初代虚狩りだった元カノと百年ぶりに再会したら、未練たらたらな指名手配犯になっていた件   作:you are not

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謎の幻覚見過ぎて気づいたら深夜に書きなぐってました。

※本作にはかなり独自設定を加えています。

本作のアキラは百年前を生きた人間であり、とある出来事によってご都合主義的に現代に蘇生されたという設定です。
その都合上、リンちゃんと血がつながってない設定です。

ご了承ください。


再会する二人

 

 人は死んだら終わり。

 

 少なくとも、百年前の僕はそう信じていた。けれど、何事にも例外と言う者はある。なにせ、僕がその特例の一人だから。

 

 

 今からだいたい百年前。まだ旧エリー都‥…今では旧都と言うべきかな?とにかく、その都市が設立される数年前。

 

 当時の僕は、まだ一人の軍人として生きていた。

 

 杖の軍所属、アキラ。階級は少尉。初代虚狩りの副官として各地を転戦し、人類生存圏最前線――ダークウォールで幾度となくエーテリアスと相まみえた。

 

 ……そう。僕は百年前の人間だ。

 

 なぜそんな人間が、現代の新エリー都にいるかって?答えは単純だよ。僕は一度死んでる。

 

 最後は、確かどこかのホロウの中。殿として、仲間を逃がすために命を落とした。正直、当時のことはよく覚えていない。覚えてことと言えば、全身を焼くような激痛と、崩れ落ちる瓦礫。それから、どうしようもなく襲ってくる後悔の念。

 

 

――そこで僕の人生は終わる、はずだった。

 

 

だから目を開けた時、自分でも何が起きたのか理解できなかった。

 

 見知らぬ天井。

 

 薬品の匂い。

 

 白衣姿の女性。

 

 まるで、彼女に無理矢理見せられたホラー映画の世界に迷い込んだような気分だったのを覚えている。

 

『聞こえますか?』

 

 そう声を掛けてきた人物こそ、僕をこの時代へ引き戻した恩人――カローレ先生だった。

 

 先生によれば、僕は百年前に死亡した人間。そして、遺伝子情報の一部と当時の記録を基に新たな肉体を再構築し、蘇生実験を行った結果、偶然にも成功した。

 

 成功したのは肉体だけで、本来なら人格も記憶も存在しないはずなんだけれど……。

 

 

『レミエール中佐は……無事なんですか』

 

 我ながら女々しいことに、ヘーリオス研究所で目覚めた僕が最初に口にした言葉は、それだったらしい。

 

 記憶は、一つ残らずきっちりと残っていた。どうして魂まで戻ったのか。それは先生にも分からなかった。当然、僕にも分からない。

 

 

 これが奇跡なのか、エーテルによる超常現象なのか、それとも全く別の何かなのか。結局、その答えは今も見つかっていないし、わからないけれど。ただ一つ確かなことは、僕は百年前の記憶を持ったままこの時代を生きることになったということ。

 

 

 それから、僕はカローレ先生の死や旧都陥落を経験しながらも……現在は、妹になったリンと共に『パエトーン』として新エリー都で暮らしている。

 

 今の僕にできた新しい家族に、新しい仲間。そして、新しい人生。それらを抱えて、生きる今はめまぐるしくて過去に後ろ髪を引かれる暇なんてなかった。

 

 だからこそ、僕は百年前のことはとっくに過去のことなんだと思い込むことにした。

 

――僕は、彼女と二度と会うことはないのだと思っていた。

 

 


 

 

 そんなある日、リンの目に埋め込まれたインプラントの拒絶反応が悪化し始めた。原因は、インプラントが冗長データを処理しきれなくなったことによる拒絶反応だった。

 

 そんな折、突然うちのビデオ屋を訪ねてきたノルムーとヴェリナという二人の女性が、一つの希望を持ってきた。

 

 フリンツ合金という特殊金属。エーテルに対する並外れた安定化作用を持つその金属には、どうやらリンの症状を緩和する性質があるらしい。

 

 そして幸運にも、そのフリンツ合金で作られた音動機が、サバイバル大会『ホロウ・ザ・ヒーロー』の優勝賞品として用意されていた。

 

