ホロウ内部調査記録… 作:MEGATOON
え?今は使ってるのかって?シーシィアに全てを奪われたのだよ(´・ω・`)
新エリー都市の片隅にある、人によってはお馴染みの「邪兎屋」の事務所。
その日は依頼が入っておらず、だらけた空気が漂っていた。ソファに寝そべってスマホを覗いているニコと、その隣で退屈そうに尻尾を揺らしている猫又。え?ビリーはって?スターライト・ナイトの映画が何とかでどっかへ行ったようだ。
傍らで、アンビーはいつも通り、カウンターの端で動画配信端末を眺めながら、大好きなハンバーガー達を口に運んでいた。
「あーあ、それにしても昨日のエージェントたちのパーティー、楽しかったわねぇ。美味しい高級カナッペもタダで食べ放題だったし!」
「うん! 色んな男のエージェントの人たちがいて、みんなニコにお酒を奢ろうと必死だったね!」
ニコと猫又が、昨日行ってきたというパーティーの思い出話で盛り上がっている。聞き耳を立ててその話を聞いたアンビーはポテトを取る手を止め、じっと二人を見つめた。
「……質問。なぜ私をそのパーティーに誘わなかったの?私もエージェントの一員、カナッペの味には興味がある」
アンビーが淡々と、しかしどこか不満げに問い詰めると、ニコと猫又は一瞬ピタッと動きを止めそれから顔を見合わせた。そして、息を合わせるように揃ってこう言ったのだ。
「「だってアンビーって、男と関わりなさそうだもん」」
「……え?」
アンビーの眉がピクリと跳ねる。
「そうよアンビー。あんた、普段の頭の中
『映画・ハンバーガー・任務』
の3択じゃない。男っ気なんてミジンコほどもないんだから、あんな華やかな出会いの場に連れていっても、どうせ隅っこでポテト食べてるだけでしょ?」
「そうそう! アンビーに男の影なんて、あたしの勘が1ミリも察知しないもんねー」
二人の容赦ない言葉が、アンビーの胸に突き刺さる。
いつもなら「合理的ではない」と聞き流すところだが、今日に限ってはなぜか、胸の奥でカッチーンと何かが弾ける音がした。
「……見くびらないでほしい。私にだって、それくらい」
「それくらい、なーに?(笑)」
ニヤニヤと笑うニコ。
完全に煽られたアンビーは、ついうっかり、自分のキャパシティを超える大嘘を口にしていた。
「――わ、私にだって、彼氏の一人くらい……いる…!!毎日連絡を取り合って、手を繋いでデートをするような相手が、ちゃんといる…!!」
「「ええええええっ!?!?」」
事務所内に、ニコと猫又の絶叫が響き渡った。
◇
「……やってしまった」
邪兎屋の事務所を飛び出したアンビーは、六分街の路地裏で一人、頭を抱えていた。
勢いで「彼氏がいる」なんて言ってしまったものの、よくよく考えなくても自分にそんな親しい男の知り合いはいない。プロキシのアキラの顔が浮かんだが、アキラを連れていけばニコたちには一発で「アキラに無理を言って身代わりにしてもらった嘘」だと見破られてしまうだろう。
「……浅はかだった。映画のヒロインなら、ここで完璧なアリバイを用意しているはずなのに」
どうにかしてニコたちを見返したい。でも、頼れる男の宛なんて――そう思い詰めたとき、アンビーの脳裏に、ある一人の青年の姿が浮かび上がった。
……確かにいた、アンビーが好意を寄せ、毎日連絡を取り合って…手を繋ぐ…とかはしてないけど…デート?(アンビーが強制的に連れて行く)をする人が。
「シウバ…」
まだ自分が邪兎屋に拾われたばかりの、右も左も分からなかった頃。エージェントとしての実戦の動きから、この街のちょっとしたルールまで、ぶっきらぼうながらも根気強く教えてくれた、実質的な先輩に位置する人。
アンビーは邪兎屋に加入してからも、シウバと毎日欠かさず連絡を取り続けている。
尚、会話は殆どアンビーからで、内容は
「ハンバーガーの試食に付き合って」
というもの。コレがアンビー曰くデートなのだそう。
だが、そうゆうことができるほどアンビーとシウバは仲がいい。
