのある報告書、過去の事件データ、何十枚もの書類が手元から滑り落ち、白い紙片が床一面に無残に散らばる。

 

「だ、誰だ!?」

 

室内から上官の警戒した声が上がる。

ガチャリ、とドアノブが回る重い音が聞こえた。

 

しかし、朱鳶には散らばった書類を拾い集める気力も、治安官としてその場を取り繕う余裕すら残されていなかった。胸を押し潰す絶望感と、今にも溢れ出しそうな涙を必死に堪えながら、彼女はただ崩れ落ちそうな体を起こし、逃げるようにその場を後にするしかなかった。

 

(嘘…嘘っ…!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

散らばった書類の音を残したまま逃げ出した朱鳶は、どこをどう走ったのかも覚えていなかった。気づけば時間は流れるように経っており、夕闇が迫る執務室の窓辺で、ひとり荒い息を吐きながら冷たい壁に背を預けていた。

 

(1年……。ヴァレンが、私の届かない場所へ行ってしまう……!?)

 

頭の中で、上官の言葉が何度も、何度も残酷にリフレインする。

治安官として組織の命令や任務の重さは誰よりも理解しているつもりだった。

公私を混同してはならない。それが「完璧な治安官」としての彼女の流儀であり、誇りでもあったはずだ。

 

だが――胸の奥が、壊れたように痛む。

 

 

(嫌です……行かないでほしい…!そんなの、耐えられません……!)

 

どれほど規律を叩き込まれても、この溢れ出す感情だけは抑え込めなかった。彼を失うかもしれないという恐怖が、朱鳶の

「完璧な仮面」

を跡形もなく粉砕していく。今までの自分なら絶対に選ばなかったはずの一歩。失う恐怖に背中を押された彼女は、静かに執務室へと入ってきたヴァレンの姿を捉えた瞬間、体が勝手に動いていた。

 

「あっ朱鳶!」

「ヴァレン……っ!!」

 

言葉の途中で、朱鳶は彼の胸へと飛び込んでいた。

ドスン、と鈍い音が響く。

彼女の両腕は必死にヴァレンの背中に回され、二度と離すまいとする強い力で彼の警察服を強く握りしめていた。

 

「朱鳶…?今日は甘えん坊だね…?(汗)」

 

突然のことに、ヴァレンは息をのんで硬直する。普段の彼女であれば、いくら二人きりであっても、職場の中でこのような過剰な接触をするなど絶対にあり得ないことだった。

 

「どうしたの? なにかあった?」

「……聞かないでください!」

 

朱鳶の声は、彼の胸元で小さく震えていた。ポニーテールが揺れ、彼女の体温と甘い香りがダイレクトにヴァレンへと伝わる。

 

「今は……何も言わないでください…お願いです……ただ、こうさせてください……」

 

彼女の必死すぎる抱擁と、伝わってくる微かな震え。

ヴァレンは驚きに目を見開いていたがやがて何かを悟ったように柔らかく目を細めた。

彼は理由を問い詰めるのをやめ、そっと朱鳶の背中に手を回すと、包み込むような優しさで彼女を強く抱きしめ返した。

 

「……うん。分かったよ」

 

ヴァレンの腕の温もりが、朱鳶の背中に伝わる。

その優しさが、その温もりが、余計に切なかった。あと少しでこの温もりが消えてしまうのだと思うと、朱鳶は胸が張り裂けそうになりながら、彼の胸に深く顔を埋めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、柄でもなく有給を初めて取った朱鳶は重い足取りでヴァレンのマンションを訪れていた。

 

昨日、執務室で彼に抱きついた夜から、朱鳶の心は寸刻も休まることがなかった。ヴァレンは変わらず優しく接してくれるが遠征の話題を自ら口にしようとはしない。

彼女に余計な心配をかけまいと配慮しているのだと察すれば察するほど、朱鳶の胸は切なさと焦燥感で押し潰されそうになっていた。

 

 

(直接……彼の口から聞かなければ。私を置いて行かないでと、わがままを言ってしまってもいいでしょうか……)

