機装戦姫ガンダム ─The Broken Shield─ 作:イキリジャズ太郎
MS少女。
デビルガンダムが生み出すDG細胞に唯一適合し、そのデビルガンダムを倒すために生まれた存在。
理由は分かってないけど、MS少女になれるのは10代の女の子たちだけだ。
それ以外の生き物が感染すると、MAになってしまう。
だからMAやデビルガンダムに対抗できるのはあたしたちだけだ。
そんなMS少女の一人。
このあたし、『超絶天才美少女』こと碇ビアンカは絶賛病院の先生に怒られていた。
「……全く、何を考えとるんだ君は。彼女が目覚めたらすぐに私を呼べと言っただろう」
「ごめんなさい」
この少し顔が怖い先生もMS少女だ。
『私は治す方の人間だ』って言って戦いには参加しないけど、とても優しくていい人だしアドバイスも的確だから尊敬している。
何十年も前にMS少女になったみたいだから、年齢のことを聞くとすごい怒るけど。
「謝る相手が違う。いいかい、目が覚めたばかりの不安定な患者にいきなりあんな事実を伝えたら、混乱するに決まっているだろう」
「はい」
「自分が助けた子が目覚めて嬉しい気持ちは分かる。だが君の行動のせいで、伊織君が
「……はい」
闇堕ち。
MS少女が精神的に不安定になると、最悪の場合DG細胞を通じてデビルガンダムに洗脳され、都合のいい操り人形になってしまうのだ。
せっかく助けたのに、あたしのせいでそうなったらとても悲しい。
フーちゃんは魔力波形に問題なかったとはいえ、ちょっと前までデビルガンダムの魔力タンクにされていた。
そんな子にあんなこと言った結果が
……謝って済むことじゃないけど今度会ったら謝ろう。
「……まぁ、それにしたって彼女は異常だがね。あそこまで精神的に追い詰められていれば、普通ならとっくに闇堕ちしているはずだ」
「そこはサラちーも『意味が分からねぇ』って言ってた。すごいよねあの子」
それはそれとして、やっぱり超絶天才美少女たるあたしの目に狂いはないのだ。
長い間魔力タンクにされて、なお正気(というにはあんまりにもひどい状態だけど)を保っていられる精神力とDG細胞適性。
そして他のMS少女以上に来るビリビリとした感覚。
フーちゃんはきっとものすごいMS少女になるって確信があたしにはある。
もちろん、あたしほどじゃないだろうけどね。
とりあえずフーちゃんにはしばらく先生のところで休んでもらおう。
そのあとあたしの仲間になるのだ。
あたしの最高にすごい野望に、また一歩近づいたと思うとワクワクする。
「……本当に反省しているのか君は。まぁいい、とにかく次の任務では君が伊織君を護送することになる。迂闊な発言は控えてくれたまえよ」
「はい」
いけないいけない。
まずはフーちゃんをしっかり守らないとね。
今度は発言に気をつけよう。
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伊織視点
私が目覚めてから2日間、病院の先生からカウンセリングを兼ねた現状説明と身体検査が並行して進められた。
まず、私は5年間ほどデビルガンダムに取り込まれていたようだった。
その間の記憶はほとんどない。
取り込まれた13歳のときから身体も成長していなかったので、その事実を聞いてもどこか他人事のようにしか思えなかった。
そして、私の空白期間に起きた最悪の悲劇──『スタンピード』。
これまではMS少女たちの尽力もあり、DG細胞の汚染も最小限に抑えられていた。
しかし今から3年前、突如MAが大量発生し日本の人口の半分が死亡、あるいは行方不明となった。
当時のMS少女たちは最大限努力したが、兵力差が大きすぎてどうしようもなかったようだ。
そして地上はDG細胞に汚染され、非感染者は地下居住区へ避難することを余儀なくされた。
今日本の地上に残っているのは、MS少女と、まだMAに変質していない感染者だけだ。
……先生は言葉を濁したが、私には分かった。
この地獄を招いた原因の一端は、私にある。
デビルガンダムとMA、MS少女の動力源は生物が持つ『魔力』だ。
奴らはスタンピードに備え、魔力貯蔵庫となる人間を捕らえて力を蓄えていた。私もその一つだ。
