ホロウ内部調査記録… 作:MEGATOON
なんだかんだ皆様に楽しんでいただけてるなら喜びの舞でございます(`・ω・´)ゞ
と言うわけで予告通り星見雅編でございます(_ _ )
【???】
名称不明、種族不明、生年月日不明。未開ホロウ内で幽閉されていた所を偶然雅から休出される。長年人と会話していなかった為か自由に声が出せず、現代のしきたり等も殆どわからない。
ホロウ対策第6課の執務室。
いつもなら蒼角が買い込んできたお菓子を頬張る音が響くか、あるいは柳が書類をめくる無機質な音が流れるだけのその部屋に、今はいつもと違う空気――どこかぎこちなく、しかし穏やかな沈黙が流れていた。
ソファの端に腰掛けているのは、白銀の髪に、雅と同じ意匠を思わせる美しい狐耳を持った青年。
彼の名は「ゼロ」。
長い間、ホロウの最深部にあった遺構――隔離された実験施設のような場所に幽閉されていた彼は、外の世界の光にまだ慣れていないのか、細い目をさらに細めて、手元に置かれた温かいお茶の湯気を見つめていた。
「……で、ですね! 雅様!」
その沈黙を破ったのは、案の定、大きな対鬼用軍刀を壁に立て掛けたばかりの蒼角だった。
彼女は目をきらきらと輝かせ、雅のデスクへと詰め寄る。
「その、新しく第6課に来たゼロさんなんですけど! なんで雅様と同じお耳があるんですか? それに、ホロウの中でずーっと捕まってたって本当ですか!?」
「蒼角、少し声を落としなさい。彼はまだ病み上がりだ」
雅は手元の電子端末から視線を上げ、冷徹とも取れるほどに冷静な、しかし確かな庇護の色の混じった声で窘めた。その視線は、蒼角の背後にいる青年――ゼロへと向けられる。
ゼロは蒼角の声に驚いたように少し耳を震わせたが、雅と目が合うと、安心したように小さく、本当に小さくコクリと頷いた。
「……す、すみません。でも蒼角、気になります……」
「ふふ、お茶のおかわり持ってこようか? 雅様も、たまには昔語り、いいじゃないですか。ね?」
給湯スペースから顔を出した月城柳が、困ったような笑顔で場をとりなす。
雅は小さくため息をつき、刀の柄にそっと手を添えた。それは彼女が深く思考するときの癖だった。
「……隠すようなことではない。彼との出会いは、先日の零号ホロウにおける特異領域の調査任務でのことだ」
雅の静かな声が、執務室に響き始める。
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あの日、第6課が踏み込んだのは、既存のマップには存在しない空間が歪に固定化された未踏のホロウ深部だった。
エーテル濃度は限界値を指し、通常の調査員なら数分と持たずに変異が始まるような濃密な紫の霧の奥。そこに、かつて旧文明が遺したとされる放棄された研究施設の残骸があった。
「防壁を突破し、最奥の隔離室に入った時、私はそこに『彼』を見つけた」
厳重にロックされたガラスカプセルの中に、その青年はいた。
管に繋がれ、眠らされていたわけではない。ただ、暗闇の中で膝を抱え、果てしない時間を一人で耐え忍んでいたかのように、虚空を見つめていた。
雅の姿を見た瞬間、青年は怯えるよりも先に、自らの頭上に冠した「狐耳」を自覚したように動かしたという。
『……あ……』
それが、彼が最初に発した掠れた声だった。
衣服の胸元には、色褪せた文字で【被検体番号:0+】とだけ刻印されていた。
「彼は自分の名前すら忘れていた。……いや、最初から与えられていなかったのかもしれない。長期間、あまりにも高濃度のエーテル環境に曝されていたせいか、精神の摩耗も激しく、言葉を紡ぐことすらままならない状態だった」
雅がカプセルを斬り開き、崩れ落ちた彼の身体を支えた時、青年は驚くほど軽かった。まるで中身のない、硝子細工の人形のように。
『……な……ま……え……』
青年が途切れ途切れに、消え入るような声でそう呟いた時、雅は彼の胸元の刻印を見つめ、迷うことなくその名を口にした。
『「ゼロ」だ。今日からお前は、ゼロ。ここで全てを精算し、新しく始めるがいい』
