初代虚狩りだった元カノと百年ぶりに再会したら、未練たらたらな指名手配犯になっていた件 作:you are not
日間六位まで行きました。評価やコメント、誤字報告してくださった方々のおかげです。ありがとうございます。
「……まさか」
レミエールが嫌な予感に眉をひそめた瞬間、ピュロイスはリンの細い腕で、レミエールの手首をがしりと掴む。
「えっ、ちょっと――」
『来い』
有無を言わせぬ一言で、ピュロイスはレミエールを引っ張りながら強引に歩き出す。
「ちょっと待って! 私にも心の準備が――」
レミエールは抵抗するように足を止めようとする。
『ほぅ、ではそれはいつ決まる』
「それは……明日?」
『明日か、それはいつの明日のことを言っているのだ?』
ピュロイスは呆れたように返すと、リンの華奢な身体とは思えないほどの力で引かれ、身体が前へと引きずられた。
「うそ……っ!」
慌てて黒い翼を大きく広げる。
「ごめんね、リンちゃん!」
無数の白い羽根が夜空へ舞い上がり、ピュロイスを包み込む。
対象のエーテルを固定し、動きを封じるレミエールの固有能力。百年前から幾度となく戦場で仲間を救い、敵を封じてきた切り札だった。
『フン。』
だが――黄金色の瞳が細められる。
すると、白い羽根は黄金色のエーテルに包まれて霧散した。
「……そんな」
レミエールの表情が一瞬で凍り付く。こんな簡単に打ち破れるものではないからだ。
『フン。我を誰だと思っている。戎具を携えた貴様ならまだしも、今の貴様では我は縛れぬ』
その言葉にレミエールは思わず苦い顔をする。思えば、ピュロイスはアキラと共に戦ってきたことでその力が強くなっていた。恐らくそのせいで出会ったばかりの頃のように、自分の能力である程度は抑え込めなかったのだろう。
『では行くぞ。すぐ行くぞ』
「ま、待って!」
『待たぬ。貴様の時が止まろうと、我は待たぬ』
リンの身体でありながら、容赦なくレミエールを引っ張る。
「せめて心の準備くらいさせてよ!」
『不要だ。どうせ日の出をみる方が速かろう』
「ひどくない!?」
半ば引きずられるようにして、レミエールは宿へ向かうしかなかった。その表情は、歴戦の虚狩りとは思えないほど焦りに満ちていた。
「アキラさん……絶対びっくりするよ、これ……」
レミエールがいなくなった後の夜。
花瓶へ飾られた花をぼんやり眺めながら、僕はベッドへ腰を下ろしていた。
「……」
さっきまでの時間で色々ありすぎた。
レミィと再会して、思わず抱き締めて。思いのたけを全部吐露するだけして、また逃げられた。
「……また、やってしまったな」
頬を掻きながら、小さく苦笑する。
もっと落ち着いて話すつもりだったはずなのに、気付けば感情が先に出てしまっていた。
彼女は今頃、何を考えているのだろう?
そんなことを思いながら、ベットに横になって静かに目を閉じた―――
―――ドンッ!
突然、部屋の扉が勢いよく開かれる。
「――っ誰だ!?」
反射的にベッドから飛び起き、枕元へ置いていた剣へ手を伸ばす。
視線の先には、青髪の少女がいた。すぐに誰かわかった。
「リン!?いや、君は………」
それにしては雰囲気が異なることに違和感を覚え、眉を細める。だが、その後ろから、半ば引きずられるようにレミエールが姿を現したことでそっちに意識が行ってしまう。
「ちょっ、待ってってば!」
「レミエール!?」
まったく状況が理解できない。なんで二人が一緒にいる?
しかも、リンがレミィの手を引っ張っている?