 こうして僕とリンは、知り合いの『邪兎屋』にも誘われたこともあり、大会へ参加することを決めた。

 

 

 そうして、大会当日。新エリー都のルミナスクエアにある会場には、受付開始前だというのに長蛇の列となっていた。

 

 

「わかった。ありがとう……とはいえ、ずいぶん並んでいるみたいだ」

 リンと一緒に受付のための説明を終え、肝心の支払いの列の最後尾を見つめながら、僕は小さく肩をすくめる。

 

 

「リン、僕が列に並んでおくから、君は賞品の音動機を見てきたらどうだい?」

「え? いいの?」

「あぁ。その方が時間を有効に使えるだろう?」

「じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな!」

 リンは嬉しそうに笑うと、軽く手を振って人混みの中へ駆けていく。その背中を見送り、列の最後尾へ並ぶ。

 

 待ち時間は思ったより長かったけれど、ようやく支払いを終えられた。

 

 

「お兄ちゃんー!」

 リンと合流するため辺りを見回していると、聞き慣れた声が飛ぶ。

 

 こちらも手を振り返していると、手を振るリンの隣にはもう一人、ピンク色の髪をした女性が立っていたのに気づいた。

 

 

「待たせてしまったみたいだね、リン」

「ううん、気にしないで大丈夫」

 そう答えながら二人へ歩み寄るとリンが嬉しそうに口を開いた。

 

 

「ラミルと話してたからあっという間だったかも」

 そういうと、リンは横に逸れて、ピンク髪の女性と顔を突き合わせる。

 

 

「……ぇ?」

 ラミルと呼ばれた女性が、ゆっくりとこちらを向く。

 

 儚いルビーのような瞳が、大きく見開かれると、僕もまた、息を呑む。見間違えるはずがない。瞳も、その艶やかな髪も。百年前、何度も隣で見てきた横顔も。

 

 彼女もまた、信じられないものを見るように目を見開いていた。

 

 

「レミエール……」

「……!アキラ、さん?」

 名前を呼びあっても、まだ唇が小さく震える。

 

 百年前に死別したはずの彼女が、今、僕の目の前に立っている。

 夢じゃないのなら――奇跡としか思えなかった。

 

「え?何?お兄ちゃんの知り合い?」

 リンがきょとんと首を傾げては、不思議そうに僕たちを見比べる。

 

「……昔の知り合いさ」

「うん。私も久しぶりに会ってびっくりしちゃった」

 そう答えると、レミエールもすぐに話を合わせてくれた。笑顔はいつもの柔らかいものだったけれど、瞳だけは少し揺れている。

 

「へぇー!」

 リンは感心したように目を輝かせた。

 

「でも、お兄ちゃんの昔の知り合いなんて初めて聞いたかも」

「話す機会がなかったからね」

 

 実際、嘘じゃない。百年前のことなんて、誰にも話したことはなかった。もっとも、言っても信じてはくれず、映画の見過ぎだと言われるのがオチだろうけれど。

 

 

「ねえ、アキラさん」

 レミエールが一歩前へ出て、自然な仕草で僕の腕を胸に抱き寄せる。

 

「少しだけ、時間もらってもいい?」

 その目は、話がしたいと切実に訴えかけてきていた。

「もちろんだとも。他ならぬ、君の頼みだ」

 言ってから、しまったと思った。

 

 百年前なら何の違和感もない言葉だったけれど、今は違う。

 

「……え?」

 案の定、リンがきょとんと僕を見る。

「他ならぬって……昔の知り合いってレベルじゃなくない?お兄ちゃん、その人とそんなに仲良かったの?」

 

「……あ」

「ふふっ」

 レミエールも一瞬だけ目を丸くしたあと、小さく吹き出す。

 

「そういうところ、全然変わってないんだね」

その笑顔はどこか嬉しそうで、僕は誤魔化すように咳払いをするしかなかった。

 

「……昔、少し世話になってね」

「ふーん」

 リンがジト目でこちらを見て来るのを僕は必死で目を逸らす。

 

