初代虚狩りだった元カノと百年ぶりに再会したら、未練たらたらな指名手配犯になっていた件 作:you are not
プリセナスホロウの最奥部。
白く染まった街並みを抜けた先に、一行は巨大な岩壁のような空間へと辿り着いていた。天井は見えないほど高く、辺りは静まり返っている。
「ここだよ」
レミエールが足を止めた。
「この先に戎具が眠ってるの」
しかしその視線の先には、何の変哲もない白い壁があるだけだった。
「……どうやって通るの?」
目の前の壁を見つめながらリンが首を傾げる。
「みんなで協力して壁でもぶっ壊すのか?」
「うーん、さすがに厳しんじゃないかな」
「じゃあ、どうすんのさ?」
横からシーシィアが質問すると、レミエールは懐から小さな銀色の球体を取り出した。
「だから、これの出番」
――フリンツ合金音動機。
レミエールはそれを手に、静かに壁へ歩み寄ると白い壁の表面へ音動機を押し当てた。
「迎えに来たよ」
小さく呟くと―――
――キィィィィン。
澄み切った金属音が空間いっぱいへ響き渡り、白い壁へ無数の光の線が走る。やがて、ガラガラと巨大な壁そのものが、立方体へ分解されるように崩れ始めた。
「うおっ!?なんだ」
ビリーが思わず後ずさる。
壁だったものは、一つ一つの白い立方体となって浮かび上がり、まるで道を譲るように左右へ退いていく。
やがて、開けた場所になると、頭上から静かに棺のような箱がゆっくりと降りてきた。独特なエーテルの光を発するそれは、誰の目から見てもただならぬものを感じさせる。
「……あれが」
リンが息を呑む横でレミエールは静かに頷く。
「タウミエル」
百年間、誰にも触れられることなく眠り続けてきたレミエール・ダンの虚狩る戎具。
ようやく、ここまで辿り着いた。
感慨にふけりながらレミエールが一歩踏み出そうとした、その瞬間――乾いた機械音が空間へ響く。
「……!」
プロメイアが即座に足を開いて空を見上げる。
「何か来る」
周囲の白い立方体が次々と砕け散る。轟音と共に、一機の巨大な人型機械が降下してきた。
「周辺エリア、封鎖完了」
重々しい着地音が衝撃波となって床を震わせる。現れたのは白銀の装甲と紫色に輝く動力炉。そして、全身へ無数の武装を備えた異形の機甲兵器だった。
「なになに!?こないだのメカロームルよりヤバげな感じじゃん!」
「すげぇ装甲の厚みだ、ほんのりジェラっちまうぜ」
「噂の対虚狩り鎮圧機甲くんかな?」
レミエールが目を細め機械を見つめる。
「……対虚狩り鎮圧機甲」
プロメイアが低く呟く。
「『テラー・ラプトル・エグゼキューター』だ」
「いや名前ダサぇ……もうちょい、こう、いい名前あっただろ」
一行の会話を他所に、機体中央の単眼が紫色に妖しく輝く。せわしなく動くと六人を一人ずつ確認するように視線を走らせ――静かに停止した。
『……プロメイア様?』
取り付けられたスピーカーから声が流れる。それはスピーカーを通しても分かるほどに、搭乗員の動揺を感じ取れる声だった。
『何故……何故あなたが標的と共に行動しているのです!?』
戸惑いを隠せない声が響く。
「搭乗者に告ぐ。誰の命令を受けている」
プロメイアは一歩前へ出ると、相手を真っ直ぐ見据えた。淡々とした声がホロウへ響く。
『言わずともお判りでしょう。我々はTOPSの意思に従い、目標を回収すべく派遣されたのです』
「あなたたちもあの戎具を回収しに来たの?」
『大人しく答えるとでも?』
レミエールの言葉に搭乗員は食ってかかるように吐き捨てる。
「黒枝の裁決官として、現場の指揮権はこちらが引き継ぐ。直ちに撤退しろ」
『……撤退?』
通信の向こうで、相手は理解できないというように呟く。
『何を仰ってますか、プロメイア様。あなたは状況を把握されていない。標的をここで逃がせば、事態は取り返しのつかないことになります』
なおも反抗的な言葉にプロメイアの表情は変わらない。
「最後の警告だ。撤退しろ」
『……事態はもはや穏便には済まされません』
機体が低く駆動音を鳴らす。
『黒枝の裁決官、治安局の害獣、百年前の虚狩り……そして、市長様ご贔屓の「パエトーン」』
搭乗員の声には怒りと決意が入り混じる。
『どいつもこいつも……私を苛立たせる!死んで平伏しろ!私こそがTOPSだ!』
ガシャリと巨大な砲身が持ち上がると、肩部、腕部、脚部。全身に備えられた火器が一斉に六人へ照準を合わせた。
直後、砲口が紫色の光を帯び始めた。
「みんな散れ!」
アキラの声と同時に全員が左右へ飛ぶ。砲撃は白い地面を抉り、轟音と共に爆炎を巻き上げた。
「うおっ、さすがの火力だぜ!」
ビリーは笑いながら瓦礫へ滑り込み、そのままスロットルを回して、バイクのエンジンを唸らせる。
「だったらこっちも遠慮はいらねぇよな!」
バイクが唸りを上げながら加速し、そのまま巨大な質量を叩き付けた。