……しかし彼は今仕事中ではないだろうか、こんな突拍子もないことで連絡していいものか、アンビーの指が画面の上でピタリと止まる。
しかし、ここで諦めればニコたちに一生「男っ気がない」とからかわれ続ける。
気づけばアンビーは
『シウバ、急ぎの案件がある。…今すぐ六分街のカフェに来てほしい、重要な作戦会議。』
と、まるでホロウの緊急任務かのようなメッセージを打ち込み、送信ボタンを押していた。
メッセージを送ってから15分。お気に入りのハンバーガーショップののテラス席で待つアンビーの手元には、すでに空になったフライドポテトの袋が2つ転がっていた。
緊張のせいか、いつもよりポテトを食べるスピードが早い。
(もし、断られたら……? そもそも、今さらシウバを巻き込むなんて、合理的ではないかもしれない…イヤじゃないかな…)
そんな不安が胸を過り、残りのポテトに手を伸ばそうとしたその時。
「アンビー、緊急案件って何事だ?そんな怖い文面送ってきたら、何かに襲われてるのかと思うだろ」
聞き馴染みのある、少し低くて落ち着いた声。
振り返ると、少し息を切らせたシウバがそこに立っていた。本当に急いで駆けつけてくれたのか、髪が少し乱れている。
「……シウバ」
彼の姿を見た瞬間、不思議とそれまでの焦りがすっと引いていくような、妙な安心感がアンビーを包んだ。それと同時に、これから頼むことの恥ずかしさが一気に押し寄せてくる。
「来てくれてありがとう…シウバ…!!非常に、個人的かつ重大な頼みがある…」
アンビーはいつになく真剣な、まるで高難度のボスに挑むような引き締まった表情で、対面の席を指さした。
「なんだよ改まって。いつものおすすめバーガーの試食付き合えって話じゃないのか?」
怪訝そうな顔をしながらも、シウバは大人しく対面の席につく。
アンビーはごくりと唾を飲み込み、机に両手を突き出してシウバの目をまっすぐに見つめた。
「ニコたちを見返すまででいい。お願い……私の彼氏のふりをしてほしい」
「……は?」
今度はシウバが、完全にフリーズする番だった。
「……アンビー、お前、自分が何を言ってるか分かってるのか?」
カフェのテラス席で、シウバは頭を抱える。
一方、すました顔で対面に座るアンビーは、至って真面目な顔で最後の一本のフライドポテトを口に放り込み、咀嚼してから淡々と言った。
「当然、私はいたって冷静。ニコたちの『男と関わりがなさそう』という偏見を修正するには、やっぱりシウバに協力してもらうしかない。私に色々教えてくれる先輩としての義務、あるいは情に期待する」
「いや、彼氏のふりは【義務】に含まれないだろ……」
呆れるシウバだったが、アンビーのまっすぐな瞳を見つめていると、どうしても昔から放っておけない性質が頭をもたげてしまう。結局、シウバは大きくため息をつき、「……今回だけだからな」と不器用そうに髪を掻いた。
◇
「……連れてきた」
邪兎屋の事務所のドアが開き、アンビーがシウバの腕をがっしりと掴んで入ってきた。
ソファでくつろいでいたニコは、飲んでいたコーヒーを盛大に吹き出し、猫又は驚きのあまりソファの背もたれの上まで飛び上がった。
「ちょっ……本気だったの!?!? え、シウバ!?なんでアンビーと腕なんか組んで…え? まさか本当に付き合ってるの!?」
シウバとニコには面識があった。ニコが目を丸くして二人を交互に見つめる。シウバは引きつった笑みを浮かべながら、「ああ、まあ、そういうことだ。少し前からな」と、事前に合わせた口裏通りに答えた。
しかし、百戦錬磨の修羅場(笑)をくぐり抜けてきたニコがそれで納得するはずもなかった。ニコはフッと不敵な笑みを浮かべ、二人の前に歩み寄ると、腕を組んでジロジロと観察し始めた。
「ふーん……怪しいわね。アンビーが男と付き合うなんて、にわかには信じがたいわ。いい? 口先だけならなんとでも言えるのよ。本当に付き合ってるって言うなら、それらしいことをここで証明してみせなさい!」
「……それらしいこと、とは?」
