初代虚狩りだった元カノと百年ぶりに再会したら、未練たらたらな指名手配犯になっていた件 作:you are not
ルミナスクエアは今日も賑わっていた。
大型ビジョンには新商品の広告が流れ、人々は思い思いに買い物を楽しんでいる。そんな喧騒の中、僕たちは手がかりのある場所へ向かった。
「リ、リチャード・ティーミルクへようこそ!今日は何にする?」
甘い香りが漂うティーミルク専門店『リチャード・ティーミルク』へ足を踏み入れると、店員のココが笑顔で迎えてくれた。
「実はね……」
リンが一歩前へ出る。
「ちょっと探してる人がいてね。このお店に最近来たらしいんだけど……」
「人探し?」
ココは首を傾げる。
「ココ、物覚えあんまり良くないから……でも頑張って思い出すね!」
リンはスマートフォンを取り出すと、レミエールの写真を表示して差し出した。
ココは画面を見た瞬間、ぱっと表情を明るくする。
「あっ、この人!」
「覚えてるの?」
「うん!」
何度も頷く。
「すっごく印象に残ってるもん!特別なお客さんって言ってもいいくらい!」
リンたちは顔を見合わせる。
「えっと、確か……」
ココは記憶を辿るように視線を上へ向けた。
「ランキングについて色々聞いてきたあとね、一位から三位まで全部くださいって注文してた」
その後聞かせてもらったココの話では、レミエールはタピオカの名前に入っている真珠を不思議がったり、ニトロフューエルを燃料だと勘違いするなど、終始どこか世間知らずな様子だったらしい。
その天然ぶりがあまりにも印象的で、ココは今でも鮮明に覚えていたという。
「それでね」
ココはふと思い出したように続ける。
「帰る直前に、ティーミルクとは別にブラックコーヒーも一本買っていったの」
「ブラックコーヒー……?」
リンが首を傾げる。
「うん。『今日はそんな気分だから』って笑ってたんだけど……」
ココは少し考えるように首を傾げる。
「そういえば三杯抱えて帰るとき、『あの人にも飲ませてあげたかったな』って、小さく呟いてたよ」
「なーんでわざわざそんなことするわけ? 手羽先女の行動、マジ意味不なんですけど」
シーシィアは首を傾げる。
「俺もわかんねぇ。なんだって、『レミエール』はそんなことしたんだ?」
誰にも、その意味は分からなかった。
――ただ一人アキラだけが、静かに目を伏せている。
『ちゃんと淹れるから、仲直りしよう?』
喧嘩をした翌日。少しだけ照れくさそうにマグカップを差し出してきた彼女の笑顔が、不意に脳裏をよぎる。
「それで、そのあとなんだけど……」
ココは記憶を辿るように目を細めた。
「帰り際に、『今流行りのおもちゃが見られる場所ってある?』って聞かれたの」
「おもちゃかい?」
アキラが首を傾げる。
「うん」
ココは頷く。
「だからココ、San-Zスタジオを教えてあげたんだ!」
「San-Zスタジオ……」
リンが腕を組む。
「デザイナーの乙さんがやってる店だね」
「きっとそこに行ったと思うよ」
「わかった、話してくれてありがとう」
アキラは静かに頭を下げる。
「とても助かったよ」
「うん、どういたしまして……」
ココは照れくさそうに笑う。
「会えると良いね」
「……あぁ、そうしたいよ」
その返事は穏やかだった。けれど胸の奥では、「会いたい」という想いだけが、静かに強くなっている。
そうして、一行はリチャード・ティーミルクを後にした。
ココの話を元に、San-Zスタジオへ向かうと風変わりな雑貨・オーダーメイド品が並べられていた。
「着いた……おーい!乙さん!」
リンが看板を見上げ、お店の入り口でたむろしていた店主の乙さんに話しかける。
「おや、これはこれは。いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」
リンは慣れた様子でレミエールの写真を差し出す。
「この人を探してるんだけど、最近ここに来なかった?」
「ええ、覚えております。彼女は確かに、少々奇妙な言動や行動が目立つお客様でしたので」
「やっぱり来てたんだ」
「見たことのない玩具ばかりだと、とても楽しそうに見て回られていました。私の作品についても興味を持ってくださり、しばらくお話をさせていただきました」
乙は穏やかに微笑む。
「結局、何か買っていかなかったん?」
シーシィアが尋ねる。
「ええ。フェザーネックレスの羽根以外の材料を一式、お買い上げになりました。当店ではデニーの代わりに、お客様のお話を頂くこともありまして。その理由を、お聞かせいただきました」
その理由を語るときだけ、彼女はどこか照れくさそうに笑っていた、と乙は静かに付け加えた。
「……それで、そのあとなんですが。」
乙は少し思い出すように視線を上げる。
「『花を贈るなら、どこのお店がおすすめか?』と尋ねられました」
「花?」
アキラが思わず反応する。
「はい。プレゼントではなく、『想いを伝えるなら』とも仰っていました。なので私は、この近くの花屋をご紹介しました」
「……そうか」