そして身体検査の結果、私の魔力量及びDG細胞適性はこれまでのMS少女と比較しても随一だと判明した。
おそらく歴代で最高の魔力量の持ち主だと。
すなわち私は、デビルガンダムの大量虐殺に最高効率で『貢献』してしまったという訳だ。
この話を聞かされ、私は処刑されるべきだと申し出たがそうもいかないらしい。
これまで魔力タンクにされた人たちは、たとえ救助できたとしても精神崩壊、ないしは植物人間になってしまっていたという。
そして私は、デビルガンダムに取り込まれてなお正気を保っていた唯一の『サンプル』として保護されるようだ。
「……君の気持ちが分かるなんて、君を救えるなんて私には軽々しく言えん。だが、君を調べることで少しでも多くの感染者を救えるかもしれんのだ。すまないが、私たちに協力してくれないか」
「……いっそ、実験動物として使い潰してください」
「馬鹿なことを言うな。私は医者だ。患者あってのな」
こうして私は先生の管轄する「精神衛生保全センター」へと移送されることになった。
その名の通り、精神病院のようなものだ。
MS少女や中軽度感染者の闇堕ち、MA化を防ぐためのカウンセリング及び治療を行う施設らしい。
他の感染者も一緒に移送されるため、万が一のMAの襲撃に備えて碇さんが護衛として当たるようだ。
再会した碇さんは、開口一番に私へ頭を下げた。
「フーちゃんの立場を考えないで、いきなりあんなこと言っちゃって、ごめんなさい」
「……なんで謝るんですか。碇さんは何も悪くないのに。私が勝手に暴れただけで……」
「そんなことない。あれはあたしが無神経だった」
どうして。
どうして皆私なんかに優しくしてくれるんだ。
私のような大罪人を。
大勢の人を殺した醜い化け物を。
親友を見捨てて逃げた卑怯者を。
「私の方こそ、あのとき碇さんを傷つけかねなかった。本当に申し訳ありませんでした」
「あたしは天才だからね。あのくらい、なんてことないよ。だからフーちゃんも謝らなくていいんだよ」
いっそ罵倒してくれればどれ程楽だったか。
いっそ罪人として処刑された方がどれ程楽だったか。
そんな心の澱みを抱えたまま、私たちは保全センターへと向かっていった。
──────────────────
現在、地上はMS少女保護学園、通称『MSGS』によって管轄されている。
第一から第十までの学区で構成された学園都市であり、感染者の保護やMS少女の育成、任務の斡旋などを行う、人類最後の砦だ。
私たちがいたのは、新規や重度の感染者を一時保護する第十学区。これから保全センターのある第五学区へと移送される。
移送車内には私と碇さん、そして別の軽度感染者である三人家族が同乗していた。
お父さんとお母さん、そして小さな女の子。彼らは皆、手足の先など身体の一部が鈍い金属表皮に覆われており、時折痛むのか辛そうに顔を顰めていた。
自分の罪を直視させられているようで、いたたまれない気持ちになる。
時折彼らと視線が合うたび、その眼差しに怨嗟や侮蔑が籠もっているように感じてしまうのだ。
私がデビルガンダムの魔力タンクにされていたという事実は、混乱や私刑を防ぐために先生や碇さんなど、ごく一部の人以外には秘匿されると聞いている。
だから、この恐怖はただの私の被害妄想に過ぎない。
どこまでも救えない人間だ。
裁かれることを望んでおきながら、結局は自分可愛さに被害妄想を膨らませ、勝手に他人の視線に怯えているのだから。
「じーーー……」
そして、そんな自己嫌悪とは別のいたたまれなさ……というか気まずさを感じてしまう原因は、隣に座っている碇さんの視線だ。
ものすごいこっちを見つめてくる。
彼女の視線に悪意は微塵もない。
ただひたすら締まりのないへにゃりとした笑顔で、じっとこちらを観察しているのだ。
彼女が護送を担当しているようだが、こんなにリラックスしていてあの三人家族を守れるのだろうか。
若干の、いや大いなる不安を覚えてしまう。
「じーーー……」
「…………あの、何でしょうか」
ついに耐えかねて、私は声を潜めて尋ねた。
「いや、フーちゃんはかわいいなぁと思って」
「…………???」
何を言っているんだこの子は。
かわいい?