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「――それから、私が身元を引き受け、こうして第6課で保護することにした」
雅の話が一段落すると、蒼角はすっかり圧倒されたように「ぜ、ゼロさん……」と、同情と畏敬の念が混ざった目でゼロを見つめた。
当のゼロは、自分の名前が呼ばれたことに気づくと、ゆっくりと口を開いた。雅が言った通り、彼の発声は今もなお、途切れ途切れで、長くは続かない。
「み……や……び……」
掠れた、けれどどこか心地よい響きを持った声。
短い一言を紡ぐだけでも、ゼロにとってはひどくエネルギーを消耗する作業のようだった。彼は言葉を終えると、少し息を荒くして、縋るような視線を雅へと向ける。
雅は彼が何を言いたいのかすぐに分かった。デスクから立ち上がり、ゼロの側へと歩み寄った。そして、彼の白銀の髪と、自分と同じ形の狐耳の間に、そっと優しく手を置いた。
「……構わない。お前が望むなら、ここがお前の居場所だ。焦る必要はない、ゼロ。少しずつ、言葉も、この世界のことも取り戻していけばいい」
「……ん……ありが、とう……」
雅の手の温もりを感じて、ゼロの口元に、微かだが確かな安らぎの笑みが浮かぶ。
その様子を側で見ていた柳は、静かに微笑みながら、雅の横顔にいつもとは違う「柔らかさ」があるのを見逃さなかった。
「雅様〜できました!これぞ我がガリバー、魂の結晶……『言語補助機構・試作二号』です!」
ホロウ第6課の専属ボンプ【ガリバー隊員】が誇らしげに何かを頭に乗せながらトテトテと走ってきた。それは襟元に留める小さなクリップ型の機械だった。
「ゼロくんの脳波を読み取って、途切れがちな言葉を『単語単位』で補強するデバイスです!まだ試作段階だから完璧な長文は無理だけど、前よりはずっと話しやすくなるはずです!」
雅に促され、ゼロはその機械を首元に装着した。電源が入ったデバイスがピッと微かな電子音を鳴らす。
「……あ、……みや、び……」
ゼロが口を開く。すると、彼の掠れた地声の後に、デバイスから少し機械的な合成音が重なり、言葉を補った。
『雅……これ……すごい…!…胸が……ラク、に、なる……』
「おおっ、本当に言葉が繋がって聞こえます!」
蒼角が目を輝かせて拍手する。まぁあくまでも試作品段階なので完璧な会話はできないがこれらこれで十分だろう。
ゼロは自分の首元に手を当て、頭の上の狐耳をパタパタと嬉しそうに動かした。まだ途切れ途切れではあるものの、自分の意思が外に届く喜びで、その綺麗な瞳がわずかに潤んでいる。
「上出来だ、ガリバー。これなら彼の負担も減るだろう」
雅はホッとしたように息を吐き、ゼロの隣に腰掛けた。
「雅様に褒められたこと…一生忘れません…!!」
ガリバー隊員は機械を渡すと、まだ業務が残っているのか何処かへ行ってしまった。ゼロは雅の顔をじっと見つめる。羞恥心という概念を知らない彼の瞳は、ガラスのように純粋だ。心に浮かんだ感情をそのまま言葉に変換する。
『みやび……いつも……ありがとう……』
「っ……!?」
雅は一瞬、端正な顔を凍りつかせた。
あまりにも真っ直ぐな好意の単語。しかも微笑みというおまけ付き。雅はわずかに耳の先端を赤くし、ふいと視線を逸らす。
「……ゼロ。そういう言葉は、あまり他人の前で軽々しく口にするものではない……///」
「わあ! ゼロさん凄い!」
そんな二人の空気に気づかない蒼角が、お菓子の袋を抱えてトコトコと割り込んできた。ゼロが無防備に小首をかしげるのを見て、蒼角の頭の中で小さな悪戯が目覚めてしまう。
「よし、ゼロさん! 蒼角が新エリー都流の『大事なご挨拶』を教えてあげます!」
「おい、蒼角。余計なことを――」
悠真の制止をすり抜け、蒼角はゼロの狐耳に顔を近づけてひそひそと囁いた。
(いいですか? 雅様はとっても偉くて強い人!だから、おねだりしたい時は、雅様の手をきゅっと握って、こう言うの!
『雅、かわいがって( ・´ー・`)』
って! これ、常識だよ!)
