初代虚狩りだった元カノと百年ぶりに再会したら、未練たらたらな指名手配犯になっていた件 作:you are not
灰白色の炎が渦を巻き、プリセナスホロウ全体が低く唸り続ける。
その中心に立つリンは、もう元の少女の姿ではない。
白と黒の機械装甲を全身へ纏い、その隙間から黄金色のエーテルが脈打つように漏れ出している。背中からは無数の黒い腕が蠢き、まるで獲物を探すようにゆっくりと空を掻いていた。
「■■■■■■■■――ッ!!」
咆哮だけで衝撃波が走る。
「来る!」
誰かがあげた声よりも早く、エーテリアスと化したリンが地面を蹴った。直後、二本目、三本目の腕が追撃するように地面を薙ぎ払う。
爆発じみた轟音。巨体とは思えない速度で飛び出したリンの背中から伸びた黒い腕の一本が振り下ろされる。
「速ぇ!?」
ビリーが慌ててバイクを横へ滑らせる。相手の腕は地面へ叩き付けられ、白い床が何十メートルにも渡って砕け散る。
「ゴリラすぎるって!」
シーシィアが瓦礫を飛び越えながら叫ぶ。
「リンちゃん、本気で殴ってきてるじゃん!」
「無理もない、既にリンの理性は残っていないと見るべきだ」
プロメイアが冷静に構えを崩さない。
「店長!」
ビリーが叫ぶ。
「どうすりゃいい!?このままぶっ飛ばす訳にもいかねぇだろ!」
「駄目だ!」
アキラは即座に否定する。
「絶対に殺せない!」
「だよな!」
だが、攻撃を躊躇えばこちらが押し切られる。
「■■――ッ!」
「ッツ!」
アキラも低く姿勢を落として回避しながら、リンを見つめる。
(どうする!?)
むやみに傷つけることもできない。倒すなんて論外だ。目の前にいるのは敵ではなく、大切な妹なのだから。
そんな中、レミエールはリンから目を離さない。黄金色のエーテルの流れ。厚い装甲の奥、その中心で脈打つ戎具。それらすべての点が一つの線となる。
「……まだ間に合うかも」
レミエールは暴れるリンを見据えたまま、小さくつぶやいた。
「何か方法があるのか!」
「現状、タウミエルがリンちゃんのエーテルを増幅してる。だから逆にそれを引き剥がせば、少なくとも今の暴走は止められるはずだよ」
「引き剥がす?」
アキラが問い返すと、レミエールは暴れるリンの胸元へ視線を向けた。
「でも、あの装甲が邪魔で触れない……まずは外装を全部剥がなきゃ」
レミエールは静かに双剣を構えた。
「直に触れないと、さすがに私も引き抜けない」
「つまり先に外装を剥がすしかないってことか」
アキラも状況を理解する。
「さすが、よくわかってる」
レミエールは頷く。
「外装がなんとかなれば、私がタウミエルを回収する。そのためにみんなに道を作ってほしいんだよね」
レミエールが言い終わらないタイミングでリンの背中から伸びた黒い腕が一斉にうねり、六人へ襲い掛かった。
「みんな聞いてくれ!」
アキラの声が散らばった全員の耳に響く。
「おう聞いてたぜ!役割分担だな!」
ビリーがバイクを旋回させながら叫ぶ。
「ああ、話が早くて助かるよ」
アキラは素早く仲間を見渡した。
「ビリー、シーシィア、プロメイア!リンには決して致命傷を与えないように鎧だけを狙ってくれ!」
「りょーかい!」
「おう、了解だぜ!」
「問題ない」
「レミエール。その隙にリンへ近づけるね?」
アキラは剣を握り直し、隣に立つレミエールへ目を向けた。
「私を誰だと思ってるの?副官さん?」
「そうだったね……」
アキラは小さく笑い、剣を構え直した。
「では、背中はお任せください。ダン中佐」
「任せて、私だけの副官さん」
二人は小さく笑い合うと、同時に地面を蹴った。
エーテリアス化したリン背中から生えた黒い腕が何十本もの槍のように広がり、一斉に二人へ降り注ぐ。
「行かせるかよ!」
轟音と共にビリーのバイクが横合いから突っ込み、前輪で黒い腕を弾き飛ばす。
「店長!今だ!」
「助かる!」
アキラとレミエールは止まらない。その隙を縫うように一直線にリンとの距離を詰めていく。
「こっちは任せといて!」
シーシィアが軽やかに宙を舞う。鞭が音を裂き、リンの肩を覆う機械装甲へ叩き付けられた。
火花が散り、装甲が大きくへこみ亀裂が走る。
「やっぱ脆すぎ!」
