初代虚狩りだった元カノと百年ぶりに再会したら、未練たらたらな指名手配犯になっていた件 作:you are not
レミエールが帰ったあと、目を覚ましたシィーシアへ、リンは改めて事情を説明したらしい。
フリンツ合金製音動機は、ただの賞品じゃない。リンの命がかかった、どうしても必要なものであると。事情を聞いたシーシィアは、文句を言いながらも、改めて協力してくれることになったらしい。
とは言ったものの、僕はその現場にいなかったから詳しいことは知らない。知っているのは、朝起きたら、冷蔵庫にとっておいた限定品のたまごプリンが空っぽの容器がゴミ箱に捨てられていたことくらいだ。前述したことだって、あとからリンに聞いて初めて知った話だ。
……不本意だけれど、シーシィアとリンが絆を深めたというのなら、僕が長蛇の列に並んで手に入れた限定たまごプリン一個くらい、水に流そう。
その日の僕たちは、次の区画の開始を待つため家で待機していた。すると、シーシィアの端末へ着信が入る。相手は直属の上司であるセヴェリアンさんだった。
『色褪せたエーテリアスの捜査に支障が出ない範囲なら、好きにこき使って構わない』
そんな許可を出してくれた。
それを横で聞いていた僕の頭に浮かんだのは、昨夜別れたばかりの彼女の顔だった。
――いや、まさか。
仮にそうだとしても、なぜ治安局がレミエールを追っている?
そんなことを考えていた矢先だった。セヴェリアンさんから、新たな知らせが入る。
『ホロウ・ザ・ヒーローの景品が盗難された』
一瞬、部屋の空気が止まった。僕たちは言われるがまま急いでテレビをつけ、犯人自身が投稿したという映像を確認する。
画面に映っていたのは、大会初日にキャロットデータへ不正アクセスしていた狼のシリオン――ロームルだった。
ロームルは賞品を奪ったままホロウへ逃走。その途中で荷物をホロウ内へばら撒き、ネットに映像を乗せて挑発したらしい。
大会は継続不可能と判断され中止。しかし賞品を目当てに、多くの野次馬や参加者がすでにホロウへ入り始めていた。
さらに、セヴェリアンさんは、色褪せたエーテリアスを追う人物も賞品目当てにホロウに入っている可能性が高いと判断し、シィーシアへホロウへの突入を命じた。
そして、僕たちもまた、フリンツ合金製音動機を手に入れるため、彼女に同行することになった。
ホロウへ突入した僕たちは、シィーシアの追跡を頼りにロームルの痕跡を追っていく。
本来なら僕はHDDシステムで外からナビゲートする側だ。けれど今回はリンがインプラントへの負担を避けるためHDDを使用できない。だから、僕自身がホロウへ入ることになった。
もっとも、百年前、キャロットデータも存在しなかった時代に培った感覚は、今でも失われていない。空間を満たすエーテルの流れを読むだけで、ホロウ内部のおおよその構造は把握できる。
途中、僕たちは大会参加者であるビリー、ライト、ルーシーたちと合流し、賞品がばら撒かれた地点へ辿り着く。
そこには、郊外のお尋ね者たちが無惨に倒されていた。
誰がやったのか。
……僕には、何となく心当たりがあった。
もっとも、その場にフリンツ合金製音動機だけは見当たらなかったのだが。
その頃、崩れた高架橋の上から、一人の女性が静かに下を見下ろしていた。
「やっぱり来たね」
視線の先には、賞品置き場へ集まるアキラたち。そのさらに奥では、音動機を抱えたロームルが必死に逃走を続けている。
「ライバルなんだから」
黒い翼を揺らしながら、ラミルは小さく笑う。
「ちょっとくらい、ズルしてもいいよね?」
次の瞬間、その姿は風のように消えた。
その後、シーシィアが残したエーテルの痕跡を辿ると、道は途中で二手に分かれていた。
手分けした方が効率がいいと判断し、案内役の僕はビリー、ライト、ルーシーと行動を共にする。一方、リンはシーシィアと共にもう一方のルートを進むことになった。
もっとも、ホロウというのは不思議な場所だ。
分かれたはずの道はどこかで繋がり、結局は同じ場所へ辿り着くことも珍しくない。
その道中、リンたちは色褪せたエーテリアスを発見したり、黒枝の裁決官『プロメイヤ』と遭遇したりと、こちら以上に慌ただしい時間を過ごしたらしい。
対する僕たちも、ホロウに住み着いたエーテリアスや賞品目当てのならず者たちを退けながら進み続ける。
そうして二つのルートは再び一つとなり、僕たちはロームルの待つ最奥部で合流した。
逃げ場を失ったロームルは最後の抵抗を試みたものの、さすがに六人を同時に相手取るには荷が重かったようだ。
ほどなくして勝敗は決する。
ロームルは倒れ、懐から音動機が転がり落ちる。
「やっと見つけた!」
リンが期待に満ちた目で駆け寄って手を伸ばす。
あとはフリンツ合金音動機を回収するだけ――誰もが、そう思っていた。
―――その瞬間
(待て……レミエールは今、何をしている?)
ふと、嫌な予感とでもいうべき、疑念が頭の中で思い浮かぶ。
思えば、この道中、姿を一度も見なかった。妙な話だ。彼女は、この音動機が目当てだと言っていた。それを黙って何もせず、指をくわえて見ているだけか?
そんなことをするほど、彼女は甘くない。なら、どうする?
(考えろ、彼女の立場ならどうする?)
