初代虚狩りだった元カノと百年ぶりに再会したら、未練たらたらな指名手配犯になっていた件 作:you are not
この時点のリンちゃんは、レミエールの本名知らなくて、ラミルと言う偽名しか知らんので、地の文でもラミル呼びです。ご了承ください
夢を見ていた。
どこまでも続く一面の廃墟。
その中で、私の手は金色の光に包まれていた。歪んだ世界で、自分だけが別の存在へと変わっていく感覚が、指先から全身へと広がっていく。
誰かが何かを叫んでいるのに、言葉だけが聞き取れない。伸ばした手は何にも届かず、視界だけがゆっくりと暗く染まっていく。
「いやぁぁぁぁ―――!」
飛び上がるように、体を持ち上げる。当たりを見渡せば、見慣れた天井だった。
「ハァ、ハァ……夢?」
胸に手を当てると、鼓動だけが少し早い。
(そうだ、確かシーシィアと棄権するかどうか話し合ってたら、急に目の前が真っ暗になって……私、気を失っちゃったの?目の使い過ぎかな?)
なんて考えながら、ベッドからゆっくり身体を起こす。頭は少し重いものの、思っていたより体調は悪くない。
「監察官、食い止めてくれるんですぁ~?明日のご飯まで忘れましぇーん」
ベットの隅では、シーシィアが座り込んだまま、突っ伏して眠っていた。何やら寝言を言っているけど、幸せそうなので、シーシィアを起こさないよう毛布を肩へ掛けてあげる。
「何だか、落ち着かないな」
思い出したくもないことが、次から次へと頭の中に浮かんでくる。
そんな不快な気分をどうにかしたくて、静かに部屋を出た。
「外の空気でも吸ってこよう……」
廊下へ出ると、すぐに階段を下り、一階へ向かう。途中、窓から見た夜の六分街は昼間の喧騒が嘘みたいに静かだった。
「今日はありがとう、助かった」
「どういたしまして。またいくらでも胸を貸してあげる」
すると、店の方から誰かの話し声が聞こえてきた。
……女の人?お兄ちゃんの知り合いかな。
そう思いながら階段を降り切ると、リビングの明かりの中に二人の姿が見えた。
「あっ」
思わず声が漏れる。そこに立っていたのは、お兄ちゃんと――昼間、大会会場で会ったピンク色の髪の女性がいた。
「リン!もう起きて平気なのかい?」
「うん、心配かけてごめん。もう大丈夫だから」
「無理はしないでくれよ」
心配して声をかけてきたお兄ちゃんとの会話もそこそこに、私は背後にいた彼女に話しかける
「ラミル……だよね?」
声をかけられたラミルは振り返ると、いつもの柔らかな笑みを浮かべる。
「こんばんは、リンちゃん」
「こんばんは……って、どうしてココに?」
ラミルは少し困ったように笑いながら、ポケットからエーテリアスカードを出して軽く叩く。
「ちょっと困ったことがあってね。詳しい人に助けてもらってたの」
そう言って隣のお兄ちゃんを見る。
その視線は、昼間のぎこちなさが嘘みたいに自然だった。お兄ちゃんもまた、私の知らないくらい穏やかな表情で苦笑している。
「困ったことって?」
お兄ちゃんの見たこともないような顔に内心で驚きながらも、ラミルに質問する。
「ちょっと、ゲームをやりすぎちゃった」
「え?」
「エーテリアスカードを壊したから直しただけさ」
二人は顔を見合わせ、小さく笑った。
「本当に感謝してる」
そう言ってラミルは、お兄ちゃんの腕を軽くぽん、と叩いた。
「次は壊さないでくれよ」
「うーん……善処するね?」
「その返事が一番信用できないな」
「その時は、またアキラさんが直してくれるでしょ?」
「僕を修理屋扱いしないでもらえるかな」
「うぅん、アキラさんだからお願いするんだよ」
……なんだろう。
昼間から思っていたけど。二人の間には、何とも言えない空気が流れている。古い知り合いだとは聞いていたけど、それにしたって、こう、何かを言わなくても、お互い分かっているような空気とでもいうべきか?明らかに友達という空気には見えない。
例えるなら、そう映画の続編になるとなぜか離婚してる夫婦みたいな。
「あ……」
ラミルが、お兄ちゃんの肩へ自然と手を伸ばす。
「糸くずついてるよ」
指先で摘まみ取ると、そのまま笑う。
「はい、取れた。」
「ありがとう」
ラミルは指先を引っ込めることなく、そのまま少しだけお兄ちゃんを見つめた。
「‥…そういうところ、全然変わってないね」
そう呟いて、少しだけ照れくさそうにラミルは笑う。
(あっ、そういえば……)
その様子を見ていると、不意に昔のことを思い出す。
お兄ちゃんは結構モテる。贔屓目に見ても、整った顔立ちに、落ち着いた物腰。そして、平然と口説くかのような誉め言葉を言う性格。モテないはずがなかった。
だからか、告白されるところも何度も目撃してきたことがある。でも、その返事はいつも同じだった。一言一句同じなので、流石に印象的過ぎてよく覚えている。
『ごめん。僕にはもう、心に決めた人がすでにいるんだ。だから君の気持ちには応えられない』
あの言葉だけは、一度も変わらなかった。その時は、相手を傷つけないための断り文句なのかなくらいにしか思っていなかった。
―――でも、違うかもしれない。
(……まさか…ラミルさん、なの?お兄ちゃんの"心に決めた人"って……?)