「そういう訳だから、君のお兄さん借りていくね?」

「なんか納得いかないけど……わかった。先に帰るね、お兄ちゃん」

「あぁ。そうしてくれ」

 

 

 そうして、僕たちは肩を並べて歩き出す。

 

 言いたいことは山ほどある。聞きたいことも、きっとお互い同じくらいある。それなのに、しばらく誰も口を開かなかった。百年という時間は、それほどまでに長かった。

 

 今更ながら、フリンツ合金音動機を見たリンの感想を聞くのをすっかり忘れていた。まぁ、家に帰った後でゆっくり聞くとしよう。

 

 


 

 

 ルミナスクエアの喧騒から少し離れたオープンカフェは昼下がりということもあり、店内はほどよく賑わっている。

 

 僕とレミエールは窓際の席へ腰を下ろした。

 

「……」

「……」

 互いに言葉が出ない。当然だ。何せ、僕たちがそういう仲だったのは百年も前のこと。いや、彼女はともかくとして、僕の体感からすれば十年っぽちに過ぎないけれど。

 

 少なくとも前なら、隣に座ることなど当たり前だったはずだ。それなのに今は、テーブル一枚の距離さえ妙に遠く感じる。

 

「あの……ご注文は?」

 重苦しい空気の中、店員が恐る恐る注文を取りに来る。

 

「あ、じゃあ私はタピオカミルクティー」

「僕はコーヒーを」

 メモを取ると店員が去っていく。再び沈黙に逆戻りしてしまう。

 

「……ターン制バトルしよ?」

 だが、そんな静けさを破ったのは、彼女の方だった。普段の余裕なんて消えたその一言には、責めるような響きは感じられない。ただ、すがるような、求めるような提案。

 

 

「いいとも。何から聞きたい?先手は譲ろう」

「じゃあさ……何で生きてるの?」

 酷く、真っ直ぐな問いだった。

 

 遠回しな言い方も、探るような口調もない。再開してからずっと、胸の奥に抱え続けてきた疑問を、そのまま口にしただけの純粋な問い。

 

 僕は小さく息を吐く。

 

「……先生のおかげさ」

「先生?」

「百年前、僕は確かに死んだ。君が知っている通りにね」

 レミエールは静かに頷く。真剣な表情は、百年前と何一つ変わっていなかった。

 

「十年前、その人物が僕を蘇生した。本来は記憶も人格も残らないはずだったらしい」

 僕は肩を竦める。

 

「どういう訳か、僕自身が戻ってきてしまった」

 そのタイミングで、コーヒーが運ばれてくる。

 

「理由は先生にも分からなかった。だから僕にも分からない。奇跡なのか、エーテルの悪戯なのか、それとも別の何かなのか」

 

 店員は気まずそうにカップを置くと、そそくさと立ち去っていった。

 

 

「今度は僕のターンだ」

 僕は一口だけ口を付けるとカップを置き、彼女を見る。

 

「君は?どうして生きてるんだい、レミエール」

「やっぱり来るよね、その質問」

 苦笑するその笑みはどこか寂し気に見える。

 

「ごめんね」

 彼女はぽつりと呟くと口を閉ざした。

 

「言えない?」

「うん」

 彼女はタピオカミルクティーを両手で包み込むように持ちながら、小さく頷いた。

 

「……わかった。なら、この質問はなかったことにしよう」

 その言葉に、レミエールは目を丸くすると、静かにほほ笑んだ。

 

「ほんと、君は変わらないんだね」

「誰かさんが、変わらないからね」

 レミエールはタピオカを一つ吸い上げ、小さく笑う。

 

「じゃあ、次は私。今は何してるの?」

「ビデオ屋の店員さ」

「へぇ?」

 思わず吹き出すレミエール。

 

「しばらく会わないうちに、そんな真面目な顔で冗談言うようになったんだ」

「冗談じゃないさ。表向きは本当にビデオ屋をやっているよ。ただ、裏ではリンと一緒に『パエトーン』という名前でプロキシをしてるけれどね」

 その言葉に、レミエールの表情が少しだけ柔らかくなる。

 

