初代虚狩りだった元カノと百年ぶりに再会したら、未練たらたらな指名手配犯になっていた件 作:you are not
静まり返った酒場で、アキラは淡々と皆に説明した。
レミエールと和解したこと。彼女が百年前を生きた初代虚狩りの一人であること。そして、自分もまた百年前の人間であり、かつて彼女の副官として戦い、恋人だったこと。
さらに、リンを救うために必要な『フリンツ合金音動機』を手に入れるために、レミエールが取り戻そうとしている彼女が持つ虚狩る戎具『タウミエル』を手に入れるまでの間、少なくともこれからは敵ではなく仲間として共に戦うということ。
アキラは一つ一つ、何一つ誤魔化すことなく全てを話した。
その間、誰一人として口を挟まなかった。というか、挟めなかった。あまりにも現実離れした内容に、誰も理解が追いつかなかったのだろう。
話し終える頃には、酒場の秒針が落ちる音さえ聞こえそうなほど静まり返っていた。
「頭の中で疑問が増殖しやがる……」
最初に沈黙を破ったのはビリーだった。
「つまり、レミエールは味方でいいのか」
プロメイアは眉間にしわを寄せて難しそうな顔をしていた。
「情報量多すぎ、あーしの頭パンクしそう」
「私も同じ気持ち」
リンも額へ手を当て、小さくため息を吐く。
「お兄ちゃんが百年前の人で、レミエールさんが初代虚狩りで、しかも恋人同士だったって……もう何から驚けばいいのか分からないよ」
「いやでも、ありえないっしょ」
シーシィアが手足を伸ばしながら苦笑する。
「仮にホントなら、あーしは明日からエリー都の市長やるわ……あんまりすぎて信じられないっつうか鵜呑みにできんくね?」
シーシィアの疑問視する声にビリーも賛同を示した。
「まぁ、店長だから信じるが、普通ならそう思うよな。でも、もし仮に初代虚狩りなら……えーと……百歳以上!? 百歳以上なんて、ばば――」
「ビリー、それ以上はいけない」
アキラが手を伸ばした先には、いつの間にか張り付けた笑顔で剣を持つレミエールがいた。
「ビリー君、だったよね?」
レミエールはにっこりと微笑む。
「あとで少し、お姉さんとお話しよっか?」
「店長ォォォ!!」
ビリーは反射的にアキラの後ろへ隠れる。
アキラも苦笑しながらレミエールの剣先をそっと押し下げた。
「そのくらいにしてあげてくれ。彼に悪気はないんだ」
「……分かってる」
レミエールはふっと笑うと、剣を鞘へ納めた。
「ちょっとからかってみただけだよ」
「寿命縮んだぜ……」
胸を撫で下ろすビリーを見て、張り詰めていた空気が少しだけ緩む。
「……私から、一つ補足できることがある」
プロメイアが静かに口を開く。
「本来なら、お前たちに共有すべき情報ではない。だが、こうなった以上、隠す意味もないだろう」
全員の視線が彼女へ向く。
「朽峰が今回、郊外に持ち込んだ『大物』は暗号名だ。正式名称は、『対虚狩り鎮圧機甲』という」
「対……虚狩り?」
リンが目を丸くする。
「さすがに本気で虚狩りと敵対することは想定されていない。TOPS内部では、あくまで戦力評価用の指標に過ぎないと認識していた」
プロメイアは淡々と続ける。
「だが、どうもそうではなかったらしい。上層部が『ラミル』と名乗る人物の正体に気付き、先手を打っていた可能性がある」
酒場の空気が少し重くなる。
「つまり……」
ビリーが息を呑む。
「朽峰は最初からレミエールを捕らえるつもりだったってことか?」
プロメイアはゆっくり頷き、レミエールへ静かに視線を向けた。
「ホロウザヒーローという大会も、誘い出すための餌だったのかもしれない」
レミエールは目を細めたまま、何も言わない。
「お前たちやロームル、そして私すらも、彼女を『詰み』に追い込むため利用された駒でしかなかったとしたら―――?」
その言葉に誰も反論できなかった。
しばらく重苦しい沈黙だけが酒場を支配する。しかし、その空気を断ち切るように、アキラが静かに息を吐く。
「結局のところ、僕たちの目的は変わらない」
落ち着いた声が酒場へ響く。
「レミエールの虚狩る戎具――『タウミエル』を回収すること。そして、その力とフリンツ合金を使ってリンを救う。その二つだ」
リンは小さく頷いた。
「そのためには、プリセナスホロウの奥地へ向かわなければならない」
「で、その途中で」
ビリーが面倒だと言った顔をする。
「朽峰の連中と、対虚狩りなんとかとやらと出てくるかもしれねぇって訳か」
「十中八九そうだろうな」
プロメイアは短く答えた。
「それでも行くよ」
しかし、レミエールは迷いを見せない。
「タウミエルは、必ず取り戻す」
その紫紺の瞳には、百年前から変わらない強い意志が宿っている。
「でも、一人じゃない」
そう言ってアキラは隣のレミエールへ視線を向ける。
「今度は僕たち全員で行く」
その言葉にビリーが肩を竦めた。
「ま、店長が行くってんなら付き合うしかねぇか」
「あーしもここまで来たら乗りかかった舟っしょ」
シーシィアも笑いながら親指を立てる。
「私も行く。一人だけ待ってるなんてやってられないもん」
リンは真っ直ぐアキラを見る。
「……わかった。無茶だけはしないでくれ」
その力強い視線にアキラは根負けを認めるしかなかった。
「……任務に変更はない。同行する」
最後にプロメイアも静かに頷く。
全員の意思を確認すると、アキラは静かに立ち上がった。
「それじゃあ、準備を整えよう」