「どういうこと――」
問い掛けようとしたその時、リンが黄金色に染まった瞳でゆっくりとこちらを向く。
その眼差しを見た瞬間、僕は息を呑んだ。
「……まさか」
忘れるはずがない。百年前、幾度となく共に戦ってきた彼だとすぐに理解した。
『久しいな』
リンの口が静かに開く。だが、声は異なる。
聞き慣れた、古風な喋り方。
『このような再会、夢にも思わなかったか?我が半身』
その一言で確信した。
「……ピュロイス」
『フン。ようやく気付いたか』
リンの身体のまま、ピュロイスは腕を組む。
その隣では、レミエールが気まずそうに目を逸らしていた。
「……説明してくれ」
「えぇっと……どこから話した方がいいかな?」
『黙っていろ』
レミエールの言葉を、ピュロイスが一蹴する。
『貴様から話せば、また遠回りになる』
黄金色の瞳が、真っ直ぐ僕を射抜いた。
『まず貴様に説教だ』
「……なんだって?」
『この娘の体を通じ、貴様らの様子はつぶさに見ていた。今、我は不満で満ちている。』
「その前に僕から聞かせてもらいたいことがある」
アキラは一歩前へ出る。
「なんでリンの身体を勝手に使ってるんだ」
『……』
「それに、リンが苦しんでる原因は君だろう?』
『その通りだ』
「君を恨んでるわけじゃない。でも、このままじゃリンは──」
『それで終わりか?』
そこでピュロイスが遮ったことで、部屋の空気が張り詰める。
アキラは剣から手を離してはいたが、その青い瞳は一歩も引いていなかった。対するピュロイスもまた、黄金色の瞳で真っ向から見返している。
「ちょっと二人とも!」
耐えきれなくなったレミエールが慌てて二人の間へ割って入る。
「喧嘩しに来たわけじゃないでしょ?」
両手を広げ、一人ずつ見回す。
「アキラさんも!ピュロイスも!一回落ち着いて!」
二人は何も答えない。ただ視線だけがぶつかり合う。
「もう……何かあるとすぐに喧嘩するんだから」
レミエールは思わず額へ手を当てた。
「ピュロイスが僕のお菓子を勝手に食べたのとはわけが違うだろ?」
『フン。』
ピュロイスは鼻を鳴らす。
『では我も問おう。我が好き好んで、この娘の内に留まっていると思うか?帰れるものなら、とっくに我が半身のもとへ帰っている』
その一言で、僕は言葉を失った。
「確かに、その通りだ」
ピュロイスがリンの中にいるのは、自分の意思ではない。戻れるなら、とっくに僕のところへ戻っているはず。
「すまない」
短く謝る。
「リンのことになると、どうしても冷静じゃいられなくて」
『フン。』
ピュロイスは腕を組んで鼻を鳴らすだけだった。怒っている様子はない。ただ、当然のことを言っただけだと言わんばかリの態度がいつも通り過ぎて、思わず口角が上がってしまう。
「……立ち話もなんだ」
僕は小さく息を吐く。
「二人とも、座ってくれ」
部屋の小さなテーブルを指差す。
『当然だ。』
ピュロイスは遠慮など微塵もなく椅子へ腰を下ろす。リンの身体だというのに、その座り方まで百年前と同じだった。
「もう……」
レミエールは苦笑しながら向かいの椅子へ腰を下ろす。
客人にお茶を出すために、棚からカップを三つ取り出し、インスタントコーヒーの瓶を開けると、備え付けのケトルへ水を注ぎ、火を入れる。
「久しぶりだ。こうして三人で話すのは」
お湯を注ぎながらそう呟く。
「ピュロイスって、普段あんまり喋らないから余計にそう感じるよ」
『なんにせよ、百年ぶりだ』
ピュロイスはカップを見つめたまま動かない。
「……?」
アキラが首をかしげるとレミエールが苦笑する。
「アキラさん、砂糖」
「え……あぁ!」
アキラは棚から砂糖を取り出して、机の上に置く。
ピュロイスは無言で、ザッ、ザッと六杯入れる。
「ピュロイス、君は相変わらず砂糖水のコーヒー風味が好きなようだ」
『ミルクは。』
「……ホテルだから置いてない。」
『フン。』
少しだけ不満そうな顔をして一口飲む。
その様子にレミエールは肩を竦め、小さく笑う。ようやく部屋の空気が少しだけ和らぐ。
『確かに積もる話もある』