アンビーが首を傾げる。
「デートよ、デート! 毎日べったり一緒に過ごして、同じ家に帰るくらいの熱烈なやつ! あんたたち、まさかデートの1回もしたことないなんて言わないわよね?」
「それは……」
シウバが言葉に詰まると、アンビーがすかさず一歩前に出た。
「問題ない。映画のデータによれば、深い関係にある恋人同士は『同棲』という選択肢をとる。……シウバ、私たちの関係を偽物だと疑われないためにも、しばらくの間、私と寝食を共にしてもらう」
「は!? 同棲!?」
シウバの驚愕の声を置き去りに、アンビーはニコに向かってフンと胸を張った。
「これで文句はないはず。私たちは今日から一緒に暮らす。完璧な恋人として」
こうして、ニコたちを見返すための「偽装恋人」計画は、なぜか「同棲生活」という予想外の超スピード展開へと突入することになってしまった。
(えぇ…冗談のつもりで言ったのに…(汗))
(アンビー、必死だにゃ…(汗))
2人には既に偽装ということを見透かされていたが…
「同棲」という名目でシウバがアンビーの部屋に移動してからというもの、夜にアンビーはリビングのソファの端に座り、持参した古い恋愛映画のDVDパッケージを指先でなぞっていた。その視線はテレビ画面ではなく、不自然に固定されている。
「シウバ。質問がある。映画によると、同棲を開始した男女は、同一のソファに交互に座り、お互いの体温を共有するのが一般的とされている。……このデータの信頼性について、どう思う?」
「(この質問何回目だ…?)さぁな。だけど休みだし、一緒に観るか」
シウバが隣に腰を下ろした瞬間、アンビーの肩がわずかに跳ねた。いつもとは違う、私服のシウバから漂う香りに、胸の奥のセクターが奇妙に圧迫される感覚を覚える。
アンビーは膝の上のクッションを抱え直すと、じり、じりと、ほとんど隙間のない距離までシウバの方へ体をスライドさせた。
「……アンビー? なんでそんなに密着してくるんだ?」
「これは、ニコたちの目を欺くための実戦訓練。いつでも恋人として自然なパーソナルスペースを維持できるよう、事前に環境に心身を適応させておく必要がある。……論理的な判断///」
淡々と言い放つアンビー。しかし、至近距離にある彼女の耳の先端は、完全に赤く染まっていた。
「ふーん、訓練ね」
自分の予期せぬ挙動により、アンビーの頭がシウバの肩にすっぽりと吸い寄せられる。衣服越しに伝わるシウバの規則正しい鼓動の音が、アンビーの聴覚センサーに直接響いた。
「シウバ、これ、は、密着度が規定値を越えている……///」
「(お前から来たのに…(汗))訓練なんだろ? ほら、映画に集中しろ」
負けじとアンビーは空いた方の手で、シウバの細い指先をすくい上げ、指を一本ずつ絡めるようにして深く、優しく手を繋いだ。
「っ…う、くぅ…///」
アンビーの思考演算が一時的にフリーズする。
シウバの手は、予想以上に体温が高い。いつも冷静なはずの瞳が、わずかに潤みを帯びていく。
テレビ画面の中では、男女が親密な接触を交わしていた。何がとは言わないが。アンビーは繋がれたシウバの手をぎゅっと握り返し、消え入りそうな声で呟いた。
「…シウバ。恋人の定義について、追加の確認を要求する。理由がなくても、このようにずっと触れていたい、より接近したいと思う感情のことを指すのだろうか。だとしたら、現在の私の心拍数、および体温の上昇は……極めて、異常…」
アンビーは赤面しながら続けた
(胸の奥が、融解しそうなほど熱い。……これは部屋の空調の故障でも、フライドポテトの摂取による糖分の影響でもない。シウバという存在が……私にとって、特別になっているから…?)
シウバが愛おしそうにアンビーの髪を優しく撫でる。
偽物のはずの「恋人のふり」。だが、その温もりに触れるたび、アンビーのシステム内の演算はすべて「このまま本物の恋人になりたい」という結論へと書き換えられていく…
(でも…この気持ち…私だけ…?)
