初代虚狩りだった元カノと百年ぶりに再会したら、未練たらたらな指名手配犯になっていた件 作:you are not
今回2000文字くらいで短め。
「……もう」
レミエールは困ったように笑う。
「少し会わない間に甘えん坊さんになっちゃった?」
アキラに手を引かれ、ベッドに引きずり込まれというのにレミエールはいつもの調子で軽口を叩く。
この場も笑って終われると思ったから。いつものようにからかうような事を言って、アキラもまた苦笑して皮肉げに言葉を返してくる。
―――しかし、返答は違った。
アキラは笑わず、ただ真っ直ぐ、彼女だけを見つめていた。
「そうさ」
「……え?」
「君に会いたかった」
袖を掴んだまま離そうとしないアキラを見て、思わずレミエールの笑顔が止まる。
「もう二度と離したくないと思ってしまうくらいには」
「……っ!」
言葉が出なかった。だって、あまりにも言葉を飾らない。ただ思ったままを、そのまま口にしているだけの本心が、レミエールの心へと真っ直ぐ刺さってしまう。
「そんなこと言ったら……私、本気にしちゃうよ?」
「本気だとも。そのつもりで受け取って構わない」
「えっ?」
「もう、なにも誤魔化したくないんだ」
静かなのに力強い声で、覚悟が宿った青い瞳が彼女を逃すまいとじっと見つめ返してくる。
アキラのその瞳に対してレミエールは困ったような笑みで答えた。それは決して拒絶ではなく、どこか願うような、怯えるような笑みだった。
「ダメ。君はリンちゃんを守らなきゃいけない。他にもやるべきことがあるんだよね?だったら、私なんかに構ってる場合じゃ――」
「違う」
アキラは言葉を遮る。
「君に、ずっと言いたいことがたくさんある」
「……え?」
「君が音動機を奪い去っていったあの日」
レミエールの髪をかき上げ、頬に触れた。突然のスキンシップにレミエールは目を丸くした。
「ライバルだからって、君は行ってしまった……」
「…………」
「本当は、追い掛けたかった喧嘩なんてしたくなかった。引き止めて仲直りしたかった」
レミエールは何も言えない。
だってそれは、あの日一番聞きたかった言葉だったから。
「でも、リンを見捨てることも、君を追うことも、出来なかった。結局、僕は中途半端で何もできなかった」
ゆっくりと顔を上げる。
「そのせいで君を傷付けた……すまない」
「君が謝ることじゃ」
「それでもだよ」
部屋が静まり返る。
元々、謝罪なんて欲しくなかった。
百年前から彼は、誰かを守るために自分を後回しにする人だって知っていたから、仕方がないと心の何処かで諦めてた。
「それに……」
アキラは頬に触れている手をそっと動かし、彼女の左手を掴んで自分の方へと引き寄せた。
その左手の薬指には、エーテルの流れる金属の特殊な指輪がはめられていた。
「…………っ」
レミエールの肩がびくりと震える。
「まだ着けてくれてたんだね」
「こ、これは……」
「忘れられてなかったんだってわかって、嬉しかった」
その一言で、言い訳は全部消えた。
「どれだけ時間が経っても、百年経っても、君は僕を忘れず、ずっと身に着けていた」
そっと薬指へアキラの指先が触れる。それは壊れ物へ触れるような、優しい手だった。
「これ以上に嬉しいことがあるわけがない」
こんなことを言われるなんて思っていなかったレミエールは、心臓の鼓動が速くなっていくのを感じていた。
「花束もそうさ」
アキラは穏やかに笑う。
「もう宝物になってしまった。今もこうして部屋に飾るほどにね」
「え……」
「花を見るたびに君を感じられた。そして、君が僕のために花言葉まで必死に考えて選んでくれたその事実が、何より嬉しくてしかたがなかった」
レミエールが視線を動かせば、机の上に花瓶の上に、レミエールが買った花たちが綺麗に飾られているのが見えた。
「レミィ」
もう一度、あの名前が呼ばれる。
「もう一つ謝りたいことがある。君と再会した時――」
アキラは少しだけ目を伏せた。
「君と別れようと提案した時、あれが君をどれだけ傷付けるか僕は考えられていなかった。ただ守ることしか見えてなかった。本当に……すまなかった。」
「やめて、そんな顔で謝らないで。」
消え入るような小さな声で、レミエールは首を振る。
「私は、君を責めたいわけじゃない。責めたいわけじゃ、ないの……」
気付けばレミエールの視界が滲んでいた。
こんなつもりじゃなかった。少なくとも、泣く予定なんてなかった。ただ今日は、こっそり顔を見て帰るだけだった。
それなのに。全部、全部、大好きな人のせいでひっくり返されてしまっている。
彼が私を呼んでくれる、その声が優しすぎて、温かすぎて。このままここにいたら、彼の愛でドロドロに溶かされて全部捨ててしまいそうだった。
「…………ばか」
耳まで真っ赤に染めながら、小さく笑う。
「ばかばかばかばか」
同じ言葉を連呼しながら、レミエールは勢いよくアキラの胸を押した。
「もうムリだよ」
「レミィ――」
「やめて、これ以上何か言われら私ダメになっちゃう」
黒い翼が大きく広がると、ベッドに白い羽が舞い散る。
アキラの意識が戻った時、レミエールは窓を開け放ち、夜風と一緒にその姿は空へ消えていた。
残された部屋には、揺れるカーテンと花瓶の花だけが静かに揺れている。
「また逃げられてしまった」
アキラはしばらく開いた窓を見つめたあと、小さく苦笑した。けれど、その表情はどこか晴れやかだった。
一方、レミエールは宿の外壁へ背中を預け、その場にしゃがみ込んでいた。
「もう……」
両手で真っ赤になった顔を覆う。
今だに火照った頬も、早鐘を打つ鼓動も、少しも収まってくれない。
「チートだよあんなの……」
ぽつりと漏れた声は、夜風にさらわれていく。
いつものターン制バトルなら、軽口を返して終われた。
なのに今日は違った。あんなのゲームじゃない。ただの幸せな拷問だ。こっちのターンなんて永遠に来ない。
「勝てるわけないじゃん……」
百年間積もり積もった想いを、真正面から全部ぶつけられるなんて。
そんなの、反則だ。
そう小さく呟きながら、夜のブレイズウッドを歩いていった。
おかしい。湿度高いのはレミエールの方だったはずなのに、アキラ無双が起こっとる。まぁ、アキラとしては「今言わなきゃ一生後悔する」ってメンタルで口説きラッシュかけてただけなんだけど。
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