 

 

意を決して【合い鍵】でドアを開け、ヴァレン宅へ足を一歩踏み入れる。

 

「お♪来たね!」

「……ヴァレン…」

 

既にテーブルにはハーブティーが二人分用意されており、ご丁寧にお茶菓子まで用意されていた。歓迎する気満々である。それもそのはず、今回ヴァレンの家に行きたいと懇願したのは朱鳶だったからだ。

 

 

「ハーブティー、しかも私のお気に入りのメーカーの…」

「そりゃ朱鳶から来たいって言ってくれたからね♪

 

 

そんなことはないと思い込みつつも、朱鳶の脳内は

「もしかしたら最後だから高価なものでもてなしてくれているのでは」と考えてしまう…

 

 

 

 

 

 

 

(……え……?)

 

 

さらに、視界に飛び込んできたのは、いつもの見慣れたリビングではなかった。棚に飾られていたお気に入りの雑貨や観葉植物が姿を消し、本棚の書類や書籍もきれいに取り払われている。部屋の隅には梱包用の段ボール箱がうずたかく積まれ、全体的にぽっかりと穴が空いたような、寂しげな広がりを見せていた。

明らかに荷物が減っている。部屋全体が「旅立ちの準備」を終えようとしているかのように。

 

(本当に……本当に行ってしまうのですか…?もう、こんなに準備を進めて……何も言ってくれないなんて…)

 

上官室で聞いた「1年の長期遠征」という言葉がこの部屋の惨状と完璧に結びついた。

 

彼の出発は、自分が思っているよりもずっと、すぐそこにまで迫っている。もう二度と、この部屋で二人並んで穏やかな時間を過ごすことはできないのだ。

そう確信した瞬間、朱鳶の瞳からぼろぼろと大粒の涙が溢れ出した。本人は気づいていないが…

 

 

 

 

「朱鳶? どうしたの、そんなぼーっとして――」

 

 

 

キッチンからホットケーキを焼き終えた彼が近づいてこようとしたその瞬間、朱鳶の感情の堤防が完全に崩壊した。

 

 

 

「っ…!行かないで……っ!!(泣)」

 

朱鳶は手に抱えていたカップを床に落とすと、なりふり構わずヴァレンへとすがりついた。

彼の胸元に顔を押し付け、声を上げて泣きじゃくる。もはや治安官としての誇りも、毅然とした態度も、すべてが涙と一緒に洗い流されていく。

 

「お願いです、ヴァレン……行かないでください……! 私を置いて……遠くへ行かないで……っ!」

「し、朱鳶……!?と言うかなんで遠征の話を知ってるの!?」

 

突然の落涙と必死の制止に、ヴァレンは手にしていた皿を一旦テーブルに置くと、慌てて彼女の肩を抱きかかえる。

 

「1年だなんてそんなの長すぎます…! 朝の挨拶もパトロールの帰り道も、あなたのいない毎日なんて…私、どうしたらいいか分かりません…! どんなに厳しい任務でも耐えてみせます……だから……だから私を置いていかないで……っ!(泣)」

 

 

彼女の熱のこもった手が、何度も彼の胸を弱々しく叩く。

ポニーテールを大きく揺らし、しゃくりあげながら泣き叫ぶその姿は、いつもの凛々しい「完璧な治安官」ではなく、ただ大好きな恋人を失うことを恐れる、ひとりの少女そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……朱鳶。とりあえず落ち着いて、僕の話を聞いてほしいな」

 

まだ泣きじゃくりながら胸を叩き続ける朱鳶を、ヴァレンは心底困ったような、それでいてたまらなく愛おしそうな苦笑いを浮かべながら優しく抱きかかえ、ソファへと座らせた。

 

「ひぐっ……う、ヴァレン……泣いても……私は諦めません……。遠征なんて……行かせません……っ」

 