アキラは全員を見渡した。
「出来次第、プリセナスホロウへ向かう」
誰一人、異論を口にする者はいなかった。
全員が静かに立ち上がる。それぞれの胸に抱える思いは違う。だが、目指す場所は一つになった。
プリセナスホロウへ足を踏み入れると、世界は一瞬で色を失った。空も建物も、全てが白と灰色だけで構成された異様な景色へ変わったからだ。
「すげぇ場所だな。まるでモノクロ映画の中にいるみてぇだ……」
ビリーが辺りを見回す。
「そういう特性の場所だからね。始めては見慣れないよね」
リンは珍しそうにしているビリーを見守りながら笑って答える。
「相変わらず、全部真っ白だね」
レミエールが懐かしそうに呟く。
「……ねぇアキラさん。覚えてる? ここで私達、喧嘩してたよね」
「あぁ、そうだったね」
アキラは小さく笑う。
「君が何日も口を利いてくれなくて、本当に困った」
「だってアキラさんが悪いんだもん」
「否定はしないよ」
二人は顔を見合わせ、小さく笑った。
「あの喧嘩のあと、別々の任務を命じられて――」
アキラはそこで言葉を切った。
レミエールも同じように笑みを消し、左手の指輪へそっと触れる。
「……うん、この話辞めよっか」
それ以上、その話を続けることはなかった。
リンは二人を見比べ、小さく首を傾げる。
(二人とも喧嘩したこと結構あるんだ)
しかも、さっきまで笑っていた二人が、その話題だけは決して続きを話そうとしないほどのもの。何か、よほど思い出したくない出来事だったのだろう。
リンはそんな疑問を抱えたまま、一行の後を追い、さらにホロウの奥へと進んでいく。
白く染まった街並みを抜け、崩れた建物の間を進み、やがて一本の細い通路へ差しかかった、その時だった。
――ズキッ。
「っ……!」
突然、リンの両目に鋭い痛みが走る。
「リン?」
アキラが振り返る。
「だ、大丈夫……」
そう答えようとした瞬間、世界がぐにゃりと歪んだ。
『思えば……かの者らの最後の衝突も、この場所であったな』
耳の奥で、誰かの声が重なる。懐かしいような、それでいて聞いたことのない声。
目の前の白い大地に、黄金色の光で二つの人影を現れる。
(これって……)
黄金色の光が輪郭を持ち、やがて一人、また一人と人の姿を形作っていく。
それは百年前、この場所で交わされた記憶。そうともわからずとも、リンの意識は、抗う間もなくその虚像へと引き込まれていった。
「どうして断ったの!」
百年前のレミエールが、今より老いた様子のアキラを睨みつける。
「虚狩りの一人に選ばれたんだよ!?みんなが認めたのになんで!?」
「僕が納得できなかったからだよ」
虚像のアキラは静かに首を振った。
「僕の実力は君たちよりずっと下だ」
「そんなことないと思うけど」
「いいや、事実さ」
淡々とした口調は変わらない。
「僕が評価されたのは、君たちの仲を取り持ったからだ。それだけで同じ肩書きを名乗るのは、君たちの功績を借りるようで好きじゃない」
「そんなこと誰も―――」
「僕が思うんだ」
「……っ」
その一言で、レミエールは言葉を詰まらせた。
『いや、我はそうは思わぬがな』
アキラの隣に立っていた、鎧を着た人物が小さく鼻を鳴らす。
『選ばれた内四人は、誰一人として協調性などなかったではないか』
「「……」」
『フン。貴様がおらねば、三日で空中分解してたことだろう』
「ピュロイス」
レミエールが笑顔で名前を呼ぶ。
『……何だ』
「君が喋ると話がややこしくなるから、ちょっと黙ってて」
『……フン』
ピュロイスと呼ばれた人物は首を垂れて、少しだけ不服そうな顔をしながら、口を閉じす。
「話を戻すね」
レミエールは再びアキラへ向き直る。
「アーチ教授のことは?」
アキラの表情が僅かに変わる。
「『もし自分がレミエールより早く死んだら、身体もピュロイスも研究に役立ててください』って……本気で言ってる?」
「あぁ、そのことか」
迷いなく頷いた。
「結局、僕も一兵卒に過ぎない」
その言葉はあまりにも静かだった。
「明日、エーテリアスになって死ぬかもしれない」
「……」
「だから、もし君と同じ墓に入れないのなら、せめてその死が誰かの役に立てば、それでいいと思ったんだ」
レミエールは何も言わなかった。
ただ、震える唇を噛み締めると、アキラから静かに視線を逸らす。
「……もういい」
ぽつりと、それだけ呟く。
「レミエール」
呼び止める声にも振り返らない。
「今は……君の顔、見たくない」
そのまま背を向け、一人歩き出していく。アキラは追いかけることもできず、その場へ立ち尽くすしかなかった。
その光景は、そこで途切れる。
黄金色の残像が風に溶けるように消え、世界は再び白一色のプリセナスホロウへ戻っていった。
「……リン?」
聞き慣れた声に、リンははっと顔を上げる。目の前には心配そうにこちらを覗き込むアキラがいた。
「……ううん。なんでもないよ」
すぐに状況を察したリンは小さく首を振り、笑顔を作る。
「ちょっとぼーっとしちゃっただけ」
「なら、いいんだが……」
皆もそれ以上は追及せず、再びホロウの奥へ向かって歩き始めた。
話のボリューム少なくなりそうと思って、過去回想生やしたらこうなりやがった。あと、本編はロスカリファに行く前くらいで一回区切って終わらせるつもりです
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