初代虚狩りだった元カノと百年ぶりに再会したら、未練たらたらな指名手配犯になっていた件 作:you are not
朝の柔らかな日差しがカーテンの隙間から差し込み、リンはゆっくりと目を覚ました。
「……ん」
窓から差し込む朝日が眩しい。身体は少しだけ倦怠感を覚えるけれど、それ以外に変わったところはなかった。
「……あれ?」
ぼんやりとした頭のまま、見慣れた宿の天井を眺める。どうして自分の部屋で寝ているのか、一瞬だけ分からなかった。
「そうだ、昨日……」
小さく呟いた瞬間、昨夜の出来事が次々と頭の中へ蘇る。
夢遊病のようにブレイズウッドの街を歩いていると、偶然出会ったレミエールさんに助けられて、色んな話をしていたことを覚えている。
『私の名前はね、レミエール・ダンっていうの』
その言葉を思い出し、リンはゆっくりと身体を起こす。
「ダン中佐って……本当にあのダン中佐だったんだ」
教科書にものっているほどの有名な名前。百年前、「ダークウォール」を37km後退させた英雄にして、エリー都建設に貢献した伝説の初代虚狩りの一人。
まさか本人と普通に話していたなんて、今思い返しても現実味がない。
「それに……婚約って何?」
口に出してもいまだに納得できてない。
お兄ちゃんとレミエールが元恋人だっただけでも十分衝撃だったのに、その先まで話が進んでいたなんて……私、聞いてないんだけど。
「だとしたら、お兄ちゃんも百年前の人かもしれないってことになるし……」
結局、レミエールは最後まで答えなかった。
『本人の口から聞いてあげて』
その言葉が今も耳に残っている。だからしっかりとお兄ちゃんに聞かなくちゃ……。
「そこから……私、途中からどうなったの?」
レミエールと話していた記憶はある。
でも、その先の記憶は胸の奥が熱くなったような気がして……ぷつりと記憶が途切れている。
「気づいてたら朝になってるし……」
首を傾げながらベッドを降りる。
「もう、お兄ちゃんに聞くしかないよね」
昨夜は結局、何一つ答えを聞けなかった。レミエールを負いかえる手掛かりは結局ない現状だし、今日はお兄ちゃんに質問攻めして全部聞こう。
「よし」
軽く頬を叩いて気合いを入れると、リンは部屋を出た。
朝だからか静かな宿の廊下を歩きながら、アキラの部屋の前までやって来るとノックをする。
―――コンコン。
「お兄ちゃん?」
しかし、返事は返ってこない。
「まだ寝てるのかな」
ドアノブへ手を掛けるとゆっくりと扉を開く。
「入るよー?」
返事がないことを不思議に思いながら部屋へ入ると、柔らかな朝日が窓から差し込み、室内を優しく照らしていた。
「お兄ちゃん――」
声を掛けようとしたリンは、目の前にあるソレを見た瞬間、言葉を引っ込めてしまう。それほどまでに、衝撃的な光景が広がっていたからだ。
「その辺、少し絡まってしまっているな」
「ありがとう。久しぶりなのに、全然腕が鈍ってないね」
「君のために努力したことなら簡単には忘れないさ」
「……知ってる。ちょっと言ってみただけ」
部屋の中、ベッドへ腰掛けたレミエールが、大きな黒い翼をゆったりと広げていた。その後ろでは、お兄ちゃんが慣れた手つきで一枚一枚羽根を整えていた。
「……」
リンの思考は完全に停止していた。
(え、ちょっと待って。昨日まで気まずかったよね?なんで朝起きたら普通に同じ部屋にいるの?しかも、この慣れた感じ何!?)
