初代虚狩りだった元カノと百年ぶりに再会したら、未練たらたらな指名手配犯になっていた件 作:you are not
評価、誤字報告や感想してくださった方ありがとうございます。名前はあげないことにしていますが、心より感謝しています。
「ただいまー……」
玄関の扉が開き、気だるそうな声がリビングへ響いた。
「せっかくの有給なのに、なんで働かなきゃいけないわけ……」
肩を落としながらシーシィアが入ってくる。
「あっ、シーシィア」
「リンちゃん、おはよー」
軽く手を振るものの、その顔は心底げんなりしていた。
「どうしたの?」
「もーちょーめんどくさいこと言われちゃってさ」
シーシィアはその場で大げさに両手を広げた。
「大魔王にさぁ、『今日から有給』って言われて、ラッキー!って思ったら」
そこで露骨にげんなりとした顔をするシーシィア。
「その間も『ラミル』追いかけろってさ。どうせ給料出てんだから変わりないだろって」
「それ、有給なの?」
「でしょ!?マジ、ブラックすぎでしょ」
リンの言葉にそれはもう勢いよく愚痴り始めるシーシィア。
「しかもね!」
人差し指を立てる。
「『特にアキラ君から目を離すな。彼は色褪せたエーテリアス事件における重要参考人になり得る』だって」
セヴェリアンの低い声を真似るシーシィア。少し誇張しているが、かなり特徴をとらえている物真似である。
「僕が?」
横で聞いていたアキラが疑問を示す。
「わかんないけど、そう言うならなんか理由があると思うんだよね」
シーシィアは肩をすくめる。
「そうかもしれないね」
少しだけ部屋が静かになる。
その沈黙の中で、リンはさきほど引っ掛かったことを思い出す。
「そういえば……」
リンが不思議そうに瞬きをする。
「さっきお兄ちゃん、レミエールって言ったよね?」
「あぁ、そのことか」
「ラミルさんって、本名じゃなかったの?」
アキラは小さく頷く。
「僕が知っていた彼女の名前は、レミエールだ」
「じゃあ、ラミルって……」
「恐らく偽名だろうね」
アキラは少しだけ考える仕草をした。
「本名を隠さなければならない事情があるのか、それとも別の目的があるのか……そこまでは僕にも分からない」
「えぇっと……」
リンは納得したような、していないような表情を浮かべる。
「つまり、あの人はラミルじゃなくて、レミエール?って名前ってこと?」
「そういうことだ……Fairy」
僕は視線を画面へ戻す。
「対象人物名は『レミエール』もしくは『ラミル』でもいい。検索してくれ」
『承知しました。頂いた条件をもとに検索中です。しばらくお待ちください』
数秒後、Fairyが再び口を開く。
『検索が完了しました』
モニターいっぱいにピンク色の髪をした人物が次々と表示される。
「えっ多くない?」
リンが目を丸くする。
『名前だけでは絞り切れないため、外見的特徴「ピンク色の髪」を優先した結果、ラミルには以下の異なるタイプが存在することが判明しました。「照れ隠しラミル」、「防寒ラミル」、「意地汚いラミル」』
「えっ、なに?ラミルってそういう一族なわけ?」
シーシィアが思わず頭を抱えた。
fairyが映し出す映像の中には、色んな知り合いが写る。「意地汚いラミル」でニコが大画面で映し出されているのは明らかに悪ノリにしても、これでは多すぎる。
『追加条件を要求します』
Fairyが淡々と告げる。
『現在の情報では対象人物を特定できません』
「まぁ、そうはそうだろうね……じゃあ、フィルタリング条件を追加しよう」
アキラは顎に手を当てながら、レミエールの特徴を付け加えていく。
「女性。身長は160センチ前後。ピンク色のミディアムヘアに黒いリボンを付けていて、腰から黒い翼が生えている」
『登録しました』
「彼女は甘い物に目がないからどこか立ち寄っているかもしれない」
『検索への有用性が高い情報と判断しました。登録します』
「それ以外だと……右胸の上側と左胸、それぞれにホクロがある。昔、それを褒めたら見せつけるような服装になった」
『……検索への有用性は極めて低いと判断しました。当該情報は除外します』
「そうか。検索には役立たないか」
「納得するとこそこ!?」
シーシィアが勢いよくツッコむ。
「そこまで知ってるの普通に怖いんですけど!」
「私、今の聞かなかったことにするね」
リンもそっと額を押さえた。
「……」
fairyが検索を進める中、シーシィアは僕とFairyを交互に見比べる。
「なーんかわかった気がするわ……」
「ん?」
「大魔王が張り付けって言った理由」
シーシィアは呆れたように肩をすくめる。
「AIも十分ヤバいけど、それ以上にプロキシくん本人が重要参考人だわ」
「……そうだろうか?」
「少なくとも普通じゃないと思うけどなぁ」