すると、装甲にひびが入る。
「あんがい楽勝だな」
「足元いただき!」
シーシィアが一気に死角へ潜り込む。双頭の鞭が火花を散らす。
関節部へ連続して叩き込まれた斬撃に、右脚が僅かによろめいた。
「お、効いてる効いてる!」
だが、その直後。肩部ミサイルポッドが開く。
「ちょ、うそうそ冗談だって!」
「シーシィア」
プロメイアが静かに呼びかけると、彼女はシーシィアの前へ滑り込んだ。
「下がれ」
プロメイアの外套から無数の氷の刃が霧散する。
弧を描くように飛来する刃たちは発射されたミサイルを空中で真っ二つにして、連鎖するように爆発させた。
「あ、ありがと……」
「礼はあとだ」
プロメイアはそのまま地面を蹴る。一瞬で機体の懐へ潜り込むと、踵の刃が機械の関節へ突き立った。
右腕部が制御不能となった巨体は大きく体勢を崩す。
「そこだ」
アキラは迷わず剣を片手に肉薄する。
その勢いのまま一閃。露出したケーブルだけを正確に切断。
「レミエール!」
「任せて」
アキラが左にそれると同時に、レミエールが前に踊り出た。ふわり、と黒い翼が大きく広がった瞬間、空気が一瞬静まり返る。
「ごめんね」
レミエールは静かに双剣を抜く。
「今の私たちには勝てないよ」
一歩踏み出すと、彼女の姿が羽根を残して消える。
『――なっ!?』
次の瞬間。白銀の巨体を切り裂く斬撃が斜め十字に走った。
ズン――。
数秒遅れて、機体の上半身がゆっくりと滑り落ちる。
『馬鹿な……私は――』
言い切ることなく、対虚狩り鎮圧機甲《テラー・ラプトル・エグゼキューター》は紫色の炎を吹き上げながら、大爆発を起こした。
衝撃波が白い大地を揺らし、無数の残骸が周囲に散らばる。
「汚ねぇ花火だぜ」
それを見届けたビリーが口笛を吹く。
「対虚狩り鎮圧機甲……名ばかりだな」
「さすがにこの数相手にすんのは無謀すぎん?」
シーシィアも苦笑しながら武器を納める。
「ほんと、あっけなく倒せちゃったね。なんか拍子抜けかも」
リンがほっと息を吐いた、その瞬間――。
祭壇の中央に置かれた白い箱が、かすかに震えた。
小さな音が静かな空間へ響く。
「……え?」
誰も触れていない。
なのに箱は、まるで誰かを呼ぶように震え始めていた。眩い黄金色の光が溢れ出し、その中心から一本の戎具が姿を現す。
「タウミエル!」
レミエールが思わず駆け寄ろうとする。しかし、彼女がそれを掴むその前に、タウミエルは引き寄せられるように、一直線にリンへ向かって飛び出した。
「リン!!」
アキラが叫ぶ。
リン自身も反応できず、戎具は吸い込まれるように彼女の胸元へ飛び込み――光が弾けた。
「きゃああぁぁぁぁっ!」
凄まじいエーテルが一気に噴き出す。
「店長!?」
「リンちゃん!何が起きてんの?」
リンは苦しそうに胸を押さえ、全身を黄金色の光が駆け巡っていく。その姿に周囲は困惑を隠せなかった。
リンの瞳が黄金色へと変化する。
『……抑えきれぬ』
リンの意識の奥底で、ピュロイスが苦しげに呟く。
「ピュロイス!」
『知能水晶体とタウミエルが共鳴しているのか……?』
アキラが呼びかけに応じる余裕がないのかピュロイスは苦しそうにする。
『最早、我一人では封じられぬ……だが好機でもある』
ピュロイスはアキラを見つめる。それはどこか覚悟を決めたような静かな顔だった。
『……任せたぞ』
その言葉と同時にピュロイスの姿は黄金の奔流となってリンへ溶け込んでいった。
「いやあああぁぁぁぁぁっ!!」
絶叫がプリセナスホロウへ響き渡る。
対虚狩り機甲の残骸を取り込み、ホロウ中のエーテルが、リン一人へ収束していく。
「な、なんなんこれ!?」
シーシィアも青ざめた表情で叫ぶ。
「俺らもやべぇぞ……!」
吸収に巻き込まれまいとビリーは必死に地面にしがみついている。
「リン!」
アキラは剣を地面へ突き立て、どうにか踏み止まる。
吹き荒れる光が少しずつ収まっていく。しかし、その中心に立っていたのは――灰白色の炎を身に纏い、黄金色の瞳を輝かせる、一体のエーテリアスだった。その背には、黒い手が無数に生えていた。
エーテリアスはゆっくりと顔を上げる。その瞳に、リンの面影はもうない。
「■■■■■■■■――ッ!!」
咆哮がプリセナスホロウ全体が震える。
「……リンを助ける。みんな手伝ってくれ」
静かに剣を構え、最初に立ち上がったのはアキラだった。
「おう!店長耐えてくれ!すぐに助け出すからな!」
「当たり前でしょ!」
ビリーはバイクに乗り、シーシィアは鞭を握り直す。プロメイアは静かに戦闘態勢へ入り、レミエールはエーテリアス化したリンを見つめながら双剣を抜く。
「絶対に生きて全員で帰るよ」
その言葉を合図に、六人は一斉に駆け出した。
アキラ(なんで暴走したんだろ)
ピュロイス(なんで暴走してんだろ)