リンの困惑を他所に、アキラはブラシを置くと、今度は机の上に置いてあった黒いリボンを手に取った。
「今日はこの結び方でいいかな?」
「さすが、よくわかってる」
側頭部の髪を軽くまとめ、リボンを器用に結ぶ。
「……こうしてまた君に着飾られると」
少しだけ首を傾げる。
「君だけのお人形さんになったみたい」
「こんなに綺麗で可愛らしい人形があったら、一生手放したくなくなるだろうね……でも、君は人形じゃなくてレミエールという一人の女性だよ」
「もう……朝から言いすぎだよ」
結び直してもらった片側のリボンにそっと触れながら、レミエールはそれはもう幸せそうな笑みを浮かべる。
「…………」
あまりの二人だけの世界を見せられたリンは、何も言えず立ち尽くす。
「さて、これで終わりだ」
アキラは最後にリボンの形を整える。
「うん、完璧」
レミエールは鏡を覗き込み、満足げにしている。
「やっぱり君にやってもらうと落ち着くね」
「そうかい?」
「誰にも触らせなかった君だけの特等席だから」
その言葉に、アキラは少し照れたように笑う。
「なら、これからも任せて欲しいな」
その言葉に耳まで隠しながらレミエールがリボンを触っている。
ふと、視線を感じてふと横を見れば……リンと目が合ってしまった。
「………」
「……あ」
二人に沈黙が流れた。
「……お、おはようリンちゃん」
レミエールは気まずそうにリンに言葉をかける。
「えっ、リン!?もう起きて平気なのか?」
「………」
アキラにも声を掛けられるが、リンの思考はまとまらず混沌としていた。
部屋に来たらすぐにでも、百年前のことや私の意識がなくなったとのこと、そして婚約のことも聞こうと思ってたのに。気づいたら、頭の中で用意していた質問が音を立てて崩れていた。
「リン?まだどこか――」
「なんで二人とももう仲直りしてるの!?」
やがて、思考が現実に戻ってきたリンは宿中に響きそうな勢いの叫び声を上げた。
「昨日まであんなに重たい空気だったじゃん!」
宿中へ響きそうな声に、アキラとレミエールは揃って目を瞬かせた。
「そういえば、そうだったね」
レミエールが照れくさそうに笑う。
「思えば、僕たちも少々意地を張りすぎていた」
アキラも苦笑すると、顔を見合わせてどちらからともなく小さく笑った。
「もうお腹いっぱいだから、これ以上イチャイチャしないで!」
リンは思わず二人を交互に指差す。
「いや、ほんとに昨晩何があったの……私たち昨日までレミエールさん追いかけてたよね?それがなんで朝になったら新婚さんみたいになってるわけ」
「ターン制バトルしたからね」
「そこで、ひとまず目的のために協力しあおうということになったんだ」
「ターン制バトルって、なにそれ……」
レミエールが答え、アキラがそれを補足するが、それが逆にリンの頭を抱えた。
「なんかもう情報量が多すぎて、逆に冷静になってきちゃった」
リンは大きくため息を吐くとじっとアキラを見上げた。
「ちゃんと説明してくれるんだよね、お兄ちゃん?」
「もちろん、そのつもりさリン」
アキラは静かに頷く。
「ただ、一人ずつ説明するより全員揃っていた方がいい。ビリーやシーシィアたちも呼ぼう」
「仲間外れは悲しいもんね」
レミエールも賛成するように頷く。
「もう逃げないことにしたんだ私たち」
「わかった」
リンは渋々ながらとりえあずの納得を示し、今度は小さく息を吐く。
「じゃあ、みんな呼びにいこ?」
そう言って三人は部屋を出て、ビリー、シーシィア、プロメイアの三人の所へと向かった。
昨夜、リンを運んだり、二人の話し合いの邪魔にならないようレミエールが羽根で静止状態にしたままソファへ寝かせていたシーシィアを解放すると、事情も分からないまま「なんであーしギャルのはやにえにされたん!?」と抗議され、レミエールが素直に謝る一幕がありつつも、そのまま事情を説明するためシーシィアも連れてビリーの所へ向かった。
「おー!店長おはよう!今日もいい朝―――」
あって早々ビリーはいつものハイテンションであいさつしようとするが、レミエールの姿を見つけると、目を丸くして言葉を引っ込めてしまった。
「…………」
ビリーは何度か瞬きを繰り返しながら、アキラと手をつないでいるレミエールを二度見する。
「俺の視覚パーツに異常でも起きてるみてぇだ。勘弁してほしいぜ、改造したばっかなのによ……」
「喜ばしいことに君の視覚パーツは正常そのものだよ」
アキラが苦笑する。
「いやだってよ!」
ビリーはレミエールを指差した。
「昨日まで追いかけてた相手だろ?なんで店長、ちゃっかり恋人つなぎしてんだよ!?スターライトナイト劇場版がお蔵入りした時以来の衝撃だぜ……」
あまりにも真っ当なツッコミに、リンも思わず頷く。
「私も朝から同じこと思ってる」
「あーしもいまいち把握してないっていうか、胡蝶の夢って奴?」
「だよな!?」
仲間を得たビリーは力強く頷いた。
「安心してほしい、説明はちゃんとするから」
「おう、マジで頼む」
ビリーは頭を抱えながら答える。
「大したことじゃないよ」
レミエールが苦笑する。
「ちょっと話し合っただけだよ」
「その『ちょっと』が一番聞きてぇんですけど!?」
ビリーの悲鳴にも似たツッコミがブレイズウッドに響いた。
その後、プロメイアを呼びに行けば、彼女はレミエールの姿を見ても何も言わなかった。ただアキラが説明すると言えば「……そうか」と短く呟いて何も尋ねずにアキラたちの後ろへ付いていった。驚いているのか、それともただ困惑しているのか。その無表情からは何も読み取れなかった。
こうして全員が揃うと一行はちょうどよく集まれる場所として、ブレイズウッドの酒場へと移動する。昼前ということもあって室内に人影は少なく、六人が腰を下ろしても十分な広さがあった。
丸テーブルを囲うように席へ着くと、全員の視線がアキラとレミエールへ集まる。
誰もが聞きたいことは同じだった。昨夜、一体何があったのか。そして、昨日まで追っていたはずのレミエールが、何故こうして当たり前のように同じ卓を囲んでいるのか。
「……まずは、みんなを混乱させてしまってすまない。これから話すことは、全部事実なんだ」
静かな空気の中、アキラはゆっくりと口を開いた。
なんか突然、ヤンデレレミエールルートの電波を受信したので本編完結したらIFルート書こうかなと思ってます。
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