そんな考えが浮かんだ瞬間、自分で自分を否定する。
(いやいや、まさか。そんな偶然ある?)
けれど、一度浮かんでしまった疑問と、それに対する直感的な確信は、胸の奥から消えてくれなかった。
「そういえばリンちゃん、もう体調は平気なの?」
しばらく誰も口を開かず、妙な沈黙になりかけたところで、ラミルがくすりと笑った。
「うん。まだ少し頭は重いけど、寝たらだいぶ楽になったよ」
「よかった」
心から安心したように、ラミルは胸を撫で下ろす。
「昼間、急に倒れたって聞いてびっくりしちゃって」
「え?」
思わず目を丸くする。
「聞いたって……」
「アキラさんが教えてくれたの」
そう言って自然にお兄ちゃんを見る。
「心配だったからね」
お兄ちゃんも隠す様子なく頷いた。
「ラミルさんも大会に出ていたし、念のため伝えておいた方がいいと思って」
「そっか」
教えた?わざわざ?偶然会ったからにしたって、おかしい。仮にもライバルに対してお兄ちゃんがこんなことをするとは思えない。
……なんだろう。見ていると胸の奥がむずむずする。まるで、自分だけ知らない昔話を二人だけが共有しているみたいで。
「……ねぇ」
気付けば、口が勝手に動いていた。
「一つ聞いてもいい?」
「「もちろん」だとも」
お兄ちゃんとラミルが同時に答える。
二人は顔を見合わせて、
「「あっ」」
また同じタイミングで声を漏らした。その様子に、私はますます確信してしまう。
「二人ってさ……本当に、ただの昔の知り合いなの?」
正直言って、この二人を見ていると、かなりじれったい。恋人同士なら恋人同士って、そう言えばいいのに。
別に私は、お兄ちゃんを取られたなんて思わない。お兄ちゃんがどれだけ頑張ってきたか、一番近くで見てきた。だからこそ、幸せになれるなら、その相手が誰だって応援したい。
……なのに、この二人はお互い好きそうなのに、どこか一歩引いている。
見ているこっちまで、もどかしくなってくる。映画だったら、ここでよりを戻してスタッフロール突入なのに。こんなに引っ張る作品、シリーズ物くらいだよ。
部屋の空気は止まっていた。お兄ちゃんは答えを探すように口を開きかけるけど、
「ふふっ」
ラミルが楽しそうに笑った。まるでチャンスが回ってきた役者のように。
「リンちゃんはさ、どう思う?」
逆に聞き返されてしまった。
「え?」
「私はね」
ラミルは少しだけお兄ちゃんを見る。
その瞳には、懐かしさと優しさ、それから――絶対に誰にも渡さない、と言わんばかりの強い執着が宿っていた。
「アキラさんのこと、この世界で一番知ってる自信があるよ」
さらりと言われた一言なのに、妙に重かった。さっきの視線も、獲物を決して逃がさない猛禽類みたいだった。
「ラミルさん……」
お兄ちゃんは困ったように頭を掻く。
「嘘じゃないでしょ?」
悪戯っぽく笑うラミルに、お兄ちゃんは否定しなかった。
「……えっと」
思わず言葉に詰まる。
「じゃあ……昔は、もっと仲良かったってこと?」
恐る恐る尋ねると、ラミルは嬉しそうに微笑んだ。
「うん。今よりずっぅとね」
「君の口の軽さを侮っていたよ」
お兄ちゃんが少し語気を強める。
「ふふ、ごめんごめん」
謝りながらも、その笑顔は全然悪びれていない。
「でも、嘘はついてないよ?」
「だとしても、僕の妹にこれ以上困惑させないでくれ」
お兄ちゃんは観念したように肩をすくめる。
「ねぇ、リンちゃん」
ラミルは楽しそうに笑う。
「な、なに?」
「人ってね」
一歩だけ私へ近づく。
「本当に大好きな人とは、百年経っても癖って抜けないものなんだよ」
「……百年?」
聞き返そうとした、その瞬間だった。ラミルは「あっ」という顔をすると、口元を両手で押さえた。後ろでお兄ちゃんがほら見ろと言わんばかりの顔をする。
「ごめんごめん、ただの例え話」
「例え……?」
「映画とかであるでしょ? それくらい長い付き合いって意味」
「まぁ、あるけど……重すぎない?」
思わず口を開いた、その時だった。
「プロキシくーん!どこ行ったのー!」
二階から聞き慣れた大きな声が響く。
「あっ、シーシィア」
ドタドタと慌ただしい足音が階段を下りてくる。寝癖だらけのシーシィアは私の姿を見るなり、大きく息を吐いた。
「もぉ~! 急にいなくなるからビックリしたじゃん!」
「ご、ごめん。ちょっと目が覚めちゃって」
「心配したんだからね!」
そう言いながら私の肩を掴んで揺さぶるシーシィア。その騒がしさに、さっきまでの妙な空気はすっかり霧散してしまった。
「あらら……頃合いかな。そろそろ帰るね」
「気を付けるんだよ」
「うん」
レミエールは返事をすると、お兄ちゃんの前髪をそっと整える。
「……可愛い寝ぐせ付いてたよ」
「え?」
「なんてね、嘘だよ」
「君は本当に悪戯好きだね」
「えへへ」
そう言って、ラミルは扉を開けて家を出て行った。
独占欲が隠しきれてないレミエールさん。さりげなく、妹にアピールしていきやがったよ。
コメント、評価大変励みになります。是非気楽にやっていってください(ただの乞食)