膝の上で丸くなり、目元を真っ赤にしながらまだ小さな拳で抗議してくる朱鳶。そんな彼女の涙を、ヴァレンは指先で優しく拭いながらゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「あのね、朱鳶。確かに上官から『1年の長期遠征』の打診を受けたのは本当だよ。……でも、僕はその場ですぐに断ったんだ」

「……え?」

 

 

朱鳶のしゃくりあげる声がピタリと止まった。パチパチと瞬きをする瞳から、涙がぽろりとこぼれ落ちる。

 

 

「だって、僕が1年も遠征に行ったら、朱鳶と離れ離れになっちゃうじゃないか。そんなの僕だって耐えられないよ。……最近僕が上の空だったのはね、遠征の件を断るための引き継ぎや、断る理由をどう上官に説明するかずっと悩んでたからなんだ」

 

「えぇ…!? じゃ、じゃあ……上官室で落とした私の書類は……」

「うん、あの後上官に『僕には新エリー都で守りたい大切な人がいますから』ってハッキリ断ったよ。それに……この部屋の荷物が減っているのはね」

 

ヴァレンは部屋の隅に積まれた段ボール箱をチラリと見て、悪戯っぽく微笑んだ。

 

「……ただの断捨離だよ。そろそろ朱鳶が僕の部屋に泊まりに来る機会も増えたし……

 

 

 

いつか一緒に住むことになった時のために、部屋を広くしておこうと思って整理してただけ」

「―――――っ!?!?!」

 

すべてのパズルのピースが、恐ろしいほどの精度で明後日の方向に噛み合っていたことが判明した。

1年の遠征は最初から拒否済み。

部屋の荷物が減っていたのはただの断捨離と、将来の同居(!)のための準備。

 

「~〜〜〜〜〜っっっっっっっっ!///」

 

事実を理解した瞬間、朱鳶の顔が爆発したかのように耳の根元まで真っ赤に染まった。

自分の壮大な勘違いで、仕事中にヴァレンに泣きつき、彼の家でボロボロと涙を流しながら「行かないで」とすがりついてしまったのだ。

恥ずかしさのあまり頭から湯気を吹き出し、朱鳶はクッションに顔を埋めて身悶えた。

 

「うああああああああっ……!! ち、ちちち、違います! 今のは……その、治安官としての過度な危機管理能力が裏目に出たと言いますか……っ!///」

 

「ふふ、可愛いなあ。治安官の朱鳶じゃなくて、僕の愛しい恋人の朱鳶の顔がたくさん見られて、僕はすっごく嬉しかったけどね?」

 

「い、意地悪言わないでくださいヴァレン……! 恥ずかしさで死んでしまいます……っ///」

 

 

顔を真っ赤にしてぷっくりと頬を膨らませる朱鳶。ヴァレンはそんな彼女の首元に手を回し、そっと引き寄せると、彼女の額に優しく口づけた。

 

 

「んっ…

 

……でも、ありがとう。朱鳶がそんなに僕のことを想ってくれてるって知れて、本当に幸せだよ」

 

耳元で囁かれた甘い言葉に、朱鳶の体からフッと力が抜ける。

彼女は恥ずかしそうに視線を彷徨わせながらも、そっとヴァレンの服の裾をキュッと握りしめた。

 

「……ずるいです、ヴァレン。……こんなの、反則です……///」

 

新エリー都の街に夕闇が訪れる中、部屋に残された二人の影はゆっくりと重なり合っていった。

 

 

 

 

 

 

 

〜翌日〜

 

「何ぃ!?お主が勝手に早とちりして泣きついたじゃと……!? 挙げ句の果てに同居の準備じゃと……!?一大事じゃ!赤飯!赤飯を炊かねば…!」

「せ、先輩……! 大きな声で言わないでください……っ!///」

 

翌日の治安局。顔を真っ赤にして書類で顔を隠す朱鳶と、呆れ果てながらもお茶をすする青衣の賑やかな声が、今日も平和に響き渡っていた。

 




クラレッター!私を置いていくなー!

…まぁ引いたところでパーティ組めないけど(´・ω・`)

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