『おね…だり…?かわい……がって……?』
「そうです! 美味しいものをくれたり、頭をなでなでしてくれたりすることです!」
羞恥心の分からないゼロにとって、それは単なる「親愛の挨拶」として処理されてしまった。
数分後、雅が再びゼロの前に立った時のことだ。
「ゼロ、今日は午後から少しルミナスクエアの街を案内する。外の空気に慣れてもらうために―『みやび…』……ん?」
ゼロは雅の言葉を遮るように、ソファから立ち上がった。
そして、教えられた通りに、雅の白くしなやかな両手を、自分の両手できゅっと包み込むように握りしめた。
真っ直ぐに、吸い込まれそうなほど純粋な瞳で、雅の目を見つめる。
「ゼ、ゼロ…?ど、どうかしたか…?」
『みやび。……おねがい。……おれを……たくさん……』
一拍置いて、首元のデバイスがゼロの思考を不器用に再生した。
『――かわいがって』
「…………は?」
執務室の空気が、一瞬で凍りついた。
雅は目を見開き、完全にフリーズしている。
後ろでは柳が「あらあらまぁまぁ……」と頬に手を当て、仕掛け人の蒼角は「あわわ、破壊力が想像以上だぁ…?!」とガタガタ震え出している。
『そうかく……おしえてくれた。……これ、あいさつ。…おれ…みやびに、いっぱい……なでなで、されたい……』
たどたどしい言葉だからこそ、ゼロの純粋な「甘え」がストレートに伝わってくる。
雅の首の向きが、ギチチチと音を立てながら斜め後ろの蒼角へと移動した。
その瞳にはホロウの悪鬼すら一刀両断する恐ろしい「圧」が籠もっている。
「……蒼角。後程道場で『お説教』だ。覚悟しておきなさい」
「ひええええ! ごめんなさい雅様ぁぁぁ!」
蒼角の悲鳴が響き渡る中、雅は深いため息をつき、握られたままのゼロの手を見つめた。
突き放そうと思えばいつでもできる。だが、ゼロの手の温もりと、自分を疑うことなく見つめるその瞳に、雅の胸の奥が妙に落ち着かなく跳ねるのだった。
「……ゼロ。お前には言葉だけでなく、いろいろと教えるべきことが山積みだな」
『? ……みやびの、て……あったかい、よ……』
「っ…!!///」
少し困ったように眉をひそめる雅の手を、ゼロは心地よさそうに、もう一度きゅっと握りしめるのだった。
星見雅はその後、定例会議があるとか何とかで執務室を出ていってしまった。いつもなら張り詰めている空気が今日ばかりはどこか弛緩していた。これも彼が居るおかげなのかもしれない。
その中心にいるのはソファーにちょこんと座ったゼロだ。
彼の目の前には、蒼角が差し出したお菓子の山と、興味津々な顔をした悠真、そして温かいお茶を淹れて微笑む柳がいた。
「ねえねえ、ゼロさん! 雅様と一緒に住み始めてしばらく経ちますけど、お家ではどんな感じなんですか? 雅様、ちゃんとご飯食べてますか!?」
蒼角が身を乗り出して尋ねる。
悠真も、手元のアローの手入れを止め、ニヤニヤとしながら会話に加わった。
「確かに気になるなぁ。あの『孤高の星見雅様』が私生活でどう過ごしてるのか。まさか家でも四六時中刀の素振りばっかりしてんのか?」
ゼロは首元の翻訳機をパタと触り、白銀の狐耳を小さく動かした。少しの間、雅と過ごす静かな家の中を思い浮かべる。
そう、あれはゼロが雅の家にやってきてからしばらく経ってからの話…
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薄暗い夕暮れ時のキッチン。
「ゼロ、危ないから私がやろう」と言って包丁を握った雅だったが、その手元はお世辞にも手慣れているとは言えなかった。
大根を切る手つきがあまりにも危なっかしく、見かねたゼロが後ろからそっと手を重ねる。
『み…やび…違う……こう、だよ』
「む……。刀を振るうようにはいかないな……(汗)」
少し悔しそうに眉をひそめる雅の横顔が、ゼロのすぐ目の前にあった。雅は家では髪を少し緩く結んでいて、いつもよりずっと柔らかい雰囲気を纏っている。
またある時は、リビングのソファでゼロが静かにアーカイブ映像を眺めている時のこと。
隣に座っていたはずの雅が突然、ゼロの細い腰を軽々と両手で抱え上げ、迷うことなく自分の膝の上へと特等席のように引き寄せた。
『みや…び……?』
驚いて耳をピクつかせるゼロを、雅は背後から包み込むように強く抱きしめる。雅の長い指先が、ゼロの白銀の髪を優しく梳き、自分と同じ形をした狐耳の付け根を丁寧に、とろけるような手つきでマッサージし始めた。