「そっか……家族、できたんだね」

「そうだね。先生が残してくれた、大切な妹だ。血のつながりなんて関係なく」

 自然と頬が緩む姿を見たレミエールはどこか安心したように微笑む。

 

「私ね、アキラさんがいなくなってからずっと一人だったから。ちょっと羨ましい」

「レミエール……」

「だから、次も私のターンね?」

「二ターン連続は反則じゃないかな」

「ふふ、再会ボーナスだよ」

 彼女は話題を切り替えるように笑う。

 

「どうしてこの大会に出るの?」

 僕は迷わず答えた。

 

「リンのために賞品のフリンツ合金製音動機が必要なんだ。目のインプラントに不調が出ていてね、それを治したい」

「……そっか」

 レミエールは静かに頷く。

 

 そして、少しだけ困ったように笑った。

 

「私もね、それが狙いなの」

「……え?」

「戎具を取り戻すために必要なんだ」

 その答えに僕は、思わず笑ってしまう。

 

「譲れない理由があるんだね」

「悲しいけど、今回は競争相手かな」

「いや、君を敵だと思ったことは、一度もないよ」

 レミエールは、タピオカミルクティーをテーブルに置くと口元を隠す。

 

「やっぱり昔より口がうまくなったね。そんなこと言われたら、昔の私なら簡単に騙されちゃうかも」

 

「……」

 しばらくの沈黙のあと、僕は静かに口を開く

 

「……レミエール。君には、君のやるべきことがある」

 彼女は黙り、僕を見つめる。

 

「僕にもある」

 

 リンのこと。そして、カローレ先生の無実を証明すること。

 どれも今の僕には、投げ出せないものだ。

 

「だから……」

 

 一度言葉が途切れる。けれど、告げなければならない。

 

「百年前みたいに、一緒にはいられない。少なくとも、今は」

 その一言に、レミエールはゆっくり目を閉じる。

 

「……そうだね」

 やがて納得したように頷く。

 

「そういう答えになるって、なんとなく分かってた」

 笑っている。笑っているのに、その笑顔は、どこか泣きそうだった。

 

「だから、その先は全部終わってからにしよう」

 だから彼女に言ってやれることをここで言っておく。

 

「絶対なんて無責任なことは言えない。それでも、また続きを話せる日が来るまで待っていてほしい」

「……しょうがないなぁ、待っててあげる」

 

「君って昔から、そうやって私にお願いしてきたもんね」

 彼女の返答を聞き、僕はテーブルの上へ代金を置く。

 

「ごちそうさま、二人分のお代置いておくよ。お釣りは取っておいてくれ」

 そう言って席を立つ。

「いいの?」

「奢るくらいわけないさ……あと」

 僕は少しだけ振り返る。

 

「このお店のセルフレジは使わず、ちゃんと店員さんを呼んで支払うんだよ」

「…………」

 一瞬、彼女はぽかんとした顔をした。

 

「ふふっ、気を付けるね先生」

「そうしてくれ、百年たっても消えない前科持ちだからね」

 そう言って僕は店を出た。

 

 一度も振り返らない。振り返ったら、きっと離れられなくなるから。

 

 

 店のドアが閉まる音だけが響き、彼がいなくなったことを意識させられる。

 

「…………」

 レミエールは動かない。

 

 視線の先には、まだ湯気の立つコーヒーカップ。

 少しだけ迷ってから、それを手に取った。

 

「……苦」

 

 思わず顔をしかめる。

 

 ブラックなんて、昔から苦手だった。

 

 それなのに、百年前も、今も、彼の飲みかけだけは、不思議と最後まで飲めてしまう。

 

 

 唇をつけた場所へ、自分の唇を重ねる。まるで、間接キスなんて気にする歳でもないのに。それでも、そんなことをしてしまうくらいには。

 

「ほんと―――」

 

「……いやだなぁ。」

 

 ぽつりと漏れた本音は。

 

 賑やかなカフェの喧騒に、静かに溶けていった




湿度マシマシ独占欲カラシのレミエールさんです。

久しぶりにハーメルンで書くとなんかやりずらいね。
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