隣でリンがそうだと言わんばかりの顔をする。
「ほんとにお兄ちゃんって、ラミル‥…レミエールさんのこと大好きだったんだね」
「……まぁね」
『頂いた条件をもとに再検索中です』
しばらくすると、Fairyの電子音声とともに部屋のモニターへ無数の映像が映し出される。
『フィルタリング完了。最も一致率の高い画像を表示します』
先ほどとは打って変わり、画面へ映し出されたのは一人の女性だけだった。
「あっ!」
リンが身を乗り出した。
「ここ、ルミナスクエアのティーミルク屋さん!」
画面には、店員と楽しそうに話すレミエールの姿が映っている。
「本当だ」
「げっ、よりによって治安局のそばじゃん」
シーシィアやアキラも画面へ目を向ける。
『現在判明している情報は以上です』
Fairyが静かに告げる。
「そうか…‥十分だ。ありがとうfairy」
僕はモニターへ目を向けたままfairyに感謝を伝える。
「まずは、その店へ行ってみよう」
「聞き込みってやつだね!」
リンが立ち上がる。
「まぁ、あーしってば休暇中だから治安局の前通っても問題ないじゃん。ならさっさと出発出発ぅ!」
シーシィアが玄関へ向かおうとした、その時だった。
―――ピコン。
「あれ?」
リンの端末から、軽快な通知音が鳴る。画面を開くと、送り主はビリーだった。
『店長!いるか!』
その後も勢いだけで数件メッセージのやり取りを続ける。
内容を要約すると、新フォームが完成したこと。そして、その姿を一番最初に見てほしいこと。さらに、その力で音動機奪還を手伝う――ということらしい。
私たちがルミナスクエアへ向かうと伝えると、ビリーもすぐに向かうと返信してきた。待ち合わせ場所は地下鉄駅前。こうして、現地で合流することになった。
ルミナスクエアの地下鉄駅前へ着くと、待ち合わせ場所にはすでにビリーが立っていた。
「おーい店長!」
こちらへ大きく手を振って、無事に合流する。
「待ってたぜ!」
「ご機嫌だねビリー」
リンが駆け寄る。
「それで、新フォームって?」
「へへっ、驚くなよ?」
ビリーは胸を張る。
「これが生まれ変わったスターライトナイトだ!」
「いや、どこが変わったん?」
「いや、普段と違うとこが一個あるだろ?」
ビリーは、胸部についてるモジュールを指差す。
「うわっメンドくさ、前髪2ミリ切ったとか、そーゆーやつの機械人バージョンじゃんこれ!」
「そんなに言わなくてもいいじゃねぇかよー」
地下鉄駅前へ、ビリーのツッコミが響き渡った。
みんなでひとしきり笑ったあと、ビリーは表情を引き締める。
「……冗談はさておき。あの音動機を持ってった奴、ありゃかなりの手練れだった。同じ轍を踏まないために、俺は改造してきたんだ」
「頼もしいね。頼りにさせてもらうよ」
「任せろ!」
親指を立てたあと、ビリーは少しだけ声の調子を落とした。
「ところで、もう一人の店長。ひとつ聞いてもいいか?」
「なんだい?」
「あー店長から聞いたんだが、レミエールだったか……店長の、大事な人なんだろ?」
僕は少しだけ目を伏せる。
「あぁ、今でもそう思ってるよ」
「だろうな。あんだけ見せつけられりゃ、誰だってわかるぜ」
ビリーは手に腰を当て、静かに頷いた。
「正直、見てるこっちがヒヤヒヤしたぜ。もう一人の店長も隅に置けねぇな」
「まったく、ビリー。からかうのはよしてくれ」
「いや、だってよ、今まで女性に対して一歩引いてたってのに、あんな風に口喧嘩するとこ初めて見たぜ」
「どうやら、お見苦しいところを見せてしまったみたいだね」
アキラは苦笑しながら額へ手を当てた。ホロウで周囲を忘れ、レミエールと感情的に言い合ってしまったことを思い返す。
「だからよ、大丈夫なのか?戦えるのか?」
ビリーはいつになく、真面目なトーンで聞いてくる。
「だからこそさ。僕は彼女と会って、もう一度話し合いたい」
「……よーく、わかったぜ、あんたの覚悟。なおさら、協力しなくちゃな」
「ありがとう、ビリー」
「いいってことさ」
ビリーは親指を立てて笑う。
「俺ぁ店長たちの味方だ。音動機も取り返す。レミエールさんとも、ちゃんと話せるようにな。大船に乗ったつもりでいてくれ」
「頼もしい限りだ」
「おうよ、じゃあ行こうぜ、今度は逃がさねぇようにしようぜ」
そうして一行は、レミエールが最後に目撃されたというティーミルク屋へ向かう。
まだ誰も知らない。この聞き込みが、彼女の足跡だけではなく、百年前から続く想いの痕跡まで辿ることになるとは――。
次回から聞き込みパート。なんか、関係者全員からアキラに文句言ってそう。次話も朝七時くらいに投稿する予定です。
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