私が?
そんなわけがない。
「あっ、そんなわけないって思ったでしょ」
「う」
不意に頬を人差し指でつつかれた。
何なんだ。
「こんなにもちもちほっぺで、お目々もくりくりしてて、なのにどこか儚げで守ってあげたくなっちゃうもん。かわいくないわけないよ」
「……私なんかよりも、他の方を守ってほしいです」
拒絶するように指を払いのけて、冷たく突き放してしまう。
少し罪悪感を覚えてしまうが、碇さんは全く気にした様子もなく続ける。
「もちろん、みんな無事に送り届けるよ。でもあたしにとって、今いっちゃん気になるのがフーちゃんなんだ」
彼女は、先ほどまでの気の抜けた表情とは一転して、真っ直ぐな眼差しを向けてきた。
太陽のように、自信に満ち溢れた笑顔だ。
意味が分からない。
私の何がそんなに碇さんの興味を引いたのだろうか。
「超絶天才美少女たるあたしの勘だね。初めてフーちゃんを見たときからビビッと来たの」
迷いなく彼女は断言した。
本当に何なんだ、この人は。
私は初めて見た。
ここまで自信に満ち溢れ、真っ直ぐな在り方をしている人を。
なぜ、そんなに揺るぎないのか。
なぜ、そんなに自分を信じられるのか。
とても眩しくて、───少し羨ましかった。
「碇さんは───」
「ビアンカって呼んでほしいな。もう友達じゃん」
「……ビアンカさんは、何でそんなに───」
「待った」
意を決して聞こうとした途端、突如遮られた。
ビアンカさんの表情は、先ほどまでの幼げな子供のようなものとは別人だった。
鋭利な刃物を彷彿とさせる、冷酷な戦士の顔つき。
普段のギャップの凄まじさに、私の背筋に冷たい戦慄が迸る。
「……何かが来る。運転手さん止めて!」
急ブレーキの音と共に移送車が止まる。ビアンカさんは弾かれたように外へと飛び出した。
そして同時に轟音が鳴り響き、地面が爆ぜた。
「他の動けそうな子に連絡して、急いで近くのシェルターに避難して!あいつらはあたしがやっつける!」
外に出た彼女の指示と同時に、街中にけたたましいサイレンが鳴り響いた。人々が一斉に逃げ惑い始める。
私が車内から外を見てみると、地面の大穴から何かが這い出てきた。
巨人だ。
黒い装甲を身に纏い、無機質な殺意を剥き出しにした10mほどの巨人。
そしてさらに穴の中から飛行機やUFO、蟹のようなMAがわらわらと飛び出してくる。
「サイコガンダム……?それにメビウスやらアッシマーやらビグロやら……なんでこんなとこに現れたのか知んないけど────」
ビアンカさんの身体がまばゆい光に包まれ──次の瞬間、それが激しく弾けた。
「────何だっていいよ。全機ここでバラバラにしてやる……!」
陸上選手のユニフォームを彷彿とさせる上下の黒いインナー。
厚手の白いロンググローブとニーソックス。
肩や膝下、腰回り、胸元、そして頭部を覆う白と黄色で彩られた装甲。
何よりも目を引いたのは、彼女の両腰から伸びたアームに付随している、スキー板のような大型スラスター────サブレッグ。
それがビアンカさんのMS少女としての姿。
その名は────
「碇ビアンカ!『アトラスガンダム』、行きます!」