「……外では、お前をずっと見ていられないからな。家の中にいる時くらい、私の手の届く場所にいろ…」
普段の冷徹な声からは想像もつかないほど甘く、独占欲に満ちた低い声。自身の額に何度も押し当てられる雅の温かい額と、耳元で響く心地よい吐息。
ゼロが気持ちよさにうっとりと目を細めると、雅は満足そうにゼロの首筋に顔を埋め、さらに腕の力を強めて彼を自分の身体に密着させるのだった。
またある時は、ゼロがシンクで静かにお皿を洗っていると、リビングのソファでぼーっとしていたはずの雅が、足音もなく後ろから近づいてくる。そして、ゼロの背中にそっと胸を預けるようにして、長い腕をゼロの腰に回して抱きしめてくるのだ。
『みやび……? ……お皿……あらうの、じゃま……だよ』
「……少し、このままでいさせてくれ。ホロウの任務の後で、お前の匂いを嗅ぐと落ち着くのだ」
首筋に触れる雅の吐息と、白銀の髪に重なる雅の狐耳。
外では決して見せない、寂しがり屋で独占欲の強い雅の体温がそこには確かにあった。
夜、寝室のベッドでもそうだ。
枕を並べて横になると、雅は必ずゼロを自分の腕の中に引き寄せる。ゼロが少し寝返りを打って離れようとすると、雅は眠ったまま小さく眉をひそめ、さらに強くゼロの体を抱きしめ直すのだ。まるで、大切な硝子細工を誰にも奪われないように守るみたいに。
「んんぅ……」
『みや…び…?お…きて…る…?」
因みに、当たり前だがゼロと雅は別の寝具で寝ているし、そもそも雅はベッド、ゼロは布団で寝ている。
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『……みやび、いえでは……刀、もたない……もてない…』
ゼロは思い出した光景を、たどたどしい言葉でみんなに伝え始めた。
『ごはん、おれが……つくる。……みやび、家事……へた、だから。……お皿、洗うとき……みやび、うしろから……抱きしめて、くる。……ずっと、離さない』
「ぶっは! あの雅様が後ろからハグ!? 想像したら笑える、いや、ちょっと信じられねえな!」
悠真が腹を抱えて笑い、柳も隠そうとするも、我慢できず楽しそうにクスクスと笑った。
「雅様が……デレデレ……。ゼロさん、やっぱり雅様にものすごく『かわいがられて』ますね!」
蒼角が深く頷く。
ゼロは、みんながなぜそんなに驚いているのか分からず、ただ不思議そうに小首を傾げた。
羞恥心のないゼロにとっては、雅に抱きしめられることも、体温を分け合うことも、すべてが心地よくて大好きな日常に過ぎない。
『おれ……みやびの……におい、すき。……そばに、いると……安心、する。……だから……ずっと、いっしょに……いたい』
デバイスから流れるその真っ直ぐな言葉に、第6課のメンバーは温かい微笑みを浮かべた。
「――ほう。私がいない間に、随分と楽しそうな話をしていたようだな」
「ひぇっ!?」
突如、執務室の自動ドアが開き、冷徹な声が響き渡った。
そこには、予定よりも早く会議を終えて戻ってきた、星見雅が立っていた。
固まる蒼角と悠真。
『みやび……♪』
ゼロだけが、嬉しそうに耳を跳ねさせて雅の元へとトコトコと駆け寄った。雅はゼロの姿を見ると、すぐにその凍りついた表情を和らげ、彼の白銀の髪にそっと触れる。
「ただいま、ゼロ。……私の留守中、この者たちに変なことは吹き込まれなかったか?」
『ううん。……お家で……みやびが、おれを……後ろから……ぎゅって、するお話……してた』
「んっ……!?///」
雅の顔が、一瞬で耳の裏まで真っ赤に染まった。
背後で悠真が必死に笑いを堪えて肩を震わせ、蒼角が机の影に隠れる。
「ゼ、ゼロ……お前はまた私を……っ。帰るぞ。今日の夕飯の支度は、私が……いや、お前と一緒にやる///」
『ん。……いっしょに……やろうね』
真っ赤な顔のまま、ゼロの手を引いて足早に執務室を出ていく雅。
繋がれた手の温もりを感じながら、ゼロは雅の顔を見上げて嬉しそうに目を細めるのだった。
「なぎ姉……」
「え?何?」
「「雅様に何か吹き込んだ?」」
「なんでそうなるんですか!?///」
感想評価等お待ちしてます!(`・ω・´)ゞ
すり抜けって…悲しいよね(´・ω・`)キボウノハナー
金色の流星群は…主にディシアを授けてくれたのだ、いらんて。