もっともリスクがなく、かつ確実に目的のものを手に入れる方法…‥‥それは、漁夫の利を得ることだ。
疑念は疑問に、疑問は確信へと変わる。
周囲に、白い羽が舞い散る中、僕は誰にも気付かれないよう、ポケットから使い捨ての閃光弾を取り出す。本来はエーテリアスを怯ませるための非常用装備のものだ。
タイマーを三秒に設定し、足元へ転がした。
あとは、気付かれないことを祈るばかり。
そして――全員が動きを停止する。
アキラも、リンも。
ビリーも。
ライトも。
ルーシーも。
シーシィアも。
全員が色を失い、意識もなく誰一人として動かない。
静止した世界を、黒い翼の女性だけがゆっくりと歩いていく。
「やっぱり」
レミエールはアキラの足元へ転がった小さな閃光弾を拾い上げる。
「こんなの仕込んでたんだ」
くすり、と笑う。
「アキラさんらしいね。でも、これは読めるよ」
裏面を見れば、タイマーは残り一秒。
それを慣れた手つきで安全装置を解除し、起動回路を停止させる。
「はい、おしまい」
電子音は止まり、タイマー表示も消えた。無造作に後ろへ放り投げる。
「ごめんね、どうしてもこれは貰っていかなきゃダメなんだ」
レミエールはピンクの髪を払いながら、リンの隣へと座り込み、音動機へと手を伸ばす。
「……!」
すると、リンの瞳がわずかに動いた。
「ふふっ、すごいね、流石お兄さんと同じ力なだけはある」
そう言ってレミーエルは小さく笑いながら、リンの肩越しにアキラの方を見る。
「じゃあ、またね―――
リンにそう言った時
―――ギィィィィィィィン!!
先ほど放り投げた閃光弾が、耳をつんざく異音を響かせる。
「――えっ?」
レミエールの笑みが初めて崩れた。
「………そこまで読まれてるとは思わなかったな」
本来なら、解除した時点で止まるはずだった。
……だが止まらない。恐らく、何らかの細工をしていたのだろう。ホロウ全体に閃光と轟音が響く。
(解除されることまで計算済みか……なんでだろ、ちょっと嬉しい)
「一本取られちゃったな」
静止していた世界に、小さな隙が生まれる。
次の瞬間――。
「な、なんだこの羽!?」
「えっ、あんた誰!?」
「え?……ラミル!?」
三者三様、突然のことに驚きを示した。
「レ……ラミルさん」
アキラが一瞬口どもりながら、一歩前へ出る。
「それは渡せない、返してもらおうか」
「大丈夫、ちょっと借りるだけだよ」
ラミルは音動機を抱えたまま困ったように笑う。
「用事が済んだらちゃんと返すから」
「君が約束を守る人なのは知ってる」
「でしょ?」
その返答に、レミエールは少しだけ目を細めた嬉しそうに笑う。
「だから、信用して?」
「……すまない」
僕は静かに首を横へ振る。
レミエールの笑みが、ほんの少しだけ薄くなる。
「……この音動機、本当にそこまで譲れない?」
右手を上げて音動機を見せつけながら、レミーエルは言う。
「そうだね。返ってくるまでに容態が悪化したら、取り返しがつかない……僕は、その可能性を見過ごせない」「……リンちゃんのためなんだ?」
空気が少しだけ重くなる。
「なぁ、店長の態度、なんかおかしくねぇか?」
「あぁ、普段はもっと余裕があったな」
「お兄ちゃん、あの人相手だとこうなるんだよ」
周囲の言葉も気にせず、ラミルは張り付けたような笑顔のまま尋ねた。
「そんなに大事なんだ」
「当然さ」
アキラは迷いなく答える。
「リンは僕の大切な家族だから」
その一言を聞いた瞬間、レミエールの笑顔がぴたりと止まる。
「そっか……」
ひねり出すような静かな声だった。
「……家族かぁ」
それを呟くと、口を閉ざし、音動機を握りしめたままうつむく。
誰も言葉を発さない。ホロウを吹き抜ける風だけが、彼女の翼を揺らしている。
「理解はできるよ」
彼女はそう言って、寂しそうに笑う。
「でも、昨日あんな風に抱きしめてくれたから。少しだけ、期待しちゃった……ごめんね」
言ってからレミエールは、自分の口を押える。
「……本当は、困らせたかったわけじゃないのに」
少しだけ目を伏せる。
「レミエール、君は――」
「ダメだよ」
彼女は小さく笑う。
「その顔、お返事考えてるでしょ?」
「……君にだけは、嘘をつきたくない」
「ほんと、はぐらかすのが上手になっちゃって」
そういうと、レミエールはアキラたちに背を向ける。
「ねぇ、このまま行かせると思う?」
しかし、リン達が立ちはだかろうとするとレミエールは困ったように笑った。
「……追わないで。今、そういう気分じゃないから」
一瞬だけ、張り詰めた空気が辺りを支配する。
しかし――レミエールは小さく息を吐いた。
「……ううん」
首を横に振る。まるで今の自分を振り払うように。
そして振り返る。
「今の私たちはライバルだもんね」
音動機を持ち直すと、背中の翼を羽ばたかせる。
「……今回は、私の勝ち」
そう言って笑った。
けれど、その笑顔は昨日見せたものより、ずっと寂しかった。
彼女は白い羽を周囲にばらまくと、次の瞬間には――姿を消していた。
レミエール「私と、仕事どっちが大切なの!」言ってることは4割くらいこれ。あと、レミエールってタウミエルなしで空飛べんのかな?まぁ、ここでは飛べないことにしましょう。
音動機奪いに来たシーン、あそこは生物のエーテルを固定して動けなくしてるみたいなので、時間自体は動いてると思ってこうなりました。
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