その直後、リンの背中から黒い腕が蛇のように伸びる。
「ちょ!さっきから正確にこっち狙ってくるのなんなん!?」
シーシィアへ喰らい付こうとした、その瞬間、氷刃が一直線に走り、迫る黒い腕を途中から切り裂く。
「……無駄に動き回るからでは?」
プロメイアの声が静かに響いた。さらに間髪入れず、プロメイアはリンの懐へ飛び込んだ。
「ここだ」
鋭い蹴りが脇腹の装甲へ突き刺さる。鈍い音と共に装甲板が弾け飛び、白い床を転がった。
「一枚向けたぜ!この調子で全部ひっぺがすぞ!」
ビリーが笑う。
「■■■■■■ッ!!」
黄金色の炎が弾ける。
全員が咄嗟に飛び退いた。爆炎が収まった頃には、リンの全身から噴き出すエーテルはさらに激しさを増していた。
「もう一押しだ!」
ビリーがアクセルを全開にする。
轟音を上げたバイクをドリフトして、リンの足へ体当たりし、その巨体をわずかによろめかせた。
そのすきを逃さずプロメイアが静かに踏み込む。無数の氷柱が地面から突き出し、リンの脚や背中から伸びる黒い腕を次々と地面へ縫い留めていく。暴れようとするたびに氷は砕ける。だが、その度に新たな氷柱が生まれ、動きを奪う。
最後に、シーシィアの鞭がしなやかにうねり、残った腕へ巻き付く。
「っ……力、強すぎでしょ!」
黒い腕が暴れるたび、鞭が軋む。
「アキラくん、あーしらが抑えてる内に!」
「ああ!」
アキラは一直線に駆ける。
黄金色の炎が頬をなでる。あまりの熱に顔をゆがめる。それでも足は止めず、アキラはリンの眼前まで踏み込む。
目の前には、胸部を覆う最後の装甲。
「……あと少しだけ、我慢してくれ」
そう呟き、剣を振り抜く。
胸部の装甲へ亀裂が走り、一撃で砕け散り、黄金色の光が胸元から溢れ出す。
「レミエール!」
「任せて!」
迷いなく飛び込んだレミエールは、その光の中心へ腕を差し伸べる。
「ずいぶんと待たせちゃったね」
指先が柄へ触れた瞬間――眩い黄金色の光が弾けた。
「■■■■■■ッ!!」
リンが苦しげな咆哮を上げる。
「ごめんね……」
それでもレミエールは手を離さず、ぐっと力を込める。
「返してもらうよ!」
リンの体から白い光と共に、タウミエルが一気に引き抜かれた。
リンの全身を覆っていた機械装甲が音を立てて崩れ始める。黄金色の炎は急速に弱まり、灰白色の外殻が砂のように崩れ落ちていった。
タウミエルを手にしたレミエールの翼とリボンが白く変化していくき、ホロウ全体を揺らすほどの衝撃波が広がる。
「……おかえり」
エーテリアスから、元の人間の姿に戻ったリンを抱きしめながら、レミエールは静かにつぶやいた。
「……リン?」
アキラがそっと名を呼ぶとリンの指先がぴくりと震える。
「んっ……」
リンの呼吸が少しずつ整っていく。
「成功したみてぇだな!」
ビリーが思わず声を上げる。
ゆっくりとリンは身体を起こした。しかし、その瞳は――黄金色だった。
「リンちゃん……?」
シーシィアが警戒して、思わず後ずさる。
しかし、誰の声にも反応せず、リンの目は静かに辺りを見回す。そして、その中からアキラの姿を見つけた。
「まさか君、ピュ――」
リンは一直線に駆け出す。
誰も止める間もなく、リンはアキラの胸へ飛び込み、その胸へ右手を押し当てた。
「っ!」
押し当てられた胸から黄金色のエーテルが一気に流れ込む。黄金色の奔流は渦を巻きながらアキラの身体へ吸い込まれていく。
黄金色のエーテルがアキラの背後へ集束していくと、やがて光は一つの人影を形作った。
銀色の鎧の全身に、見慣れた長剣。
「……おかえり」
『待たせたな、我が半身』
「急すぎないかい?」
『……封印が緩んだ今しか戻れぬと思い、早く戻らねば、と焦ったのだ』
「いや、だれ!?誰なの!?怖いって!」
シーシィアの叫びがホロウに轟いた。
「いや俺たち初対面なんだけど!?なんで店長は普通に会話してんだ!?」
『……む』
「昔からホウレンソウしてって言ってるのに……」
レミエールが額を押さえながら、呆れるようにつぶやいた。
ピュロイス「おっ、なんかカローレの封印緩んでるやん!じゃけん、ごすの所帰りますね!」
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