アキラは胸の奥に引っ掛かりを感じながら、小さく頷いた。
「事情は分かりませんが、その方とお会いできると良いですね。」
乙は一同を見回し、静かに微笑む。
「……ありがとう」
短く礼を告げ、一行は店を後にした。
次の目的地は、ルミナスクエアの花屋だった。
ルミナスクエアの一角。
華やかなショーウィンドウが並ぶ通りの中でも、一際色鮮やかな店先が目に入った。季節の花々が所狭しと並び、甘く優しい香りが風に乗って漂ってくる。
「ここか」
アキラが足を止める。
「間違いないと思うよ、この辺りで花屋ってランさんのお店くらいだし」
リンが店の看板を確認し、確信をもって答えた。
「いらっしゃいませ」
鈴の音を鳴らして店内へ入ると、店員のランさんが笑顔で顔を上げて話しかけてくれる。
「ちょっと人を探してるんだけど。この人、最近ここへ来なかったかな?」
画面に映るレミエールの写真を見るなり、店員は「あっ」と小さく声を漏らした。
「もちろん覚えています」
「やっぱり」
「とても印象的なお客様でしたので」
店員は懐かしそうに微笑む。
「最初に白いウィザーブルームを一束、お買い上げになられました」
「白いウィザーブルームだって……」
思わず言葉に詰まる。
それは百年以上前。杖の軍では、戦死者へ手向ける花として使われていた。彼女が、そのことを忘れているはずがなかった。
「そのあとは、しばらく店内を見て回られて」
店員は店内の一角へ目を向ける。
「青い小さな花の前で、ずいぶん長いこと立ち止まっていらっしゃいました」
アキラは何も言わず、その続きを待つ。
「『この花を贈りたいんだけど、もっと気持ちが伝わる組み合わせはないかな?』と相談を受けまして……一緒に花を選ばせていただいたんです」
「相談?」
「ええ。贈る相手が大切な方なのだろうな、とすぐに分かりました」
店員は苦笑する。
「そのあと、『あなたなら、どうしますか?』と」
「その後はどうしたんだい?」
アキラが静かに尋ねる。
「完成した花束をご覧になって、とても嬉しそうにしておりました」
その笑顔を思い出したのか、店員の表情も少しだけ和らぐ。
「あの、失礼ながらアキラさん。あなたはレミエールさんをご存じですよね?」
「えぇ、はい」
「やはりそうでしたか。実はそのお客様から預かりものがありまして…‥‥」
店員はカウンターの奥へ歩いていき、小さな保管箱を抱えて戻ってきた。
「『もし、アキラという白髪の男の人が私を探してここへ来たら、この花束を渡してください』と」
店員の言葉に、その場の全員の視線が一斉に僕へ集まる。
「えっ」
リンが目を丸くした。
「名前まで指定してたの?」
「しかも白髪って特徴まで一致してんなら、間違いないな」
ビリーも思わず腕を組む。
「店長、あの人……最初から店長がここまで来るって分かってたのか?」
「いや、プロキシくん。あんたの元カノ何者なん?」
ビリーやシーシィアがアキラをじっと見る。
「それは…‥‥ちょっと彼女の許可なく言えないかな」
「『きっと来てくれるから』と笑っていましたよ」
リンは思わずアキラの横顔を見る。
さっきまで冷静だった兄の表情は、期待と恐怖が混ざった感情で揺らいでいた。
「それと……」
店員は何かを思い出したように続ける。
「花束を預けたあと、その方はブレイズウッドに向かったようですよ」
「ブレイズウッド……」
シーシィアが眉をひそめる。
「じゃあ、もう次の行き先まで分かってるってこと?」
「恐らくは」
ランさんの言葉を他所に、アキラは箱を大事そうに受け取ると静かに箱へ手を添えた。
……なぜだろう。
戦場へ向かう時よりも、指先が震えている。
しかし、その震えに抗うようにゆっくりと蓋を開けば、綺麗な花束が入っていた。
花束の中心には、小さな青いワスレナグサ。その周囲を彩るように、血を思わせる深紅と淡いピンクのアネモネが咲き誇っている。
そして花々の隙間からは、長いアイビーの蔓がねっとりと絡みつくように垂れ下がり、黒い包装紙と深いワインレッドのリボンが全体を静かに引き締めていた。
「……」
その花束を見た瞬間、アキラは息を止めた。指先が、ワスレナグサの青い花弁へそっと触れる。
「どうしたのお兄ちゃん?」
リンが覗き込むと、アキラはハッとしたように気を取り戻す。
「……いや」
アキラは小さく笑う。
「彼女らしいな、と思ってね」
そう言われ、リンはもう一度花束へ目を向ける。
―――綺麗な花束だな。
リンからすれば、ただそれ以上の言葉しかなく、それに込められた意味は分からない。
けれどアキラだけは、花束から目を離せなかった。
ワスレナグサの花言葉「私を忘れないで」
アネモネの花言葉、赤は「あなたを愛してます」ピンクは「待ち望む」
アイビーの花言葉「不滅」「永遠の愛」転じて「死んでも離さない」
花言葉色々あるけど、レミエールはアキラなら伝わると踏んでこれを採用した。
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