尚、ニコがアンビー達が同棲していることを、目撃すること以外で知る方法がないことに気付いたのは1週間後だった。
「ちょっとアンビー! あんたの彼氏、最高にイケメンで気が利くじゃない!」
邪兎屋の事務所。ニコがソファーを叩きながら、上機嫌で声を張り上げていた。
隣では猫又も
「うんうん、アンビーだけじゃなくあたしにもポテトの新作を山ほど差し入れしてくれるなんて、あたし的にも満点だにゃ!」
と同意している。
まぁ十中八九「アンビーには黙っててくれ、頼む」と言う意味を込めてなのだろうが…
とは言えシウバが「偽装同棲」の合間に届けてくれた限定バーガーが、ニコ達へ効果テキメンなのは事実だった。
「……当然。シウバの行動は、常に私の予測の上を行く。優秀なパートナーだから」
アンビーは淡々と答え、いつものようにフライドポテトを口に運んだ。
しかし、その味はなぜか、いつもより感じられない。
目的を達成したということは、シウバとの「恋人ごっこ」も、そのための同棲生活も、すべて終了することを意味している。その事実に気づいた瞬間、アンビーの胸の奥が、冷たくフリーズしていくような感覚に襲われた。
◇
その日の夜。シウバの部屋に戻ると、リビングにはすでに、シウバが持ってきた荷物が綺麗にまとめられていた。
「ニコたちも完全に信じたみたいだな。これで任務完了だ。お疲れ、アンビー」
シウバはいつも通りの優しい笑顔で、アンビーの頭を軽く撫でた。その手の温もりすら、明日からは「普通の同僚」という元の距離感に戻ってしまう。
「……あの…シウバ…?」
アンビーは荷物のバッグの紐をぎゅっと握りしめたまま、床を見つめた。
「偽装工作という契約が満了した場合、この部屋の鍵を返却し、元のパーソナルスペースに戻るのが論理的……でも私のメインシステムが、その結論の実行を完全に拒否している。これは、何のバグ…?」
「え?アンビー?」
「嫌だ。元の関係への帰還を………き、拒否する…!!契約の更新、あるいは………え、永久的なものへの書き換えを要求したい……!!」
感情を抑えきれず、アンビーの声がわずかに震える。
いつも冷静な彼女が、初めて見せた明確な感情の乱れ。
「えっ…し、シウバ、わ、私は……」
言いかけ、しかしアンビーはそれ以上言葉を紡ぐことができず、荷物を抱えたまま部屋を飛び出してしまった。夜の新エリー都市の冷たい風が、赤くなった頬を叩く。
逃げ出したいわけではない。ただ、自分の胸の中で暴れているこの「本物の感情」を、どうやってシウバに伝えたらいいのか、彼女の優秀な頭脳をもってしても、どうしても最適な演算が立たなかった。
ネオンの光が冷たく街を照らす中、アンビーはかつてシウバとよく待ち合わせをした高台の公園にいた。
手元にあるスマートフォンの画面を見つめる。シウバからの着信履歴が何度も点滅していたが、それに応じるだけの論理的な言葉を、彼女はまだ構築できていなかった。
(怖かった…だから…また、言えなかった。昔からそう…私は…)
怖い、嫌だ、そう言われるのが。
冷たい夜風が髪を揺らす。諦めて荷物を持ち直そうとしたその時、背後から激しい足音が近づいてきた。
「アンビー……っ! 探したぞ、急に飛び出すから……」
息を切らせて現れたのは、他でもないシウバだった。
本当に急いで来てくれたのだろう。彼の肩は大きく上下し、額には汗が浮かんでいた。
「……シウバ。どうして、ここが分かったの…?」
「お前が迷った時に行く場所なんて、昔から一つしかないだろ。一体どうしたんだよ、急に」
シウバが心配そうに一歩近づく。アンビーはその場から動かず、ぎゅっと両拳を握りしめた。胸の奥の鼓動が、かつてないほどの高出力を記録している。これ以上のエラーを放置することは、エージェントとしても、一人の人間としても不可能だ。
今度こそ、と体に鞭打ってアンビーは深く息を吸い込み、シウバの目をまっすぐに見つめた。
「……やだ」
「……あ?」
「ニコたちへの偽装工作は完了した。でも私のシステムは関係の破棄を断固として受け付けない…
……私は、フライドポテトよりも、古いアーカイブ映画よりも、シウバのことが……ん……その……好き……///」
いつも冷静なアンビーが、顔を林檎のように真っ赤に染め、瞳を潤ませながら必死に言葉を紡ぐ。
「だから……ふりではなく、本当に、私の彼氏になってほしい……駄目…?」
静寂が公園を包み込む。アンビーは拒絶される恐怖に身を硬くした。次にアンビーが感じたのは頭に温かい何かが乗っかる感触…
「…変わったな…お前も」
「え……?」
シウバが一歩詰め、アンビーの小さな手を再び包み込んだ。あの同棲生活の夜と同じ、温かくて大きな手。
「俺には、お前の気持ちを無下にできない」
「……! データの整合性を確認。シウバのセリフは、私の最大の願望と一致する…!」
アンビーの顔に、ようやくいつもの、しかしどこか照れくさそうな笑みが浮かんだ。彼女は繋がれた手をさらに強く握り返し、シウバの胸元に一歩、にじり寄る。
「コレで嘘じゃなくなったな」
「うん……あと、シウバ。お願い…」
「その…映画によるとね――///」
何かを言い切る前に、アンビーはシウバの顔を両手でつかみ、自分の方へ引き寄せる。二人のいる公園の地面には一切途切れる事なく密着した影が映っていた。
なんか配布来るらしいね、ゲーマーに寛容な心を示してくれるホヨバ、主は嬉しいよ(●´ω`●)
シトラリ引けなかったンゴ…(泣)(´・ω・`)