黄金色の瞳が僕とレミエールを順番に見据える。
『だが、その前に貴様らへ言いたいことが山ほどある』
その言葉に、僕とレミエールは思わず顔を見合わせた。
普段無口な彼が、こんなにも饒舌になるなんて、嫌な予感しかしない。
『まず一つ、貴様らは何をしている』
「「……え?」」
思わず僕とレミエールの声が重なった。
『想い合い、信用していることは互いに理解しているはずだ』
そこで一度言葉を切り、小さく鼻を鳴らす。
『ならば、何故協力せぬ』
部屋が静まり返る。
『百年前の貴様らならば、戦場で背を預けることに一瞬たりとも躊躇わなかった。それが今やどうだ?』
黄金色の瞳が真っ直ぐ僕を射抜く。
『守るだの、巻き込みたくないだの』
今度はレミエールを見る。
『百年経っただの、自分には資格がないだの……全てくだらん戯言に過ぎぬ』
ピュロイスは何の遠慮なく、はっきりと言ってのけた。
『互いに勝手な理屈を並べ、一人で抱え込んだ結果、二人とも何一つ進まぬ。これが愚かでないならなんと評する?』
「それは……」
レミエールが居心地悪そうに視線を逸らす。
『悪いが言い訳なら聞きたくない。もううんざりだ』
吐き捨てるように呟くと、ピュロイスは僕へ向き直る。
『アキラ貴様は何故、レミエールへ協力を求めぬ』
「それは……」
『置いていった負い目か?果たすべき役目への責任か?あるいは、愛する妹を守りたいからか?それらを抱えるのは構わぬが、それを理由に一人で抱え込むな』
返す言葉もない。だって、僕はずっと、自分一人で決めてきた。それが彼女のためだと信じていたのに、その答えを本人へ尋ねたことは、一度もなかった。
『貴様もだ』
ピュロイスは今度はレミエールへ顔を向ける。
『一人で抱え込んで、何故目的を話さぬ?素直に協力を求めればよいだろう』
レミエールは小さく俯いた。
「……迷惑を掛けたく、なかったから」
『その結果、貴様だけでなくアキラまで苦しんでおる』
「「………」」
『フン。』
腕を組んだまま、ピュロイスは小さく鼻を鳴らす。
『では再び問おう。レミエール。貴様の目的は何だ?』
「……タウミエルを取り戻すこと」
『そのために必要なのは?』
「フリンツ合金音動機、です」
レミエールはしょんぼりとした顔で、弱々しく答える。
『アキラ。貴様の目的は?』
「リンを助けることだ」
『そのために必要なのは』
「……フリンツ合金音動機。」
僕が答えると、ピュロイスは天を仰ぎながら深くため息をつく。
『ならば何故、敵のように振る舞う』
静まり返る部屋へ、その声だけが響く。
『レミエールは目的を果たした後、音動機を返すつもりであろう』
「……うん」
『アキラは妹を救いたい』
「そうだ」
『ならば共に動けば済む話ではないか。それほどまでに遠回りをするのか……』
二人とも、何も言えなかった。
『我から言えることは一つ。今一度同じ卓で逃げずに話し合え』
黄金色の瞳が、僕とレミエールを順に見据える。
『それでもなお迷うならば―――また閨を共にでもしろ』
「そんなことしたら、私勝てなくなるからダメ。アキラさん、本気になると全然ターン制じゃなくなるんだもん」
「気にするのはそこなのかい?」
レミエールが拗ねるように答えると、アキラは苦笑しながら突っ込む。
『……我も焦っておるのでな』
ピュロイスは気にも留めず続ける。
『この娘をこれ以上、我の器として使い続ける気はない。帰れるものなら、一刻も早く半身のもとへ帰りたい。そのためにも、貴様らには立ち止まっている暇などないと知れ』
黄金色の瞳が揺らぎ、本来の青い色へと戻っていく。
『時間切れだ……次にいつ表へ出られるかも分からぬが、次に我が目覚めた時も同じ様ならば、我は我のやり方でやらせてもらう』
そう言うと黄金色の瞳から光が消えた。
「リン!」
糸が切れた人形のようにリンの身体がぐらりと傾き、そのまま机へ突っ伏す。
ピュロイス「いい加減にせぇよお前ら」
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